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しおりを挟む「 ゴホッ……ゴホッ…… 」
俺が此処に来て何年か経過した頃
瑠璃は、梅毒によって倒れて床に伏せた。
この仕事をしてる太夫も、花魁もまた通る道だからこそ、悲しむことはないが瑠璃の窶れていく顔を見てると、胸が痛む。
「 瑠璃……。…少し散歩しない? 」
「 はぁ……そこまで、動けないぞ…… 」
「 大丈夫、俺が支えるから 」
ゆっくりと起き上がらせ、背中に瑠璃唐草が描かれた羽織りを掛けてはそっと起き上がらせる。
もう、自分の力で立つことすらままならないから俺が支えてはそっと朝方の廊下を歩く。
「 こんな、時間に…どこに行くんだ…… 」
「 そこまでだよ 」
そうか、と小さく呟いた瑠璃を抱き寄せて笑っては、ゆっくりと歩き、通路から外に出て、裏口から吉原の道を歩く。
「 こっちは、外だ…… 」
「 今日は特別。日が昇ったら帰って来ることを約束したからさ 」
「 俺が、永くないからか…オヤジさんも、優しいな…… 」
「 そうだね 」
馬を手配していた為に、瑠璃を座らせてから俺もまたその後ろへと乗り、手綱を持ってから掛け走っていく。
遠くなる夜の街を背に、瑠璃は揺られながら密かに笑った。
「 むかし……御前と、一緒に走った道によく、似ている…… 」
「 うん、そうだね 」
「 気持ちがいい…… 」
髪を靡かせながら、瑠璃は俺の胸元へと頭を当て、長い睫毛を開き目に付いたものを見掛けた。
これが、俺が見せたかったものだ。
「 瑠璃、瑠璃唐草だよ。此処は一面に咲いてるの 」
「 あぁ…… 」
「 降りてみようか。いいよ、俺が抱いてあげる 」
馬の脚を止め、先に降りてから瑠璃に手を伸ばして引き寄せれば、横抱きにして花畑の方へと歩く。
淡い瑠璃唐草が咲いた中を進んで行けば、中央辺りで瑠璃を降ろせば、彼は座る事もままならずそのまま倒れた。
「 きれいだ…… 」
「 そうだね、瑠璃……。君と同じ名を持つ、瑠璃唐草だよ 」
「 蘭……最後に……。もう一つの名を、覚えてたら、呼んでほしい…… 」
「 もちろん…覚えてるよ…。ルイ 」
青白くなった唇を密かに震わせたルイは、花へとそっと手を当ててからゆっくりと目を閉じた。
「 らいき…、あり、がと…… 」
「 ンン……ルイ…此方こそありがとう。っ……ルイ…ルイ…… 」
風が揺れ、花弁が空へと舞い上がる。
目を覚ますことなく動かなくなった彼の頬に触れ、涙を流しながら胸元に入れていた物を取り出し片手に持つ。
「 俺は…君を一人にしないよ……ルイ 」
ここに来る前に、桜主さんに頭を下げていた。
ルイとずっと一緒に居させてもらう許可を貰ったからこそ、吉原から外に出る事を許されたんだ。
最初で最後……ルイに、瑠璃唐草の花畑を見せたあったんだ。
小刀の鞘を抜いては、自らの頸動脈へと向け、手を動かした。
視界が赤く染まり、ルイの横へと倒れれば彼を見て、手を伸ばし片手を掴む。
「( 来世でも……ずっと…一緒に居ようね…… )」
淡い青色の花畑は徐々に赤く染まり、
俺の意識もそこで途切れた。
結局、俺が客と枕をすることは滅多に無いぐらい、
君が色々と教えてくれたんだよね。
今度は、俺が君に沢山のことを教えてあげれる立場ならいいな。
ずっと一緒に居ようね。
もう、二度と……離れることはないよ。
″ ねぇ、君…一人なの?名前は? ″
″ ルイ……。お前は? ″
″ 俺はアラン。
戦争で…親いないなんて一緒だね! ″
″ ………そうだな ″
~ 終 ~
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