ヤクザ娘の生き方

翠華

文字の大きさ
上 下
31 / 80

温かい食事

しおりを挟む
「よし、全員揃ったな。鈴音も座れ」


豪華な食事が並んでいるテーブルを囲んで座る。


「では、いただきます」


「いただきまーす!」


「い、いただきます」


「んーっ!美味しい!美味しすぎるよ鈴音さん!」


「ふふっ、ありがとうございます」


「お前、さっきと態度違いすぎだろ」


「さっきはさっき!今は今だよ!ご飯は美味しく楽しく食べなきゃ!」


「そうだ。食材やそれを育てた人、料理を作った鈴音に感謝して食うんだ。それが食事する時一番大事な礼儀だ」


「そうそう!」


「全員で食べる食事はやはり美味しいですね」


「だよね!」


「うまい」


「こんなうまい飯は初めてだ」


「温かいですね」


「うめぇ」


「……美味しいっ」


皆嬉しそうだ。特にかっちは箸が止まらないようだ。良かった。


「叶真、人を従える者同士、腹割って話そうじゃねぇか」


「はい」


「おいお前、ちょっとこっち来い」


「え?は、はい」


「少し話しませんか?」


「はい」


「ちょっと話そうな」


「もぐもぐ…もぐもぐ…はい」


「こっちおいでの」


「え?僕?」


父さんはとっちと、蓮はさっちと、翠ちゃんはゆっちと、はるちゃんはかっちと、あきちゃんはまっちと皆楽しそうに話している。


良かった。ウチが心から望んでいた光景だ。嬉しい。きっと父さん達はそれが分かっていたのだろう。さすが家族だな。


一人、少しだけ嬉しさで泣きそうになる。


「…花子お嬢様」


隣で食事していた鈴音さんがぎゅっと抱きしめてくれる。


「どうしたの?鈴音さん」


「何となく、こうしたくなってしまいました」


「嬉しいな。ウチも鈴音さんとハグしたかったんだ。以心伝心だね」


笑顔で鈴音さんに言う。


鈴音さんがハグしてくれたのがとても嬉しいのに、胸はズキズキする。


馬鹿だな。ちゃんと自分で決めたじゃないか。何揺らいでんだ。きっと今が幸せ過ぎてずっとこの光景を見ていたいと思ってしまったからだ…大丈夫。まだ時間はあるんだから。その間に沢山、沢山思い出を刻もう。


食事を済ませ、一人で食後の花子団子を食べていると、


「花子」


「ん?」


父さんの方を見ると、いつの間にか全員がウチを見ていた。


「え?なになに?そんなに見ないでよー。照れるなぁ」


「大事な話がある」


「え?」


「こいつら五人を引き取ろうと思う」


「……………え!?」


頭が真っ白になる。


「今話をつけた」


「どういう事!?」


「こいつらの状況は俺も知ってる。噂や周りの態度も見たり聞いたりしてたからな」


「それはウチも知ってるけど…」


「こいつらはもう高校生だ。これからの事を考えるには今の環境じゃ難しい」


「父さんなら分かってると思うけどここは桜組だよ。ヤクザが親代わりになるって事は就職だって難しくなるんじゃないの?やりたい事が限られると思うけど」


「ああ。そういうデメリットがあるのも承知でこいつらは俺のとこに来るって決めたんだ。花子、お前はどうだ?」


「ウチは…」


願ってもない事だ。ここにいれば何不自由無く暮らせるし、愛情を持って接してくれる人しかいないから絶対幸せになれる。でも、ここは桜組。悪い世界を統べる場所。そういう世界に足を踏み入れて欲しくない。


「嫌だ…」


「何故だ?」


「だって…」


「大丈夫」


とっちが揺らぎのない真っ直ぐな目でウチを見る。とても綺麗な目だ。


「俺達は間違った道へは進まない。自分の信じる道を行く。絶対に揺らがない」


「でも…」


「てめぇ俺らの事信用してねぇのかよ」


「そんな事…」


「大丈夫ですよ」


「僕も大丈夫」


「…うん」


皆真剣だ。


「もし間違った方に行きそうになったら俺らで止めてやるよ」


「蓮…」


蓮も翠ちゃんもはるちゃんもあきちゃんも皆優しく笑う。


「分かったよ。ウチもいるし、ちゃんと皆の事支えるよ。やりたい事、一緒に探すって約束したもんね。皆の事、歓迎するよ!」


「ありがとう」


とっちが笑顔で言う。


その顔は反則だろ。


「じゃあそういう事だ。翠、明日早速手続きを頼む」


「かしこまりました」


「じゃ、美味しい夕食が無駄になっちまう!お前らどんどん食え!」


「ウチはもう食後の花子団子食べてるんだけど」


話が進みすぎてまだ頭が混乱していたが、いい方向に進んでくれたらいいと心から思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...