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激震
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ーー11月8日午後19時05分
会社の最寄駅の改札前の時計台。ここがいつも神崎との待ち合わせ場所だ。
「小宮、おまたせ」
「お疲れ、何食べたい」
「いきなりそれかよ。経理部は時間が正確でいいよな、僕も定時で帰りたい」
「俺も定時じゃないけどさ、まぁお前よりは早いか」
「そうだよ。夜に外部との飲み会が入ることなんてしょっちゅうだからさ。今日は思う存分楽しませてくれよ!」
楽しませてか……俺との飲みをそう思ってくれていることに、内心嬉しさを隠しきれない…少し笑みを作るが、寒さから逆に眉間に皺が寄ってしまう。
「うー寒っ、もう夜は冷えるな」
「じゃあさ、鍋にしようか」
「いいねぇ、鍋!この通りの角に東北の居酒屋あったよな、そこ行くか?」
「小宮、日本酒好きだったろ。美味しいの揃ってたし、そこにしよう」
***
ーー11月8日午後10時00分
そろそろどちらも酔いが回ってきた。飲み始めてかれこれ二時間半ほどが経った。
「僕さ、彼女と別れたんだよね」
「え、いつ。てか結婚も視野だって、この前言ってなかったか」
そうだ、前回飲んだ時、プロポーズの相談をされて…神崎が結婚してしまうかもしれない事実に俺は……一人でへこんでいたんだ…
「二週間くらい前。そう思ってたのは、僕だけだったみたいなんだよね」
そう言って、神崎はお猪口に入っている日本酒を一気に飲み干した。
「僕だけってなんだよ」
「好きな人がいるんだってさ」
「それって、浮気じゃんかよ!」
「そうじゃないみたい。僕と付き合う前からずっと好きな人がいたんだってさ。そんなそぶり全然なくてさ、付き合ってる間に一番になれなかったわけだから、俺にも責任あると思うわけよ…俺の魅力もそこまでかなってね…はは」
そんなん、あんまりじゃないか。
神崎と付き合ってたこの数年、その女は神崎のこと好きじゃなかったってことか。それなのに、なんで…神崎と付き合ったんだよ。俺の方がずっと…ずっと神崎のこと……思ってるし…大事にできるし…何より………
「神崎のことが好きなのに」
心の中で思ってたことがつい声に出てしまった…。
やばい…終わったと思った。今まで築いてきた二人の関係が壊れる。
神崎の顔なんて見ることができない。
「悪い…神崎。俺もう……帰るわ」
小宮は席を立った。
「ちょっと、待て!」
いつもは温厚な神崎が声を荒げて、俺の腕を掴み引き留めた。
「今言ったこと本当?ねぇ、いいから答えて」
しばらくの間、沈黙が続いた。
時間にしたらそこまで長くないのだろうけど。
今は、すごく長く感じた。
「好き…だよ…」
聞こえるか聞こえないか、小さな声だったと思う。
一度声を発したら、気持ちのタガが外れてた。
「好きだ、お前のこと。入社試験で会った時からずっと好きだった。一目惚れって奴だよ。笑うだろ、こんなに近くにいた奴が、しかも男で、好きだって告白されて。気持ち悪いよな」
言ってる自分が苦しくなってくる。
やべぇ…俺泣いてんじゃね…人前で泣いたのなんていつ以来……神崎、どんな顔してる…あぁ…見れねぇ…
俺はずっと俯いたまま、この場を動けずにいた。
「本気で好意を持ってくれている人に対して、気持ち悪いなんて、これっぽっちも思わない」
いい奴すぎるだろ。でも、そういう奴だったよな神崎は。
「だって、俺男だし…」
「男とか女とか関係ない。僕は小宮と話してるの」
いつも真正面から、真摯に応えてくれるんだ。
「敵わないよ…神崎、すげーな…」
「今から確かめよ。うちの方が近いから…ちょっと来て」
「確かめるって、何を」
「いいから、それとはい」
そう言ってハンカチを渡された。
こうして、神崎の自宅に向かうことになった。
店を出る時繋がれた手は、一向に離してくれそうにない。この手を離したら俺が逃げ出すとでも思っているのかもな。
会社の最寄駅の改札前の時計台。ここがいつも神崎との待ち合わせ場所だ。
「小宮、おまたせ」
「お疲れ、何食べたい」
「いきなりそれかよ。経理部は時間が正確でいいよな、僕も定時で帰りたい」
「俺も定時じゃないけどさ、まぁお前よりは早いか」
「そうだよ。夜に外部との飲み会が入ることなんてしょっちゅうだからさ。今日は思う存分楽しませてくれよ!」
楽しませてか……俺との飲みをそう思ってくれていることに、内心嬉しさを隠しきれない…少し笑みを作るが、寒さから逆に眉間に皺が寄ってしまう。
「うー寒っ、もう夜は冷えるな」
「じゃあさ、鍋にしようか」
「いいねぇ、鍋!この通りの角に東北の居酒屋あったよな、そこ行くか?」
「小宮、日本酒好きだったろ。美味しいの揃ってたし、そこにしよう」
***
ーー11月8日午後10時00分
そろそろどちらも酔いが回ってきた。飲み始めてかれこれ二時間半ほどが経った。
「僕さ、彼女と別れたんだよね」
「え、いつ。てか結婚も視野だって、この前言ってなかったか」
そうだ、前回飲んだ時、プロポーズの相談をされて…神崎が結婚してしまうかもしれない事実に俺は……一人でへこんでいたんだ…
「二週間くらい前。そう思ってたのは、僕だけだったみたいなんだよね」
そう言って、神崎はお猪口に入っている日本酒を一気に飲み干した。
「僕だけってなんだよ」
「好きな人がいるんだってさ」
「それって、浮気じゃんかよ!」
「そうじゃないみたい。僕と付き合う前からずっと好きな人がいたんだってさ。そんなそぶり全然なくてさ、付き合ってる間に一番になれなかったわけだから、俺にも責任あると思うわけよ…俺の魅力もそこまでかなってね…はは」
そんなん、あんまりじゃないか。
神崎と付き合ってたこの数年、その女は神崎のこと好きじゃなかったってことか。それなのに、なんで…神崎と付き合ったんだよ。俺の方がずっと…ずっと神崎のこと……思ってるし…大事にできるし…何より………
「神崎のことが好きなのに」
心の中で思ってたことがつい声に出てしまった…。
やばい…終わったと思った。今まで築いてきた二人の関係が壊れる。
神崎の顔なんて見ることができない。
「悪い…神崎。俺もう……帰るわ」
小宮は席を立った。
「ちょっと、待て!」
いつもは温厚な神崎が声を荒げて、俺の腕を掴み引き留めた。
「今言ったこと本当?ねぇ、いいから答えて」
しばらくの間、沈黙が続いた。
時間にしたらそこまで長くないのだろうけど。
今は、すごく長く感じた。
「好き…だよ…」
聞こえるか聞こえないか、小さな声だったと思う。
一度声を発したら、気持ちのタガが外れてた。
「好きだ、お前のこと。入社試験で会った時からずっと好きだった。一目惚れって奴だよ。笑うだろ、こんなに近くにいた奴が、しかも男で、好きだって告白されて。気持ち悪いよな」
言ってる自分が苦しくなってくる。
やべぇ…俺泣いてんじゃね…人前で泣いたのなんていつ以来……神崎、どんな顔してる…あぁ…見れねぇ…
俺はずっと俯いたまま、この場を動けずにいた。
「本気で好意を持ってくれている人に対して、気持ち悪いなんて、これっぽっちも思わない」
いい奴すぎるだろ。でも、そういう奴だったよな神崎は。
「だって、俺男だし…」
「男とか女とか関係ない。僕は小宮と話してるの」
いつも真正面から、真摯に応えてくれるんだ。
「敵わないよ…神崎、すげーな…」
「今から確かめよ。うちの方が近いから…ちょっと来て」
「確かめるって、何を」
「いいから、それとはい」
そう言ってハンカチを渡された。
こうして、神崎の自宅に向かうことになった。
店を出る時繋がれた手は、一向に離してくれそうにない。この手を離したら俺が逃げ出すとでも思っているのかもな。
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