ツンつよ令嬢、幼馴染に捕獲される

綾瀬ありる

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第五話

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「ま、まさかよ……そんな、まさか」

 ちくちくと針を動かしながら、レティシアは今日何度目になるかわからない呟きを漏らした。目の前の机には、一通の手紙が置かれている。差出人の名は、エルヴェ・グランジュ——ついひと月ほど前、レティシアに何を血迷ったのか求婚もどきをしでかした男である。
 ——も、もどきよ……あんなの、求婚とは認めないわ……!
 ふん、と鼻息を荒くしながら、手紙の文面に再度目を通す。
 そこには、聖騎士選抜の第一関門である筆記試験を突破した旨が記されていた。それから、ずうずうしくも第二関門に挑むに当たって、レティシアのお手製のお守りが欲しいとも書かれている。

「ほ、ほんとにずうずうしいったらないわ……!」

 そう言いながらも、大人しくお守りを作っているのは、そりゃあ彼に難癖をつけられないようにするため。そう、そのためだ。
 レティシアがお守りを作って渡さなかったから、第二関門の実技試験をくぐり抜けられなかった、などと言われたら困るから。
 自分に言い訳しながら、レティシアは剣帯に巻き付けて使う飾り布にグランジュ公爵家の家紋と、それから勝利の女神であるポレルの紋章とを刺繍して仕上げていく。騎士が身に着けていられるように、ということで定着した、昔ながらの勝利のお守りだ。
 約三日ほど集中し、寝食もそこそこにして作ったお陰で、自分でも納得の出来映えだ。これならきっと、彼も文句はないはず。
 侍女に頼んで綺麗に包んでもらうと、レティシアはそれを騎士団宿舎で寝泊まりしているエルヴェに届けるよう言い付けた。

「あら、お嬢様が届けに行かれないのですか?」
「なっ……なんで私がそこまでしてやらないとならないのよ」
「いえ……その方がグランジュ卿はお喜びになるかと……」
「だ、だから……私は別に、エルヴェを喜ばせる義理なんかないんだから……! で、でもそうね……激励しなかったから突破できなかったなんて言い訳に使われたら腹が立つわね。わかった、直接行くわ」

 そう言いながら、途中で腰を浮かせたレティシアを、生温い目で見てから、侍女は「では、馬車の用意を言い付けて参ります」と出て行く。
 その後ろ姿を見送って、レティシアはそわそわと外出の用意を始めた。
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