すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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番外編

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誤魔化すようにされた口付け

何故、警察官の服を着て刑務所から出て来たの?

そんなの問い掛ける理由はない

此処にはお兄ちゃんがいるのだから、時より色んな場所で見掛けていた拓海さんを思い出せば、彼の仕事が只のカメラマンでは無いこともは無知な私でも分かる

そっと唇が離れ、男の子姿でも触れた彼に驚きと戸惑いを見せれば拓海さんは、また視線を外した

「 颯は有罪になる。そして、俺もうろうろ出来なくなる 」 

肝心な事は何一つ教えてくれなくて
それでも、嘘ではなく伝えようと思っても枷がかかったように繋がる彼は首輪を着けた犬のように、忠実に口止めされているみたい

『 また、長く会えなくなるんですね 』

キスをされたのに、久々に会ったのに
今の私は酷く冷静だった

色々考えて、そして結局は拓海さんやお兄ちゃんから聞かされるまで何も分からないんだと思えば、足掻いても無意味なんだ

そういう人達なんだ、彼等は私とは違う
世界で生きて、他人とは違う仕事をしては
隠すことを命令されたような人達

お兄ちゃんに会えなくて、拓海さんなら何か知ってるかと思って必死になったのも意味はない

「 そうだね、今度はもっと長く会えない。仕事が忙しくってさ 」

いつも仕事、それはなんの?カメラマン?
警察官?サラリーマン?そんなの聞く必要なんて無いと思い自分の胸元に手を置き心に問い掛けては微笑んだ

『 分かりました。仕事が終わったら、また会ってくれませんか? 』

お兄ちゃんを信じると決めたのなら好きな人もまた信じて待とう

唯一の御願いを、拓海さんは驚いたように顔を此方に向け直ぐに悲しそうに眉を下げた

「 ....颯が君に会えない状態で会えるわけないよ、それに.... 」

『 質問を変えます。拓海さんは私と会いたいと思ってくれますか? 』

彼の中には、私には到底勝てないお兄ちゃんの存在がある
仕事を共にしていたことは聞いていたし、好きなのも知っている
私が彼の弟だと言うことも、初めて会った日から知っていたはず

其なのに彼は私の傍にいて、遊んでた時は紛れもなく私自身を見てくれたんじゃないかと思う

お兄ちゃんを言い訳にして、逃げたような口振りの彼に、ハッキリと問い掛ければ拓海さんは言葉を閉じた

自分の思いに蓋をするように、けれど今の彼は嘘を付くのを完璧な仮面をつけるほど
心に余裕がないのは見て分かる

そうじゃないと、警察官の服をして刑務所の前の門でキスなんてしないと思う
誰に見られてるか分からない状態で
他人の気配や視線に敏感な拓海さんがそれを気にする余裕がなかったんだから....

「 ....俺は君に会いたくは、ないよ 」

ほら、まただ。彼は自分の" 心 "に嘘をついた
此方を見ること無く視線を下げたまま告げた彼には私の姿は見えてない

正確には見ないようにしてるんだと分かる

私を見れば自分の心と思考がズレて戸惑うからこそ、思考を優先し心に蓋をするように言葉の鎖を繋げていく

「 だから、もう。俺を忘れて、嫌いになりなよ....俺は君の事は、嫌いだから.... 」

他人を嫌う人が、他人にキスをする訳がない
お兄ちゃんの事ばかりを考える人が
私の事を気にして動揺するとは思えない

" 君の事は嫌い "

そう言われたのに心は傷つかなかった
そう言った拓海さんの表情の方が酷く悲しそうだったから....

この人は、ちゃんと私の事も考えてくれんだと初めて知れた気がする

『 私は拓海さんが好きです 』

「 !! 」

『 好きなので待ちます。拓海さんを待ち続けます 』

やっと此方を向いた拓海さんの表情は酷く驚いていて、やっぱり案の定必死になった

「 なにいってるの!?俺は君が嫌いだと言ってるんだよ!?待っても会いにはこないんだよ!? 」

『 知ってます。だから待ちます 』

素直で可愛い人だと思った
感情と言葉がちぐはぐだからこそ聞こえてくるのは" 待っていて "と聞こえてしまう 

今の私がポジティブに受け入れるだけかも知れないけど、待つのが困るほど必死になる拓海さんの心を知りたくて待ちたくなる

「 陽妃、頼むから俺を嫌いだと言ってよ!! 」

名を呼んで、そこまで必死に私に嫌われるのを望む拓海さんの声に一瞬心臓が高鳴った
それと同時に背後に感じる冷たく身が硬直するような感覚に後ろへと振り向けば
其処には酷く感情の無い瞳を向けた黒澤さんが立っていた

此処に連れてきたのは彼....けれど私が動く前に、この人は怖いほどの笑顔を向けてきた

「 警備員さん、そんなに声を上げてどうしたんですか? 」

「『 !!! 』」

拓海さんの表情が恐怖を感じたように動揺していた、この人が恐れていたのは黒澤さんだと知った

「 陽妃さん、颯さんに会えるみたいなので行きましょ 」

『 あっ.... 』

警備員、そんな訳がないし、話を聞いていた筈なのに其を気にもせず背を向け歩き出した黒澤さんの態度に戸惑い、拓海さんを見れば彼は硬直したまま動かなかった

このまま取り乱す彼を知らなくて、私は声をかけていいか迷えば黒澤さんは名を呼んだ

「 陽妃さん、行きますよ 」 

『 っ。はい 』

逆らえない、この人に逆らっては駄目なんだと拓海さんに声をかけたい衝動すら出来なかった

繋がられてもないのに引っ張られる感覚と共に歩いていれば、拓海さんは声を上げた

「 あ"ぁぁぁあ!!! 」

何をそんなに感情的になるか分からないけど、前を歩く黒澤さんが密かに笑ったのには気付いた.... 

この人は、一体....誰なの?

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