すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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番外編

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黒澤 鴉史....いや、No.0002191

俺達の上司であり、そして現在は全ての同族を纏めてるボスでもある

裏のボスが表向きに存在してる、バタバタと物事を頼まれる雑用係のような秘書なんて....

誰が疑うか、きっと誰も疑わない

それだけこの人の表向きな仮面は完璧であり、信頼も厚い

颯もきっと疑うことを忘れるほどに、この人の真面目な部分や時より見せる油断のある笑みは、本来の立場を忘れてしまう

けれど、この人の罪を知れば裏のボスだと分かるだろうに....世間は騙されている、俺もまた同じなんだけどね

「 話ってなにかな? 」

訓練場から離れた通路にてやって来れば前にもこんな事があった気がすると、思考を廻らせながら問えば、ボスは小さく笑い問い掛けてきた

「 陽妃さんの様子はどうですか?少しは貴方に気があればいいんですがね 」

「 そんなの聞かなくても分かってるくせに、やだなぁ~ 」

あぁ、本当に嫌な人だよ

颯や海斗にもちょっかいかけて
俺だけが今回の事で悩めばいいのに、
其だけじゃ飽きたら無いのなら腹が立つね

「 その口から聞かないと分かりませんよ。私はいつも颯の傍にいるのでね 」

「 監視が沢山いるくせに、俺がカメラを持たなくてもいいほどにさ 」

「 おや、やっと届きましたか?回り道したみたいですね 」

手に持っていた写真の入った紙袋を僅かに握り、ズボンのポケットへと突っ込み一歩脚を踏み込み近付き
密かな身長差から目線を上げ、静かな声で告げる

「 ....颯と海斗が仲良くなるのにはなんの問題も無いんだよ 」

「 感情を無くすと約束した筈ですが、随分と干渉しますね 」

やっぱり俺の感情が颯へと向けられることを喜んでるのだと分かる
 
もし、これ以上颯を気にしてる事がバレれば俺はまた殺せと命令が下りるのだろ
そうなると、本気で颯でも、海斗だろうと殺さなくちゃいけない

感情なんて、そう簡単に無くせるわけ無いのに無いフリをするのは自らの胸にナイフを突き立ててる気がする

「 馬鹿言わないで。逆だよ、興味がないからこそ二人が会おうがいちゃつこうがどうでもいいんだよ 」 

本当は知らない颯を見るのは嫌だし、この人の手の上で踊らされてるような事も嫌だ

けれど、俺はそう告げなきゃいけない立場だからこそボス相手に文句を言う

「 本当にそう言うなら、二人が仲良くしてもいいんですね? 」

「 そうだね 」

同じ事を二度も言わせないで欲しい
そう思いながら後ろに下がり片手を動かし呆れた動作をする俺に、彼は鼻で笑い此方へと近付けば静かに左肩へと手を当て耳元で告げた

「 では、颯に海斗を殺す命令を出しても何も思わないんですね? 」

「 ....海斗?あんな不出来な子が死んでも、気にしないね 」

「 それを聞いて安心しました。いつしかのように部下を殺されたくは無いのでね 」

それは颯に近づいた者達を殺していた、俺の学生時代の事を言ってることは直ぐに分かった

楽しそうに人を嘲笑い、左肩から手を離した彼はそのまま素通りするよう歩き出せば口を閉じた俺に、態とらしく言葉を残す

「 暗殺命令を出すのは、他でもないこの私だ。他の誰でもないことを忘れるな 」

いつも依頼をして来るのは、ボスであり他の者ではなかった
いや、ボスからの伝言として他の人から言われたことの方が多いからこそ忘れそうになるが、最初の決断は彼がする

忘れていた訳ではないけれど、忘れそうになる

「 本当...." 傲慢 "だね 」

「 ふふっ、当然です。私が君達の親なので 」

軽く笑いその場を立ち去ったその後ろ姿を一度見てから、消えたところで壁へと拳を当て奥歯を噛み締めた

「 本当に傲慢だ....海斗、颯だけは....好きになっちゃ、ダメだからね.... 」

もし二人が互いを好きになれば
あの人は、笑いながら颯に殺す命令を出すのだろ 

親しくて愛しいものほど、殺す命令を出すのを楽しんでるほど質が悪い
 
何度、颯は恋人が出来る度に殺す命令を下って泣きながら拳銃を向けていたか

自らの命を絶とうとして俺が止めたか

また颯を悲しませることを楽しむなら、
今度は俺が颯が泣く前に悪役を気取って引き離した方がいい

「 大切な人を、これ以上悲しませたくないのに....俺は、無力だ.... 」

悪役を気取っても、陽妃ちゃんのように失敗して音信不通のように逃げるだけ

颯に揺すりをかけてもきっと俺の言葉には耳を傾けないし

海斗に至っては、兄貴面するなと言われそうだ

結局俺は、ボスの忠実な犬であり抗っても無意味なほどに彼等に影響なんて与えない

それでもいいんだと思うのに当て付ける矛先の無い感情の言葉が分からずに
握り締めた手の平に、密かな切るような痛みを感じる程度

俺は、いつも空回りしてばかりだ

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