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番外編

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壊れ物のように抱き締めてくる、拓海さんの腕は少しだけ震えていた

触れることを戸惑うような彼を守ってあげたい、なんて烏滸がましく思ってしまう

「 ごめんね、つい.... 」

『 いえ、えっと.... 』

先に離れたのは拓海さんの方で
行き場を失った両手を誤魔化すように学生服のスカートへと掴み、目線を落としたところで思い出す

『 あ、学校! 』

「 そうだね!間に合いそう? 」

学校に行く前だと思い出し、拓海さんの方も頷けば名残惜しいけど長くは話せないし
お兄ちゃんに行ってきますを言った後で、学校から" まだ来てないんですが "なんて連絡が入るとあの心配性は探しに来ると思う

そんな事にはなりたくないからこそ、置いていた鞄を持ち学校へと向かおうと脚を歩めてから振り返る

『 間に合います!あのっ! 』

「 ん? 」

一瞬キョトンとする拓海さんだけど、泣いてた時より顔色は明るくなりもう大丈夫だと思った
 
だからこそ、問い掛けるのに断られると言う事を気にせず聞けた

『 また連絡してもいいですか? 』

「 もちろんだよ。また遊びに行こうね 」

『 はいっ!では! 』

「 またねー  」

優しげに笑った表情は、前に見たより人間味もあり彼の素から笑ってくれたんじゃないかと思った

嬉しくなって、名残惜しさ振り切って学校へと走って向かう

少し早く出た事で拓海さんと出会い、そしてもう一度連絡のやり取りが出来るなら今日はいい日になるとそう確信がある

持っている鞄の中で響くスマホのマナーモード

学校行ってから見ようかな、なんて思いながら小道の住宅街を抜け大通りへと出ればいつもの時間と変わらないからこそ、人通りは増えていた

いい日になる、そう思っていたのに

世界はそう簡単には廻らない

『 !! 』

前にも此処で見た事を思い出す 
人通りを狙ったような殺人事件を....

歩道の付近には添えられた花束がある中で、私は目の前の光景に脚を止めた

「「 キャァァアア!!! 」」

通行人の悲鳴の声、そして倒れている男性の姿

黒い服を着てフードを被った男は何事も無かったようにナイフを持ったまま走っていく

また逃げるかと思っていた、けれどそんな事はなく男は無言のままに、通行人へと向かって走りナイフを振り上げた

無差別の通り魔

その言葉が一番合うように、逃げ惑う通行人が転けたりぶつかったりする人から刺していく

飛び散る血と叫ぶ声に、前回の追い掛けるなんてそんな勇気は何処にも無く只、立ちすくむしか出来なかった

「 一ノ瀬...颯....は、どこだ.... 」

『 えっ? 』

不意に男が告げた言葉に反応してしまった私に気付いた男性は、ゆらりと身体を揺らし此方へと顔を向けた

細身の年配の男性のような雰囲気はあるけど、マスクをしてるからハッキリと顔はわからない

「 君、知ってるか....?一ノ瀬、颯を.... 」

『 っ、知らない! 』

血のついたナイフから垂れる血に私は殺されると察したけれど、問われた言葉に精一杯言えた言葉は震えていた

「 なら....死ね 」

『 っ!! 』

向かってきた男性はナイフを固定したまま此方へと走ってきた

『( 動け、動け....お兄ちゃん、助けて! )』

逃げる事も叫ぶ事も出来なくて
只、お兄ちゃんの助けを求めればふっと有ることを思い出した

" いいか、陽妃は可愛いからいつ痴漢に遭遇するか分からない、その時のためにお兄ちゃんが護身術を教えてやろう "

" えー、そんなの必要ないよ "

まだ小学生の頃、通り魔が出たと言うニュースを聞いた後にお兄ちゃんは私に護身術を教えてくれた

それは、背後からでも前からでも変態が突っ込んできたと言う想定をしたのであり
気を沈めれば出来る事も知っている

「 死ね!! 」

『 はぁぁぁぁああ!!! 』

「 !? 」

ナイフの位置は変わらない、それならやることは一つであり
接触する前に横へと動き、相手の顔が向きを変える瞬間に持っている鞄で力一杯顔面をぶっ叩く

「 がはっ!! 」

怯んだ隙にもう一度、そのまま遠心力を使って後頭部へと殴る

「 っ!! 」

前のめりに倒れたところでナイフを手から蹴り飛ばし、肩甲骨の間を力一杯踏みつければ....

" っ、なっ、SMの完成だろ? "

" はぁぁあ!? "

『( お兄ちゃん、これ護身術じゃない!! )』

「 くそ、っ!! 」

やったのはいいけれど此れからどうすればいいか分からない
他に武器になるようなものが無いのはいいけれど、踏んだ脚を退かせば逃げてナイフを取られたら今度こそ殺される

どうしたら....そう、思ってる間に緩んだ脚によって男は立ち上がった

『 っ! 』

「 よくも、クソ餓鬼! 」

バランスを崩し座り込んだ私は直ぐに立てなくて、ナイフを取りに走った男性から逃げる術等なく硬直するも男は驚く野次馬を掻き分け逃げていった

誰か通報したのだろうか、遅れてやって来た警察官は私の方へとやって来た

「 怪我はない? 」

『 あ、大丈夫です! 』

「 そう、良かった。でも勇気は褒めるけど無茶は駄目だからね? 」

『 はい.... 』

「 さてと、目撃者としてお話聞きたいからさ、署までいいかな? 」

『 .... 』

警察官の言葉に恐怖よりも安心感でその場に座り込んだまま、今更感じる速まる心音に息をつく

あの、男は捕まらなかったみたい....

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