ツンつよ令嬢、幼馴染に捕獲される

綾瀬ありる

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第三話

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 ——まったく、人をなんだと思っているのかしら。
 ちらりと横目で睨むと、彼は眉を下げ、困ったように笑った。そうしてすっとレティシアの手に自分のものを重ねると、こう囁く。

「誤解じゃないよ、いつも言っているだろう、マイ・リトル・レティ」
「はいはい」
「つれないなあ……」

 昔は、こうした一言に内心ドギマギしていたものだけれど——今ではだいぶ慣れてしまった自分が悲しい。おざなりな返答をすると、彼はすり、と指の腹で手の甲を撫でてきた。途端にぞくっとした感覚が背筋を這う。決して不快ではないものの——なんだか落ち着かない、そんな感覚だ。思わず振り払おうとするが、いつもならすぐに離れていくはずの手が、今日はかえってしっかりとレティシアの手を握り込む。
 その力強さに、内心たじろいでしまう。それに気付かれたくなくて、レティシアはつばを飲み込むと震える唇を開いた。

「ちょ……ちょっと……!?」
「なあ、何か気付かないか?」

 そんなレティシアの様子に気付いているのかいないのか、ずいっと顔を寄せてきたエルヴェが囁くように言う。その呼気に感じるミントの風味は、彼の好みに合わせて出したミントティーのものだろう。そんな香りに気がつくほど接近していると気付いて、レティシアの心臓が一気に跳ねた。どくんどくん、と大きな音が耳の奥からして、めまいがしそうになる。

「わ、わから……ない……わ……」
「ほら、これ……見て、レティ」

 息も絶え絶えなレティシアに小さく笑う声だけ残して、エルヴェはぱっと身体を離した。それから、何かを誇示するように両肩に手を添え、胸を張ってみせる。
 急な解放に一息つくと、レティシアは彼の声に誘われるようにしてその姿をまじまじと見つめた。
 そういえば、騎士服姿でオービニエ邸にやってくるのは珍しい。白い騎士服は真新しく、その胸に輝く金の聖徽章は……。

「え、エルヴェ……あなた」
「そう、聖騎士候補になったんだ」

 聖騎士、というのは一年に一度選抜試験がおこなわれる、この国における騎士の最高位だ。文武どちらにも秀でた騎士に贈られる名誉ある称号で、騎士ならば誰もが最終的にはそこを目指すという。
 しかし、この若さで候補になるというのは大変に珍しい。
 ——努力しているものね……。
 彼のことは気に入らない部分も多々あれど、努力していることだけは疑いようもない。幼い頃泣き虫だった男の子が立派になって……と、レティシアも胸がいっぱいになった。きっと彼の目標というのはこの聖騎士になることなのだろう。

「お、おめ……」
「だからレティシア、聖騎士に選ばれたら、結婚してくれ」
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