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しおりを挟む俺が緊張してるから気に入らなかったのか、
それとも無駄に気取ったような店にしたのが嫌なのかどちらにせよ、
紅桜から離れた一ノ瀬さんに手を引かれるまま靴も半分履いた程度のまま引かれていた俺は、彼の手を振り払った
「 待って下さい! 」
『 ...... 』
少し冷めたように此方を見ることなく息を吐く、一ノ瀬さんに、俺は靴を履き直し呼吸を整え、向き合った
「 ....高校生があんな店に連れていったのが気に入らなかったんですか?俺は喜んで欲しくて.... 」
高校生、それは知っているけれど肉が好きなのかと喜んでくれるかと選んだ店
確かに値段も高いがけして払えない金額ではないことはバイトしてたのだから知っている
味もいいと好評の店だからこそ、貴方に食べて欲しかったと思う俺は鼻先は痛みうっすらと涙は浮かんだ
身体はデカいくせして、無駄にメンタルが弱いから嫌になる
バスケしてる時はチームのフォローや声でなんとか立て直すも自分のミスが目立ったときはよく落ち込んでいる
けれど今は、其れ以上に息苦しいほどに辛いと思う
『 あぁ、御前には似合わない店だな 』
「 !!そんなの、分かってますよ 」
『 高校生が大人を気取って、背伸びをしたところで餓鬼なんだよ 』
「 っ!! 」
そんなの分かっている
だからってそこまで言う必要は無いんじゃないかと拳を握り否定した
「 俺は確かに餓鬼だけど、美味しいと言ってくれたら其れだけでいいんです!大人を気取ってもいいじゃないですか! 」
貴方は確かにお金持ちだ
あんな店は幾らでも知ってるだろ
値段なんて気にしたこともないだろ
けれど俺は違う
持ってる範囲の中でどれだけ相手を喜ばせる事を考えてる時間は、緊張もするし楽しみでもあった
それを全面否定されたようで辛い
『 そうやってムキになるところが餓鬼なんだ。相手に合わせようと必死で自ら首を吊ってどうすんだ 』
「 っ....貴方はお金持ちだからその辺の味なんて好きじゃないくせに! 」
『 !! 』
お金持ちがどれだけ羨ましいと思ったか
いいものを食って金には不自由しなくて、生活して
借金取りに追われたことや暴力を向けられたことも無いだろ
予約を取るだけでも大変な店を簡単に去るほど、後の事を考えなくて済む貴方に俺はどうやって満足させてあげれるのか分からない
『 っ...... 』
気付いた時には情けなく泣いていた
頬に流れる涙に、男らしくもない事に息は詰まる
なんで俺はこんなにも情けないんだ
かっこよくも無ければ失敗ばかり
格好いい、クールなんて言われるのはクラスメートの子達だけで実際はとても情けないんだと知っている
『 帰ります....今日はスミマセンでした 』
気取って背伸びをしたことを否定され
怒鳴って泣いて困らせて、隣に立つだけで烏滸がましいのにまだ此所にいようとしてる俺自身がいる
逃げるように頭を下げた俺は背を向け走り出す
リクさんにメールすることも出来ないほどのヘタレな俺が、同姓の相手すら満足できないなら年上なんて最初から止めてしまえばいいんだ
「 サイトなんてするんじゃなかった.... 」
大通りへと出れば信号が赤を見て、立ち止まった俺は涙を拭き鼻を啜る
兄のようにいつもポジティブになりたいと思う
だが、其れができない俺はもう二人に連絡することも出来ないだろ
高校生が大学生になりきるなんて最初から無理だったんだ
『 くそっ、話を聞け!!餓鬼!!! 』
「 !!?ぐはっ!!! 」
走ってくる音と共に振り返ること無く背中に当たる衝撃にそのまま前のめりで倒れた
ずさっと僅かに擦った俺はなにがなんだか分からないまま、両手を地面についたまま振り返れば其処には息を切らした一ノ瀬さんが立っていた
『 いい逃げすんな!金持ちとか関係ねぇ。昼休みなら油まみれのラーメン屋にでも、サラリーマンだらけの牛丼も、300円のうどん屋にでも行くわ!勘違いすんな、金があるからって毎日高級な店に来るわけ無いだろ!! 』
それをいいに態々走ってきたのか?
背中を蹴られた事よりも、俺が言ったことを全て否定しようとして焦ってる一ノ瀬さんに驚いた
『 大人を気取って緊張してるのが気に入らないんだよ!夜ならカラオケでも、その辺のハンバーガーでもいいだろ!態々頑張るな!俺の前では、頑張るなよ! 』
デートを誘ってハンバーガーを食いに行くなんて、それこそ色気もなにもなくて只の友達になってしまう
けれどきっと其れがいいんだと思うのは早かった
「 頑張るな....か、 」
『 なんだよ 』
地面から手を離し、その場で座り込んだ俺は肩を揺らして笑っていた
「 かっこ付けるのも駄目ですか? 」
『 駄目に決まってんだろ! 』
「 手厳しいなぁ、一ノ瀬さんは 」
気になる相手に格好つけたいと思うのは男の性なのに、其れすらダメだと言われたならもう情けないままになってしまう
笑ってた筈なのに泣きそうな俺に、目の前にやって来た彼は俺の髪をくしゃりと撫で前髪を上げた
自然と顔が上がる俺は目を見開く
『 この歳になるとな。背伸びをされるより若さをアピールしたような元気さの方が好きなんだよ。海斗はそのままでも十分格好いいよ 』
優しげに笑みを向ける表情がリクさんと一瞬被った
何故、何度も被るんだと思うが其れよりも彼の言った言葉に負けたと思う
この人には敵わないや....
「 負けました。素直に高校生の遊びに付き合ってください。でも、ハンバーガーは嫌ですよ? 」
『 ふはっ、構わんよ 』
狡い人、綺麗で可愛らしいのに大人っぽくて格好いい
そんな貴方が益々気になる俺は身分の差をちゃんと理解してないのだろ
『 取り敢えず、カラオケ行くかー 』
貴方に触れたいと思うのは何故なんだろ
伸ばせば触れる背中に、背伸びをしても届かない筈なのに....
『 海斗?っ.... 』
俺は都合よく" 子供 "へと戻った
「 大人の遊びを、教えて下さい.... 」
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