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しおりを挟む伸ばした手はそのまま拓海の喉を掴み壁へと押し付けていた
息が詰まるように眉を寄せるこいつの口元は笑っている
『 好きにすりゃいいだろ。だが、テメェが借金返せねぇなら殺すぞ 』
「 ゴホッ、やだな....社長の素、怖いなぁ.... 」
『 ふざけんな 』
「 っ!! 」
掴んだ手に力を込めれば眉を寄せる拓海の両手が俺の手首を掴むが力はない
振りほどく程の力はこいつにはないのを知っている
揺すりをかけるなら俺だって黙って金を渡すことは出来ねぇ
それも俺から借りたお金を俺から奪った金で返すなんて理解できねぇことをしてんなら、海斗の兄だろうが容赦はしない
『 売りたければ売りゃいい。だがな、そんな情報掻き消せるぐらいにはこの会社もでかくなってんだよ。こそこそ嗅ぎ回るドブネズミ一匹駆除する位、容易いんだよ 』
俺が直接手を下してなかったとしてもあの二人が借金から逃げるために死んだことは許されない
残った拓海の弟はなにも知らず両手がいないことに疑問を持ったまま、借金背負って生きてきた
俺も一人の妹を持ってるからこそ、こいつの正々堂々と働かずこそこそ嗅いでは金を返してくる手口が気に入らなかった
『 海斗がどれだけ頑張ってバイトしてるかしってんのか!御前はそれでも兄か?....残飯ばっか食ってんじゃねぇよ 』
「 っ....ドブネズミ、一匹は対したことかも....知れないけど....数匹いれば、猫だって殺せる.... 」
左右を見れば拓海と同じ仕事をしてるだろう奴等の片手にはカメラを持っていた
ドブネズミは猫をも襲うか、本当に性格が悪いと密かに笑ってから手を離す
「 ゴホッ、ゴホッ!! 」
「「 拓海さん! 」」
『 ....金が欲しければくれてやる。だがな、今後一切俺と陽妃に関わるな。テメェの親が残した借金は今日で返済終了とする。さっさと下水に帰れ 』
2億が欲しいんだろうが、それは返済額として渡すことない
その代わりに残った借金全て無くなったのなら十分だろ
座り込んで咳をする拓海へと駆け寄るドブネズミを他所に歩き出した俺に、彼は告げた
「 もう....海斗と、関わらないでね!君は、俺達の両親を殺したんだ....!人殺しの偽善者!! 」
投げ付ける言葉はまさに俺にあってると思う
振り返り見下げた俺の口角は吊り上がり笑っていた
『 だからなんだ?あんな餓鬼、こっちから御免だ 』
「 っ....、本当に....血も涙もない.... 」
拓海の弟と知ったからには会えるわけがない
会ったところで向こうも俺を嫌って拓海のように毛嫌いのは目に見えている
それなのになんで、こんなにも胸が痛いのか分からない
ビルへと戻り、エレベーターの中でサイトを開き一通だけ海斗へと送った
『 俺達は、価値観が合わないからもう会うのは止めよう.... 』
さようならと告げてからブロックのボタンを押した
向こうがどんな返事をしてくるかは分からない
それでも、もう会うことはしない方がいいのだろ
『 血も涙もないか.... 』
いつから感情的な涙を流す事をしなくなっただろうか
きっと、20歳になる頃にはもう泣いては無かったと思う
それまでは海斗のように泣いて笑って過ごしていたと思うのだが、高校生の頃の記憶なんてぼんりとしていた
「 社長、拓海さんとまた喧嘩したのですか? 」
『 ....鴉史、少し俺を慰めてくれ.... 』
海斗を送ってから戻ってきたのだろ、社長室にある机へと歩いてくる黒澤くんに椅子から立ち近付けば、手を引きそのままソファーへと座らせ肩へと額を当てる
「 俺はいつから慰めるペットになったんですか?....なんて、好きなだけ慰めてあげます 」
『 ....すまん、鴉史 』
俺が小さい頃から両親もいなかった
海外にいると言うが、帰ってくるのは数回だけ
それなのに男の俺を母親が可愛がれば父親が嫉妬し暴力を向け、父親がたまに優しくなれば母親が嫉妬に狂っていた
それだけ二人は自分達以外を嫌ってた為に俺は甘えると言うことを知らなかった
そのまま成長し、グレていた俺をモデルの世界へと招いたのが黒澤君だ
" 君は顔とスタイルがいい。俺がお金を稼がしてやろう "
" 興味ねぇ、ぶっ殺すぞ "
" 口の悪さも躾ないといけませんね。寂しかったのでしょ?甘えていいんですよ "
俺に色々と教えてくれたのは黒澤君だ
そして、寂しいときやモデルの仕事が上手くいかない時も傍にいて支えてくれたのは彼だ
「 颯....折角可愛がっているのに泣かれたら気分が削ぎれますよ? 」
『 はっ、っ....すまない.... 』
「 まぁいいですよ、快楽で啼きなさい 」
『 !! 』
海斗に会えないと思う寂しさを紛らわせる為に、慰められる俺はまるで子供だ
大人を気取っても其れが出来なくて泣いてしまう
この歳になっても大人になりきれてない
俺は海斗に言える立場じゃない
大人とはなんだ
子供とはなんだ
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