淡い瑠璃唐草の如く

獅月 クロ

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~ 蘭 視点 ~
  

ほんの一週間前、
父から継いだ店が、発火し焼かれ灰となった。
 
騒ぎを聞きつけ帰った時は燃え上げる黒煙を只、立ち尽くして見てるしかなかった。
そして、人混みに紛れて不自然に逃げる三人組の姿を見かけた。

腹が立って追い掛ければ、目の前に立っていたのは役所の者だ。

「 なんの、御用ですか? 」

「 それは此方が問いたいものだ。御前は、金目当てで、付け火をしたと聞いたんだが? 」

「 はぁ!?そんな、俺が自分の店を焼くわけない!! 」

「 それは奉行所で聞いてやる。連れて行け 」

「「 はっ!! 」」

店にいたはずの母や妹の安否を気にする事も出来ず、取り押さえられ奉行所へと連行された。
そこからはもう記憶が曖昧なほどに、確信がない言い訳を押し付けられ、火災を引き起こした責任と、それについての賠償金を兼ねて、俺を売り飛ばすことに決めた。

陰間茶屋へと連れて来られ、金を受け取った者達は早々に帰って行く。
そして、仕事内容を告げられ声を張ったんだ。

まさか、此処に……ルイがいるとは思わなかった。

「 そんな顔をしなさんな。瑠璃は御前さんを思って言っただけさ 」

「 そんなの、分かってるけど……。でも、もう少し感動の再会をしてもいいと思うんだ 」

桜主おやじさんと呼ばれる小太りの男に連れられ部屋に来れば、彼は煙管に火をつけ吸いながら告げた。

「 はぁー。あの子はね、四歳で此処に売られてからずっと男娼として生きてるんだ 」

「 え? 」

「 親しい者がこんな場所に来ればそりゃ不機嫌にもなるだろう。今じゃ、芳町よしちょうで彼を知らぬ者はいないほどの太夫だ。その立場もあるからキツく言ったんだろう 」

俺はずっと、何処かで働いて幸せに暮らしてると思っていた。
それなのに、あの時…離れてからずっと此処に居たのか?

なんで俺は、裕福になってから迎えに来なかったんだろうと思い胸が苦しくなった。

「 っ……なんで、るい…… 」

「 御前さんも売られたらかには働いてもらわなきゃ困る。払った金が台無しだからなぁ、男を相手にする経験は? 」

「 ありません…… 」

「 その年で筆下ろしがまだか……。お客さんに言っといて上げるからさっさと経験することだ 」

「 なっ……! 」

そうサラッと決められる事に驚いて、文句の一つでも言おうとすれば、桜主さんは煙管から口を離し、紫煙を吐き出しては視線をこちらへと流した。

「 御前さんに否定する権利はない。死刑を免れ売られたからには、此処で働いて稼ぐしかない。おまんま食いたいなら客を取ってもらう。十八歳の御前さんは、価値がないからな 」

「 っ…… 」

価値が無いとハッキリ言われた事に、人間としての全てを失ったように思えた。
商品としての価値は確かに、幼い頃から様々なことを学んでる禿かむろや新造に比べたら無に等しいものだろうが……。

好きな人と行為をしたいと望んでいた俺にとって、見ず知らずの年上の男を相手にしたくはなかった。
それも、女側であることを身体に刻む程に、認めさせられるのだろう。

そんなの、嫌に決まっている。

「 少し時間を下さい……。必ず、腹を括りますから…… 」

「 時間は一週間後だ。それまで考えると良い 」

深く頭を下げても、
結局…俺に残された時間は一週間程度。

それまでに男と行為をすることを受け入れなくてはならないなんて……。
考えるだけで気分が悪い。

「 おーい、誰かいるか? 」

「 はい、お呼びでしょうか?桜主さま 」

「 今日から、このらんが新しく加わった。寝床と風呂、あとは諸々教えてやってくれんか? 」

「 分かりました。蘭さん。此方に…… 」

「 あ、うん。宜しくお願いします 」

こんな六歳ぐらいの子ですら、将来男を相手にすることになるのか。
どんな気持ちなんだろうか?と疑問になりながら、禿の後ろへと着いていく。

去り際に、桜主さんに頭を下げてからその場を離れた。

「 蘭さんは、売り子ですから、此方の間で皆さんと一緒に寝て貰います。今は大半の方は寝てますがね…… 」

「 ……… 」

最初につれて来られて間は、布団が敷き詰められ、俺と同い年か、それより低いぐらいの少年達が大っぴらに寝ていた。
各自、好きなように寝ているが布団だけは自分のがあるようだが……中には、寝返りをうって他の者の場所まで行くやつがいる。

それに気になったのが、この独特な男の匂いだ。
酒やら化粧、お香の匂いが交じるが…なにより、男臭いことに鼻が曲がりそうになる。

「 中には、お風呂に入らず寝てしまう方がいるので…匂いが気になると思いますが…一緒に寝ていれば慣れますよ 」

「 慣れるの…?これ…… 」

「 えぇ、男娼の方が言ってました 」

禿達はまた別の部屋で寝てると思うけど、此処で寝るなら慣れる?
いや、あり得ないと思うし慣れたくないとも思った。

「 では、次はお風呂と食事の間を案内いたします。着物も交換しましょう 」

「 う、うん…… 」

禿に連れ歩かられながら、出会う眠そうな男娼達に挨拶して回った。
中には食べ物を運ぶだけの、雇い人もいたが、年齢は俺ぐらいか…それ以下しか存在しない。

もし、もう少し年上ならばお客や医師が遊びに来てると思った方が早いようだ。

俺が、価値が無いと言われた理由が納得出来た。

「 そういえば、瑠璃?は…どこにいるんだ? 」

「 瑠璃太夫でしたら。最上階の間にいますよ。今の時刻はお休みしてると思いますが……お会いになりますか? 」

「 頼めるかな? 」

「 はい、お連れします 」

もう一度、改めて話したいと思い、
禿に連れて行かけるままに瑠璃の部屋へと向かった。



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