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第一話
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真っ暗な道を1人で歩いている。
それでも何故かそれが心地いいと思う。
自分だけの世界。自分の自由に行ける世界。嫌なものがない世界。
ああ、なんて親不幸なんだろう。
1人がこんなに幸せなんてーーー
「目が覚めたかい」
「……お母さん?…眩しい……」
「1週間も眠ったままだったんだよ」
「…1週間?何で?」
「……事故にあったんだ」
「…事故?私が?」
「そうだよ。本当に心配したんだからね」
「……いた…っ」
「どうしたんだい?」
「いや…ちょっと、頭が痛くて…」
「頭を打ってるからね。じっとしてなきゃだめだよ」
「…うん……」
「そうだ。佳奈美、あんたの旦那も来てるよ」
「え?……旦那?」
「そうだよ。まさか忘れたわけじゃないよね?」
「え……」
どうしてだろう。思い出そうとしても何も出てこない。
深い霧の中に大切な何かがあって、手を伸ばしても届く距離にあるのかどうかも分からない。
「まさかあんた事故で記憶が……?」
「…………」
だめだ。何も思い出せない。
「…そんな………」
「…私……」
「佳奈美…」
お母さんは優しく私を抱き締める。
「…ごめんなさい…私、何も思い出せない……」
「いいんだよ。大丈夫、私がついてるからね。旦那もいる。皆で一緒に家に帰ろう」
「…うん……」
ガラガラガラ。
扉の開く音が聞こえて、男の人が1人部屋の中に入ってきた。
「佳奈美…目が覚めたんだね」
「…えっと……」
すらっとした背の高いスーツ姿の男が嬉しそうな顔で私を見る。
「あんたの旦那だよ」
「…この人が……」
「え…お母さん、もしかして佳奈美は……」
「ああ。記憶がなくなっちまってるんだ」
「そんな……」
「…ごめんなさい……」
「…ああ、いや…これからまた2人で思い出を作っていけばいいさ」
そう優しく笑いかけてくれた彼の顔を見て、何故か私はすぐに目を逸らしてしまった。
旦那さんの名前は修一(しゅういち)というらしい。
すぐに名前呼びは出来そうになかったので、さん付けから始めさせてもらう事になった。
それから2日後、私は退院し、3人で暮らしていたというお母さんの一軒家にやってきた。
「さぁ、入ろう」
修一さんが私の手を握り、にこりと笑う。
ぎこちなさを感じながらも、早く慣れなくてはと私も握り返した。
それからはお母さんの作った手料理を食べながら今までの事や修一さんとの出会いの話を聞いた。
話を聞いていても何かが引っかかる感じはない。
初めて聞く話。初めてくる場所。初めて見る料理。
落ち着かない気持ちを押さえつけながらも、早く記憶を取り戻したいと心から思った。
それでも何故かそれが心地いいと思う。
自分だけの世界。自分の自由に行ける世界。嫌なものがない世界。
ああ、なんて親不幸なんだろう。
1人がこんなに幸せなんてーーー
「目が覚めたかい」
「……お母さん?…眩しい……」
「1週間も眠ったままだったんだよ」
「…1週間?何で?」
「……事故にあったんだ」
「…事故?私が?」
「そうだよ。本当に心配したんだからね」
「……いた…っ」
「どうしたんだい?」
「いや…ちょっと、頭が痛くて…」
「頭を打ってるからね。じっとしてなきゃだめだよ」
「…うん……」
「そうだ。佳奈美、あんたの旦那も来てるよ」
「え?……旦那?」
「そうだよ。まさか忘れたわけじゃないよね?」
「え……」
どうしてだろう。思い出そうとしても何も出てこない。
深い霧の中に大切な何かがあって、手を伸ばしても届く距離にあるのかどうかも分からない。
「まさかあんた事故で記憶が……?」
「…………」
だめだ。何も思い出せない。
「…そんな………」
「…私……」
「佳奈美…」
お母さんは優しく私を抱き締める。
「…ごめんなさい…私、何も思い出せない……」
「いいんだよ。大丈夫、私がついてるからね。旦那もいる。皆で一緒に家に帰ろう」
「…うん……」
ガラガラガラ。
扉の開く音が聞こえて、男の人が1人部屋の中に入ってきた。
「佳奈美…目が覚めたんだね」
「…えっと……」
すらっとした背の高いスーツ姿の男が嬉しそうな顔で私を見る。
「あんたの旦那だよ」
「…この人が……」
「え…お母さん、もしかして佳奈美は……」
「ああ。記憶がなくなっちまってるんだ」
「そんな……」
「…ごめんなさい……」
「…ああ、いや…これからまた2人で思い出を作っていけばいいさ」
そう優しく笑いかけてくれた彼の顔を見て、何故か私はすぐに目を逸らしてしまった。
旦那さんの名前は修一(しゅういち)というらしい。
すぐに名前呼びは出来そうになかったので、さん付けから始めさせてもらう事になった。
それから2日後、私は退院し、3人で暮らしていたというお母さんの一軒家にやってきた。
「さぁ、入ろう」
修一さんが私の手を握り、にこりと笑う。
ぎこちなさを感じながらも、早く慣れなくてはと私も握り返した。
それからはお母さんの作った手料理を食べながら今までの事や修一さんとの出会いの話を聞いた。
話を聞いていても何かが引っかかる感じはない。
初めて聞く話。初めてくる場所。初めて見る料理。
落ち着かない気持ちを押さえつけながらも、早く記憶を取り戻したいと心から思った。
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