すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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番外編

09

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" ねぇ、颯。遊馬が海斗に君の息子だと言ったみたい。あの子、口が軽いね。それとも"君"を見て負けたのかな "

そう発した二時間前に、俺は警察官として呼ばれた場所へと脚を向けていた

そこは尋問をする場所とは違いもっと別の、鉄の匂いが充満する部屋だった

「 御前等は其処で見ていろ。動くなよ 」

「「 はい 」」

警察官の服装をした俺は少し離れた横に立つ少年の姿を見る

私服だろうけど何処から連れてきたか知らないけど、遊馬は俺と同じく背中に両手を当て背筋を伸ばし直立していた

何故彼が此処にいるのか、その疑問は言わなくても分かる

俺等の目の前には床に突き刺さる鉄パイプに、枷と鎖をつけられ拘束されている颯の姿が有るからだ

これは、警察が自ら行うものではなく" 組織 "の者が個人的に行う事だと分かった
二人の幹部と、一人は白衣を着た医者の姿をしている

殺したくは無いのだろ、それとも死亡を確認する為に連れてきたのかは知らないしどちらでもいい

だが、この状況は凄く腹が立つのは分かる

「 直ぐに効果を発揮するでしょ。よく喋ると思いますよ 」

白衣を着ている男は手に持っていた小瓶の中の液体を、無抵抗の颯の髪を掴み無理矢理飲ませればその場を離れた

あぁ、喋らすのか....こんな事をしなくても颯は口を開くだろうに....

そう思った矢先に幹部の一人は持っている古びた鉄パイプを何度か手の平で叩けばまるで野球をするかのように、颯の頬へと容赦なく振り上げた

ガツン!!と音が響き、一発殴られただけで颯の鼻からは血が流れ初める

其処からはもう、俺や遊馬への見せしめのように二人は交互に暴行を加えていく
拷問ではなく、只の暴力だ

けれど颯は可笑しいほどに一声もしない

「 なぁ、No.103!命令背いて楽しいか? 」

「 此方がどれだけ御前のせいで、尻を拭いて回らなきゃならねぇんだよ 」

颯の身体の傷は日に日に増えていくのを俺は知っていた
だが、彼は何も言わないし俺からも問えなかった

今なら分かる、この状況を言ったところで俺等には何も出来ないんだ

「( 遊馬、絶対に動いちゃダメだからね )」

離れた隣に立つ遊馬は見るからに怒りによって感情を堪えようと必至に堪えていた

そりゃ、目の前で慕っている父親が無抵抗のままに暴力をされていたらキレるだろ
だが、此処で動けば無抵抗の颯の意味も無くなってしまう

彼等の思う壺にはまってしまう、そんなのごめんだ

遊馬はきっと颯のこの姿を何度か見てるのだろ、噂で颯が彼に捨て駒の契約を切った事は耳には入ってる
それは勘のいい、幹部なら尚更気付くのが早い

「 おい、No.103!何処まで彼奴等に話したか言えってんだろ!! 」

「 それとも他にグルがいるのか?なぁ?? 」

颯は俺の蹴った肋骨も完治してないまま、刺されている
それも気にもせず二人は休む暇もなく、暴力しては問い掛ける
颯の血で飛び散る血痕から目を逸らしたくなる
俺が蹴ってさえいなければ、あんな殺人魔程度、避けれていたはず

この暴力だった少しはましと思うが....
いや、違うか

もう考えたところで遅いんだ
颯の身体はきっと他にも骨は折れている

それでも何故死なないのか
その答えは前に出逢った二人から聞いていた

" 103の心臓は既に.... "

颯には心がない、かっぽり空いたその空洞を埋めようと必至に生きてきた
それでも周りは彼を引いたレールの上を歩かせようとしている

颯は足掻いた結果がこれだ....

俺には到底、真似できないほどに格好いいと思う

「 おい!聞いてんのか!! 」

『 ....すまない 』

一時間、絶え間無く続いた暴行の後にやっと発した颯の言葉に俺と遊馬は全てを察した

『 ....気絶してた、なんだ? 』

「 ふざけてんのかテメェ!!! 」

「 ぶっ殺す!!! 」

嘘ではない、颯の言葉に嘘なんて無かったんだ

最初に男が殴った瞬間、颯が鼻血を出してから彼は脳震盪によって気を失っていたんだ
それを知らず彼等は立て続けに暴行をしていたんだ

「 はぁ、喋らねぇじゃねぇか。くそ医者 」

「 ちゃんと薬の効果はありますよ!?もう少し喋る時間を与えてはどうでしょ? 」

「 あ"?待てるかよ、こいつはな。組織の裏切り者だ 」

口を開かせるための薬を盛った、そんなの医者の態度で俺には分かる 

彼が呑ませたのは強力な痛み止め

じゃないと颯が可笑しいほどに無言の事に説明がつかない 
医者として、どんなに裏切り者だとしても人の命迄は奪う程は落ちぶれて無かったのか...

いや、違う....この人は....

「 はっ、少し休憩だ。行くぞ 」

「 はい 」

一人の男を連れ立ち去った幹部の後に残った俺と遊馬は" 動くな " という命令が解かれて無かった為にその場に残ればこの医者が誰なのか知った

「 颯、すまない....すまない.... 」 

泣きながら彼の頭を抱えるように抱き締める医者は、颯の赤子の時を知っているかのようにその表情は父親そのものだった

自分の子を目の前で暴行され、そして薬を盛らせる 

外道な彼奴等の考えてる事は酷いと思う
一思いに殺してくれればいいのに、それをせずに人の精神面から削っていく

「 颯....もう少し、我慢をしてくれ.... 」

『 ....俺は、何故....死なない....何故、何も見えないんだ.... 』

頭から流れる血によって視覚が失われた颯に、痛みがないこともまた辛いことだと俺は知った

痛みがある方がまだ、いいのではないのか
結局....薬が切れた後は痛いのだから

" お兄ちゃんは....大丈夫? "

この状況を見た後に、人はなんて答えるだろうか.....
 
だから黙ってて、今の君には何も教えれない  

『 拓、海....さ... 』

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