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番外編

03

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ちゃぶ台挟んで薄い布団を敷いて眠っている
小さい頃は一緒に寝てたのだけど、成長と共に海斗から離れて親がいなくなってからはちゃぶ台を挟むことになった

ちょっと寂しいなと、寝るときは思うんだけどこれも兄離れなんて思うと受け入れるしか無くなる

いつも起きるのは海斗が先で俺はその足音とかで目を覚ます

洗面台なんてこの家には無くて交代でキッチンの蛇口で顔を洗いうがいをしてからちゃぶ台へと座る

海斗がパンを電子レンジで焼いてる間にスマホを弄り、ふっとすれ恋をオススメしてみた
本当はあのボスがオススメしたアプリなんて教えたくは無いけれど、友達が遊馬位しかいない海斗には丁度いい刺激になるかなと考える

「 御前も登録してみろって、マジで面白いから 」 

「 興味無い 」

「 ははっ、連れねぇよなー。我が弟ながら顔はいいから女と遊び放題だと思うのに 」 

「 ...... 」

一刀両断で断られた言葉
まぁ、そういう反応は返ってくると思ってたから軽く笑って焼けたパンを受け取りそのまま齧る

無言の海斗にきっと俺が遊び人だから自分も同じ類に思われたと嫌がったのだろ
無理もないけどね

早乙女の騒動をいいことに盗んだ腕時計
昨日とは別のものをつけていれば気になるのだろ

案の定、手首へと視線を落とす海斗の表情は手に取るように感情が読み取れて面白い 

俺が遊び人としてのイメージを固定してるから仕方無いのだけど、本当は一人の人が好き....それも男を好きだと言ったらどんな反応をするだろうか
其こそ引かれそうな気もするけどね

無言の空気に耐えきれず財布から札を取り出し渡す

「 これ、今月の学費だ。それと食事代だから勝手に食っててな。数日、女の家に泊まるからさ 」 

「 ....自分のバイト代があるから必要ない 」

パンを齧りながら高校である学校に行く為に鞄の中に物を詰めていく様子を只行き場の失った手と札は硬直し 
そっと自らの財布の中へと戻した

折角、羽振りのいい颯からお金をもらったのに此では意味ないと一人眉は下がり苦笑いが浮かぶ

両親の金の荒さを知ってるから、海斗もそうなるんじゃないかと不安だったけれど
その反対であり全く違った

其こそ無欲だとばかりに金への執着心は俺ほどもなく、遊馬や颯のような金の荒さも持ち合わせてない

誰に似たのだろうかと、黒髪に青い瞳をした海斗の横顔を眺め思う

けれどそんな事を気にしては駄目なのも知ってるから、軽く笑って誤魔化す

「 見栄を張っちゃって~金が必要なら今ならやるぞ? 」

「 必要ない....行ってくる 」

「 大人だねぇ~。いい女掴まえて俺を養ってくれよ 」

「 ....あり得ないな 」

冗談言うな、とばかりに睨まれた事に内心ちょっと心が痛んだけどお兄ちゃんこんな事ではめげないからね

溜め息を吐いて鞄を持ち出ていった海斗と同時に、振動するスマホのマナーモードのバイブに気付き電話の相手と繋げる

「 あ、リサちゃん?今日速めに行けそうなんだ~。うんうん、待ってて 」

電話相手は一瞬低い声で" あ"?"なんて文句を言ったが海斗がいる手前、相手の名前を出すことは出来ない 

一人勝手に演技をしていれば呆れたように出ていく海斗に向け手を振れば電話の相手は先に用件だけ言って一方的に切った

「 今夜は一緒にいられるよ。大好きっ 」 

「 はぁー、行ってきます.... 」

玄関の扉を閉まったと同時にちゃぶ台へと額を当てる

なんて、俺はこんな見え透いた演技しか出来ないのだろ
同族から見れば相当、下手な演技だと思うだろうね

けれど人を疑うと言うことを知らない海斗には気付かないぐらいの演技だ

「 はぁ、俺も行こう.... 」

少し気持ちを落ち着かせてからキッチンで歯磨きをし海斗と少し遅れた後に家を出た


午前中は早乙女の件について一旦保留になり確実警戒程度の話で終わった

爪が甘いと言うか、早乙女一人捕まった位では揺るがないのがこの組織なのだろ
相変わらずと思いながら任務がないか確認した所、今日のところは俺には無くて只時間まで訓練をしていた

「 はぁ―....久々に動くと鈍ってるね.... 」

向かってくるボールを全て避ける訓練や筋トレなどしていれば予定の時刻になる

シャワーを浴び一旦服を着替えてから待ち合わせの場所へといけばその後ろ姿を見掛け、態と後ろから抱き着こうと向かっていく

「 りくぅぅぅう~~~!....ふぁ!!? 」

ガバッと抱き着こうとした瞬間に右腕を掴まれ左腕を下へと引かれた時には既に一瞬の出来事で、ぐるんと廻る身体と共に背中に衝撃が走る

「 誰が、リサちゃんだ。あ"ぁ? 」

「 ありゃ....まだ朝の事を根にもってたの....颯ちゃん 」

「 ....もう少しまともな名前にしろ 」

はっと鼻息を荒くし背負い投げした俺から手を離した颯を見上げてから、身体を起こせば向き合う

颯だと呼べば海斗が気にしてしまう
だけどそれは颯も知ってるからこそ周りに人がいるときは仕方無いが

毎回、違う女の名前で呼ばれるのは嫌なのだろうね
明らかにふてくしてるのが可愛くて仕方無い

「 なになに、ヤキモチ?颯以外からの電話には殆ど取らないよー? 」

「 うるせぇ。タラシ。あぁ、依頼したい 」

「 またまた~。なに、どうぞ? 」

颯からの依頼、それは半ば適当に聞き流そうと思っていた内容なのだけど俺は余りにも衝撃過ぎた

それはきっと俺が望んでも手に入らない物を失う選択肢をした颯への怒りもある

「 無一文になりたいから、社長を潰してくれ 」
 
君は時より理解が出来ない依頼をする
今に始まって無いけれど、それは時に俺の感情を" 嫉妬 "で渦巻かせる

「 へぇ....いいよ? 」

君が手放すと願うなら
俺は君の大事なものを奪おう

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