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冬籠がはじまるよ その6
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「とーさまーっ!!!」
勢いよく駆け込んでくる息子を抱き止めそのまま天井にむかって持ち上げる。
「きゃーっ、たかい!」
母にされるよりも格段に景色のいい ”たかいたかい” に大はしゃぎの息子をみてマリアンヌの心のうちには温かいものが溢れてくる。
本当はすぐそばでその戯れに参加したいマリアンヌだが、昨夜のアレやコレやで立ち上がることができないでいた。
ベッドからなかなか出てこない母に気づいたカイルがリオネルにねだり、ベッドの側まで抱っこで移動する。
「かあさま、ごびょうき?」
朝だというのに寝着でベッドに入ったままのマリアンヌを心配そうに見下す。
母を心配しながら父のシャツを握りしめる姿に余計な心配をかけてしまっていることを申し訳なく思う。
「大丈夫よ、かあさまちょっとお眠なだけだから」
笑顔でそう伝えると、じゃあもっとねましょうねとリオネルの腕の中からこちらに向かって子守唄を歌ってくれる。いつも歌ってあげていた唄だ。
「ふふふ、あぁかあさまカイのお唄で気持ちよく眠れそう」
わざとらしくふわぁ、とあくびの真似をすると一層大きな声で歌ってくれる息子天使すぎる。
「じゃあ、とう様とカイもかあ様の隣でもう一回眠るか?」
リオネルがそういうと歌うのをやめて瞳を見開きカイルは大喜びだ。
「いいのっ!?とーさまとかーさま3人であさからおひるねいいの?」
その様子を同じ部屋の中で伺っていたリリーが突然会話に乱入する。
「だめでーす! カイ様と婿様は先に朝食に食堂へ行ってくださいまし。お嬢様はお支度しましたら私が責任を持って食堂へ連行しますので」
ずいずいっと私たちの方へ近づくと、昨夜の事後の痕跡がうかがえる寝具をベリっと剥がす暴虐侍女様。
「きゃっ、やだリリー恥ずかしい」
「やだはずかしいぃ、じゃねえんですわお嬢様。今日お洗濯逃すと大変なんですよ」
確かに、冬籠直前のこの時期の晴れた天気は貴重だ。
マリアンヌは寝着の前合わせをきつく握って、すみませぇんとよろよろとベッドから降りる。
両足を床につけ立ち上がろうとしたところでよろけてしまい、カイルを抱き抱えたままのリオネルに支えられる。
「大丈夫か?」
耳元で優しく囁かれ、立ち上がった拍子に昨夜の残滓が脚に流れ出すのでマリアンヌは真っ赤になっている。
「だ、だいじょぶじゃない・・・」
消え入るような声で支えられたままリオネルにしなだれかかる。
「かあさまおかおまっかよ、おねつですか?」
またもや余計な心配を息子にさせてしまい恐縮です。
「かあさまは大丈夫だよ、ちょっと暑かっただけさ。さぁ、ここはリリーさんに任せて俺たちは食堂へ行くか。今日の朝ごはんはなんだろうなぁ?」
「はい、とーさまとあさごはんにいきます。かあさまおさきでまってますよ」
昨夜はいつもより早くねかせてしまったし、すでにいつもの朝食の時間はすぎているのでカイルはお腹がすいているのでしょうね。
「わかったわ、とう様を食堂へご案内よろしくねカイル」
はい、と元気よく返事をしリオネルの腕からおろしてもらったカイルは勢いよく扉の方にかけて行った。
「じゃぁ、あとでな。まってる」
そういってマリアンヌの頬にキスを一つ落とすとリオネルはもう一人の最愛の元へ軽い足取りで向かっていった。
「はぁあ、朝からゲロ甘ですわ。甘すぎて目に毒です」
そう言いながらテキパキとシーツを剥がしていくリリーを見ているとあることに気づく。
「あれ?リリーなんだかシーツの枚数が多くない?」
「・・・ふっ、水漏れ対策は万全なんですよお嬢様」
一瞬なんのことかと首を傾げたが、はっとその真意に気づきまたもやマリアンヌは真っ赤っかである。
「なっ、なんて、、そんな、、ぬらしてない、し、多分、、、」
「気にすることはないですよ、存分にお励みください。そして早くカイ様にご弟妹を。天使が増えるならばリリーはいくらでもカイ様をお預かりしますしお洗濯もいたしますよ」
にししし、とカイLOVEなシゴでき侍女は私をみやり不敵な笑いを浮かべる。
「お、お洗濯は自分たちでやります・・・」
この冬籠でさてさてどれだけのシーツを洗うことになるだろうか、と考え頬を赤くしっぱなしの子持ち新婚マリアンヌであった。
なんとか身支度を終え、ひょこひょこ歩きで食堂までやってきたマリアンヌは自分以外の家族が一堂に介しているのを見た。
「おそくなり申し訳ございません」
軽く会釈をして席に着くと、みなからおはよう~と挨拶が返ってくる。
「まぁ、あまり無理はするなよ・・・」
と、父はこちらをみずにリオネルを一瞥してから再度スープを飲み始める。
「かあさまはここね、ぼくのおとなり」
父と母に挟まれて座る新しい席位置を喜んでいる。
「姉様、体調お悪いの?今日のお鍋磨きはやめておいたら?」
「ねえ様、私がねえ様の分もしっかり働くから今日はリオネル様とカイとゆっくりしなよ!」
頼りになる妹たちが私たち新しい家族を労ってくれるのが胸にジワリとくる。もうすっかりリオネルを受け入れているようだ。
「ありがとう、でも大丈夫。お鍋磨きを終わらせてから3人で部屋の準備する予定だからそれまではしっかり今日も働くわよ」
お鍋磨きって何?とキョロキョロしているリオネルの様子に気づいたマイが説明をする。
「リオネル様、お鍋磨きというのは冬籠期間中に厨房だけでなく室内の火元でも湯を沸かし立てるのに使う鍋を大量に用意することを言うのです。普段はつかっていない鍋を冬籠に合わせて蔵から出して湯を通し錆を落とす一連の準備です。かなりの量のお鍋が家中にひっぱりだされて皆で磨いていくんです」
「あと、あとね、ねえ様があげいも用に開発した小さなお鍋もたくさんあるからそれは油どおしっていうやつをやるの。それがあるとね冬籠の間、あげいもが食べ放題なのよ」
うっとりとした様子であげいもを語るアミに、あげいもが今ひとつピンときていないリオネルは困り顔である。
「あとでお鍋磨きも、あげいもも披露するからね。冬籠までの期間はいそがしいわよ~、リオネルも貴重な働き手なんだからバシバシこき使うんだから」
「マリー、ほどほどにね。リオネル様には鍛錬と騎乗訓練もあるんだから」
アザミの言葉に、そういえばそれもあったと思い出し家族3人でゆっくりなんて言うのは冬籠が始まるまで延期だわと頭の中の予定を修正した。
「「リナ・ミナもたんれん~」」
可愛い顔してアザミにそっくりの気性の双子の妹はいち早く基礎鍛錬を開始しておりそれが楽しくて仕方がないらしい。
「リナ、ミナ、リオ様をよろしくね」」
2人は顔を見合わせにこりと笑うと、
「「リナ・ミナせんぱい~」」
と請け負ってくれた。先輩、ってわかっていっているのかしら?
「リオネル様、、、あの。騎乗の訓練は冬籠前はさほどできませんが獣舎で騎獣たちをご覧になりますか?」
以前はリオネルに対してトゲトゲした態度だった弟ユリスだが、今は心をだいぶ開いてきたようでなんなら構って欲しそうにそわそわとリオネルを気にしている。
ユリスは、今はたくさんの妹と甥っ子に囲まれているが、根っからの弟気質で兄姉に構われたいタイプなのである。
家族みなにあれやこれやといわれて大丈夫なのかしらと、隣のリオネルをみると急に俯いて顔を覆ってしまった。
「どうしたの?気分が悪いの?」
昨日は強行軍で帰宅し、その後明け方近くまで大盛り上がりしてしまったのだから、もしかしたらつい最近まで廃人生活をしていたリオネルにはきつかったのかもしれない。
「・・・ちがう、ちがうんだ。なんかこういうのいいなっ、って感動してしまって」
泣き笑いの顔を上げたリオネルのとなりからカイルはナフキンをもって椅子に膝立ちになると、父の涙を優しくとんとんしている。
「とーさま、どこかいたい?」
そんな息子を膝の上にかかえ抱きしめてさらに泣き出してしまったリオネルに、ファルマ家のみなは最初びっくりしていたがひとりまたひとりとリオネルの席に近づいて頭をなでたり背中をなでたり膝に乗ろうとしたりと、その様子はまるでひとかたまりのお団子のようだった。
マリアンヌはそのお団子の隣でもらい泣きをしていた。
勢いよく駆け込んでくる息子を抱き止めそのまま天井にむかって持ち上げる。
「きゃーっ、たかい!」
母にされるよりも格段に景色のいい ”たかいたかい” に大はしゃぎの息子をみてマリアンヌの心のうちには温かいものが溢れてくる。
本当はすぐそばでその戯れに参加したいマリアンヌだが、昨夜のアレやコレやで立ち上がることができないでいた。
ベッドからなかなか出てこない母に気づいたカイルがリオネルにねだり、ベッドの側まで抱っこで移動する。
「かあさま、ごびょうき?」
朝だというのに寝着でベッドに入ったままのマリアンヌを心配そうに見下す。
母を心配しながら父のシャツを握りしめる姿に余計な心配をかけてしまっていることを申し訳なく思う。
「大丈夫よ、かあさまちょっとお眠なだけだから」
笑顔でそう伝えると、じゃあもっとねましょうねとリオネルの腕の中からこちらに向かって子守唄を歌ってくれる。いつも歌ってあげていた唄だ。
「ふふふ、あぁかあさまカイのお唄で気持ちよく眠れそう」
わざとらしくふわぁ、とあくびの真似をすると一層大きな声で歌ってくれる息子天使すぎる。
「じゃあ、とう様とカイもかあ様の隣でもう一回眠るか?」
リオネルがそういうと歌うのをやめて瞳を見開きカイルは大喜びだ。
「いいのっ!?とーさまとかーさま3人であさからおひるねいいの?」
その様子を同じ部屋の中で伺っていたリリーが突然会話に乱入する。
「だめでーす! カイ様と婿様は先に朝食に食堂へ行ってくださいまし。お嬢様はお支度しましたら私が責任を持って食堂へ連行しますので」
ずいずいっと私たちの方へ近づくと、昨夜の事後の痕跡がうかがえる寝具をベリっと剥がす暴虐侍女様。
「きゃっ、やだリリー恥ずかしい」
「やだはずかしいぃ、じゃねえんですわお嬢様。今日お洗濯逃すと大変なんですよ」
確かに、冬籠直前のこの時期の晴れた天気は貴重だ。
マリアンヌは寝着の前合わせをきつく握って、すみませぇんとよろよろとベッドから降りる。
両足を床につけ立ち上がろうとしたところでよろけてしまい、カイルを抱き抱えたままのリオネルに支えられる。
「大丈夫か?」
耳元で優しく囁かれ、立ち上がった拍子に昨夜の残滓が脚に流れ出すのでマリアンヌは真っ赤になっている。
「だ、だいじょぶじゃない・・・」
消え入るような声で支えられたままリオネルにしなだれかかる。
「かあさまおかおまっかよ、おねつですか?」
またもや余計な心配を息子にさせてしまい恐縮です。
「かあさまは大丈夫だよ、ちょっと暑かっただけさ。さぁ、ここはリリーさんに任せて俺たちは食堂へ行くか。今日の朝ごはんはなんだろうなぁ?」
「はい、とーさまとあさごはんにいきます。かあさまおさきでまってますよ」
昨夜はいつもより早くねかせてしまったし、すでにいつもの朝食の時間はすぎているのでカイルはお腹がすいているのでしょうね。
「わかったわ、とう様を食堂へご案内よろしくねカイル」
はい、と元気よく返事をしリオネルの腕からおろしてもらったカイルは勢いよく扉の方にかけて行った。
「じゃぁ、あとでな。まってる」
そういってマリアンヌの頬にキスを一つ落とすとリオネルはもう一人の最愛の元へ軽い足取りで向かっていった。
「はぁあ、朝からゲロ甘ですわ。甘すぎて目に毒です」
そう言いながらテキパキとシーツを剥がしていくリリーを見ているとあることに気づく。
「あれ?リリーなんだかシーツの枚数が多くない?」
「・・・ふっ、水漏れ対策は万全なんですよお嬢様」
一瞬なんのことかと首を傾げたが、はっとその真意に気づきまたもやマリアンヌは真っ赤っかである。
「なっ、なんて、、そんな、、ぬらしてない、し、多分、、、」
「気にすることはないですよ、存分にお励みください。そして早くカイ様にご弟妹を。天使が増えるならばリリーはいくらでもカイ様をお預かりしますしお洗濯もいたしますよ」
にししし、とカイLOVEなシゴでき侍女は私をみやり不敵な笑いを浮かべる。
「お、お洗濯は自分たちでやります・・・」
この冬籠でさてさてどれだけのシーツを洗うことになるだろうか、と考え頬を赤くしっぱなしの子持ち新婚マリアンヌであった。
なんとか身支度を終え、ひょこひょこ歩きで食堂までやってきたマリアンヌは自分以外の家族が一堂に介しているのを見た。
「おそくなり申し訳ございません」
軽く会釈をして席に着くと、みなからおはよう~と挨拶が返ってくる。
「まぁ、あまり無理はするなよ・・・」
と、父はこちらをみずにリオネルを一瞥してから再度スープを飲み始める。
「かあさまはここね、ぼくのおとなり」
父と母に挟まれて座る新しい席位置を喜んでいる。
「姉様、体調お悪いの?今日のお鍋磨きはやめておいたら?」
「ねえ様、私がねえ様の分もしっかり働くから今日はリオネル様とカイとゆっくりしなよ!」
頼りになる妹たちが私たち新しい家族を労ってくれるのが胸にジワリとくる。もうすっかりリオネルを受け入れているようだ。
「ありがとう、でも大丈夫。お鍋磨きを終わらせてから3人で部屋の準備する予定だからそれまではしっかり今日も働くわよ」
お鍋磨きって何?とキョロキョロしているリオネルの様子に気づいたマイが説明をする。
「リオネル様、お鍋磨きというのは冬籠期間中に厨房だけでなく室内の火元でも湯を沸かし立てるのに使う鍋を大量に用意することを言うのです。普段はつかっていない鍋を冬籠に合わせて蔵から出して湯を通し錆を落とす一連の準備です。かなりの量のお鍋が家中にひっぱりだされて皆で磨いていくんです」
「あと、あとね、ねえ様があげいも用に開発した小さなお鍋もたくさんあるからそれは油どおしっていうやつをやるの。それがあるとね冬籠の間、あげいもが食べ放題なのよ」
うっとりとした様子であげいもを語るアミに、あげいもが今ひとつピンときていないリオネルは困り顔である。
「あとでお鍋磨きも、あげいもも披露するからね。冬籠までの期間はいそがしいわよ~、リオネルも貴重な働き手なんだからバシバシこき使うんだから」
「マリー、ほどほどにね。リオネル様には鍛錬と騎乗訓練もあるんだから」
アザミの言葉に、そういえばそれもあったと思い出し家族3人でゆっくりなんて言うのは冬籠が始まるまで延期だわと頭の中の予定を修正した。
「「リナ・ミナもたんれん~」」
可愛い顔してアザミにそっくりの気性の双子の妹はいち早く基礎鍛錬を開始しておりそれが楽しくて仕方がないらしい。
「リナ、ミナ、リオ様をよろしくね」」
2人は顔を見合わせにこりと笑うと、
「「リナ・ミナせんぱい~」」
と請け負ってくれた。先輩、ってわかっていっているのかしら?
「リオネル様、、、あの。騎乗の訓練は冬籠前はさほどできませんが獣舎で騎獣たちをご覧になりますか?」
以前はリオネルに対してトゲトゲした態度だった弟ユリスだが、今は心をだいぶ開いてきたようでなんなら構って欲しそうにそわそわとリオネルを気にしている。
ユリスは、今はたくさんの妹と甥っ子に囲まれているが、根っからの弟気質で兄姉に構われたいタイプなのである。
家族みなにあれやこれやといわれて大丈夫なのかしらと、隣のリオネルをみると急に俯いて顔を覆ってしまった。
「どうしたの?気分が悪いの?」
昨日は強行軍で帰宅し、その後明け方近くまで大盛り上がりしてしまったのだから、もしかしたらつい最近まで廃人生活をしていたリオネルにはきつかったのかもしれない。
「・・・ちがう、ちがうんだ。なんかこういうのいいなっ、って感動してしまって」
泣き笑いの顔を上げたリオネルのとなりからカイルはナフキンをもって椅子に膝立ちになると、父の涙を優しくとんとんしている。
「とーさま、どこかいたい?」
そんな息子を膝の上にかかえ抱きしめてさらに泣き出してしまったリオネルに、ファルマ家のみなは最初びっくりしていたがひとりまたひとりとリオネルの席に近づいて頭をなでたり背中をなでたり膝に乗ろうとしたりと、その様子はまるでひとかたまりのお団子のようだった。
マリアンヌはそのお団子の隣でもらい泣きをしていた。
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