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1巻
1-2
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過ぎたお酒は身体によくない。これは、母が父によく言っていた言葉だ。そういえば桜綾も、朝起こしに行くと酒の甕がいくつも床に散乱している。
朝まで飲んでいるというのなら納得の量だが、そんな生活が身体に負担にならないわけがない。
(もう少し、減らすようにお願いしなきゃ……)
はあ、と小さくため息をつくと、花琳は「ここはもういいよ」という周夫人の声に送られて自分の部屋へ戻った。本当は、弟子になったからにはもう手伝いはいいと言われている。桜綾の身の回りのことだけしてくれればいいと。
周夫人は、それだけでも大変だろうと言ってくれる。けれど、これまで下働きとしてこき使われていた花琳は、何かしていないと落ち着かないのだ。
結果、桜綾が起きだしてくる昼過ぎまでは、周夫妻を手伝い、空いた時間は道術の本を読んで自習する、ということになっている。
この日も、花琳は午前中をそのようにして過ごすつもりだった。読み込みすぎてすっかりくたびれた道術に関する本をめくりながら、気付いたことを紙に書き出してゆく。午後の桜綾の講義では、まずここを質問して……とぶつぶつ呟いていると、戸の向こうから周夫人の声がした。
「花琳ちゃん、申し訳ないんだけどちょっと買い物に出てくるから」
「あ、はぁい」
出入りの商人はいるが、来るのは月に二度程度。普段はこうして買い物まで周夫人がしてくれる。その際には、夫の周も荷物持ちとして着いていく。
その間、来客があれば――まあ、ほとんどないのだけれど――対応するのが花琳の役目である。
了解の旨を告げると、じゃあよろしく頼んだよ、という言葉と共に周夫妻は出かけて行った。
それから一刻もたたないうちのことである。
「どなたか、いらっしゃるか」
門の辺りから大声で呼ばわる声がして、花琳ははっと顔をあげた。慌てて立ち上がった拍子に机の角に足を打ち付けてしまい、悶絶する。涙交じりの声で必死になって、花琳はその声に「はあい、ただいま!」と大きく答えた。そのまま時折足をさすりながら、外へ出る。
するとそこには、一人の青年が佇んでいた。
一見すると、年の頃は二十前後。花琳よりも頭一つ半ほどは大きく見える立派な体躯に、上質な袍を纏っている。漆黒の髪と目は紅国ではごく一般的なものだ。
だが、花琳の目を奪ったのはなんといっても青年の顔立ちだった。少し釣り気味に見える涼やかな目元、すっと通った鼻筋に、形の良い唇。ちょっとそこらではお目にかかれないような美男子である。一種近寄りがたさを感じて、花琳は一歩後退った。
すると、青年は訝しげな顔つきになり、戸惑ったように口を開いた。
「んん……その、ここは游道士の邸で相違ないか」
「え、あ、はっ……はい」
どうやら間違いでもなんでもなく、桜綾を訪ねてきた客に相違ないらしい。慌てて返事をした花琳は、心の中で首を傾げた。
(こんないい男……というか、こんなまともそうな人が、師匠になんのご用なのかしら……?)
なんといっても、桜綾は「変人道士」として名高い女性だ。それでも依頼に来る人間がいないではないが、それこそまともな道士ではとりあってももらえないような些細なものばかり。
とてもじゃないが、こんなまともそうな人物が依頼に来るようなところではない。
(ああ、前に聞いたことのある、婿入り希望の弟子入り志願者かしら……?)
それならば納得がいく、かもしれない。なにせ游家は名門だ。繋がりが持てればいいという輩はまだまだいるだろう。それに、外に出るときの彼女はまともな格好をしたなかなかの美女である。そうした噂に惑わされる輩も少なくない。
花琳は桜綾の年齢を知らないが、そういう輩には彼女の年齢などどうでもいいのだろう。
はあ、と小さくため息をつくと、花琳は仕方なく青年を中に通すことにした。彼がどういうつもりにせよ、桜綾への客人を断る権限は花琳にはない。
(ま、どうせすぐに逃げ出すに違いないわ)
彼を邸の応接室に案内すると、花琳は「ただいま呼んでまいります」と頭を下げて桜綾の部屋へと向かった。
「師匠、ちょっと……お客様ですよ!」
「んん……」
呆れたことに、桜綾はまだ牀榻の中でうとうととまどろんでいた。そろそろ昼も近い。起きてくるころだろうと思っていたのだけれど。
大きなため息とともに、慣れた手つきで桜綾の布団をはぐ。
「桜綾師匠、お客様です。男の方ですけど……どうします?」
「ん、そうか……来たか」
桜綾はその言葉を聞くと、むくりと起き上がって軽く頭を振った。それから、仁王立ちした花琳に向って「準備していくから、おまえが相手をしていておくれ」と言うとのそのそと立ち上がる。
花琳はびっくりして目を丸くした。
「わ、私がですか……?」
「ああ。それから、話を聞く時は同席するように」
それだけを言うと、桜綾は足元に転がった酒甕をぺしっと足で転がして、立ち上がる。
花琳は首を傾げながらも、師匠の言葉に従って部屋を後にした。
とりあえず茶の支度をしてから、青年を待たせた部屋へと戻る。声をかけて室内へと入ると、彼はひくひくと鼻をうごめかせていた。
桜綾の趣味で、邸の中には一風変わった香の香りで満たされている。慣れない匂いに戸惑っているのだろう彼の表情が面白くて、花琳はついくすりと笑ってしまった。なんだか近寄りがたい空気の青年だと思っていたが、案外かわいいところもあるものだ。
「お客様、どうぞ」
「ん、ありがたくいただこう」
中央からここまでは、少しばかり距離がある。ここまでの道中で喉が渇いていたのか、青年はそれを一気に飲み干してしまった。
あら、と小さく呟くと、花琳は茶のお代わりを用意してやる。さすがに今度は一気に飲み干すようなことはなかったが、彼は再度茶碗を口元に運んで一口味わう。
ふう、と小さなため息とともに口角がわずかに上がったところを見ると、どうやらお気に召したらしい。
(見た目より表情豊かな方ね……)
最初よりもずっと親しみやすさを感じ、それと同時に少しばかりもやもやした気持ちにおそわれる。もしも桜綾がこの青年を気に入れば、彼は婿候補の一人になるのだろうか。
花琳は彼の対面に腰を降ろすと、じっと青年の姿を見つめた。
(師匠は、この方が来ることをあらかじめご存じだったみたいだし……もしかしたらもしかするのかも……)
もし、桜綾が結婚することになったら、花琳はどうなるのだろう。このまま弟子として傍に置いてもらえるのだろうか。
きっと胸がもやもやするのはそれが不安だからだ。じっと押し黙ったまま、花琳は桜綾が現れるのをいまかいまかと待ち続けた。
「待たせたね」
桜綾の声に振り返った花琳は絶句した。
来客だと告げたにも関わらず、彼女はいつもどおりのだらしない格好だ。辛うじて襦裙を身に着けているものの、着方は雑。髪も適当にまとめたと見えて、ところどころが飛び跳ねている。
こんなことなら、身支度を整えるところまで見届けるべきだった、と花琳は激しく後悔した。しかしそれも後の祭りというやつだ。
だが青年はそんな桜綾の姿にも驚きを見せず、軽く一礼すると着席を待って用件を切り出す。
「お時間をいただき感謝する。游道士にご依頼したき儀があって参上した」
「硬いねぇ……」
桜綾が呆れたように呟くが、花琳にしてみればこの場でもっとも呆れられるべきは桜綾の恰好である。隣に座った桜綾のひじをこつんとつついたが、彼女は素知らぬ顔だ。
だが青年はそれもまた気にすることなく話を進めていく。
「依頼したいのは、亡霊祓いだ」
「へえ」
青年の顔をじろじろと見ながら、桜綾が気の抜けた相槌を打つ。花琳は「もう」と小さく呟いて憤慨した。あまりの失礼な態度に、胃がきりきりと痛みを訴える。
しかしその一方で、なんだかほっとした気持ちにもなっていた。
(依頼人だったんだ……)
それはそれで驚きだったが、心配事の種が減って胸をなでおろす。心の余裕らしきものまで産まれて、花琳は向かい側の青年を改めてじっくりと見た。
目鼻立ちが整っているのは先程も感じた通り。さらに付け加えるのなら、青年は背筋がぴんと伸びた綺麗な姿勢をしている。
もしかすると、彼はどこかの貴族に、しかもかなりの高位貴族に仕える武人なのではないだろうか。着ているものの上等さも、堅苦しい態度も、それからこの姿勢も、それならば納得がいく。ふと異母兄の面影が脳裏を過って、花琳は小さく苦笑した。
文官だった俊豪は、ちょっと身体の線が細かったが、目の前の彼はもっとしっかりとした体格だ。
花琳がそんな風に彼を観察している間にも、二人の会話は続いていた。
「亡霊祓いとは言うが、詳しいことを話してもらわんことには、判断しかねるな」
「詳しいこと、か」
そこでいったん言葉を切ると、彼は「ふむ」と呟いて花琳のことをちらりと見た。じっと青年を見つめていた花琳は、その視線とばっちり目が合ってしまい慌ててしまう。
けれど、その瞬間――不意に彼の瞳がゆらりと別の、もっと薄い、茶色っぽい色に見えた気がして思わず目を瞬かせた。ごしごしと目を擦ってからもう一度視線を戻すが、その時にはもう彼の瞳は先程と同じ黒い色をしている。
(え、なに今の……?)
花琳がそんな風に戸惑っている間にも、桜綾は彼の視線の意味に気付き肩をすくめて言った。
「この娘は私の弟子だ。亡霊祓いにも同行してもらうつもりだよ」
「む、左様か。それは失礼をした」
軽くこちらに向けて頭を下げた青年は、改めて自分の名を哉藍と名乗った。さるお方にお仕えする武人で、今日はその主の意向で桜綾の元へ来たのだという。
それについては、事前に手紙で桜綾に告げてあったらしい。知らなかった花琳は、少し頬を膨らませた。
(まったく師匠ったら……来るとわかっていたんじゃないの……!)
それならそうと言っておいて欲しいし、準備もきちんとしておいて欲しい。だが、もとから桜綾がどれだけだらしない生活を送っているかを考えれば、今日がその日だと気づいていなかった可能性もある。
花琳は小さくため息をつきながら、話の続きを聞くべく居住まいをただした。
「亡霊祓いをお願いしたい場所は、後宮だ」
「こっ……後宮って、後宮ってあの!?」
思わず大声で叫んでしまって、慌てて口を押える。そんな花琳に、桜綾はくつくつと笑い声をあげた。だが、向かいに座った哉藍は重々しく頷いただけだ。
「いかにも。お二人は今、後宮で何が行われているかご存じか?」
「い、いえ……」
答えてしまってから、花琳は慌てて横の桜綾の反応を窺った。だが彼女は面白そうににやにやと笑うと「ああ、知っている」と頷いた。
「後宮では今、皇太子殿下の妃選びをやってるんだろう」
「その通りだ」
もう一度頷いた哉藍が、仔細について語り始めた。
「皇帝陛下が病床に臥されていることは、既に知っておられるだろう。現在は万が一に備え、皇太子殿下が即位するときに皇后となるべきお方を選定するための妃選びが行われているのだが……」
「皇太子殿下は、もう二十三におなりだろう。これまで後宮はなかったのか?」
桜綾が問うと、ああ、と哉藍は肯定の返事をした。なんでも、皇太子殿下はまだまだ後宮を持つ気はなかったのだという。
皇帝が病に臥してからもう二年。だが、その間にいろいろとあり、そもそも後宮に目を向けられるだけの余裕がなかったのだ。
しかし、即位するとなれば皇后が必要となる。少なくとも、ここ紅国では何代にもわたって皇帝の即位時には皇后もともに立つのが慣例となっていた。したがって渋々ながら、皇太子殿下は後宮に妃候補集めを始めるしかなかったのである。
そんなことを、哉藍は苦笑交じりに語ってくれた。
「しかし、おかげで少々知らぬ顔が後宮内に増えてもおかしくない。助かったともいえるが……」
そこで小さく吐息をこぼすと、彼は机の上の茶碗に手を伸ばした。口を付けて唇を湿らせると、再び話に戻る。
「そもそも、後宮で亡霊を見たと言い出したのは、そうして集められた妃候補の一人なのだ。名を張笙鈴という……八つになる女児だ」
「や、八つぅ……!? 十八の間違いじゃなくて!?」
またしても大声をあげた花琳に向って、哉藍は肩をすくめて頷いた。
そういえば、張、という姓には聞き覚えがある。現在の右僕射だったか、とにかく臣下の中で一番くらいにお偉い方の名前がそうだったはずだ、と花琳は記憶の底からその名前を引っ張り出した。確か、娘は今の皇帝の妃のはずだ。それくらいは世情に疎い花琳にも知識があった。
となると、今度は次世代の皇帝の外戚となるべく、親族からねじ込んだのだろう。
(呆れたものね……)
先程桜綾は、皇太子殿下は二十三歳だと言っていた。相当な年の差になるだろう。ええと、と頭の中で計算し、答えをはじき出した花琳は「うええ」と小さな呻き声を上げた。
(十五も離れてるの……!)
いくらなんでも十五歳差となると、選ぶ方にとっても選ばれる方にとっても、あまりにもひどい話である。
皇太子殿下が幼女趣味でもない限り、万が一圧力をかけられて選ばれたとしても、お互い不幸になる結末しか見えない。皇帝の妃ともなれば愛情のあるなしは関係ないのだろうが――それではあまりに笙鈴という少女がかわいそうに思えた。
「……その笙鈴……様が亡霊を見たと最初に言い出したのが、おおよそひと月ほど前だ。初めは、突然後宮に連れてこられ不安なのだろう、そのせいで何かの影をそう思い込んだのだろう――と、誰も取り合わなかった」
「そんな、ひどい……」
八歳なんて、まだまだ父や母に甘えたい年頃だ。高位貴族の子女ともなれば、後宮に上がることは栄誉であると言い聞かせられてはいるだろうが、同じ邸内に両親がいるのといないのとでは、全く気持ちが違うだろう。
花琳だって八歳の頃を思い返してみても、両親と優しい異母兄に囲まれて楽しく過ごしていた記憶しかない。だがそのすぐ後に両親を亡くして心細かったことも、併せて思い出してしまい、一瞬胸がちくりと痛む。
それを振り払い、花琳は少女の心中を思って胸の前でぎゅっと手を組み合わせ、眉根を寄せて小さなため息をもらした。
「だが、ここに来たくらいだ……ことはそれじゃあ収まらなかったんだろう?」
「うむ」
黙って聞いていた桜綾がそう口をはさむと、哉藍も眉根を寄せそれに頷く。
「笙鈴様についてきた侍女たちも、揃って同じようなことを言い始めたのだ。それで、放置できなくなった。主はこれが噂になる前になんとかしたい、との仰せでな」
「それなら、朝廷にはお抱えの道士がいるだろう」
「……あやつらには頼めぬ事情がある」
最後の言葉には、どこか怒りめいた――いや、むしろ憎しみめいた感情が込められているように聞こえて、花琳ははっと顔をあげて彼の顔を見た。その瞳には、なにか激情を堪えるかのような色が浮かんでいて、心臓がどきりと跳ねる。
きっと、何か触れてはならない心の奥底にその事情が秘められているのだろう。そんな風に、花琳には思えた。
「そうか」
だが、そんな事情を忖度したのかどうなのか、桜綾は短くそう答えただけにとどまった。
そのまま、部屋の中にはしばらく沈黙が落ちる。
「……それで、引き受けるとして――後宮へはどういった形で入るのだ」
「引き受けていただけるのか」
沈黙を破るように、桜綾が口を開いた。その言葉を聞いて、哉藍がぱっと表情を明るくする。すると、桜綾はそんな彼に向って小さく肩をすくめて見せた。
その表情は、どこか困った身内を見ているかのような、仕方がないなあとでも言いだしそうな様子に見える。まるで花琳が異母兄にわがままを言ったとき、彼が浮かべていたのと同じような、そんな空気を桜綾の表情に見て、きゅうと胸が疼いた。
(そうだ……異母兄さま! もしかしたら、皇太子殿下のお近くにいけるのなら……俊豪異母兄さまのことを、なにか聞けるかも……?)
脳裏にひらめいたそんな考えに、花琳の目が輝いた。
花琳のような小娘が、朝廷に近づけるはずもない。これまで異母兄のことを案じながらも手がかり一つ探すことはできなかったが、もしかしたらなにかしら事情を知っている人物に出会うことができるかもしれない。
にわかに光明が見えて、花琳は密かに胸を高鳴らせる。皇太子殿下に直接お会いすることは叶わなくとも、きっと後宮には当時のことを知っている人間がいるはずだ。話を聞くことも、なにかしらの情報を得ることも可能かもしれない。
どうか引き受けると言って欲しい、という心のうちの願いが届いたのか、桜綾はその表情のままため息交じりに哉藍の問いに答える。
朝まで飲んでいるというのなら納得の量だが、そんな生活が身体に負担にならないわけがない。
(もう少し、減らすようにお願いしなきゃ……)
はあ、と小さくため息をつくと、花琳は「ここはもういいよ」という周夫人の声に送られて自分の部屋へ戻った。本当は、弟子になったからにはもう手伝いはいいと言われている。桜綾の身の回りのことだけしてくれればいいと。
周夫人は、それだけでも大変だろうと言ってくれる。けれど、これまで下働きとしてこき使われていた花琳は、何かしていないと落ち着かないのだ。
結果、桜綾が起きだしてくる昼過ぎまでは、周夫妻を手伝い、空いた時間は道術の本を読んで自習する、ということになっている。
この日も、花琳は午前中をそのようにして過ごすつもりだった。読み込みすぎてすっかりくたびれた道術に関する本をめくりながら、気付いたことを紙に書き出してゆく。午後の桜綾の講義では、まずここを質問して……とぶつぶつ呟いていると、戸の向こうから周夫人の声がした。
「花琳ちゃん、申し訳ないんだけどちょっと買い物に出てくるから」
「あ、はぁい」
出入りの商人はいるが、来るのは月に二度程度。普段はこうして買い物まで周夫人がしてくれる。その際には、夫の周も荷物持ちとして着いていく。
その間、来客があれば――まあ、ほとんどないのだけれど――対応するのが花琳の役目である。
了解の旨を告げると、じゃあよろしく頼んだよ、という言葉と共に周夫妻は出かけて行った。
それから一刻もたたないうちのことである。
「どなたか、いらっしゃるか」
門の辺りから大声で呼ばわる声がして、花琳ははっと顔をあげた。慌てて立ち上がった拍子に机の角に足を打ち付けてしまい、悶絶する。涙交じりの声で必死になって、花琳はその声に「はあい、ただいま!」と大きく答えた。そのまま時折足をさすりながら、外へ出る。
するとそこには、一人の青年が佇んでいた。
一見すると、年の頃は二十前後。花琳よりも頭一つ半ほどは大きく見える立派な体躯に、上質な袍を纏っている。漆黒の髪と目は紅国ではごく一般的なものだ。
だが、花琳の目を奪ったのはなんといっても青年の顔立ちだった。少し釣り気味に見える涼やかな目元、すっと通った鼻筋に、形の良い唇。ちょっとそこらではお目にかかれないような美男子である。一種近寄りがたさを感じて、花琳は一歩後退った。
すると、青年は訝しげな顔つきになり、戸惑ったように口を開いた。
「んん……その、ここは游道士の邸で相違ないか」
「え、あ、はっ……はい」
どうやら間違いでもなんでもなく、桜綾を訪ねてきた客に相違ないらしい。慌てて返事をした花琳は、心の中で首を傾げた。
(こんないい男……というか、こんなまともそうな人が、師匠になんのご用なのかしら……?)
なんといっても、桜綾は「変人道士」として名高い女性だ。それでも依頼に来る人間がいないではないが、それこそまともな道士ではとりあってももらえないような些細なものばかり。
とてもじゃないが、こんなまともそうな人物が依頼に来るようなところではない。
(ああ、前に聞いたことのある、婿入り希望の弟子入り志願者かしら……?)
それならば納得がいく、かもしれない。なにせ游家は名門だ。繋がりが持てればいいという輩はまだまだいるだろう。それに、外に出るときの彼女はまともな格好をしたなかなかの美女である。そうした噂に惑わされる輩も少なくない。
花琳は桜綾の年齢を知らないが、そういう輩には彼女の年齢などどうでもいいのだろう。
はあ、と小さくため息をつくと、花琳は仕方なく青年を中に通すことにした。彼がどういうつもりにせよ、桜綾への客人を断る権限は花琳にはない。
(ま、どうせすぐに逃げ出すに違いないわ)
彼を邸の応接室に案内すると、花琳は「ただいま呼んでまいります」と頭を下げて桜綾の部屋へと向かった。
「師匠、ちょっと……お客様ですよ!」
「んん……」
呆れたことに、桜綾はまだ牀榻の中でうとうととまどろんでいた。そろそろ昼も近い。起きてくるころだろうと思っていたのだけれど。
大きなため息とともに、慣れた手つきで桜綾の布団をはぐ。
「桜綾師匠、お客様です。男の方ですけど……どうします?」
「ん、そうか……来たか」
桜綾はその言葉を聞くと、むくりと起き上がって軽く頭を振った。それから、仁王立ちした花琳に向って「準備していくから、おまえが相手をしていておくれ」と言うとのそのそと立ち上がる。
花琳はびっくりして目を丸くした。
「わ、私がですか……?」
「ああ。それから、話を聞く時は同席するように」
それだけを言うと、桜綾は足元に転がった酒甕をぺしっと足で転がして、立ち上がる。
花琳は首を傾げながらも、師匠の言葉に従って部屋を後にした。
とりあえず茶の支度をしてから、青年を待たせた部屋へと戻る。声をかけて室内へと入ると、彼はひくひくと鼻をうごめかせていた。
桜綾の趣味で、邸の中には一風変わった香の香りで満たされている。慣れない匂いに戸惑っているのだろう彼の表情が面白くて、花琳はついくすりと笑ってしまった。なんだか近寄りがたい空気の青年だと思っていたが、案外かわいいところもあるものだ。
「お客様、どうぞ」
「ん、ありがたくいただこう」
中央からここまでは、少しばかり距離がある。ここまでの道中で喉が渇いていたのか、青年はそれを一気に飲み干してしまった。
あら、と小さく呟くと、花琳は茶のお代わりを用意してやる。さすがに今度は一気に飲み干すようなことはなかったが、彼は再度茶碗を口元に運んで一口味わう。
ふう、と小さなため息とともに口角がわずかに上がったところを見ると、どうやらお気に召したらしい。
(見た目より表情豊かな方ね……)
最初よりもずっと親しみやすさを感じ、それと同時に少しばかりもやもやした気持ちにおそわれる。もしも桜綾がこの青年を気に入れば、彼は婿候補の一人になるのだろうか。
花琳は彼の対面に腰を降ろすと、じっと青年の姿を見つめた。
(師匠は、この方が来ることをあらかじめご存じだったみたいだし……もしかしたらもしかするのかも……)
もし、桜綾が結婚することになったら、花琳はどうなるのだろう。このまま弟子として傍に置いてもらえるのだろうか。
きっと胸がもやもやするのはそれが不安だからだ。じっと押し黙ったまま、花琳は桜綾が現れるのをいまかいまかと待ち続けた。
「待たせたね」
桜綾の声に振り返った花琳は絶句した。
来客だと告げたにも関わらず、彼女はいつもどおりのだらしない格好だ。辛うじて襦裙を身に着けているものの、着方は雑。髪も適当にまとめたと見えて、ところどころが飛び跳ねている。
こんなことなら、身支度を整えるところまで見届けるべきだった、と花琳は激しく後悔した。しかしそれも後の祭りというやつだ。
だが青年はそんな桜綾の姿にも驚きを見せず、軽く一礼すると着席を待って用件を切り出す。
「お時間をいただき感謝する。游道士にご依頼したき儀があって参上した」
「硬いねぇ……」
桜綾が呆れたように呟くが、花琳にしてみればこの場でもっとも呆れられるべきは桜綾の恰好である。隣に座った桜綾のひじをこつんとつついたが、彼女は素知らぬ顔だ。
だが青年はそれもまた気にすることなく話を進めていく。
「依頼したいのは、亡霊祓いだ」
「へえ」
青年の顔をじろじろと見ながら、桜綾が気の抜けた相槌を打つ。花琳は「もう」と小さく呟いて憤慨した。あまりの失礼な態度に、胃がきりきりと痛みを訴える。
しかしその一方で、なんだかほっとした気持ちにもなっていた。
(依頼人だったんだ……)
それはそれで驚きだったが、心配事の種が減って胸をなでおろす。心の余裕らしきものまで産まれて、花琳は向かい側の青年を改めてじっくりと見た。
目鼻立ちが整っているのは先程も感じた通り。さらに付け加えるのなら、青年は背筋がぴんと伸びた綺麗な姿勢をしている。
もしかすると、彼はどこかの貴族に、しかもかなりの高位貴族に仕える武人なのではないだろうか。着ているものの上等さも、堅苦しい態度も、それからこの姿勢も、それならば納得がいく。ふと異母兄の面影が脳裏を過って、花琳は小さく苦笑した。
文官だった俊豪は、ちょっと身体の線が細かったが、目の前の彼はもっとしっかりとした体格だ。
花琳がそんな風に彼を観察している間にも、二人の会話は続いていた。
「亡霊祓いとは言うが、詳しいことを話してもらわんことには、判断しかねるな」
「詳しいこと、か」
そこでいったん言葉を切ると、彼は「ふむ」と呟いて花琳のことをちらりと見た。じっと青年を見つめていた花琳は、その視線とばっちり目が合ってしまい慌ててしまう。
けれど、その瞬間――不意に彼の瞳がゆらりと別の、もっと薄い、茶色っぽい色に見えた気がして思わず目を瞬かせた。ごしごしと目を擦ってからもう一度視線を戻すが、その時にはもう彼の瞳は先程と同じ黒い色をしている。
(え、なに今の……?)
花琳がそんな風に戸惑っている間にも、桜綾は彼の視線の意味に気付き肩をすくめて言った。
「この娘は私の弟子だ。亡霊祓いにも同行してもらうつもりだよ」
「む、左様か。それは失礼をした」
軽くこちらに向けて頭を下げた青年は、改めて自分の名を哉藍と名乗った。さるお方にお仕えする武人で、今日はその主の意向で桜綾の元へ来たのだという。
それについては、事前に手紙で桜綾に告げてあったらしい。知らなかった花琳は、少し頬を膨らませた。
(まったく師匠ったら……来るとわかっていたんじゃないの……!)
それならそうと言っておいて欲しいし、準備もきちんとしておいて欲しい。だが、もとから桜綾がどれだけだらしない生活を送っているかを考えれば、今日がその日だと気づいていなかった可能性もある。
花琳は小さくため息をつきながら、話の続きを聞くべく居住まいをただした。
「亡霊祓いをお願いしたい場所は、後宮だ」
「こっ……後宮って、後宮ってあの!?」
思わず大声で叫んでしまって、慌てて口を押える。そんな花琳に、桜綾はくつくつと笑い声をあげた。だが、向かいに座った哉藍は重々しく頷いただけだ。
「いかにも。お二人は今、後宮で何が行われているかご存じか?」
「い、いえ……」
答えてしまってから、花琳は慌てて横の桜綾の反応を窺った。だが彼女は面白そうににやにやと笑うと「ああ、知っている」と頷いた。
「後宮では今、皇太子殿下の妃選びをやってるんだろう」
「その通りだ」
もう一度頷いた哉藍が、仔細について語り始めた。
「皇帝陛下が病床に臥されていることは、既に知っておられるだろう。現在は万が一に備え、皇太子殿下が即位するときに皇后となるべきお方を選定するための妃選びが行われているのだが……」
「皇太子殿下は、もう二十三におなりだろう。これまで後宮はなかったのか?」
桜綾が問うと、ああ、と哉藍は肯定の返事をした。なんでも、皇太子殿下はまだまだ後宮を持つ気はなかったのだという。
皇帝が病に臥してからもう二年。だが、その間にいろいろとあり、そもそも後宮に目を向けられるだけの余裕がなかったのだ。
しかし、即位するとなれば皇后が必要となる。少なくとも、ここ紅国では何代にもわたって皇帝の即位時には皇后もともに立つのが慣例となっていた。したがって渋々ながら、皇太子殿下は後宮に妃候補集めを始めるしかなかったのである。
そんなことを、哉藍は苦笑交じりに語ってくれた。
「しかし、おかげで少々知らぬ顔が後宮内に増えてもおかしくない。助かったともいえるが……」
そこで小さく吐息をこぼすと、彼は机の上の茶碗に手を伸ばした。口を付けて唇を湿らせると、再び話に戻る。
「そもそも、後宮で亡霊を見たと言い出したのは、そうして集められた妃候補の一人なのだ。名を張笙鈴という……八つになる女児だ」
「や、八つぅ……!? 十八の間違いじゃなくて!?」
またしても大声をあげた花琳に向って、哉藍は肩をすくめて頷いた。
そういえば、張、という姓には聞き覚えがある。現在の右僕射だったか、とにかく臣下の中で一番くらいにお偉い方の名前がそうだったはずだ、と花琳は記憶の底からその名前を引っ張り出した。確か、娘は今の皇帝の妃のはずだ。それくらいは世情に疎い花琳にも知識があった。
となると、今度は次世代の皇帝の外戚となるべく、親族からねじ込んだのだろう。
(呆れたものね……)
先程桜綾は、皇太子殿下は二十三歳だと言っていた。相当な年の差になるだろう。ええと、と頭の中で計算し、答えをはじき出した花琳は「うええ」と小さな呻き声を上げた。
(十五も離れてるの……!)
いくらなんでも十五歳差となると、選ぶ方にとっても選ばれる方にとっても、あまりにもひどい話である。
皇太子殿下が幼女趣味でもない限り、万が一圧力をかけられて選ばれたとしても、お互い不幸になる結末しか見えない。皇帝の妃ともなれば愛情のあるなしは関係ないのだろうが――それではあまりに笙鈴という少女がかわいそうに思えた。
「……その笙鈴……様が亡霊を見たと最初に言い出したのが、おおよそひと月ほど前だ。初めは、突然後宮に連れてこられ不安なのだろう、そのせいで何かの影をそう思い込んだのだろう――と、誰も取り合わなかった」
「そんな、ひどい……」
八歳なんて、まだまだ父や母に甘えたい年頃だ。高位貴族の子女ともなれば、後宮に上がることは栄誉であると言い聞かせられてはいるだろうが、同じ邸内に両親がいるのといないのとでは、全く気持ちが違うだろう。
花琳だって八歳の頃を思い返してみても、両親と優しい異母兄に囲まれて楽しく過ごしていた記憶しかない。だがそのすぐ後に両親を亡くして心細かったことも、併せて思い出してしまい、一瞬胸がちくりと痛む。
それを振り払い、花琳は少女の心中を思って胸の前でぎゅっと手を組み合わせ、眉根を寄せて小さなため息をもらした。
「だが、ここに来たくらいだ……ことはそれじゃあ収まらなかったんだろう?」
「うむ」
黙って聞いていた桜綾がそう口をはさむと、哉藍も眉根を寄せそれに頷く。
「笙鈴様についてきた侍女たちも、揃って同じようなことを言い始めたのだ。それで、放置できなくなった。主はこれが噂になる前になんとかしたい、との仰せでな」
「それなら、朝廷にはお抱えの道士がいるだろう」
「……あやつらには頼めぬ事情がある」
最後の言葉には、どこか怒りめいた――いや、むしろ憎しみめいた感情が込められているように聞こえて、花琳ははっと顔をあげて彼の顔を見た。その瞳には、なにか激情を堪えるかのような色が浮かんでいて、心臓がどきりと跳ねる。
きっと、何か触れてはならない心の奥底にその事情が秘められているのだろう。そんな風に、花琳には思えた。
「そうか」
だが、そんな事情を忖度したのかどうなのか、桜綾は短くそう答えただけにとどまった。
そのまま、部屋の中にはしばらく沈黙が落ちる。
「……それで、引き受けるとして――後宮へはどういった形で入るのだ」
「引き受けていただけるのか」
沈黙を破るように、桜綾が口を開いた。その言葉を聞いて、哉藍がぱっと表情を明るくする。すると、桜綾はそんな彼に向って小さく肩をすくめて見せた。
その表情は、どこか困った身内を見ているかのような、仕方がないなあとでも言いだしそうな様子に見える。まるで花琳が異母兄にわがままを言ったとき、彼が浮かべていたのと同じような、そんな空気を桜綾の表情に見て、きゅうと胸が疼いた。
(そうだ……異母兄さま! もしかしたら、皇太子殿下のお近くにいけるのなら……俊豪異母兄さまのことを、なにか聞けるかも……?)
脳裏にひらめいたそんな考えに、花琳の目が輝いた。
花琳のような小娘が、朝廷に近づけるはずもない。これまで異母兄のことを案じながらも手がかり一つ探すことはできなかったが、もしかしたらなにかしら事情を知っている人物に出会うことができるかもしれない。
にわかに光明が見えて、花琳は密かに胸を高鳴らせる。皇太子殿下に直接お会いすることは叶わなくとも、きっと後宮には当時のことを知っている人間がいるはずだ。話を聞くことも、なにかしらの情報を得ることも可能かもしれない。
どうか引き受けると言って欲しい、という心のうちの願いが届いたのか、桜綾はその表情のままため息交じりに哉藍の問いに答える。
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