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1話
しおりを挟む春の陽射しが優しく降り注ぐ中、ミリアナ・アスタローグは、公爵家の広大な庭で遊んでいた。花々が咲き乱れ、色とりどりの蝶が舞うその場所は、彼女にとってまるで夢の世界のようだった。今日は特に、チューリップが見事に咲き誇っている。赤や黄色、白の花が揺れる様子は、彼女の心を躍らせていた。
「ミリアナ、あまり遠くに行かないで!」母の声が、遠くから響く。しかし、彼女の心はすでに庭の端にある小さな茂みへと向いていた。その茂みの向こう側には、幼馴染のアルタリア・ルッセンバーグがいるのではないかと、いつも期待してしまうのだ。
アルタリアは、彼女の心の中で特別な存在だった。幼い頃から、彼はミリアナを見守り続けていた。彼の真面目な性格と、時折見せる優しい笑顔は、ミリアナの心に深く刻まれていた。しかし、彼女はその想いを直接伝えることはできず、ただ彼の姿を追いかけるだけだった。
「アルタリア、今日はどんな遊びをしようか?」彼女は心の中でつぶやく。自分が何を考えているのか、彼に知ってほしいと願う気持ちが募る。
そんなある日、ミリアナは庭の奥で、アルタリアが一人で本を読んでいるのを見つけた。彼女は驚きと嬉しさで胸が高鳴った。静かに近づき、彼の背後に立つと、心臓がバクバクと音を立てるのが分かった。
「アルタリア!」思わず声をかけると、彼は驚いたように振り返った。
「ミリアナ、君がいたのか!」彼の顔がぱっと明るくなり、ミリアナの心も一瞬で温かくなった。
彼は本を閉じ、ミリアナに向かって微笑んだ。その瞬間、彼女の胸の中に広がる幸福感は、言葉では表せないほどだった。二人は、その後しばらくの間、庭で遊びながらお互いの夢や好きなことを語り合った。
「将来、何になりたい?」アルタリアが尋ねると、ミリアナは少し考え込んだ。
「私は、たくさんの人を笑顔にできるような人になりたいな。」
「それなら、僕も一緒に手伝うよ。」彼は真剣な表情で答え、ミリアナはその言葉に心を躍らせた。
時が経つにつれ、二人の絆は深まっていった。しかし、彼女はまだ彼の心の奥底に秘められた思いには気づいていなかった。アルタリアは、いつも彼女を見守り、彼女の幸せを願っている一方で、彼自身の気持ちを言葉にすることができずにいた。
そんな日々が続く中、ミリアナは自分の心の中に芽生えた特別な感情に戸惑いながらも、彼との時間を大切に思っていた。彼女の心に刻まれたアルタリアの存在は、これからの運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。
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