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しおりを挟む「 お疲れ様です! 」
「 先生、頑張ってねー。お疲れ様 」
仕事が終わった18時
残りの仕事を鞄に詰めて白衣を置いてから上着を脱ぎ、コートを羽織り仕事場を後にした
車は其なりにいいものを乗ってるが、これはまだ仕事を始めた前に買った為に自慢できるようなものではない
愛車に乗り込み、後ろの座席へと鞄を起き腕時計を見てから車を走らせた
まだ余裕はあるから心は弾む
「 今年は来てくれるだろうか 」
去年は来なかったのはまだ執行猶予が残ってたから
でも今年は其が無くなる年
それは執行猶予があっても気にしてないのだが、本人が気にしてたのならきっと今日....そう思う俺は出逢うことの緊張より楽しみの方が大きかった
「 車は....止めて歩くか 」
駅前近くの駐車場に止まり、切符を切ってからポケットにいれ財布とスマホを確認し
外へと出る
「 18時半か....まぁいいか 」
すこし早く来ても毎年、3時間以上は待つんだから問題ないと約束していた時計塔前に立ち呼吸を整える
「 ....カッコ悪いと言われないだろうか。最近、寝不足だからなぁ.... 」
こんなことならもう少し隈やら薄くしたり、肌質よくしていれば良かったかもしれないと今更乙女のように考えては一人苦笑いを漏らす
「 俺、乙女座だからな....仕方ないか。そう言えば、一ノ瀬さんは何座だろ....それすら知らないとか.... 」
調べとけば良かった、なんてガッカリ肩を落とすが聞くのも楽しみだと思う
時計を見たら1分1分が長く感じるために見る事なく、なんて伝えよう、どうやって話さそうなんて思っていれば待ち合わせの時間は過ぎていた
「 あ、鳴るのか.... 」
20時を合図する時計が鳴り響き
冬になり始めると夜が早く来るために夏と冬の時期は鳴ることを思い出す
今年もこの音を聞いたと思いながら息を履いて夜空を眺めた
「 ....! 」
来ないかな、そんな事を考えていればカツンと僅かに鳴るブーツの音に目線を向ければ目を見開いた
其処にはゆっくりと歩いてくる茶色の髪をした綺麗な女性がいたのだから
知っている、けれどそっちの格好で来るのかと思ってしまった俺は不意に笑みは漏れ、身体を向き合う
少し離れた場所で立ち止まった女性は俺を見ては告げる
『 お久しぶりね、カイくん 』
「 お久しぶりですね、リクさん....相変わらず綺麗ですね 」
『 貴方は....大人っぽくなったね 』
あぁ、好きなんだなって実感した
透き通るように甘い声と柔らかな口調も変わらない
それに今日は目にコンタクトをいれてないのか琥珀色の瞳は俺を写す
目線を外す視線も、動く唇も直ぐに触れたくて抱き締めたい感情をグッと堪える
「 大人になりました....だから、話があります 」
『 なに? 』
ずっと伝えたかった、だから気持ちを落ち着かせて告げる
「 兄の変わりに初めて貴女に出逢った日、一目惚れしました。高校生なのに大人だと嘘を固めても一緒に過ごした時間は思い出になりました 」
一目惚れしたのにはかわりない、だから俺は本当は準備していた物をポケットに入ってるが其れを出す事なく続ける
「 ホテル代、情けないですが受けとりました。食費に回したりしました....子供だった俺と沢山遊んでくださりありがとございました 」
一目惚れしたけれど好きになった人は彼女では無いからこそ、深く頭を下げてから顔を上げれば、リクさんは柔らかく笑った
『 それだけにメールが遅れたのね 』
「 えっ、あ、そう....遅れました。なんて返事をしたらいいか分からなくて 」
やっぱり格好つかないなと頬を掻いて目線を泳がせれば、彼女は笑みを浮かべた表情をすっと消えて問い掛けてきた
その瞬間、まるで秋に訪れる冬のように凍った気がする
『 けじめは付いた? 』
「 !!付きました。好きな人をハッキリと分かりました。それに言いたかったことも伝えられたので....次は好きな人に伝えます 」
『 そう、良かったね。それじゃ.... 』
けじめは付いた、好きな人をハッキリと分かって選ぶことも俺には出来た
だからもう、迷わないと背を向けて歩き出したリクさんの背を追い掛けた
『 っ! 』
「 もう....俺の嘘は無いんです。だから、貴方も嘘を解いて下さい。一ノ瀬さん....俺は貴方が好きです.... 」
リクさんとしてもう現れなくていいんだ
俺は貴方が、男でも年上でもどうだっていい
背中から抱き締めた身体は昔より小さく思えるのはきっと俺が成長したからだろ
貴方はこんなにも細かったんだ....
『 っ、勘違いするなよ....女装癖じゃないからな 』
「 知ってます 」
『 俺は、もう38歳だし....犯罪者だぞ....御前の両親を.... 』
「 知ってます、でもいいんです....全て含めて貴方が好きなんです 」
この6年、色々調べて知っていた
けれど心は揺らぐこともなければ寧ろ強くなっていた
今 出逢って気付いた、俺は貴方が好きなんだとハッキリと言える
血も涙もないと言われていた彼だったが両手で顔を隠し泣いていた
その理由は俺には分からないが、きっと嫌で泣いては無いことは分かる
「 一ノ瀬さん.... 」
『 ..... 』
呼んでも反応しなくなった彼に、小さく口元を上げて頭の上で呼ぶ
「 颯さん、俺を見て 」
『 っ....なんだよ.... 』
振り返った颯さんに俺は腰に腕を回し引き寄せた
目を見開く彼とは違い、薄っすらと開いた瞳を閉じて触れた
『 んっ! 』
「 っ...... 」
柔らかく触れる唇を重ねて、そっと引き離せば静かな声で告げる
「 颯さんが好き....貴方の答えは、イエスしか有りませんよ? 」
『 なんだそれ、狡くないか.... 』
「 今日、来たってことはそうでしょ?今更、逃がしません 」
『 なっ!? 』
6年間、来るのを待ってたんだ
だからもう離したくはないと強く抱き締めていれば最初は照れていた彼だが次第に背中に腕を回した
背を曲げた俺とブーツを履いていても見上げるように抱き締める颯さんが可愛くて仕方ない
『 御前....でかくね? 』
「 190㎝は越えたので....大きいからと患者さんに怖がられます 」
『 そうだろ!デカいって! 』
「 あっちも成長したんですよ 」
『 !? 』
「 試してみます? 」
パクパクと金魚のように口を開く颯さんが、戸惑ってるのが可愛いともう一度強く抱き締めた
鼻につく甘い香りは変わらないと思えば嬉しくなる
『 ば、馬鹿!腹へったんだよ。先に飯だ飯! 』
「 あはは。そうですね。先に御飯食べたらいいんだ? 」
『 黙れ 』
「 俺が大人になったんで、オススメの店。連れていきます。もう、逃げないでくださいね 」
歩き出した颯さんの横に並び勝手に手を掴み取れば、彼は俺を見上げてから何か言いたそうだが握り返してきた
『 いい店ならな 』
「 俺のオススメですから、いい店ですよ 」
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