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しおりを挟むクオレは本気で、俺を殺しには来てないように見えた
それでも、俺の剣は一度足りとも傷を付ける事は出来ず
大天使は上級悪魔に敗れ、俺もまた剣は後ろへと飛んでいった
「 はっ、っ…… 」
向けられた矛先が目の前にあり、切り傷ばかりの身体からは血が滲みは、羽はボロボロに朽ちていく
遊ばれるだけ遊ばれた感覚があるほど、一日中、行っていた争いは幕を閉じる
「 やっと終わったかよ。んじゃ、とどめ刺すか 」
手を出す事を認めなかったクオレによって、神殺しの剣持った悪魔は参戦はして来なかった
高みの見物をするように座っていた悪魔は腰を上げ此方へと来る
「 殺さなくていいよ 」
「 何故だ?天使は皆殺しって言われてたろ 」
「 うん、でも……報告する天使ぐらい必要だと思う 」
鞘に剣を戻した事で、何処か納得したように銀髪の悪魔もまた剣を抜く事は無かった
「 確かに一体ぐらい必要か、帰りにもう少し殺して帰ろーと 」
「 先に戻ってて 」
「 はいよ 」
敢えて、上級悪魔を去らせたように見える
終わりを知らず、争ってる悪魔と天使の方に行くように剣を持った悪魔は飛んでゆき
残った無傷のクオレは、俺を見下げたままゆっくりと告げる
「 残念だよ……。どんなに足掻いても、俺とエカードは一緒にいられないんだね 」
「 はぁっ…はっ、あぁ……俺は、何度でも…御前を本気で、殺す気で…刃を向ける…… 」
「 でも、君の剣には迷いがあった…戸惑いがあった…そんな事では…俺は殺せないよ? 」
魔王になり、一緒に話してる時すら
敵同士になれば勝てない相手だとは察していた
強過ぎるんだ……
生まれながらの才能があり、その為だけに育てられた悪魔と
平和ボケをしてる天使とでは差があり過ぎる
今、彼に勝てる大天使は居ないだろう
ほぼ全ての大天使が今回の戦争で殺された
悪魔の情によって助けられている、俺以外全てだ
それなのに、此処まで何人も相手しただろうに…
この悪魔は無傷で顔色一つ変えることなく立っている
「 例えそうだとしても……御前を殺すのは……俺の役目だ 」
「 そっか…楽しみにしてるよ。いつか君が俺を殺してくれるのを…… 」
神が鳴らす、戦争が終わる終焉の鐘の音
頭上に聞こえてくる音によって何方が勝ったのか分かる
「 魔界の勝ち……。じゃ、ね……大天使 」
「 っ…… 」
天界は、負けた
いや…いつもと同じ結果だが
今回は失う規模が大き過ぎた事で、
負けた者達の心は何処か置き去りしたように
直ぐに切り替えることは出来なかった
魔法陣を現したクオレは、それだけ伝えて立ち去り
俺は、声を掛けることも出来ず吐き出せない感情をぐっと堪えた
それから…クオレが天界に来る事も
サタンが戦争を仕掛けてくることは無かった
理由は、ボロボロの天界を攻めても彼にとっては面白く無いからだ
敢えて万全の対策をして、揃った人数の時に戦争を吹っ掛けて来る奴だ
だからこそ、悪魔の数と天使の数では明らかに差があるのは
天使はいつも、戦争に負けているからでもある
それなのに魔界の魔王達は日々力を付けていく
最上ランクの大天使としての称号は、他に者が居ないからといった理由だと思った
「 エカード様! 」
「 エカード様!! 」
「 なんだ? 」
戦争を知らない天使は俺を慕い、駆け寄って来る
その笑顔が余りにも苦しくて、息苦しいと思った
綺麗なはずの真っ白な天界が…赤く染まった日の事を語る者は誰もいない
只、悪魔は敵だと本能的に知るだけ
そしてまた…戦争があれば殺す為に容赦はしないのだ
月日が流れ、
耳に届くのは…色欲のアスモデウスの話
「 アスモデウスが、魔界に人間を連れてきたらしい。物好きだよな 」
「 喰う為なら非情極まりないな!此れだから悪魔は… 」
「( 人…… )」
そう言えば、遠い昔……
俺もクオレによって魔界に連れて行かれた時を思い出した
「 エカード!俺の家に招待したい 」
「 急にどうした?御前の家は魔界だろ? 」
「 そう、だから行こうよ! 」
俺が頷くより先に、手を引き軽く部屋の中央に立たせられ
クオレは抱き締めて、羽を広げれば魔法陣の中へと入っていった
下に落ちていくような感覚に戸惑うも、気付いた時には一瞬で、サタン城の前に立っていた
「 デデーン!俺の家!どう?お化け屋敷みたいだろ? 」
「 そう、だな……。だが…これもまた風情があって良いと思うぞ? 」
平然とするクオレと違い、俺は辺りを見て戸惑った
本で見るような魔物達が歩き回り、空に飛んでる者すら人間世界にいるようには思えなかった
そして何より、肺に入って来る度に重い瘴気に息が詰まりそうな感覚になる
「 そう?じゃ……部屋にレッツラゴー! 」
「 あ、おい…人間の俺が来たら騒ぎになるだろ 」
「 大丈夫、大丈夫! 」
何が大丈夫かは分からないが、絶対に平気ではない自信があった
それでも嬉しそうに手を引いて城へと入る、クオレの横顔を見てると如何でもよくなってくるんだ
惚れた弱みという奴だった
「 ぎゃぁぁぁ!!?馬鹿が、ニンゲンなんて連れてきてやがる!!? 」
「 ニンゲンだ!!生きのいいニンゲンだ!! 」
「 飯か!?今日の、晩飯に連れてきたのか!?流石、弟!俺は脚な! 」
「 私は目が食べたいですわぁ 」
クオレの兄弟らしき者達に一瞬で囲まれて
其々に何処の部位が欲しいと言う者や、此処に生きた人間がいることに驚いて騒ぐ者すらいる
やっぱり来たら不味かったな……と内心溜息を吐き
死ぬ覚悟をするべく、クオレの笑顔が見れて納得するようにしていた
「 喰わせるわけないだろ!?これは、俺の獲物だ!! 」
「 っ…クオレ、何を言って……!? 」
心の中で遺書を書いていれば、急に引き寄せられた時には横抱きにされていた
浮遊感と、重くないのかと驚く俺を他所にクオレは辺りの連中を軽く睨み告げる
「 だから、お客さんでもある。怪我させたら…兄貴達だろうと…殺すから 」
「「 !! 」」
赤く光る瞳に、手を伸ばしていた者達を一瞬で黙らせた事に力の差を知る
見せ付ける様に俺の髪に口付けを落としたクオレは、そのまま羽を広げれば城の中を飛んでいく
「 クオレ…本当にあれで…良かったのか? 」
「 いいよ。もう…手は出して来ないだろうし。もしエカードを傷付けるなら…俺が兄貴達を殺すだけ 」
サラッと告げた殺すという言葉
良くない、と普段なら注意するのだが
知らない地で守られることを嬉しく思ったのか、否定する事が出来なかった
そうか、と小さく微笑んで笑ってしまった俺は彼の部屋に来ていた
「 俺の部屋ってことは……つまり好きなだけ抱けるってこと…… 」
「 求めてくれるなら答えるさ……。クオレ、抱いてくれ 」
「 もちろん…… 」
親族もいない、生まれてすぐに教会に捨てられた俺にとって、愛して、求めてくれるクオレは何よりも愛しくて嬉しい存在だった
抱いてくれるならそれで良い、髪に触れ腕を回したまま時間を掛けて沢山、行為をされる事を心から喜んだ
けれど、俺は人間だ…
瘴気に当てられるのは早かった
「 ゴホッ…ゴホッ…… 」
仕事だと居なくなったクオレに、人間界に帰して貰おうかとベッドを降りようとするも
脚に力が入らず倒れて、座り込む
肺炎になったような感覚に咳をし、熱くなる身体に戸惑いすら生まれていれば部屋の扉は開いた
「 クオレ……か? 」
「 残念、彼奴ではねぇよ。やっぱりか……人間……御前、そのままだと…魔界の瘴気に当てられて死ぬぞ 」
彼は確か、人間だと騒いでいた背の低い淫魔だったな
派手な髪色だったから覚えていると、ぼんやりとする思考で見ていれば
此方に近付き、持って来ていたものを差し出してきた
「 これは…なんだ……? 」
「 嫌だろうが…彼奴の精子の塊だ。魔力を多少貰って魔族の力が流れないと御前は生きてはいけねぇ。人間を助ける道理はねぇけど…弟が悲しむのも見たくねぇからな…食え 」
白い真珠のようなもの
精子を食う…それはつまりこれでは無くてもフェラをした時に飲めばいいって事じゃないか?
そう言えば、こっちに来てフェラをしてやった事が無い事に気付きながら
その粒を手に取り、口へと含んだ
甘味のあるものだった事に驚いたが
クオレは淫魔…欲を掻き立てる為に精子も甘かった事を思い出す
「 はっ…… 」
「 後は彼奴から直接貰え。魔族の精子を飲むよりよっぽどいいだろ 」
「 ありがとう……人でありながら、助けてくれて…… 」
「 チッ、お前の為じゃねぇよ。馬鹿な弟の為だ 」
そう言って、赤髪の淫魔はその場を立ち去った
不思議なほどに苦しかった胸元はスッとし、呼吸がしやすくなった事でベッドに戻る事が出来た
もう少し寝たら治るだろうと眠りに付くことにした
「 エカード!!知らなくてごめんね!?ディアモンに聞いたよ……! 」
「 大丈夫さ…。分かったなら、フェラでもさせてくれるか? 」
「 ふぁ、あっ、良いけど…それより先にお腹空いたと思って…色々持ってきた 」
「 ん? 」
トレーに乗ったのは、トカゲの丸焼きやら、何かの目玉、そしてまともな果物でさえ
何となく人間界にあるものと違うように見えた
それでも、クオレが持ってきた物だと思って両手を合わせてから口へと含む
残念だが、果物以外は口には合わず吐きかけた
「 エカード!!? 」
「 果物だけで……目玉に至っては、飲み込みきれない…… 」
「 出していいから…ペって!ぺってして!! 」
布を向けてきた事でそれに吐き出しては、クオレは何事もなくゴミ箱に捨てた
グニュッとした後に、此の世物とは思えない生臭さに飲む事が出来なかった
例えるなら、死臭の酷い獣を喰らったような味がした
クオレに味覚が無いと知っていたが、やっぱり魔界の食べ物は口には合わなかった
「 でも、フルーツデビルの食べ物は食べれたなら良かったよ。ちょっと安心した 」
「 そうだな……。これは甘くて美味しい、ほら…食べてみろ 」
口元に葡萄のような果実を当てれば、クオレは僅かに噛み、口に含んでから指先へと舌が触れる
「 っ…… 」
色気のある長い睫毛と、変わりつつある緑色と赤の境の瞳が俺を見詰めれば腰は震える
手の平へと口付けを落とされた時には、手首を引かれ、唇は触れ合う
「 果実より…エカードの方が、甘くて美味しいよ…… 」
「 嗚呼……食べてくれ…… 」
「 ん…… 」
この雰囲気に勝てる事はなく、自ら唇を重ねていた時には身体に触れられ、ベッドに倒されていた
クオレが求める時だけ受け入れ、時々此方からフェラやら騎乗位をすれば喜ばれ、その分何度も抱かれて愛される
今…思えば、ここに居るときに妊娠したのかも知れないな
昼も夜も分からないほど、赤い月が昇る魔界で
幾度と無く愛されていれば、クオレの態度と俺が悪魔達を嫌わないのを知り、彼等もまた声を掛けてくることは多くなっていた
「 エカード、馬鹿な弟だが…宜しくなっ 」
「 此方こそ、穢れた神父だが宜しく頼む 」
「 そうか神父かぁ……神父!!!? 」
「 クオレ!!!御前は相手を選べ!!! 」
「「 あははっ 」」
神父であり、人間である俺を受け入れてくれた彼等とはよく笑いあった
クオレが魔界でする仕事を見物させて貰ったり、ケンタウロスのシュヴァルツの背に乗せてもらい、フルーツデビルの元に行き果物を分けてもらう生活をしていた
人の世界で半年間……俺は、魔界で暮らしていた
「 エカード、ごめん……。天使との戦争に行くから一旦…人間界に戻ってて欲しい 」
「 分かった…気を付けてな 」
「 うん…… 」
楽しい一時は、
いつの世も戦争によって引き裂かれる
嫌そうに人間界に戻したクオレは、似合わない剣を持ちすぐに魔界へと戻った
直ぐに決着を付けてくる、そう言った為にクオレはそこまで長く離れる事なく戻って来たんだ
それも無傷のまま、俺に出会うと早々に抱き上げて笑った
「 ただいま、エカード 」
「 おかえり…クオレ 」
その身体に天使の返り血が有ろうとも、俺は彼に笑顔を向けていた
帰ってきただけでよかった
戻ってくる事の約束を守ってくれたのだから
クオレが居なくなったときに気付いていた妊娠は、確定となり
彼は、人間界に居座ったまま俺の傍を離れようとはしなかった
そして……あの日になったんだ
「( また、人間を連れてきたんだな…… )」
正直、少しだけ…
いや、その噂を聞いたときはかなり妬いたが、
大天使であり殺す事を宣言した俺には、何も口を出す事なんて出来なかった
その人間が、俺以上に幸せになればいいと思った
クオレの愛情は過激だが、
向ける想いは温かみがあり優しく一途なものだからな
それに気付けばいい、と……
天界から応援をしていた
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