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しおりを挟む歩いてきた足音で自然と顔を上げれば、
僅かに息を切らした一ノ瀬さんがいたことに驚くも、何故か一瞬女性のリクさんと重なったことに自分でも目を疑った
何故、あの人を思い出すのかは分からないが、抱き締められたと同時に香る匂いはリクさんが使ってる香水と恐らく同じものだった
そして、離れた後に此方を見上げてきた雰囲気も何処か似ていた
抱き締められた事に驚いたのではなく、余りにもリクさんと似てるからそっちに思考は取られた
同じ香水、同じ身長、そして同じ癖を知ればまさか?と思うのは時間の問題だった
「 あ、タクシー使いますか? 」
歩きながら疲れてるだろうかとタクシーを呼ぼうとした俺に、一ノ瀬さんは此方を向き小さく笑うなり何事もなく歩き出した
まるで歩く方が好きなような態度も彼女と似ているんだ
「( 似てる人はいるしな.... )あ、の.... 」
『 ん?なんだ? 』
焼肉屋では客と店員だったが、メッセージ中では其なりに距離は縮まってると思う
一ノ瀬さんも最初に抱き着いてくる程には、俺に気を許してくれてるんじゃないかと思い、歩きながら問い掛けた
「 えっと....年下なんですよ、俺 」
『 大学生だったな? 』
「 違うんです 」
『 ん? 』
嘘は一つ一つ、壊していかないといけない
其れは俺が何度も考えても、嫌われてもいいって思ったからこそ伝えたいと思う
数歩先に進んだ一ノ瀬さんは振り返り、俺の言葉を待った
振り絞る言葉は余りにも小さく、か弱かった
「 俺、高校生なんです....それも、一ノ瀬 陽妃さんと同じクラスなんです.... 」
自分の妹と同じクラスメートの男子と会うなんてどんな気持ちだろうか
面倒じゃないか、嫌ではないか
その事をぐるぐると考えていれば顔を上げれず俯いたままの俺に、一ノ瀬さんは歩き出した
『 そうなんだな。妹が御世話になってるな 』
「 えっ? 」
『 和泉 海斗だろ?妹が賢いって話してたのを聞いたことある。修学旅行の写真とかで見たことあったよ 』
「 えっ、じゃ....嫌じゃないですか? 」
本名まで知ってくれていたことは驚きだが、確かに一年生から陽妃さんと一緒のクラスなら何度も写真は撮られているだろ
納得するが、それでも高校生と此れから食事するのは嫌じゃないのかと思えば彼は振り返り綺麗な顔でにこやかに笑った
『 嫌なわけないだろ?すれ違った時点で会うのは必然なんだ。その為のアプリだろ?俺はこの出会いを、嫌だと思わねぇよ 』
「 !! 」
兄のような人だと思った
そして同時に不安だった胸はすっと晴れて、泣きそうな程に嬉しくて少し走って横へと行く
「 俺も出会いが嬉しいです。高校生のオススメの店なんて体したこと無いですが、リクさんにメールするために付き合ってください 」
『 ....えっ、待ってくれ 』
「 なんですか? 」
俺はなにか間違いな事を言っただろうかと思って、傾げればふっと自分の発言を思い出し僅かに目を見開いた
そう、俺は....ハッキリと一ノ瀬さんと食べに行くことが、リクという女性へとメッセージ送る為に....なんて思うが
あれ?女性にメッセージ送る為に、オススメの食事を判断して欲しいから付き合って欲しい!と言った筈なのにそれを忘れたのかと思ったが、一ノ瀬さんが反応したのはそこではなかった
『 メールを送りたかったのはリクという女性なのか? 』
「 えっ?あ、はい。サイトで知り合って一度会ったんですが....もう一度連絡したくて悩んでたところに一ノ瀬さんが現れて、相談にのって貰ったんですよ 」
もう、隠し事はよそうと思った俺はちゃんと経緯も伝えれば何処か悩んだ様子の一ノ瀬さんは額に手を当て深く息を吐いた
『 今日、行く場所を止めよう。俺のオススメの店で晩飯奢ってやる 』
「 えっ、何でですか?俺のオススメの店を検証してくれるんじゃ 」
『 好きな相手と行く店を、先に行ったら楽しみがなくなるだろ 』
「 好きな相手って.... 」
一ノ瀬さん、なにか間違ってないか?と立ち止まったまま傾げる俺に、はっと顔を上げた彼は一人動揺したように目線を泳がせる
『 御前の好きな相手な!前に男と来たなんて、デート中に思いたくはないだろ 』
「 ....あ、なるほど。別に思っても嫌じゃ無いですよ?俺はほら....一ノ瀬さんにも食べて欲しいので 」
そこまで必死になって俺の恋?を応援してくれてるような一ノ瀬さんが可愛いなと思った
確かにリクさんとも行くけれど、その前に貴方にも食べて欲しいと思う俺の穴場なんだから、と気持ち悪いほどの笑顔の俺に彼はそっぽを向ける
『 知らんぞ、男と食ったなんて考えて萎えても 』
「 平気ですから、行きましょ 」
そんなの気にしないと歩き出した俺に、ぶつぶつと文句を言ってるような一ノ瀬さんが子供っぽくて可愛いと思う
部下を連れた上司は、本当は可愛い人ならきっと部下も嫌ではないだろうなって思う
「( 医者を目指してたけど、一ノ瀬さんの勤めてる会社に行くのもいいな.... )」
なんとなくそう思いながら、
店へと向かった
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