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六話

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「まさか? 嘘だろ!? 君なのか? 君が私の遂げ人なのか!?」

 ガルクラム皇帝レアンドロスは、辛い人生を送ってきたカタリアに慰めの言葉をかけようと、王座を立って殿上から降りてカタリアに近づいた。これは狼人族の常識からいえば特別待遇だった。人間が特別待遇されることに、内心腹立たしく感じる狼人族の廷臣もいたが、レアンドロス陛下の漢気を感じて何も口にしなかった。

 だがこれが奇跡を呼んだ。レアンドロス陛下がカタリアのフェロモンを感じたのだ! なんと、カタリアがレアンドロス陛下の遂げ人だったのだ! 全貴族士族の令嬢を集め、遂げ人がいないか探した大儀式でも、レアンドロス陛下の遂げ人は見つからなかった。

 獣人族が遂げ人を見つけられる確率は、一万分の一と言われている。それほど遂げ人を見つけられる獣人は少ないのだ。それだけに、獣人の世界では遂げ人は何よりも優先される。まぁ、現実問題として、本能的に抗えないというのもある。遂げ人を引き離そうとすると、猛烈な殺人衝動が起こり、最悪の結果につながる。陰で遂げ人の呪縛と言われるくるいだ。

 だから遂げ人が現れた場合は、既婚者を離婚させてでも遂げ人を夫婦にさせる。そうしなければ、遂げ人のカップルは、遂げ人に選ばれなかった伴侶を殺してでも添い遂げようとするのだ。それくらい激しい衝動だから、種族人種は無視される。草食獣人と肉食獣人のカップルであろうと、人間と獣人のカップルであろうと、ハーピーとマーマンのカップルであろうと、全ての獣人が祝福する建前だ。

 建前となっているのは、相手が人間であった場合が問題だからだ。遂げ人にはどうしても呪縛する側とされる側ができてしまう。問題は人間が嗅覚を退化させてしまっているので、遂げ人を呪縛することはあっても、遂げ人に呪縛されることがないのだ。

 ガルクラム大帝国の廷臣達には、いや、全貴族士族国民にとっては、絶対にあってはならない現実だった。
 自分達が心から敬愛する主君、ガルクラム皇帝レアンドロス陛下が、人間の小娘に呪縛され、言いなりになってしまうのだ。即座にカタリアの暗殺謀殺を決断するのは仕方がない事だった。

「動くな! 指一本動かすな! カタリアに危害を加えようとしたモノは誰であろうと許さん! 本人だけでなく、一族一門領民に至るまで皆殺しにする! 私の遂げ人に手を出すものは、一切容赦はせんぞ!」

 廷臣の考えなど、レアンドロスには筒抜けだった。自分が思わず口にした事で、カタリアが狙われることは、言い終わる前に分かっていたので、そのまま言葉を続けて警告脅迫の言葉を続けた。そしてカタリアに愛の告白をしたのだ。

「カタリア。君は私の遂げ人だ。我が命を賭けて、生涯守り抜くと誓おう。だから我と結婚してくれ」
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