45 / 193
07
しおりを挟む乱れたスーツを整えネクタイを締め直す俺の元に一通のメールが届いた
『 誰だ? 』
知らないメアドに疑問を抱き、置いていたスマホを取りスーツの上着を着ながら開く
誘惑メールかと思っていたが、その内容と送り主が分かり驚く
「 社長、御時間ですよ 」
『 あ、あぁ....直ぐに行く 』
メールを内容を読んだ程度で返事を書く暇など無く、其にて直ぐに返事を返せる程に俺の気持ちの整理もついてないことに今は見て見ぬフリをした
スマホをポケットに突っ込み、同じく服を整えた黒澤君が腕時計を見て告げた言葉に頷き仕事へと戻る
「 そういえば、拓海さんと会ったようですが....どうでした? 」
『 いつものように金を求めてきたよ。でもまぁ....彼奴の借金は返済終了したんだから....此で父親も文句は言わないだろ 』
「 おや、終えたんですね。返せる額とは到底思いませんでしたが.... 」
『 残りは俺が、父に返すさ.... 』
一ノ瀬 新輝
俺の父親であり、拓海の両親が金を借りた張本人
けれどその人の会社は今は俺が受け継いでるのだから、借金返済してもらう側も父ではなく俺の名義になっていた
それは拓海も知ってるからこそ、終わったと言えばこの件は無かったことになるだろ
父の面倒事を全て押し付けられた俺は赤字経営から建て直したのだから褒めて欲しいぐらいだ
「 では、この件は終わりですね? 」
『 あぁ....会社にも関係無い金だから俺の通帳が泣くだけな 』
「 ふふっ、借金背負うからですよ。優しすぎますね 」
『 その逆さ.... 』
「 何故です? 」
そう、その逆なんだ
俺は優しくなんてない
『 血も涙もない、人間さ 』
「 おや、あんなに啼いてたのに? 」
『 っ、口を慎め 』
「 これはこれは失礼しました 」
先程の事を思い出した俺は一瞬耳を染めるが、そんなことは関係無い
移動中になんて話をしてんだと思う黒澤君だが、現に泣いていた
何故泣いてたか、なんて分かるが分かろうとしない思考は、現実から目を逸らしている
「 ですが、貴方は優しすぎます。だから12年も待ったのでしょ?本当なら彼の弟は.... 」
『 優しさは時に人を傷付ける。俺の気遣いも今となっては只のお節介さ 』
「 ....人は素直な生き物ではないですからね 」
誰かを憎んでいきていくのが人間なのならば、俺の憎むべき相手は自らの父親の筈だが余り憎んでもなかった
只、自分に与えられた仕事だからとやっていた事に感情はない
それに比べて拓海は家族の事を恨み、それを俺に向けて涙を流した
どちらが人間らしいと言うならきっと
誰かを思って涙を流す拓海や海斗なのだろうな
『 だから俺は血も涙もないと言われるのか....納得だな 』
「 ふふっ、悪魔ってことですか? 」
『 そーだな 』
「 では、俺は悪魔の使い魔ですね 」
『 御前も相当、冷めてるからなぁ....誰に似たんだか 』
冗談混じりに告げた俺に浅く笑って口元に笑みを描く黒澤君へと目を向け、エレベーターに乗り込み扉が閉まれば彼は行く先のボタンを押した後、顔を近づけてきた
「 逆ですよ。貴方が俺に似たのです....拾って差し上げたので、可愛いペット感覚です 」
『 はっ、質が悪い.... 』
「 ペットの世話をするなんて飼い主からの愛情ですよ、愛情。ですから....貴方も俺を見習って、拾ったペットの世話はしましょうね 」
拾ったペットって、そんな奴いたか?と考えるが思い当たる点がある事に溜め息は漏れる
そうか、借金が終わったのなら彼奴等に着けた首輪も外すか別の仕事をやるしかないのか....
『 また金がかかる 』
「 それだけじゃないでしょうに 」
『 えっ? 』
彼奴等以外にもペットが居たかと考えて、思い付かないことに顔を上げれば、黒澤君は到着したエレベーターの扉が開けば手で僅に押さえ、俺が出た後に手を離し歩きながら態とらしく答えた
「 彼はどうするんですか?生半可に仔犬に手を出したら可哀想でしょ? 」
『 ....知るかよ 』
「 ふふっ、貴方は優しいからきっと放置は出来ませんよ 」
全て知ったように告げる黒澤君から目線を外す
仔犬なわけあるか、あんな図体でかい仔犬がいたなら成犬になったときが恐ろしい
" 一ノ瀬さん....可愛い.... "
『 !!あり得ねぇ。つーか、もう会う事もないからな! 』
「 おやおや、ムキになって 」
一瞬頭に浮かんだ姿は成犬通り越して狼だった
だが、もう会うことも無いのだから関係無いと思考を仕事へとやる
そう、もう会うことはないんだ....
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる