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番外編
23
しおりを挟む「 いや、心の準備が出来ないっす! 」
「 そんなの必要ないだろ 」
「 あるある、必要っす!! 」
何故かテンパる俺は颯さんの胸板を押し返し逃げようともがくも、彼は完全に俺の両手を押さえ付け、そして逃がさないよう身体を股の間へと入り
俺が動いた事で颯さんの膝は中心部へと当たった
「 っ!! 」
恥らいに震える身体に此処まで反応するとは俺自身も思わなくて、速くなる心拍数に益々顔を熱くさせれば、颯さんは至って平然と告げた
「 俺はもうすぐ此処を去る 」
「 ....えっ? 」
突然の言葉に理解出来ず、硬直した俺は彼へと視線を戻せば抵抗を止めた俺を察してか、彼は両手から手を離し髪を撫でてきた
「 帰ってこないつもりだ。だから、御前の飼い主は変わる 」
「 えっ....帰ってこないって、どう言うことですか? 」
やっと行為をする、なんて下心ある事ではないと気付いた時には無性に胸は苦しくなり立ち去り、飼い主が変わると言う言葉に理由が知りたくて仕方なかった
「 そのままの意味だ。俺は組織を抜ける 」
「 そんな事って....!むぐっ!! 」
組織を抜ける、そんな事は認められてないし出来ないはずだ
もし抜ける時が有るなら、その時は殺されるか早乙女のように姿を変えて逃げ続けるしかない
颯さんの性格から逃げると言う選択肢は無いと思うからこそ、死を望んでるのでは無いかと不安になり、口を手によって塞がれた俺は鼻先が熱くなるのを感じた
大切な人が死ぬ気なら、犬である俺は追い掛けて共に死ぬことを望む
それなのに其すら駄目なように、颯さんは言葉を続ける
「 これは御前に贈る、最後の命令だ。聞け
」
口を塞ぐ手は徐々に離れ、俺が声を発しないと分かればその手をネックレスへと触れた
取らないで、そう願うのに彼は片手で繋ぎ目を外した
目の前にあるネックレス、それは彼の胸ポケットへと入り不意に伸ばした手は絡め取られ口元へと行き指先へと唇が触れた
「 もう、御前は俺の犬ではない。今日限り、陽妃を守る任務も解く。御前は自由だ 」
生きる意味すら分からなくて、死ぬことだけを与えられてきた俺に....
不器用なりに愛情を教えてくれて
優しく笑って撫でてきたその手は静かに離れて行った
" 愛 "をくれた、俺のご主人でありお父さんはもう傍にいられないと告げた
自由を知らない俺に、自由と言う意味を教えて欲しい
この組織に居る以上、俺は捨て駒へと戻る
息をしてるのか分からないほどに胸が苦しくて、気付いた時には溢れるほどの涙を流していた
「 明日から御前は幹部からの命令を聞くことになる。俺から言うことはない 」
ちゃんとやれ、とか
死ぬな、とか言わずに言うことはないと言葉を閉じた
身体を上げ俺の前から離れて行った父親に、伸ばす手は震え
いつしかのようにその背中へと抱き締めていた
「 ....なんだ? 」
冷たく告げられる問いに、泣きながらすがり付く俺は子供のままで
言葉にならない声を漏らし、言葉を選ぶことなく強く強く抱き締めた
この手を離せばもう俺の元に帰ってこないのなら、離すことは出来なくて
納得する理由が知りたくて欲しくて、それを聞くまでは離さないと決めた
「 っ、やだ....おとうさん、俺を、一人にしないで....やだよ.... 」
生きる意味は貴方だった
その貴方が居なくなれば俺はどう動いて生きていいのか分からない
だからこそ、一人にされたくなかった
「 幹部の連中がいる。それに、御前の実力なら幹部にもなれる 」
そんなの理由にはならなかった
震える手を精一杯力を込めて服を掴めば、溜め息を吐く音に身体は反応する
どんなに嫌でも、一番嫌なのは嫌われて幻滅される事だ
一度強く抱き締めてから力を抜き、そっと離れた俺は涙を拭くことなく俯いたまま顔を上げれなかった
「 遊馬 」
「 ....はい 」
名を呼ばれ、ピクリと肩を揺らし顔を上げれば振り返った颯さんは両手で俺の頬に触れ顔を固定し、そして額へと口付けを落としてきた
「 っ.... 」
「 御前はもう立派な一人前だ。縛られず、自分で行動しろ。俺がいればいつでも半人前なままだ....大丈夫、御前は良くできた息子だ 」
「 !! 」
あぁ、そうか....
俺は重要な事を勘違いしてた
颯さんはこの組織を抜けると言った、
それは俺の" 上司 "ではなくなると言うこと
その意味は、もう" 上司 "と " 部下 "の立場では無くなるんだ
外されたネックレスは俺が彼の駒であり、ペットみたいな首輪と同じ
GPSが仕込まれた首輪であり、俺や陽妃の位置が分かるようになっている
それが無くなったということは俺が自由に動いても彼は何一つ怒らないと言う事なんだ
「 お父さんと、呼んでもいいんですね.... 」
「 さん付け、以外ならいいんじゃないか。俺は御前の上司じゃないから" そうしろ "とは言わない 」
いつか、きっとそう遠くない未来に
颯さんがこの組織を裏切って抜けたとしても俺は" 息子 "として傍にいれ会いに行ける
颯さんを殺せと言う命令はきっと俺には下されない
それは、俺は彼より弱く劣るから刺客にやっても無意味なんだ
それを知って颯さんは俺から首輪を離した
自由にしろ、それは親しくなってもいいと言うこと
「 妹に会いに行ってもいい? 」
「 ....俺が組織を抜けたらな。まだ、御前が息子だと伝えてない 」
「 分かってる。俺の意思で妹を守るから 」
同い年の俺が息子だと告げれば、結論からして陽妃も息子だと言ってるみたいなもの
それはまだ颯さんは伝えられないのなら待つだけだし、俺は任務を与えられてないのなら好きに動くだけ
「 この事は誰にも伝えるつもりはない 」
「 それって 」
「 御前は自由なんだ 」
誰もが俺を颯さんの駒だと知っている
俺が受ける任務は一度颯さんの耳に通るのだが、颯さんの駒ではないと分かれば俺は任務が無くなった事になる
それは言葉通りの自由だ
「 ....元気でな、遊馬 」
「 うん、お父さんも.... 」
「 あぁ 」
これが俺と颯さんがこの組織の中で最後に交わした言葉だった
駒としての首輪は無くなり身は軽くなったけれど、やっぱり海斗と颯さんの事が気になりちょくちょく見ていれば
不安定になっている拓海さんは任務を放棄し、自分勝手に行動し
陽妃さんはその拓海さんを追い掛けていた
彼等の中に入ってた筈の俺は、首輪が無くなってから組織含めて傍観者へとなっていた
それはまるで、巧妙に仕組んだ颯さんの手口でもある
誰か一人を、この結末を見届ける傍観者が欲しかったような....そんな感じがする
それは、この人を騙される程の手口だ
「 ボス、今日は任務がないのでお手伝いしますよ 」
「 おや?それは助かりますね 」
颯さんの元を離れて直ぐに、一番気になる黒澤さんの傍にいることが多くなった
父親によく似た、男性
本能的に惹かれていった
例え、お父さんの父親であり
この組織の幹部達の" 親 "であっても良かった
生きる意味を無くした俺は結局誰かの傍にいる事が、生きる意味になるんだと知ったから....
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