竜は一夜を交した黒豹に恋をする

獅月 クロ

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二話 Ωとの出会い

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唐揚げの数は増えなかった夕食を終え
その日の夜、風呂上がりに自室で布団の上でゴロゴロと横になり、のんびりしていれば茜はやって来た。

「 レイ様、入りますよ? 」

「 どうぞ 」

敢えて言わなくとも入ればいいものの、何年経っても律儀な奴だと思い、視線を向ければ彼は扉を開け中へと入ってきた。

「 大変御待たせ致しました。此方が鍵でございます 」

「 本当に持ってたんだ、ありがとう 」

近く迄入り、鍵を差し出してきた茜から受け取れば私が持っていたら無くしそうなほどに小さな鍵だと思う。

指先にある鍵を見詰めてから、箱を手元に寄せて開けようとすれば横に座った彼もまた同じように目線を向けた。

「 ……開けて、色が消えてたらどうしようか 」

鍵を錠へとさしたのはいいが、ずっと見てなかったから少しだけ不安はある。
割れてたら…なんて、マイナス思考に考えてしまう私に、茜は情もなく告げる。

「 その時は持ち主が死んでるだけです。その確認でも見てみては? 」

「 そう、だな……分かった 」

もう少し、持ち主の心配をしないのだろうかと思うけど、他人に対しての冷たさを持ち合わせてる茜らしいと言えば、らしい。

少し戸惑ったが、生存確認の為にも見てみようと開け、ゆっくりと蓋に触れてはそっと開いた。

「 …よかった。そう、こんな色だった 」

中に入っていたのは丸みを帯びてツルペカで、銀色に輝く玉。

「 相変わらず、綺麗な宝玉ですね 」

「 嗚呼…ってことは、持ち主は死んでないってことか? 」

「 そういう事になりますね  」

箱より一回り小さい宝玉。
昔は両手で持っていたけど、今は片手で持てるほど。
持って下ろしてみても畳に付くことはなく十cmぐらい上で浮いている。

これは遥か上空の空に住む、竜族の宝玉。

竜族は腹にいる時から宝玉を持ち、それを持って産まれてくる。
だから宝玉は同じ物は存在する事なく、竜族にとって命の次に大切な物と言われている。

竜族に関しての詳しい事は余り世間でも聞かない程に、その存在次第が幻とも言われている。
人族の中では神様として崇めて神社を建てたり、天空の種族なのに、土地神として祀っていたりする。

まだ地上に住む人類の科学では、竜族の住む天空には行けないらしく、そこには特殊な結界でもあるのか、宇宙に行ける人族が会えないと言うのだからどこに住んでるかは不明だ。

色んな仮説がある中で、宝玉だけはどの本を見ても同じ事が書かれている。

゙ 竜の宝玉は、地に落ちることは無い ゙

この宝玉が浮いてるのも、地上と交わらないという意味なのだろう。

「 他の人が取らないよう隠してたけど、この持ち主は一向に現れなかったな… 」

「 竜族は地上に降りては来ませんので、きっと諦めたのでしょう 」

大人達に見付かれば悪用されたり、売られたりするのかと思って、持ち主が現れるまで隠していようとしてたのだが、十四年経過してもその姿は見なかった。

竜は、自分の宝玉の在り処がわかるとか…
何かで見た気はするけど、持ち主が現れなければ意味がない。

「 諦めれるものなのだろうか…… 」

ふわふわと浮遊してるそれを指先で突っつき、指腹で形をなぞれば、僅かに宝玉は揺れ動く。
まるでくすぐったいような仕草に生きてるのかと錯覚するほど。

「 如何でしょうね。ですが、余り触れるのも良くないかと… 」

「 何故? 」

「 聞いた話では、竜と宝玉は繋がってるらしく…痛覚までも分かるとか。なので余り触れると、持ち主が戸惑うのでは? 」

「 へーなにそれ、面白いな 」

確かに、竜が死ねば宝玉も色を無くすらしいけど…
痛覚や感触までも繋がってるのは面白いと指腹でツーとなぞれば、また宝玉は揺れた。

やっぱりそうなのだろうか?と思い始めると笑みは溢れる。

「 取りに来ないのが悪い。ククッ…… 」

「( 玩具を見つけた猫ですね… )」

苦笑いを漏らしてる茜を知らず、
私は一人で動く宝玉に口付けを落とした。

「 これから沢山、遊んでやるよ。宝玉さん? 」

「( 竜さん…お気の毒に…… )」


~ 竜久 視点 ~


「 よっしゃー、次の店に飲みに行こうぜ 」

「 まだ飲むのか…っ!? 」

「 竜久たつひさ?どうかしたか? 」

社会人になり、サラリーマンとして働き始めて十年近く経過する。
最初の二年は住み込みのバイトをし、その後…他の企業に受かり正社員として働いていた。
実績によって今では、二十八歳にして副代表としての立場になり、多くの部下も出来た。

金曜日に同僚の飲みに付き合うのは毎週だった為に気にはならなかったが、店を出た瞬間に感じた感覚は懐かしさを覚える。

「( 俺の宝玉の気配がする… )悪い、俺は用事を思い出した。お疲れ、気をつけて帰れよ 」

「 え、あ、おい……。( 用事ねぇから付き合うって言ってたじゃん… )」

もう十四年前にもなるのか、
馬鹿兄貴達が面白半分に俺の宝玉を奪った。

「 っ、返せ!! 」

「 はっ、御前は末っ子のくせに生意気なんだよ。父上になんて言われてるか分かるか知ってるか?御前は出来損ないなんだよ 」

「 それと、宝玉は関係ないだろ 」

もう直ぐ、一人前の竜として認められる為の成人の儀が行われる予定だった。

竜族にとって、どんなに子を作ろうとも
生まれ持った能力によって立場が決まり、
跡取りは長の言葉によって決まる。

兄貴は俺の事を出来損ないと言うが、
俺は逆に将来を希望され求められていた。

竜族の長となる器であった為に、力の弱い兄貴達には俺の存在が邪魔でしかない。

「 ファルク、御前は黒竜のくせに金の宝玉なんて似合わないんだよ。これはいらねぇよな 」

「 よせ、止めろ!! 」

竜族にとって黒竜は、生まれながらにその才能があると言われていた。
滅多に生まれることのない黒い鬣に漆黒の鱗を持つ竜は、他の在り来りな色をしてる奴等とは違い、一目を置かれている。

そして何やり俺の宝玉は、黄金色に輝く宝玉だ。
銀や蒼色とは違う、それは現在の長であり父親の持ってるものと同じ色をしてる。
だから兄貴達は気に入らなかったんだ。

俺の腕を掴み押さえ込んでいる次男はニヤニヤと笑えば、
止めようとする俺を他所に、長男は外へと思いっきり宝玉を投げ捨てた。

地上に落ちていく感覚と、胸の中にあった大切な物が離れていく恐怖感に焦りを見せる。

「 地上で誰か拾って壊されたら、御前は死ぬな。ザマァーねぇわ 」

「 はっ、竜になれなくなった。ファルク 」

「 チッ……… 」

竜は宝玉を持って、竜である。
それが無ければ只の無力な人型の抜け殻でしかない。
能力の原動である宝玉が無ければ、兄貴達に仕返しをする事も出来ない。

力を失った俺に、長の顔は渋くなる。

「 ファルク、御前に一つチャンスを与えよう 」

「 チャンス……? 」

「 嗚呼、地上に降り、宝玉を見付けて持って帰って来れば、次の長として考えてやろう 」

「 ……分かりました。直ぐに見付けて持って帰ります 」

「 但し、その期間。御前が竜族である事、そして番を作ることを禁じる。地上の者と交り合う竜を天空には置けない。これは掟だ 」

白髪に白い髭を蓄えた長である父親の言葉に、深く頭を下げ聞き届け、その掟を胸に俺は地上へと降り立った。

「( 見つかりはしなかったが…… )」

ある場所はぼんやりと分かるからこそ、その地域から離れる事は無かったが、正確な位置までは把握出来なかった。

何かによって防がれたような、そんな感覚があった為に探すのに戸惑った。

「( だが、今なら分かる )」


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