上 下
106 / 193
番外編

06

しおりを挟む

歩いて帰ってもやっぱり足首は痛くて、階段から落ちたときに捻挫でもしたんだと思った

町行く人々は気に求めず歩き去る横をゆっくりと左足を引き摺って歩く私は情けなくて涙が流れ落ちた

「 陽?どうした? 」

『 っ....お兄ちゃん....! 』

聞こえてきた車は私の直ぐ横で止まる
真っ黒なベンツに貼られたプライバシーガラスは下がり、顔を見せたお兄ちゃんの姿を見て限界だった涙は溢れ落ちる

「 陽妃!?おい、どうしたんだ! 」

車から降りてきたお兄ちゃんに只抱き着いて泣く私は、言葉を言えなかった

朝から怖くて逃げてたのに都合良く解釈できたと喜んでたら男子達の些細な苛めや、無くなった自転車とか、痛む脚とかに色々あって全ては伝えれなかった

それでもお兄ちゃんは優しく頭を撫でて、車に私を乗せれば黒澤さんは車を走らせた

どうした?その言葉は優しくて、色々あったと掠れた声で答えた

どうやって家に戻ったか余り覚えてなくて、ソファーに座ってお兄ちゃんから渡された冷たく濡れたタオルを顔に当て、泣いていればお兄ちゃんは床に膝を付き足首の捻挫をテーピングして手当てしてくれる

「 晩御飯は俺が作りましょうか? 」

「 んや、冷蔵庫に昨日の残りあるからそれ温めてくれる? 」

「 これですね、分かりました 」

 冷蔵庫の前に立つ黒澤さんに頼んだお兄ちゃんはテーピングが終わり軽く包帯を巻けば顔を上げ私の片手に触れてくる

少し泣き止み落ち着いた呼吸と共にタオルから顔を出し、お兄ちゃんを見れば親指で目元をなぞり眉を下げ笑みを向けてきた

「 辛いことがあったのか?俺でよければお兄ちゃんに言ってみ?聞いてやる 」

『 ....っ、お兄ちゃん 』

優しいお兄ちゃんを少しでも疑った自分を殺したくなる
こんなにも触れる手が声が温かい人が人を殺す訳がない

『 ....クラス、違う男子に階段で脚引っ掛けられて、こかされたり....自転車、不注意なのにとられて....お兄ちゃん買ってくれたのに.... 』

「 自転車位また買ってやるさ。そうか、痛かったな....よく頑張って歩いて帰ってきた.... 」

お兄ちゃんが入学祝いにと買ってくれた自転車だった、それが不注意で取られて
立て続けに痛む脚に泣いてたのに優しく撫でてくれる手は心地好かった

『 ん.... 』

銃を持ってたことを聞こうと思ったけれど、それはお兄ちゃんから言わないのなら止めた

撫でてくれる手に落ち着けば、お兄ちゃんは横へと座り直し私の肩を抱き寄せ胸元へと耳を当てるよう抱き締めてきた

『 っ.... 』

聞こえてくる心音に安心すると同時に色んな感情ゴタゴタになり、涙はまた流れ落ちる

「 陽は可愛いから皆が虐めたがるのだろ....俺の弟だもんな.... 」

『 私が....不出来だから、どんくさくて何も出来ないから....お兄ちゃんみたいに、優れてない.... 』

可愛くもなければ、お兄ちゃんみたいな程に完璧でもない 
だからこそ胸元を押して首を振れば彼は少し眉を下げ困った表情を見せてから私の手を取り自らの頬へと当てた 

「 俺だって完璧じゃない。御前が泣くと悲しくなる....仕事だって失敗して黒澤君によく叱られてる。でも....守りたいものの為に俺は努力でそれをカバーするんだよ 」

『 努力....? 』

「 そう、陽だって努力して可愛くなった。メイクもいつのにか上手くなって。お兄ちゃんより勉強熱心なのも知ってる....陽妃は努力の天才だよ 」

お兄ちゃんにメイクを褒められたことは無かった 
可愛いとは言ってくれるけど、ケバいとかもう少し薄くしろとか言われてた為に驚いたし
それよりも仕事で失敗して黒澤さんに怒られると言ったお兄ちゃんに、本当なの?とばかりに彼へと目を向ければ頷いた

「 えぇ、陽妃さんの前では完璧な兄を気取ってますが仕事では怒られてばかりなんですよ 」 

『 お兄ちゃんが.... 』

「 俺が完璧だって?馬鹿を言うな、完璧な人間等....この世には居ないんだよ。皆何処かに欠点を持ってるから其をカバーしあって生きていくんだ 」 

お兄ちゃんは完璧だからこそ一人で生きて私を育ててくれたのかと思っていた
仕事も出来るのをモデルの時に知っている 
 
けれど、それがもし全部私の前だから頑張ってただけならお兄ちゃんは相当な意地っ張りだ

『 そっか、そうだね.... 』

「 そうさ。人は自分より優れる人を見ると嫌になる。陽が苛められるのは向こうにとって陽の方が優れてるから。だから陽は堂々とするといい 」

私の顎に触れ顔を上げさせたお兄ちゃんと目が合う

拓斗さんが言ってた通りの事をお兄ちゃんが言ってることに何となく嬉しくなった

「 自信を持て。御前の行動は間違いでもなければ優れてないわけでもない。苛めぐらい嘲笑ってやればいいんだよ 」

『 そんは無茶な....私はお兄ちゃんじゃない.... 』

「 んや、俺も小さい頃は相当苛められてたからなぁ。陽は俺と似てるよ 」

『 えっ? 』

「 泣きはしなかったけどな? 」

お兄ちゃんが苛められてた?
そう見えないし、思ったこともなかった

寧ろ初めて聞いたような幼い頃の話に耳を疑った

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...