すれ違った相手と恋に落ちました

03

「 社長、早速ですがイギリスの防衛省からお客様が来てます 」

『 あぁ、分かった 』

ビルの前に車を止め、正面から入るのはいつものことで
秘書は車を運転手に預けてからスケジュールの書かれたメモ帳片手に今日の予定を話す

分刻みに告げられる内容を聞いてるだけで疲れてくる
こんなことなら妹の参観日や文化祭にでも行きたいのだがそんな余裕は俺にはない
なんて社会人は詰まらないんだと考え、エレベーターを上がり予定の階へと止まり中へと行く

「 これはこれは、一ノ瀬さん。御待ちしてました 」

『 遅れて申し訳御座いません。早速、お話をしましょうか 』

「 えぇ、勿論ですとも 」

朝から来てしまってすみません、なんて社交辞令は聞きたくない
朝から、だと思うなら近くのホテルにでも泊まってゆっくり来ればいいだろうと
思いながら握手を交わし簡単な談話室に座りお互いの秘書を横に話をする

「 一ノ瀬さんは医療の方にも力をいれてるらしいですね 」

『 えぇ、貧困な国へ。医療器具含め経験を積みたい医者の卵も派遣してますね。貿易と言っても殆ど医療なので 』

「 それはそれは！では話が早い。我がイギリスでは.... 」 

国を繋ぐのは金ではなく技術

それも医者の腕を買いたい貧困の国は多い為に、彼等の場所に日本だと詰まらないと、もっと経験が欲しい医者を集めてはアジアを始めた世界各国へと向かわせていた

そこで3年ほど過ごしてから、日本で働くか現地に住むかは、その人次第だが大半は医療が揃ってる日本に戻ってくるものは多い

其ほど向こうは辛いらしいが、送る程度の俺にはそんな辛さは知らない

何度か足を運んだ事はあるが全て社会科見学のようにちやほやされるだけで、働いてる者の気持ちなど分かるはずもない

俺がするのはあくまでも両国を繋ぐ橋だ

『 では、今度はイギリスへと送りましょう。内戦がない国の派遣となると喜ぶ者も多いでしょうからな 』

「 内戦は無くともテロはありますよ。なんて、こっちも技術の持った医者不足なので教えてくれる先生が欲しいだけですよ 」

『 先生ならアメリカとか最先端ですがね 』

ははっと、笑い合う内容はとても軽いもの 
人を道具のようにしか扱わない上層部の考えなどこんなもので、俺は社長として金がある者としてこんな生活は好きではない

「 では、話が纏まったので楽しみにしてますよ 」 

『 えぇ、此方もいい契約が出来て嬉しいですよ 』

日本で人身売買がない？馬鹿を言え
派遣してる者はその人身売買と同じ様なもの
依頼をしてきた国から多額の金を貰い、それに見合った人物を送るだけ 

俺の仕事は、まるで庶民から金を巻き上げる借金取りのようで気に入らない

うわべだけの握手を交わし、その場を離れれば次の仕事に向かいながら秘書へと口を溢すのはいつものことだ

『 はぁ、俺がその内全部投げ捨て、駆け落ちでもしたら許してな。妹と駆け落ちしよ 』

「 妹様はお金持ちになりたいのでは？ 」

『 ....そうだ。妹は金持ちになりたかったんだ、その為に医者の旦那を見付けるのを目指してるんだっけか.... 』

妹は玉の輿になるとかで、高校は其なりにいい場所に入学している

運よく、妹は頭が其なりにいい為に上位じゃなくても中間を維持してるらしい

卒業出来る程度の維持をし続ける妹の金への執着心は兄である俺も感心できる 

俺は金なんて興味はない、金があっても俺達の両親を見てると嫌になる

「 えぇ、そうだと聞きましたよ 」

『 下らねぇな。俺は貧乏になりたいよ 』
 
妹の為に働く、それがいつしか父の為に働いてる気がしてならないのが気に入らない

いっそのこと、一文無しでもなったら少しは考えが変わりそうだな....