35 / 80
別人(小日向 光視点)
しおりを挟む
「おい」
急に空気が変わる。
「なっ!?」
「てめぇいつの間に縄解きやがった!?」
二人が目を奪われている隙に破かれた制服を着直す。
「お前ら、何してる?」
「ああ?何言ってんだこいつ?」
「てめぇのお友達と楽しい事しようとしてたんだろうが。邪魔すんじゃねぇよ」
「………」
「ったく、大人しくしときゃいいのに」
"その人"は私の方を見る。
いつもと全然雰囲気が違う。まるで別人だ。"その人"を見ていて思う事はただ一つ。冷たい。とても冷めた目をしている。何も感情を感じない。
「だ、れ…?」
思わず口にしてしまった。
それでも"その人"は何も言わず、無表情で私の傍まで来てしゃがむ。
「どうして欲しい?」
そう聞かれ、少し戸惑った。
何か言えば、どんなに難しい事でも確実にそれを成し遂げてしまう。そう直感した。
「こ…ここから逃げ出したい。家に帰りたい」
「…分かった」
"その人"は一言そう言った。
「はぁ?逃がすわけねぇだろ。黒薔薇組の奴が来るまでここに居てもらうぜ」
「そうそう。俺らの為にお前は犠牲になるんだ」
「………」
"その人"は黙ったまま何も言わない。
「何とか言えや!調子乗りやがって!」
「舐めんのも大概にしとけや!」
弥彦さんが"その人"の胸倉を掴んだ瞬間、
「ぐはっ!」
「うぁっ!」
小さな悲鳴と共に二人は床に倒れ込む。
一瞬だった。
速すぎて何が起きたのかよく分からなかった。
「あ、の…」
「立てるか?」
縄を解いて手を差し伸べてくれる。
「は、はい…」
「君達どこ行くの?」
声の方を向くと、そこには男達が数人。
「どっちがそうなの?」
「…え」
「どっちが桜組の娘?」
どうしよう。きっとこの人達、さっき言ってた黒薔薇組の人達だ。
「どっちでもいいだろ。どっちも連れてって違う方は人身売買すればいい」
「そうだな」
やだ、どうしよう。私達売られちゃうの?どうにかして逃げ出さないと…
"その人"に目を向けると、表情は変わらず、落ち着いている。
「じゃ、そういう事なんで俺らに着いてきてくれる?」
「俺らもあまり手荒な事はしたくないんだよね」
足が動かない。動かしたくない。このまま着いて行ったら確実にもう二度と母に会えなくなってしまう。まだ何も返せてないのに。
「………」
「ほら、さっさとこっち来いって」
「俺らの手を煩わせる気?」
「そ、れは…」
足が震えて動かない。すると、"その人"は耳元で、
「これを付けておけ」
そう言うと、布で目隠しをされ、イヤホンを付けられる。
イヤホンからは音楽が大音量で流れていてそれ以外の音は何も聞こえない。視界は布で塞がれて何も見えない。
視覚と聴覚を奪われた気分だ。
でもそうしていると、少しずつ冷静になってくる。
それからしばらくじっとしているとイヤホンが外され、
「俺に捕まれ」
耳元で聞き慣れない"その人"の声がする。
抱きつくようにしがみつくと、体が宙に浮いたような感覚と同時に、下から強い風が吹き上げてくる。
「わっ!」
ざっと足が着いた音がして、体が優しく地面に置かれる。
目隠ししていた布が外れ、暗闇に目が慣れると、やはりそこは廃校になった学校だった。
だがそこは教室ではなく、校舎だった。
「…花子ちゃん?」
花子ちゃんの姿が見当たらない。
「どこ?花子ちゃん!花子ちゃん!きゃっ!」
何かに足が当たってつまずく。
「花子ちゃん!」
それは花子ちゃんだった。
いくら呼んでも返事はない。心配になって呼吸しているか確認する。
「良かった…生きてる…」
でもどうしよう。私一人じゃ花子ちゃんを運べないし、助けを呼びに行きたいけど花子ちゃんを一人にしたくない。まだここが安全と決まったわけでもないし。
それにしても、あの黒薔薇組?の人達はどうしたんだろう。誰も追いかけてこない。帰ったのかな?でも、そんなに簡単に帰ってくれそうでもなかったけど…
あれこれ考えている間にもどんどん時間は過ぎ、
気のせいだろうか。遠くなる意識の中、人影を見たような気がした。
急に空気が変わる。
「なっ!?」
「てめぇいつの間に縄解きやがった!?」
二人が目を奪われている隙に破かれた制服を着直す。
「お前ら、何してる?」
「ああ?何言ってんだこいつ?」
「てめぇのお友達と楽しい事しようとしてたんだろうが。邪魔すんじゃねぇよ」
「………」
「ったく、大人しくしときゃいいのに」
"その人"は私の方を見る。
いつもと全然雰囲気が違う。まるで別人だ。"その人"を見ていて思う事はただ一つ。冷たい。とても冷めた目をしている。何も感情を感じない。
「だ、れ…?」
思わず口にしてしまった。
それでも"その人"は何も言わず、無表情で私の傍まで来てしゃがむ。
「どうして欲しい?」
そう聞かれ、少し戸惑った。
何か言えば、どんなに難しい事でも確実にそれを成し遂げてしまう。そう直感した。
「こ…ここから逃げ出したい。家に帰りたい」
「…分かった」
"その人"は一言そう言った。
「はぁ?逃がすわけねぇだろ。黒薔薇組の奴が来るまでここに居てもらうぜ」
「そうそう。俺らの為にお前は犠牲になるんだ」
「………」
"その人"は黙ったまま何も言わない。
「何とか言えや!調子乗りやがって!」
「舐めんのも大概にしとけや!」
弥彦さんが"その人"の胸倉を掴んだ瞬間、
「ぐはっ!」
「うぁっ!」
小さな悲鳴と共に二人は床に倒れ込む。
一瞬だった。
速すぎて何が起きたのかよく分からなかった。
「あ、の…」
「立てるか?」
縄を解いて手を差し伸べてくれる。
「は、はい…」
「君達どこ行くの?」
声の方を向くと、そこには男達が数人。
「どっちがそうなの?」
「…え」
「どっちが桜組の娘?」
どうしよう。きっとこの人達、さっき言ってた黒薔薇組の人達だ。
「どっちでもいいだろ。どっちも連れてって違う方は人身売買すればいい」
「そうだな」
やだ、どうしよう。私達売られちゃうの?どうにかして逃げ出さないと…
"その人"に目を向けると、表情は変わらず、落ち着いている。
「じゃ、そういう事なんで俺らに着いてきてくれる?」
「俺らもあまり手荒な事はしたくないんだよね」
足が動かない。動かしたくない。このまま着いて行ったら確実にもう二度と母に会えなくなってしまう。まだ何も返せてないのに。
「………」
「ほら、さっさとこっち来いって」
「俺らの手を煩わせる気?」
「そ、れは…」
足が震えて動かない。すると、"その人"は耳元で、
「これを付けておけ」
そう言うと、布で目隠しをされ、イヤホンを付けられる。
イヤホンからは音楽が大音量で流れていてそれ以外の音は何も聞こえない。視界は布で塞がれて何も見えない。
視覚と聴覚を奪われた気分だ。
でもそうしていると、少しずつ冷静になってくる。
それからしばらくじっとしているとイヤホンが外され、
「俺に捕まれ」
耳元で聞き慣れない"その人"の声がする。
抱きつくようにしがみつくと、体が宙に浮いたような感覚と同時に、下から強い風が吹き上げてくる。
「わっ!」
ざっと足が着いた音がして、体が優しく地面に置かれる。
目隠ししていた布が外れ、暗闇に目が慣れると、やはりそこは廃校になった学校だった。
だがそこは教室ではなく、校舎だった。
「…花子ちゃん?」
花子ちゃんの姿が見当たらない。
「どこ?花子ちゃん!花子ちゃん!きゃっ!」
何かに足が当たってつまずく。
「花子ちゃん!」
それは花子ちゃんだった。
いくら呼んでも返事はない。心配になって呼吸しているか確認する。
「良かった…生きてる…」
でもどうしよう。私一人じゃ花子ちゃんを運べないし、助けを呼びに行きたいけど花子ちゃんを一人にしたくない。まだここが安全と決まったわけでもないし。
それにしても、あの黒薔薇組?の人達はどうしたんだろう。誰も追いかけてこない。帰ったのかな?でも、そんなに簡単に帰ってくれそうでもなかったけど…
あれこれ考えている間にもどんどん時間は過ぎ、
気のせいだろうか。遠くなる意識の中、人影を見たような気がした。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる