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番外編

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トイレに行ってメイクが崩れてないかとか色々確認したけれど、どっからどうみても女の子

それは普段なら嬉しい事なのに今は何故か、胸の辺りが痛い

気持ちを整えてから戻れば、ほんの僅かに拓斗さんの視線が重なる回数が増えた気がする

さっきまでずっと歌詞の流れてる画面か、検索するパネルだったのに今は私の方を何度もみてくる

『( 駄目だなぁ....人の視線に敏感なんて.... )』

お兄ちゃんの顔色を伺うように、クラスメートの反応に敏感なように自分を偽ってるからこそ気になる人の視線に敏感なのは自覚してる

私を知らないその辺の男達の視線には興味は無いのだけど、こうして気になる相手の視線は何よりも一つ一つの動作を見てしまう

声のいい、拓斗さんの歌を聞きながら飲みかけていたガラスコップを持ちさしていたストローを口に咥えすっと吸い込み炭酸飲料を飲み込む

『( ん? )』

ほんの僅か、けれど確かに飲料水に混じった甘い薬のような味はある
それが本当に薬なのか、吸って飲んでいれば空になってしまったコップに内心驚く

普通なら違和感があれば其処で飲むのを止めるのだろうけど、この味は違和感というか興味の方が勝り全て呑んでしまった

まるでそうする為の味のような炭酸飲料を飲み干した私は歌い終わった拓斗さんと視線が重なり

彼は笑顔を向けてマイクを差し出してきた

「 ほら、次は陽ちゃんの番だよ 」

その笑顔が一瞬だけ怖くて、胡散臭く思えてしまったのはこの炭酸飲料を呑んでる間に一度もこっちを見なかった事と....

呑んだ後に何一つ反応をしなかったからだ....

『 あ、はい。次は....残酷な神の導きを歌います 』

「 これ有名だよねぇ。知ってる 」

もし平然と薬を入れる人ならばその笑顔も全て嘘なのだろうか

それでも多分、私は許してしまう

お兄ちゃんが拳銃を持ってても気付かぬフリをしたように
この人が薬を盛ったと知っても気付かぬフリをして同じように笑顔を向けるんだ

『( この時間が好きだから.... )』

二曲歌ったところで、違和感は感じた
気だるい身体と回らなくなってきた頭と呂律さえハッキリ言えてるか分からないほど

そして、私の様子を只" 疲れたの? "と優しく問い掛けてきた拓斗さんは確信犯だと分かる

それなら、もう全て薬に身を任せてどうなるか見ていてもいいんじゃないかと思えてきた

『( ホテルに連れ込まれてヤられる、なんて好きな人と出来ればハッピーだよね.... )』

もし記憶が無くなるなら残念だけど、記憶が有るならそれは嬉しいと思う

だからこそ迫る睡魔を否定することなく受け入れてしまおうと思った時にはカラオケボックスの椅子へと横たわっていた

「 ....おや、寝たら誰が交代で歌うの? 」

急に眠る人がいたら、多少なりと驚くと思うのにそれすら無くて
只、次の番がいないことに疑問になるなんてやっぱり可笑しい

それを答える統べなんて無くて、気付いた時には見慣れない天井をうっすらと見ていた

『( .....此所は、どこ? )』

鼻に付く煙草の匂い

それに感じる身体への違和感へと廻らない頭を回転させ視線を天井から胸元へと向ければ、大きくて広い手は薄い胸板をそっと撫でていた

人差し指と中指についた指輪と聞き覚えの無い声に徐々に思考は覚めていくも声は出せなかった

『 っ!? 』

「 ふふっ、ボクっ....起きちゃった?寝てなきゃ駄目だよ 」

『 ん"っ!! 』

もし夢なら覚めたいと思うほど起きた時にみたそれは悪夢だった

胸板に触れていたのは拓斗さんでもお兄ちゃんでもない、只のスーツを着た30代の見ず知らずの男性だ

何故、自分がこんな状況になってるか分からなくて摘ままれた乳首から感じる快楽に身体を跳ねれば、脳とは別に既に身体は強制的に反応してることに考えはカラオケボックスで呑んだあの炭酸飲料

入ってたのは睡眠薬以外かと思い
拓斗さん以外に触れられるのが嫌で首を振ろうとすれば....

目を見開いた

「 睡眠薬が消えるの早いね、もう少し飲ませてみようか?どうせ、記憶は無くなるんだからさ 」

「 2グラム増やしますか? 」

「 そうだね、あともう少し....乱暴にしちゃっていいよ 」

「 了解 」

見ず知らずの男性のほんの僅かに後ろに立つ拓斗さんの片手には片手で持てる程度の小さなデジカメがあった

そのレンズの先が向けられてるのは淫らに乱れた私の胸元と下品に開いた脚の部分

酷すぎる....

少しでも優しいと信用した自分が間違っていたと顔を掴まれ無理矢理口に含まれる薬に拒否をする舌は動き唾液は垂れ
それでも捩じ込まれた薬を飲み込んだ時には涙は溢れていた

舌は麻痺したように動かないからこそ言葉は出なくて、只触れられる度に嫌がる声は漏れる

そんな私を見て、拓斗さんは街の中で出会った時やカラオケボックスに入っていた時と変わらない笑顔をレンズの向こうで向けていた

「 はい、ポーズ。陽ちゃんってエッチだねぇ 」

お兄ちゃんが昔、他人は信用するなと言って意味が分かるかも知れない

この人を少しでもお兄ちゃんと同じ優しい人だと思ったことや傍にいた事さえ楽しかったとうかれていた私は、只の馬鹿だ

ちょっと優しくされただけで気があると勘違いして

ちょっと笑顔を向けられただけでときめいて

それでも、好きになってしまったんだ....

『 っ、たく、と....さん 』

「 !! 」

精一杯告げた名前は涙と共に掠れた声で消え去った
けれどあんなに笑顔を向けていた拓斗さんの表情が消えたことは薄れていく視界の中で見た気はする

抱かれるなら、貴方に抱かれたい

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