すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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番外編

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暗殺当日、既に颯は俺が待ち合わせの場所に行くより先に行動していた

俺が行った時には颯より一つ年下の女性は両手を縄で繋がれ、口にタオルを咥えさせられたまま泣きながら颯を見上げていた

敢えて、彼女の家ではなく

所有者すら俺達の組織の物になってそうな、誰も使ってない倉庫に連れてきたのだろ

此処までどうやって連れてきたか分からないけど、彼女の様子を見れば颯の優しい言葉に騙され来たのだと分かる

その後は一度気絶でもさせて繋いだのだろ、よくある手口であり、同時に颯が態と目を覚ますように仕向けたんだと思う

颯を睨み、恨み、悲しみ、その表情全てを颯本人に焼き付けるように、颯がそれをさせようとしてるのだと

「 んん、っ、ん....! 」

颯の片手には殺傷能力の高い小型の拳銃があり、既に銃口は彼女へと向いていた

綺麗な筈のメイクはボロボロになり、涙で濡れた頬は拭くこと無く口元にある布を濡らしていく

嫌がるように逃げたいように首を振るその様子をじっと颯は見詰め、幾分かしてやっと言葉を発する

「 ....御前が好きなのは変わらない.... 」

「 っ.... 」

僅かに見えた彼の横顔に、流れ落ちる雫に彼女は目を見開き首を振るのを止め不器用に目元を緩めた

察したのだろう、本当は颯がこうしたくないのを察したからこそ精一杯に笑ったんだ

「 ....ごめん__ 」

一発の銃声が反響して鳴り響き、重い音を立て彼女の身体は冷たいコンクリートへと倒れた

震えた手は下がり、拳銃を持ったまま膝を付き亡骸を抱き締める颯は声を殺し泣いていた

俺はその後ろ姿を見ることしか出来なくて、颯が彼女を離すまでずっと立っていた

そして、約束していた事を実行するように颯へと拳銃を向けていた

「 っ、拓海! 」

「 分かってる。颯 」

叫ぶように俺の名を呼び拳銃を自らの頭へと当てた颯に合わせるよう、俺は引き金を引いた

「 っ!! 」 

一発の銃声は響き、颯の持っていた拳銃は転がりながらコンクリートの床を滑り
彼の片手からは血が流れ落ちる

至近距離であり、手に握った拳銃部分のみを撃ち抜けばどんなに鍛えていても反動で指の骨は折れ壊れた破片によって切り血は流れる

死ぬ事が出来ないと同時に、簡単に拳銃を握れなく事は颯にとって都合がいい

「 俺は、好きな人を殺した後も....追い掛けることは出来ないんだな.... 」

「 君がNo.103である以上。死を選ぶ事は認められない。死ぬときは捨て駒のように殺されるときだけだよ 」

「 ....っ、恋人になった奴を、毎回殺せと命令される....今回だけじゃないんだ....今回だけじゃ.... 」

震える声で告げた颯は血が付くのを気にしないまま、彼女を抱き締め泣いていた

今回だけじゃない、その言葉にあの日に彼に前の恋人について聞いた時に表情が暗くなった理由を知った

あの人は、何度も颯が恋人を殺すことを楽しんで見てるのだろう

そして颯が後を追えなくて苦しんで、それでもあの人の横で命令を忠実に聞いてるのに優越感に浸るのだと思う

「 本当に、傲慢だ.... 」

全ての同族が自らの下で働き、そして傷付く事も反抗できない位に弱味を握って支配して、それを楽しんでる

この組織の中で一番質が悪いのに、一番世間に信用されてるなんて....どうかしてる

颯が恋人を作ることにトラウマになり、誰かを愛することを怖がり、そして好きだと思うことすら無くなった

俺に見届けて欲しくて、最後の恋人と選んだのだろう

颯はそれから、殺すことに躊躇はしなくなった 

命令だけを聞く感情のないロボットのように、彼は表向きの王座に座り足元に転がる亡骸を踏んで今日も人を嘲笑っていた

「 ....俺は、全てを失って0になりたい 」

「 それが一文無しになること?それもちょっと違うと思うな 」

俺に社長を潰して欲しいと依頼をして来た日に、何気無く言った言葉は長年考えて答えた結果であり、颯は俺に情けをかける

「 一度は御前の気分を味わってみようかなと.... 」

「 俺はお金がなくてもそれなりに楽しんでる。お金がなくて悲しいのは、俺じゃない....君が殺した人達でしょ 」

「 そうかもな....、俺は....償えない罪を、背負って死刑にでもなりたいのかもしれない 」

颯にとって生きる意味は、陽妃がいるから けれどそれももうすぐ終わりを告げる

陽妃が高校を卒業すれば、自分の元から離れるのだから颯にとって生きる意味は無くなる

其があるからこそ、尚更死にたがりの彼は死を望む

「 でも、死ぬのはちょっと違う気がするんだ 」

「 何故だ? 」

「 死ぬのは逃げだよ。生きて苦しんで償うのが一番....やり方は分からないけどね 」

「 生きていても俺達は、殺しの命令を下されてそれに答えるしか出来ない 」

「 それを言われたら、元もこうも無いけどさ.... 」

俺達は償うやり方を知らない 

生きていても殺しの命令は変わらないし
死んでも、殺した人達に顔向けは出来ない

もし任務で死んだとしても、結局は死んでもいい、と一瞬でも油断したから死ぬのだろ 
それは逃げと変わらないから、任務中にも死ねない

なら、どうしたらいい?

その言葉は言わなくても颯の瞳で言葉は気付いたけれど性格の悪い俺には上手い言葉は出なかった

「 犬は犬らしく、感情無くして命令を聞いとけば一番気が楽だよ 」

「 本当に、そうだろうか.... 」

感情を消そうとして消せれない俺が言えたことはないけれど、今の颯にはそれが一番しっくり来たらしく

小さく" そうかもな "と笑ってその場を離れた 

颯はとても優しい人だからこそ、
あの人の思う壺なのだろうね....

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