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しおりを挟む乱れたスーツを整えネクタイを締め直す俺の元に一通のメールが届いた
『 誰だ? 』
知らないメアドに疑問を抱き、置いていたスマホを取りスーツの上着を着ながら開く
誘惑メールかと思っていたが、その内容と送り主が分かり驚く
「 社長、御時間ですよ 」
『 あ、あぁ....直ぐに行く 』
メールを内容を読んだ程度で返事を書く暇など無く、其にて直ぐに返事を返せる程に俺の気持ちの整理もついてないことに今は見て見ぬフリをした
スマホをポケットに突っ込み、同じく服を整えた黒澤君が腕時計を見て告げた言葉に頷き仕事へと戻る
「 そういえば、拓海さんと会ったようですが....どうでした? 」
『 いつものように金を求めてきたよ。でもまぁ....彼奴の借金は返済終了したんだから....此で父親も文句は言わないだろ 』
「 おや、終えたんですね。返せる額とは到底思いませんでしたが.... 」
『 残りは俺が、父に返すさ.... 』
一ノ瀬 新輝
俺の父親であり、拓海の両親が金を借りた張本人
けれどその人の会社は今は俺が受け継いでるのだから、借金返済してもらう側も父ではなく俺の名義になっていた
それは拓海も知ってるからこそ、終わったと言えばこの件は無かったことになるだろ
父の面倒事を全て押し付けられた俺は赤字経営から建て直したのだから褒めて欲しいぐらいだ
「 では、この件は終わりですね? 」
『 あぁ....会社にも関係無い金だから俺の通帳が泣くだけな 』
「 ふふっ、借金背負うからですよ。優しすぎますね 」
『 その逆さ.... 』
「 何故です? 」
そう、その逆なんだ
俺は優しくなんてない
『 血も涙もない、人間さ 』
「 おや、あんなに啼いてたのに? 」
『 っ、口を慎め 』
「 これはこれは失礼しました 」
先程の事を思い出した俺は一瞬耳を染めるが、そんなことは関係無い
移動中になんて話をしてんだと思う黒澤君だが、現に泣いていた
何故泣いてたか、なんて分かるが分かろうとしない思考は、現実から目を逸らしている
「 ですが、貴方は優しすぎます。だから12年も待ったのでしょ?本当なら彼の弟は.... 」
『 優しさは時に人を傷付ける。俺の気遣いも今となっては只のお節介さ 』
「 ....人は素直な生き物ではないですからね 」
誰かを憎んでいきていくのが人間なのならば、俺の憎むべき相手は自らの父親の筈だが余り憎んでもなかった
只、自分に与えられた仕事だからとやっていた事に感情はない
それに比べて拓海は家族の事を恨み、それを俺に向けて涙を流した
どちらが人間らしいと言うならきっと
誰かを思って涙を流す拓海や海斗なのだろうな
『 だから俺は血も涙もないと言われるのか....納得だな 』
「 ふふっ、悪魔ってことですか? 」
『 そーだな 』
「 では、俺は悪魔の使い魔ですね 」
『 御前も相当、冷めてるからなぁ....誰に似たんだか 』
冗談混じりに告げた俺に浅く笑って口元に笑みを描く黒澤君へと目を向け、エレベーターに乗り込み扉が閉まれば彼は行く先のボタンを押した後、顔を近づけてきた
「 逆ですよ。貴方が俺に似たのです....拾って差し上げたので、可愛いペット感覚です 」
『 はっ、質が悪い.... 』
「 ペットの世話をするなんて飼い主からの愛情ですよ、愛情。ですから....貴方も俺を見習って、拾ったペットの世話はしましょうね 」
拾ったペットって、そんな奴いたか?と考えるが思い当たる点がある事に溜め息は漏れる
そうか、借金が終わったのなら彼奴等に着けた首輪も外すか別の仕事をやるしかないのか....
『 また金がかかる 』
「 それだけじゃないでしょうに 」
『 えっ? 』
彼奴等以外にもペットが居たかと考えて、思い付かないことに顔を上げれば、黒澤君は到着したエレベーターの扉が開けば手で僅に押さえ、俺が出た後に手を離し歩きながら態とらしく答えた
「 彼はどうするんですか?生半可に仔犬に手を出したら可哀想でしょ? 」
『 ....知るかよ 』
「 ふふっ、貴方は優しいからきっと放置は出来ませんよ 」
全て知ったように告げる黒澤君から目線を外す
仔犬なわけあるか、あんな図体でかい仔犬がいたなら成犬になったときが恐ろしい
" 一ノ瀬さん....可愛い.... "
『 !!あり得ねぇ。つーか、もう会う事もないからな! 』
「 おやおや、ムキになって 」
一瞬頭に浮かんだ姿は成犬通り越して狼だった
だが、もう会うことも無いのだから関係無いと思考を仕事へとやる
そう、もう会うことはないんだ....
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