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18、また行き倒れですわ〜!
しおりを挟む「行き倒れに出会う運命なのかしら」
くだらない事を考えながらも、ひとまず呼吸を確認する。……息はある。熱もない。
鼻に揚げたてのつくね揚げ棒を近づけてみる。嗅いだ。
「さか……な……?」
「空腹で行き倒れですの?ほらほら、揚げ物じゃなくてまずは飲み物のみなさいな、飲ませてさしあげますわ~!」
さすがに空腹の人間に揚げ物はやばいだろうということで、まずはさっき買った海鮮出汁スープを飲ませる。嚥下を確認。少しおいて、何度か飲ませた。
「う、うう……」
「そのうち意識が戻りそうですわね。一安心ですわ」
手を出してしまったからには、さすがにこのまま放っておくことはできない。ひとまず、宿屋に連れていくかと、背負うことにした。
「なんだい、行き倒れかい?そんなに汚れてはないようだね……いいよ、部屋に連れていきな。そいつの今日の宿代はまけといてあげるよ。飯の追加は必要になったら言いな!」
「たすかりますわ~!あ、これ、市場で買ったやつですの。晩御飯にお願いしますわね!調理代はあとで出しますわ~!」
「いろいろ買ったねぇ……うちの旦那に任せな!」
宿の部屋に、行き倒れを連れていく。
ベッドに転がして、意識が戻るのを少しまつ。
すぐに意識を取り戻した。
目をあけ、顔をふり、まわりを見渡すのを確認する。
「はなせますか?」
「……にゃい」
「にゃ?……どこか痛んだりはいたしませんこと?」
「……大丈夫」
「無口な方なのね、理解しましたわ~!」
必要最低限の発語しかないタイプだ。まあ、言葉が通じるだけありがたい。
「ありがとう、スープ」
「いえいえ、ノブレス・オブリージュですわ~!」
高貴なる者の義務、とはいうが、ボタンは身なり以外は別になんでもないただの9級冒険者である。底辺とは言わないが、上流階級では絶対にない。
「私、レナ。猫獣人」
「わたくしは薔薇小路牡丹!人間のお嬢様ですわ~!!」
「……お嬢様」
「お嬢様、ですわ~!!」
「すごい」
「すごいんですの!あ、あと9級冒険者ですわ~」
「冒険者……?」
話を進めていき、いろいろとわかった。
まず、レナは猫獣人の特異種。見た目がほぼ人間で、猫耳としっぽがあるだけらしい。
普通の獣人は、全身毛むくじゃら、肉球もあり、言うなれば獣を二足歩行にして指をちょっとのばしたようなものらしいが、レナはほぼほぼ人間だ。
毛が黒いのも相まって、獣人の村ではあまり良い待遇ではなかったらしい。力も敏捷も獣人ほどではなく、獣人からしてみればちょっと気持ち悪い“毛無し”、しかも少ない毛も忌み色だというのだから。
それでも過激な迫害などはなく、せいぜい友達ができない程度で、とりあえずは成人までは村に置いておいてくれたのは、やはり獣人が仁義と情に厚い種族だからだろう。いくら気持ち悪いと言っても、子供に罪はない。成人になるまでは、村の一員で居られた。
「で、成人になったから村を出てきて、美味しそうな匂いのする方へ旅をしていくうちに、エフェリアに到着、到着したはいいが字は読めないしお金もないからなにもできず、路地裏で力尽きた、ですわね」
「うん」
「うーん、絶妙にポンコツの匂いがしますわ~!」
「におう……?獣人だから……?」
「そういうんじゃないんですのよ?あ、いや、でもたしかに芳ばしい匂いはするかも……」
猫は芳ばしい匂いがするのである。
「一宿一飯の恩、なんでもする」
「女の子がなんでもするなんて言ってはいけませんわよ!……というか何が出来るんですの?戦えるなら冒険者として手伝ってもらえそうですけれど」
「戦える」
「良い拾いものしましたわ~!!」
言い方こそ悪いが、実際そうであった。
レナのスペックは、まとめるとこんな感じである。
レナ 15歳
レベル5
種族 猫獣人(特異種)
スキル 夜目
夜間能力アップ(小)
嗅覚補助(小)
聴覚補助(小)
関節可動域増加(小)
魔法 黒『魔銃』
(聞き取りでわかった範囲のみ記載)
「また黒魔法ですわ~~!!」
珍しいんじゃなかったのか?と思うボタンであった。
しかし、これは、たしかに戦力になりそうである。
その後、宿屋のおばちゃんが、晩御飯としてボタン用の海鮮いろいろセットと、行き倒れ用の栄養たっぷり海鮮スープ粥を持ってきてくれた。
めちゃくちゃ気が利く宿屋である。この町にいる限りは、ずっとここに泊まろう。そう思うボタンであった。
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