すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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番外編

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目を覚ませば、其処には拓斗さんの姿はなかった

置き手紙すらなにままに消えた彼を追い掛けることも出来ないし、
ネットで昨日の事を聞けるわけない

まるで悪い夢をみたように、起きてから見た自分の身体はなに一つ乱れてはなかった

そう、あれは只の悪夢なんだと思いたい

『 ただいま.... 』

朝帰りなんてお兄ちゃんは何を思って言うだろうか、それよりも拓斗さんに幻滅されかも知れないと言う恐怖心の方が勝っていた

ホテルからタクシーを呼び、家の付近で降ろしてもらってからそのまま歩いて帰って来た

買って貰ったぬいぐるみは拓斗さんの車の中で、持って帰れなかった

折角プレゼントとして貰ったのに....そう思うと寂しい

気が落ち込んだままに家の玄関を開け、リビングへと入ればほのかに香るパンが香ばしく焼けた匂い

朝御飯でも食べたのだろうかと視線を向ければお兄ちゃんの表情はいつにも増して眉間にシワを寄せていた

朝帰りだから怒られても無理はないと自然と目線は足元へと落ちる

「 高校生が朝帰りなんていい度胸じゃないか。友達と遊んでるんじゃなかったのか? 」

口煩いけれど過保護なお兄ちゃんの説教みたいなのは始まる

『 遊んでたけどなにも疚しいことはしてない。映画見て、もう一本観ようって観てたら遅くなってそのままカラオケに行ってたから.... 』

「 別にそこまで聞いてないだろ 」

疚しいことはしてない、そうあれは夢なのだから....
でも、もし夢じゃなく本当にあったことなら拓斗さんが朝にいなかった理由は分かる

私がこんな姿だから、女の子ではないから気持ち悪くて立ち去ったのかも知れない

お兄ちゃんへと視線を向ければ涙を溜めて声を張り告げた

『 嘘だよ! 』

「 ....は? 」

嘘なんだよ、女の子じゃないと言えなかった
高校生なのに社会人の拓斗さんに犯されて、触れられることを望んだ

疚しいことを考えて思ったのは私自身

「 泣くことじゃないだろ!?どうした?強く言い過ぎたか?ごめんな?? 」

『 違う....! 』

肩に触れようとしたお兄ちゃんに私は胸元へと顔を埋めた

私より大きな手で髪へと触れ、優しく撫でられればスルッと外れた髪、ではなくウィッグは床へと落ち

泣きながら告げていた

『 好きな人とあってきた....でも、向こうは私なんて興味なくて....歳上だから頑張ったけど、私、男の子だってことも伝えられてない....嫌われたくない....! 』

「 陽妃.... 」

お兄ちゃんに言っても仕方無いのに、大好きなお兄ちゃんより好きになった人に男の子だと伝えられなくて

もしそれがバレて嫌われたとしたなら、女装癖と思われても私は拓斗さんに嫌われたくはない

『 ....お兄ちゃんみたいに、かっこよかったら....こんな、女装なんてしてないのに.... 』

女装をするようになったのは、お兄ちゃんより何か一つでも優れたかった

可愛いと言われるのが好きだった

けれどそれは、お兄ちゃんの前だけであって
本当に好きになった人には" 私自身 "を見て欲しかった....

でも、それは望めないことかも知れない
拓斗さんにどう顔向けしたらいいのか分からない

「 ごめんな、陽....好きな人が出来ならお兄ちゃん応援するから、泣かないでくれ.... 」

『 ふぇ.... 』

応援してもらうのは嬉しいけれど、どうメールを送ればいいか分からない

苦しいほどに悲しいほどに、もしメールを止めて会うことすら無くなるのなら

その前にちゃんと言いたかった

次に会うときもきっと私は女装してる普段の姿
 
女装癖と思われても嫌われたか
それとも、男に興味がない人なのか

きっとどちらでもあるのだろう

それでももう一度合いたいと望んでは駄目なのかな

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