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君を失いたくないと願ってした行動は
後悔してないよ

そう告げた兄に俺は何も言えなかった

両親が居ない理由、そして兄が過去に触れたがらなかったのも知っている

陽妃さんが兄を好いてるのも、全てその過去があったからそして....失った過去は戻りはしないが俺の心には一つの想いが生まれた 

「 ....それを聞いたら尚更、一ノ瀬さんを待っている。もう、関わらないでとか言わないでくれ.... 」

「 海君がそう思うなら其でいいよ。俺は少しまた旅にでも出ようかな 」

一ノ瀬さんを待つ、その為に俺が出来ることをするべきだと思うんだが立ち上がった兄は簡単に荷物を纏め玄関へと向かった

「 ....罪を背負わないのか?一ノ瀬さんが、警察署にいるのに.... 」

兄の話を聞いて、本人にそう言うのは弟としてどうかしてるが其でも自首して欲しかった

彼の変わりに入れとは言わない
だが、両親を殺めたことには違いないんだ

「 海君、一つ間違ってるよ 」

「 ....何故? 」

振り返った兄は仮面を外した表情で柔らかく笑った

「 颯が折角、俺を逃がすチャンスを与えたのに態々入れば、颯が捕まった意味がない 」

「 どういう....っ、まさか! 」

兄の言葉に理解ができた

今回の事は全て都合が良すぎたんだ
まるでレールを歩いてるように問題が振りかかり、今更一ノ瀬さんが捕まるのもまた可笑しいんだ

「 そう、これは颯が望んで捕まったこと。全ては颯が仕組んだ事なんだよ。だから....俺はそれまで" 仕事 "を続ける。海君は学校を続けるといいよ。それじゃ....元気でね 」

「 っ、兄貴!! 」

あの人が望んで捕まるなんて、正気じゃないだろ
だが、警察署に連れていかれる時に笑っていたのを知っている

何故そんなに余裕なのか分からなかったが、兄の言葉で理解ができた

あの人は、別の犯人を見付けるために態々入ったんだと思うときには兄の姿はもう無かった

「 また、俺だけ除け者にされたのか.... 」

兄は知っていた、だから仕事をするために一ノ瀬さんへとスポットが向けられ
自由になったその身で仕事をしに向かった

全て、一ノ瀬さんが依頼した仕事なんだと察することは簡単だ

「 なんだ。二人は....信頼しあってるのか.... 」

喧嘩したり言い争ったり金銭面でぶつかる中で本当は互いに立場を知って、行動してたんだと思うと無性に居心地が悪くなる

「 俺は....一ノ瀬さんの隣には立てないのだろうか...隣でもなくてもいい。後ろでもその背中を追えればいいんだ.... 」

兄と一ノ瀬さんがどれだけ努力してきたかは俺には分からない
だけど俺にだって出来ることは有るんじゃないかと思った

" 医者になれ "

そう一ノ瀬さんが言ったのにはきっと理由が有るんじゃないか
俺が単純に咄嗟の判断が出来た、って岳じゃない気がする

あの人は賢いことは身をもって知っている
その彼のヒントに今、俺が出来ることをして帰りを待つだけだ

変わらないな、なんて言われるより変わったな、と言われる方が嬉しい

ポケットに入れていたスマホを開き

最新のニュースを見る

一ノ瀬さんの裁判判決は3ヶ月後、そして其が終われば懲役が決まるのだろ

「 数年後でも待つよ。貴方の変わりに養えるぐらいに頑張るから....11月11日、毎年待ってる.... 」

後に懲役が決まった

詐欺罪と殺人未遂の容疑が重なり

懲役2年、執行猶予3年が言い渡された

それなら2年間待てばいいのかと思った俺だが、秘書さんに聞いても陽妃さんに聞いても一ノ瀬さんの姿は何処にもなかった

同時に兄の姿も見当たらない

けれど、和泉夫婦を殺害するまでに関わった人物は別にいると調べがつき
全く知らない者が捕まった

その人は、和泉夫婦に株を唆し金持ちである一ノ瀬さんの父親である新輝さんに繋ぎをつけ、買わせていた人物だった

両親は100万を受け取っても殆ど使わずその者に渡していた事実を知って、俺は安心した

だって、一ノ瀬さんのお金を両親が使ってなかった事が嬉しかったんだ

その捕まったものは、兄に多額の借金を支払わせたとして5億の他に多額の謝罪金も支払うことを命じられた
 
そのお金は俺の銀行へと入ったことで、
ほんの前まで貧乏だった俺達は裕福になった

アパートは引っ越し、ごく普通の家庭ぐらいの借り物件に移動してから俺は医者を目指し、医大へと進学した

陽妃さんは秘書さんである黒澤さんの家で生活してるらしく、看護師を目指し俺とは別の専門学校に行ってるらしい

誰もが目標に向かって道を進み初めた

「 海斗!おはよ! 」

「 おはよ! 」

大輝もまた俺と同じく医者を目指し、共に医大へと通っていた

新学期が始まる4月7日

道路に並んで植えられた桜の木が満開になる頃、俺は目についたビルを見上げた

「 ....社長変わってから静かだよな。株は安定したらしいけど....陽妃のお兄さん何処にいってんだろうな?もう出てるだろうに.... 」

執行猶予が始まってるのを知っている
けれど、誰もその姿を見て無いのなら俺達は何処にいるか分からない

「 ....今は春だし。会う日とは違う 」

「 えっ? 」

「 いや、こっちの話さ 」

白いソメイヨシノの花弁は何処か雪のように降っていく

暖かい陽の陽気は分厚いコートが必要ないぐらいに誰もが薄着になっていく

こういう季節は違うんだと思う俺は、ビルから視線を外し歩こうとすれば足を止めた

「 海斗? 」

「 ....!! 」

通り過ぎる車の音、行き交う人の足音
けれど耳に届くブーツの音に過ぎ行く人の中で振り返った

すれ違った気がすると思ったんだ

「 ......颯さん....? 」

通行人の背を見詰める俺は、咄嗟に走り出した

俺の名前を呼ぶ大輝の声など聞こえなくなるほど追いかけるように走す

「 っ、颯さん!! 」

点滅する信号
歩き進める通行人の一人の袖へと手を伸ばした

「 っ.... 」

けれどそれは、まるで雲を掴むようにすっと消えた

「 まだ、会えないんですね.... 」

見間違いには思えないが、それでも会えないのなら我慢をするしかない

「 今年も待っています.... 」

貴方を待ち続ける

その為に俺は此処にいるんです




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