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しおりを挟む目を覚ました時には見慣れた天井に家なんだと思った、それと同時に思い出すのは拓海の上で気を失ったこと
『 いっ、っ.... 』
腹の痛みに顔を歪め、起き上がろうとしても無意味な事に諦めてソファーへと背を預け額から落ちた濡れタオルに目を向ける
「 起きましたか? 」
『 ....海斗 』
聞こえてきた声に耳を傾ければ其処に桶をもった海斗がやってきた、この濡れてまだ冷たいタオルは彼がこまめに買い換えたのだろ
部屋の灯りが薄暗くなってるのを見ればもう夜だと分かる
「 ....貴方は馬鹿です 」
『 なっ.... 』
起きて早々、馬鹿だと言われて驚く俺に彼はしゃがみこみ桶を置き
俺の手からタオルを取れば其を桶に入れ軽く洗ってから絞る
「 知識もない人があんな荒療治するなんてどうかしてます....。少し俺を頼ってください.... 」
絞ったタオルを握り締め、涙を浮かべるこいつに俺は心配させないと言う選択肢は間違っていたのだと気付く
『 ごめんな、海斗.... 』
そっと手を伸ばし頬に触れようとすれば海斗の方から手を取りその頬へと当てた
熱い俺の手とは反してひんりとしたその頬が心地いい
「 許しません....俺達がどんなに心配したか....貴方はなにも言ってくれない。どんな人でも俺は受け入れられるぐらい、貴方が好きなんです.... 」
泣かせないと思ってたのに泣かせてしまう
心配させないようしても心配させてしまう
俺の間違いは最初から隠してた事なんだと気付くとどうしても笑ってしまう
「 なんで、笑ってるんですか....俺は怒ってるんですよ 」
『 だからだよ.... 』
自分が守ろうとした者のほど傷付けてしまう
優れてるとか言われてたが、何一つ優れてはなかった
だからこそ、自分の愚かさに笑ってしまう
『 怒ってくれるほど俺が好きってことな.... 』
「 そんなの、当たり前じゃないですか 」
『 ....俺も、御前が好きだよ 』
頬に触れていた手を下げ、ゆっくりと上を向き顔に腕を乗せ息を吐けば桶が横に擦れる音と共にソファーは僅かに軋み
目線を向ければ海斗の顔が其処にはあった
『 ふはっ、なんだよ 』
「 俺も好きです。ずっとずっと好きです 」
『 ....沢山の人を殺して来たんだぞ、2年の罪なんて軽すぎる.... 』
血で染まって泣いて助けを求める両親の声や子供の声は夜な夜な耳に響く
悪夢を見るほどトラウマになってる俺には幸せを求めていいのか分からない
「 ....確かに人殺しは大きな罪です。許される事じゃありません 」
『 ....なら.... 』
「 でも、颯さんもその分苦しんでるじゃないですか。此れからは一緒に半分ずつ分かち合おうって言ったのは颯さんですよ 」
頬に流れる涙は俺の頬に当たり
血で汚れた俺の手を強く握り締める彼の言葉は、血も涙もない人間だと言われた俺の心を溶かすように入ってきた
『 御前は、ほんと....俺を泣かしにかかる.... 』
真面目でいい子だと思った、正直あの拓海が育てた子供なんてどうしようもない笑って誤魔化すような奴になってると思ったが こいつは拓海の素直と真面目をちゃんと受け継いでいた
人を殺す俺達が、泣いてはいけない掟なのにそれを簡単に壊すほど涙は流れる
「 泣いてもいい、その分楽しく笑い合いましょう。颯さん....俺は貴方と一緒に暮らしたい。一緒に生きていきたい.... 」
人を愛することも、誰かを求めて助けを願うのも、全て出来なかったからこそそれを求めていいと告げる海斗がいとおしくてたまらない
両手を伸ばし抱き締めた俺に、彼はそっと髪に触れ肩口へと顔を埋めた
『 俺も、御前と一緒に生きていきたい.... 』
「 叶えましょう。ずっとずっと、一緒にいよう....颯 」
子供だと思っていた守るべき存在は いつの間にか大きくなり俺を守る側へと変わっていた
「 貴方の罪を、俺も背負うから....隠し事は禁止だ....半分ずつ分かち合おう.... 」
『 あぁ、誓うよ.... 』
顔を上げた海斗は頬を触れ、そのまま口付けを落としてきた
涙を流す俺に彼は優しく微笑んだ
健やかなるときも病めるときも
富めるときも貧しいときも
愛し、敬い、いつくしむことを此処に誓う
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