ヤクザ娘の生き方

翠華

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別人(小日向 光視点)

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「おい」


急に空気が変わる。


「なっ!?」


「てめぇいつの間に縄解きやがった!?」


二人が目を奪われている隙に破かれた制服を着直す。


「お前ら、何してる?」


「ああ?何言ってんだこいつ?」


「てめぇのお友達と楽しい事しようとしてたんだろうが。邪魔すんじゃねぇよ」


「………」


「ったく、大人しくしときゃいいのに」


"その人"は私の方を見る。


いつもと全然雰囲気が違う。まるで別人だ。"その人"を見ていて思う事はただ一つ。冷たい。とても冷めた目をしている。何も感情を感じない。


「だ、れ…?」


思わず口にしてしまった。


それでも"その人"は何も言わず、無表情で私の傍まで来てしゃがむ。


「どうして欲しい?」


そう聞かれ、少し戸惑った。


何か言えば、どんなに難しい事でも確実にそれを成し遂げてしまう。そう直感した。


「こ…ここから逃げ出したい。家に帰りたい」


「…分かった」


"その人"は一言そう言った。


「はぁ?逃がすわけねぇだろ。黒薔薇組の奴が来るまでここに居てもらうぜ」


「そうそう。俺らの為にお前は犠牲になるんだ」


「………」


"その人"は黙ったまま何も言わない。


「何とか言えや!調子乗りやがって!」


「舐めんのも大概にしとけや!」


弥彦さんが"その人"の胸倉を掴んだ瞬間、


「ぐはっ!」


「うぁっ!」


小さな悲鳴と共に二人は床に倒れ込む。


一瞬だった。


速すぎて何が起きたのかよく分からなかった。


「あ、の…」


「立てるか?」


縄を解いて手を差し伸べてくれる。


「は、はい…」


「君達どこ行くの?」


声の方を向くと、そこには男達が数人。


「どっちがそうなの?」


「…え」


「どっちが桜組の娘?」


どうしよう。きっとこの人達、さっき言ってた黒薔薇組の人達だ。


「どっちでもいいだろ。どっちも連れてって違う方は人身売買すればいい」


「そうだな」


やだ、どうしよう。私達売られちゃうの?どうにかして逃げ出さないと…


"その人"に目を向けると、表情は変わらず、落ち着いている。


「じゃ、そういう事なんで俺らに着いてきてくれる?」


「俺らもあまり手荒な事はしたくないんだよね」


足が動かない。動かしたくない。このまま着いて行ったら確実にもう二度と母に会えなくなってしまう。まだ何も返せてないのに。


「………」


「ほら、さっさとこっち来いって」


「俺らの手を煩わせる気?」


「そ、れは…」


足が震えて動かない。すると、"その人"は耳元で、


「これを付けておけ」


そう言うと、布で目隠しをされ、イヤホンを付けられる。


イヤホンからは音楽が大音量で流れていてそれ以外の音は何も聞こえない。視界は布で塞がれて何も見えない。


視覚と聴覚を奪われた気分だ。


でもそうしていると、少しずつ冷静になってくる。


それからしばらくじっとしているとイヤホンが外され、


「俺に捕まれ」


耳元で聞き慣れない"その人"の声がする。


抱きつくようにしがみつくと、体が宙に浮いたような感覚と同時に、下から強い風が吹き上げてくる。



「わっ!」


ざっと足が着いた音がして、体が優しく地面に置かれる。


目隠ししていた布が外れ、暗闇に目が慣れると、やはりそこは廃校になった学校だった。


だがそこは教室ではなく、校舎だった。


「…花子ちゃん?」


花子ちゃんの姿が見当たらない。


「どこ?花子ちゃん!花子ちゃん!きゃっ!」


何かに足が当たってつまずく。


「花子ちゃん!」


それは花子ちゃんだった。


いくら呼んでも返事はない。心配になって呼吸しているか確認する。


「良かった…生きてる…」


でもどうしよう。私一人じゃ花子ちゃんを運べないし、助けを呼びに行きたいけど花子ちゃんを一人にしたくない。まだここが安全と決まったわけでもないし。


それにしても、あの黒薔薇組?の人達はどうしたんだろう。誰も追いかけてこない。帰ったのかな?でも、そんなに簡単に帰ってくれそうでもなかったけど…


あれこれ考えている間にもどんどん時間は過ぎ、


気のせいだろうか。遠くなる意識の中、人影を見たような気がした。
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