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番外編
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しおりを挟む普段の登校時間より一時間程、早く家を出て今日は歩いて向かうことにした
お兄ちゃんに恋愛を応援されてるのは嬉しいけれど、拓斗さんとはあれ以来連絡を取り合ってないから心境はとても複雑
その事もあり、今日は何となく気晴らしを兼ねて朝の空気が心地いいこの時間に歩きながら普段とは違う道を通っていた
『 この辺りは久々に来たかも 』
いつも行く道順とは大回りだけど、昔はよく幼稚園に行く方として通っていた
見覚えのある家や小さなお菓子売り場もまた、懐かしいと思いながら歩いていれば
突然と聞こえた、ドサッと言う音の方に顔を向ける
『 野良犬かな? 』
時より野良猫も野良犬も見掛けるために、余り珍しい程では無いのだけど、何となく怖いもの見たさで音のした方へと近付き、細い路地へと繋がる道に顔を覗き込めば驚いた
『 えっ? 』
「 っ....! 」
一瞬の事で反応が遅れて、野良犬かと思ったそれは全く違って
目の前に現れた金色の髪は揺れ、そして私へとぶつかって来た
今回は自転車じゃないからどちらも倒れる事はなく、只少し後ろへと揺らいだだけで、体勢を整えるより先にぶつかってきた相手を支えていた
『 あの、大丈夫ですか? 』
変な細道から出て来たのは高身長の男性の方で、パーカーにジーパンを履いた彼の顔を覗き込めば言葉を失った
『 !! 』
「 ....陽、妃....ちゃん? 」
ゆっくりと顔を上げた男性は、前に出会った人でありそして連絡を悩んでた人だった
拓斗さんだと知ったときに、なんでこんな場所にいるのとか思うより先に彼が流してる涙の理由が分からなくて、会う前に何か伝えようとか色々考えていた考えは消え去っていた
震えた声で私の名を呼んだ彼に、硬直していた思考は動き始め
何故泣いてるのか心配する思いの方が勝る
『 な、なんで泣いてるんですか!?ハンカチありますよ! 』
「 あっ....いや、気にしないで....ちょっと目にゴミが入っただけだから.... 」
互いに体勢を整え、支えていた肩から手が離れれば直ぐに制服のポケットに入っているハンカチを出そうと探れば、拓斗さんは早々にこの場から立ち去ろうと歩き出した
そんなの、放置できなくて
ゴミなんて嘘だと思うのは簡単で彼の行く方を身体で立ち塞いでいた
『 聞かれたくないなら聞きませんが、涙は拭いて下さい 』
「 ....大きな御世話だね 」
『 いいんです、お節介やくの好きなので 』
前に会った時より明らかに雰囲気は違っているけれど、好きな人が泣いてるのは放置出来なくて片手で乱暴に目を拭く、その仕草を止めればハンカチを目元へと当てる
嫌そうに眉を寄せる拓斗さんだけど、拭かれることに諦めたのか次第に眉間のシワは涙を見られた事による恥じらいへと変わる
「 ....女の子に泣き顔見られるなんて情けないなぁ 」
『 女の子だと思ってくれるんですね 』
今の心境を誤魔化すように何処か声を明るく告げる拓斗さんだけど、少しでも触れれば砕けてしまう割れ物のように脆く思えた
知ってる筈なのに、敢えて" 女の子 "だと言った彼に態と告げれば拓斗さんは一瞬申し訳無さそうに眉を下げ、そして私のウィッグへと触れてきた
「 知ってるけど、可愛い姿をしてるからね....それに女の子扱いされたいんじゃないの? 」
『 別に女の子扱いされたいからこの服を着てる訳じゃないです。似合ってるから着てるだけで.... 』
男の子だと嫌われたかと思った
けれど、彼の雰囲気からそう思われてるのは感じられ無くて涙を拭いたハンカチをポケットに入れながら口先を尖らせ告げれば
彼は不器用に笑みを溢した
「 ふふっ、確かに似合ってるね。でも、男の子の姿も見てみたいと思ったよ 」
前に出会った時は不気味な程に完璧に笑うからこそ人間性がなく怖く思えた
けれど、今の彼は不器用に笑顔を作ろうとしてそして悲しそうに笑うからその方が人間性があり、不気味ではない
ウィッグから手を離すその仕草や、赤くなった目元を見てはこの状況なのに高鳴る鼓動は、彼が好きなんだと実感する
『 見せる機会があれば....あの、此処で話すのもあれなんで、少し座りましょ? 』
「 いいよ、直ぐに立ち去る予定だし 」
『 そう言わず!綺麗な顔が台無しなんで、顔を洗いましょ 』
自分の気持ちを誤魔化すように、手首を引き幼稚園の頃に遊んだ公園へと連れていこうとすれば、拓斗さんは戸惑いながらも脚を進めた
「 涙が似合う男じゃ無かったかな....この歳で泣くのもね 」
『 変なこと言わず、行きますよ 』
綺麗で見惚れる程に涙は似合っていた
けれど、悲しそうに泣いてるのも知ってるから顔を洗って落ち着かせたかった
彼に何があったのかは知らないけど、きっと聞いてもはぐらかされてしまうのは目に見えている
でも、少しだけ....泣いてる姿を見たのは申し訳無いけど出逢えたことは嬉しかった
早く家を出て違う道を通るのも悪くないね
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