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そしてあなたのいない日々 その9
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いつになく騒がしい冬籠ももうすぐ終わりになる頃、砦と館を囲む白銀の世界に久々に明るい日差しが照りつけていた。
砦の塔に立つ兵士が館の方を見ると、久々に館の鎧戸が上がり窓を開放している部屋がいくつかあった。きっと換気をしているのだろう。館の周りの雪もかなり溶けて1階の窓が開かれているところもあった。
まだまだかなり冷たい空気のなか、館の警護にあたる兵士たちの耳に開けられた館の窓から聞こえるのは使用人たちの声だった。ざわざわとした声の中に拍手や歓声も混じっている。
「お、姫さんとこ産まれたのか?」
兵士の一人が館を見て誰に語るでもなく呟くと、きっとそうだとそれに応じる声が続いた。
この冬籠の前から赤子の誕生が続いていた館の中だが、マリアンヌのお産がこの時期最後であったため皆が注目していた。もちろん、領主の娘の初産ということもあるだろうが。
「ゆっくり休みなさい、子供は私が見ているから」
子供を胸に抱いたまま、じっと赤子をみつめて微動だにしない義娘にアザミは声をかけた。
しかし、マリアンヌはただただ産まれたばかりの赤子を胸に抱いたまま固まっているように見えた。
そんな様子のマリアンヌに強いることはせず、アザミは他の言葉を掛けた。
「マリー、お父様を呼んでもいいかしら?」
顔を覗き込むように優しく語りかける継母のそのセリフに、マリアンヌはようやく顔をあげた。
そして柔らかく微笑む。その微笑みはアザミの知るマリアンヌとは少し異なり、すでに母親のそれであった。
「はい、アザミ様。どうぞお呼びください」
マリアンヌのその応えを受け、アザミは廊下でずっとうろうろしていたカルドを呼んだ。
「カルド様、どうぞお入りください。あ、その前に消毒液をお使いくださいね」
勢いよく室内に入ろうとするカルドを扉の前で引き留め、消毒液を含めた手拭いを渡してからカルドのために使用人が廊下に用意していた炭鉢の火を消すように近くにいる使用人に指示を出した。
アザミが部屋に入ると、カルドはマリアンヌの枕元で直立不動で、いや震えていた。
「お父様、抱いてやってくださいますか?男の子です」
アザミが近づくとマリアンヌが困ったように差し出した赤子を空に掲げていた。
「カルド様、抱いてあげてくださいませ」
マリアンヌから赤子を受け取り、アザミはその赤子の顔を確認する。すやすやと眠っている。
産まれたばかりなのにふくふくとしたほっぺはハリのある美しい肌色である。
立ち尽くしたままのカルドの胸に赤子のおくるみを当てると自然に両腕があがり赤子を抱き寄せ顔を覗く様は、マリアンヌに始まり6人も子のいる父親としてなかなかしっかりとしている。
初孫の男児は、まだうまれてまもないのに瞳を溢れんばかりに開きこちらがまるで見えているかのように祖父の顔を見つめている。
その瞳の色は娘のそれともことなり、おそらくこの子の父親由来のものなのかと繁々と見つめてしまう。
髪の毛の色は主であったオリウス家の特徴である銀色がかった灰色で毛量の多さは、父親をしらないのでなんともいえないがマリアンヌが生まれた時のそれに似てふさふさである。
義姉アザレアと似た色味のそれらに、本当に娘がオリウス家の血筋を引く子をこの世に繋いだのだと感慨深く孫を抱きしめた。
このとき、カルド・ファルマはある決意をした。
ファルマ家にはじめての孫子がうまれたよく晴れた冬の朝から日々はすぎ、冬籠は終わった。
雪解けの水が煌めく中、産後の肥立もよく回復した若い母親マリアンヌは早速思い切り体を動かしながら広い領地の農地改革に着手した。
そして、以前から構想していたある技術への挑戦。
領地はもっと、もっとよく栄えて人々の幸せのためになるようにマリアンヌは動きだした。
もとより領地思いの勤勉な娘は、可愛い息子のためにこの地をさらに素晴らしいものにすることに心血を捧ぐ熱血おかあちゃんになっていくのであった。
砦の塔に立つ兵士が館の方を見ると、久々に館の鎧戸が上がり窓を開放している部屋がいくつかあった。きっと換気をしているのだろう。館の周りの雪もかなり溶けて1階の窓が開かれているところもあった。
まだまだかなり冷たい空気のなか、館の警護にあたる兵士たちの耳に開けられた館の窓から聞こえるのは使用人たちの声だった。ざわざわとした声の中に拍手や歓声も混じっている。
「お、姫さんとこ産まれたのか?」
兵士の一人が館を見て誰に語るでもなく呟くと、きっとそうだとそれに応じる声が続いた。
この冬籠の前から赤子の誕生が続いていた館の中だが、マリアンヌのお産がこの時期最後であったため皆が注目していた。もちろん、領主の娘の初産ということもあるだろうが。
「ゆっくり休みなさい、子供は私が見ているから」
子供を胸に抱いたまま、じっと赤子をみつめて微動だにしない義娘にアザミは声をかけた。
しかし、マリアンヌはただただ産まれたばかりの赤子を胸に抱いたまま固まっているように見えた。
そんな様子のマリアンヌに強いることはせず、アザミは他の言葉を掛けた。
「マリー、お父様を呼んでもいいかしら?」
顔を覗き込むように優しく語りかける継母のそのセリフに、マリアンヌはようやく顔をあげた。
そして柔らかく微笑む。その微笑みはアザミの知るマリアンヌとは少し異なり、すでに母親のそれであった。
「はい、アザミ様。どうぞお呼びください」
マリアンヌのその応えを受け、アザミは廊下でずっとうろうろしていたカルドを呼んだ。
「カルド様、どうぞお入りください。あ、その前に消毒液をお使いくださいね」
勢いよく室内に入ろうとするカルドを扉の前で引き留め、消毒液を含めた手拭いを渡してからカルドのために使用人が廊下に用意していた炭鉢の火を消すように近くにいる使用人に指示を出した。
アザミが部屋に入ると、カルドはマリアンヌの枕元で直立不動で、いや震えていた。
「お父様、抱いてやってくださいますか?男の子です」
アザミが近づくとマリアンヌが困ったように差し出した赤子を空に掲げていた。
「カルド様、抱いてあげてくださいませ」
マリアンヌから赤子を受け取り、アザミはその赤子の顔を確認する。すやすやと眠っている。
産まれたばかりなのにふくふくとしたほっぺはハリのある美しい肌色である。
立ち尽くしたままのカルドの胸に赤子のおくるみを当てると自然に両腕があがり赤子を抱き寄せ顔を覗く様は、マリアンヌに始まり6人も子のいる父親としてなかなかしっかりとしている。
初孫の男児は、まだうまれてまもないのに瞳を溢れんばかりに開きこちらがまるで見えているかのように祖父の顔を見つめている。
その瞳の色は娘のそれともことなり、おそらくこの子の父親由来のものなのかと繁々と見つめてしまう。
髪の毛の色は主であったオリウス家の特徴である銀色がかった灰色で毛量の多さは、父親をしらないのでなんともいえないがマリアンヌが生まれた時のそれに似てふさふさである。
義姉アザレアと似た色味のそれらに、本当に娘がオリウス家の血筋を引く子をこの世に繋いだのだと感慨深く孫を抱きしめた。
このとき、カルド・ファルマはある決意をした。
ファルマ家にはじめての孫子がうまれたよく晴れた冬の朝から日々はすぎ、冬籠は終わった。
雪解けの水が煌めく中、産後の肥立もよく回復した若い母親マリアンヌは早速思い切り体を動かしながら広い領地の農地改革に着手した。
そして、以前から構想していたある技術への挑戦。
領地はもっと、もっとよく栄えて人々の幸せのためになるようにマリアンヌは動きだした。
もとより領地思いの勤勉な娘は、可愛い息子のためにこの地をさらに素晴らしいものにすることに心血を捧ぐ熱血おかあちゃんになっていくのであった。
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