147 / 193
番外編
14
しおりを挟む黒澤 鴉史....いや、No.0002191
俺達の上司であり、そして現在は全ての同族を纏めてるボスでもある
裏のボスが表向きに存在してる、バタバタと物事を頼まれる雑用係のような秘書なんて....
誰が疑うか、きっと誰も疑わない
それだけこの人の表向きな仮面は完璧であり、信頼も厚い
颯もきっと疑うことを忘れるほどに、この人の真面目な部分や時より見せる油断のある笑みは、本来の立場を忘れてしまう
けれど、この人の罪を知れば裏のボスだと分かるだろうに....世間は騙されている、俺もまた同じなんだけどね
「 話ってなにかな? 」
訓練場から離れた通路にてやって来れば前にもこんな事があった気がすると、思考を廻らせながら問えば、ボスは小さく笑い問い掛けてきた
「 陽妃さんの様子はどうですか?少しは貴方に気があればいいんですがね 」
「 そんなの聞かなくても分かってるくせに、やだなぁ~ 」
あぁ、本当に嫌な人だよ
颯や海斗にもちょっかいかけて
俺だけが今回の事で悩めばいいのに、
其だけじゃ飽きたら無いのなら腹が立つね
「 その口から聞かないと分かりませんよ。私はいつも颯の傍にいるのでね 」
「 監視が沢山いるくせに、俺がカメラを持たなくてもいいほどにさ 」
「 おや、やっと届きましたか?回り道したみたいですね 」
手に持っていた写真の入った紙袋を僅かに握り、ズボンのポケットへと突っ込み一歩脚を踏み込み近付き
密かな身長差から目線を上げ、静かな声で告げる
「 ....颯と海斗が仲良くなるのにはなんの問題も無いんだよ 」
「 感情を無くすと約束した筈ですが、随分と干渉しますね 」
やっぱり俺の感情が颯へと向けられることを喜んでるのだと分かる
もし、これ以上颯を気にしてる事がバレれば俺はまた殺せと命令が下りるのだろ
そうなると、本気で颯でも、海斗だろうと殺さなくちゃいけない
感情なんて、そう簡単に無くせるわけ無いのに無いフリをするのは自らの胸にナイフを突き立ててる気がする
「 馬鹿言わないで。逆だよ、興味がないからこそ二人が会おうがいちゃつこうがどうでもいいんだよ 」
本当は知らない颯を見るのは嫌だし、この人の手の上で踊らされてるような事も嫌だ
けれど、俺はそう告げなきゃいけない立場だからこそボス相手に文句を言う
「 本当にそう言うなら、二人が仲良くしてもいいんですね? 」
「 そうだね 」
同じ事を二度も言わせないで欲しい
そう思いながら後ろに下がり片手を動かし呆れた動作をする俺に、彼は鼻で笑い此方へと近付けば静かに左肩へと手を当て耳元で告げた
「 では、颯に海斗を殺す命令を出しても何も思わないんですね? 」
「 ....海斗?あんな不出来な子が死んでも、気にしないね 」
「 それを聞いて安心しました。いつしかのように部下を殺されたくは無いのでね 」
それは颯に近づいた者達を殺していた、俺の学生時代の事を言ってることは直ぐに分かった
楽しそうに人を嘲笑い、左肩から手を離した彼はそのまま素通りするよう歩き出せば口を閉じた俺に、態とらしく言葉を残す
「 暗殺命令を出すのは、他でもないこの私だ。他の誰でもないことを忘れるな 」
いつも依頼をして来るのは、ボスであり他の者ではなかった
いや、ボスからの伝言として他の人から言われたことの方が多いからこそ忘れそうになるが、最初の決断は彼がする
忘れていた訳ではないけれど、忘れそうになる
「 本当...." 傲慢 "だね 」
「 ふふっ、当然です。私が君達の親なので 」
軽く笑いその場を立ち去ったその後ろ姿を一度見てから、消えたところで壁へと拳を当て奥歯を噛み締めた
「 本当に傲慢だ....海斗、颯だけは....好きになっちゃ、ダメだからね.... 」
もし二人が互いを好きになれば
あの人は、笑いながら颯に殺す命令を出すのだろ
親しくて愛しいものほど、殺す命令を出すのを楽しんでるほど質が悪い
何度、颯は恋人が出来る度に殺す命令を下って泣きながら拳銃を向けていたか
自らの命を絶とうとして俺が止めたか
また颯を悲しませることを楽しむなら、
今度は俺が颯が泣く前に悪役を気取って引き離した方がいい
「 大切な人を、これ以上悲しませたくないのに....俺は、無力だ.... 」
悪役を気取っても、陽妃ちゃんのように失敗して音信不通のように逃げるだけ
颯に揺すりをかけてもきっと俺の言葉には耳を傾けないし
海斗に至っては、兄貴面するなと言われそうだ
結局俺は、ボスの忠実な犬であり抗っても無意味なほどに彼等に影響なんて与えない
それでもいいんだと思うのに当て付ける矛先の無い感情の言葉が分からずに
握り締めた手の平に、密かな切るような痛みを感じる程度
俺は、いつも空回りしてばかりだ
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる