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しおりを挟む「 竜の子って言うのはね…その名の通り。ドラゴンが育てた子だよ。竜に会わなかった?可笑しいなぁ~ 」
「 所詮、言い伝えだろ。古代種が態々、人を育てるわけ無い 」
「 まっ、そうだよね。竜族の俺達ですら、古代種は見たこと無いし 」
古代種が育てた子?
でも、リクは私のパパと言っていた
何気無くリクの方を見れば、彼の視線は何処か外れていた
何かを言いたいのか、それとも言わないのか分からないけど…
リクはいったい、何を隠してるの?
「 そうそう本当に…選ぶのはゆっくりでいいよ。俺達もその方が君を知れるし 」
「 嗚呼、寧ろ二人の子を産むのもありだがな? 」
「 確かに!それなら妻が一人でもいいよね 」
この二人には、愛情とか何も無いんだろうか
私にも、そんなものを持ち合わせては無いけれど
まるで詰まらない婚約話を無くせた事を喜ぶように、彼等の″ 妻 ″という単語には意味が含まれてないように見えた
そりゃそうか…王様になれば、
妻は居ても居なくとも如何でもいいんだ
「 少し、街を見てきます。自由にしていいのなら…依頼とかもしたいですし 」
「 いいよ。夜になるまでに城に戻って来るなら…それで。気をつけてね、ルナちゃん 」
「 はい、では…また後程 」
城を自由に歩き回れる許可を貰ったけれど、今はドラゴンについて調べる気力が無かった
それよりも気になる事を知りたかったんだ
玉座を出た後に、コウには精霊界に戻って貰い…私はリクを連れて人気の少ない方へと向かった
「 ルイ、気付いた…?あの猛獣…… 」
「 そりゃな。彼奴は…猛獣でも、人でもない 」
「 だよね……。知らないのは、あの子だけかな 」
竜の耳、竜の目、それが果たしてどんな役割が有るのか分からない
けれど、ドラゴンについて知らなければいけないことが私にある
「 ねぇ、リク……本当の事を話してよ 」
「 ……何をだ? 」
人気のない、城から離れた街にほど近い森の中
此処なら話しても良いだろうと思ってリクを連れてきて、少し離れた後ろから着いてきていた彼に振り返り、問い掛ける
「 リクは…パパなんでしょ? 」
「 そうだな…… 」
「 じゃ、竜の子ってどういうこと!?私は、記憶の無いこの世界で…どうやって育ったの!?私の本当のパパは、ママは?答えてよ…リク! 」
誤魔化す事も、言わないと言う選択肢も無く
ハッキリと言って欲しかった
リクが、どんな立場でもきっと受け入れる自信があるから…隠し事なんて止めてほしい
問い掛けに彼は顔を背けたまま口を閉じて、考えていた
考える必要があるのか、それとも言えないことなのか……
彼の言葉を待てば、リクは唇を震わせる
「 俺の子であるが……正しくは、実の子ではない。御前は…俺に与えられた贄なんだ 」
「 えっ……? 」
もっと、両親が死んだから引き取ったとか
捨て子かと思ったのに、全く違う事に頭が真っ白になった
どういう事なのか答えを求めれば、リクの表情は辛そうに歪み、ゆっくりとだが言葉を繋げた
「 ……俺は、災いを齎す…古代種のドラゴンなんだ 」
天空竜…それは、きっとリクでは無いかと思っていた
けれど、全く違う事に驚きと戸惑いで言葉を言い返せなかった
けれど彼は、出会ったときの事を教えてくれた
言いたくは無かったはずなのに、私が聞いたからだ
~~ リク 視点 ~~
古代種には、理性を司る海竜、知性を司る天空竜、感性を司る地竜が其々に存在したが
語られることの無い、もう一頭ドラゴンが実在した
それが、邪神と呼ばれる災いを齎す黒竜だ
完璧な猛獣や、人が存在しないように
黒竜の役目は、負の感情や不幸な事を引き起こす為の存在だ
三体が初めて生み出したドラゴンにも、負の感情を含めたのが黒竜だった
だからこそ、同じ種族で争い、土地を奪い合い、血を流すような生き物が生まれた
初めはそれで良かったが、エルフ、人魚、巨人が領土を分けた後
一番、負の感情が強いエルフ族の中に含まれたヒューマンは、独立した後に言い伝えを徐々に変えていった
黒竜は三体の負の感情から生まれたやら、
黒竜を怒らせると災いが降り注ぐとか
そんなの、初めてドラゴンを生み出した後は手を下していなかったのに
人々は俺の眠る、山に時より供物を投げ込んで来ていた
最初は男、腹が立って災害をすれば黒竜は女が好きだと思い込み、若い女を寄越すようになった
今もなく、崖に突き落としてるのを何度見たか
止めてやる道理も無く、ヒューマンが減ればそれでいいと目を閉じていた
とある年の日、大きな洪水によって町の1つは海の中へと消えていった
全てはこの世界のバランスを保つ為の、1つの流れだ
先に生まれたドラゴンも、猛獣も生きるものは生きながられたのだが…
人は何を思ったのか、黒竜が怒ったと勘違いをし
生まれたばかりの赤子を、森の奥へと置き去りにした
両親は、子はまた産めばいいという感覚で
選ばれた事に寧ろ喜ぶような連中だった
また、一人……意味も無く命が消える
そう思って眺めていたが、森に響く赤子の声
猛獣達すら食うのを戸惑う程に、生きたいと必死に泣いていた
「 泣きやんだと思ったら…… 」
頭がかち割れる程に痛み、いつになったら泣き止むんだ、と思っていた声は急に静かになった
死んだのなら埋めてやる、そのぐらいの慈悲は持ち合わせていた為に赤子の元へと行けば
赤子はまだ生きていた
けれど、その声は泣き付けた事で枯れ
熱を出したように顔は真っ赤になっていた
「 それでも尚…生きようとするんだな 」
死んだところで、彼奴等はまた新たに贄を置くだろう
御前は、可哀想なやつだな…そう思っていればふっと考えた
「 贄を生かして返せば、俺が喰ってないことを分かるんじゃないか? 」
人の子を育てるやり方は知らないが、この赤子を生かして帰して、そして黒竜は食わない、贄は意味が無いと証明してくれる者になれば良いと、育てる事に決めた
「 おい、誰か。乳を出せるものはいないか?メスなら誰でもいい 」
「 黒竜が赤子を拾った…? 」
「 それも人の子を…? 」
「 見物はいいんだよ…。さっさと乳の出せる猛獣をつれて来い 」
「「 はい!! 」」
その森の猛獣達の頂点にいた為に、命令をすれば素直に、メスを探す事なんて容易かった
けれど、猛獣の出産は卵が多く乳の出せる猛獣なんて、森にはいなかった
「 黒竜、人里の牛という獣を盗みますか? 」
「 そうすれば…また災いだと言われるだろう。もういい… 」
盗む気にもなれず、子に与える乳は無かった
なら…生かす方法として、古代種の連中が初めてドラゴンを生み出した時と同じ方法を使う事にした
「 ……この方法は嫌だったのだがな…仕方無い。生かす為だ 」
口に指を当て、牙で指に穴を空け血を滲ませ垂らせば、それを赤子の口に突っ込んだ
唇を乾燥かせた赤子は、血だろうとも水を求めるように吸い付いてきた
人に捨てられ、人を止めさせたように
この子は″ 竜の子 ″として育てる事に決めた
血を飲み、直ぐに喉は回復し熱も引いた
血液を与えるのは一度切りで、後はずっとミルクの変わりに果汁や、水を与えて育ててきた
ドラゴンに取って瞬きをするほど、子の成長は早いが…
それでも半分、人では無くなった子の成長は遅かった
5年で1歳、年を取るように見た目もその月日に合わせていた
「 こく…ゆー…? 」
「 黒竜と呼ぶな……そうだな、パパだ。パパ 」
「 ぱぁ、ぱぁ…… 」
「 ふっ…可愛いな、ルミナ 」
周りの猛獣から、二足歩行を教えろと言われ
頑張って覚えさせながら、パパと呼ぶようにも教えていく
最初は、可哀想な子だと思って育てていたが
日付が経つに連れて、我が子当然に思えてきたからだ
何処に行くにも連れていき、背に乗りたがった為に、猛獣の姿で背に乗せて森を歩いていく
引き篭もりだと言われていた黒竜は、よく出歩くようになった
その結果、彼奴等の耳にもルミナの存在が知られた
「 よう、黒竜。人の子を育ててるようじゃないか? 」
「 天空竜……どうだっていいだろ…っておい!ルミナ、そう近付くな! 」
ヨチヨチ歩きが出来始め、此処に来て15年の月日が流れた頃
姿を見せた、天空竜…スカイドラゴンにルミナは怯えることも無く近づいて行く
ドラゴンの姿をした彼は、鼻で笑い人の姿へと変われば
長い青髪を揺らし、ルミナを抱き上げた
「 ほう?流石、古代種一番の強面に育てられただけあるなぁ。面白い…私の名を与えよう 」
「 はぁっ!?それって、猛獣を使役出来る天賊の才だろ!なんで、急に… 」
「 この子には可能性が見える。きっと、争いを好まない子になるだろう。我が名は… 」
そう言ってルミナへと、彼は自分の真名を与えた
俺にも分からない名を囁いたのだろう、それからルミナは俺を見て笑った
「 しえる、ろわ!ろわー 」
「 っ…!今、ゾワッとしたぞ 」
「 ははっ。使役されたな。初めて名を知れるのが古代種とは…この子は矢張り才能がある…だが、使いこなせるまで、その才は消しておく 」
古代種の真名を当てれた以上、この世に存在する全ての真名を知れるという事
物心が付く前から誰構わず名を当てれれば、全てが使役されてる事になる
その為、天空竜はルミナが猛獣使いとして自覚するまでその才能を止めていた
幼いルミナが知ってるのは、俺の名前と天空竜の真名だけだ
「 よし、私はこれで。じゃな、黒竜よ 」
「 二度と来るな… 」
気紛れに天賊の才だけ与えて、早々に住んでる天空へと戻っていく姿を見て思う
古代種は、全てが天空に住んでいた
けれどこの地を気に入った為に、其々が好きな場所で暮らしてるだけに過ぎない
そこに人やら人魚、巨人が増えていっただけなんだ
天空竜が住むのは、巨人が住む空よりもっと上にある場所だ
全ての種族が見渡せる場所で、彼奴は高みの見物をしている、そんなだらしないドラゴンとは人は知らない
「 パパ…。さっき、ゴツゴツした人がお目々くれた 」
「 地竜が…竜の目を与えたのか…… 」
「 だからね、いっぱいみえる……こわいの…… 」
「 それは精霊だ…大丈夫、怖くない 」
猛獣以外の物が見え始め、怖がるように抱きついてくれる身体をそっと抱き締めてあやす事は多かった
そして、海竜は…竜の耳を与えた
心の声や、知らなくてもいい事まで聞こえる耳は幼いルミナなには五月蝿かったのだろう
耳を塞ぐ仕草をして、そして俺もまた猛獣を辺りに近づけるのを止めた
猛獣と戯れていた娘は、猛獣の心の声を聞くのが嫌で、俺はそれを引き離した
その結果、俺はルミナが戻る姿へと変わることが多かった
ふわふわがいいと言われたら、毛量の多いウルフの姿
飛んで欲しいと言われたら、グリフォンの姿
それでも、一番は本来の姿の時…喜んでくれた
「 パパ、かっこいい…!お口、おっきー! 」
「 ルミナをガブッと喰える為にな、ンガッ 」
咬まれるなんて思わず、ドラゴンの口を開き顔を突っ込んだり手を入れて遊ぶ様子を好きにさせていた
楽しげに笑う声が好きだった
「 ルミナ…愛してるよ 」
「 んー…ルミナ…も、パパ…あいしてる。だいスキ! 」
「 ふはっ、そうか… 」
月日が流れるほど、愛しさが増す
二人だけの時間が幸せだと思うぐらい、
俺の身体に凭れて月を眺める、ルミナの横顔が堪らなく好きだった
けれど、それはもう……離れる時間が近付いて来てるのも分かっていた
ある程度、成長したら人里に戻そう…
そうずっと思っていたのだからなぁ
結局、ルミナは竜の子ではなく……
人間なんだ
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