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それぞれの分岐点 その3−2

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雑然としたリオネルの研究室に人が座ることができるのは数箇所。
それぞれに三人が分かれて腰掛けている。

リオネルは奥の自分のデスクの椅子に腰掛け、応接ソファにサシャが、そして入り口近くのスペースに折りたたみ式椅子をひろげマリアンヌがそこにかけた。

なんとなく気まずい雰囲気がリオネルとマリアンヌの間にながれるが、サシャはへらへらと笑っている。

「それで、突然なんのようだ?今日はいないと言ったよな?」

(どういうこと?私が来るから、居留守を使ってサシャ様を遠ざけたということ?なぜ?)

「まぁ、そういうな。私とオマエの仲じゃないかぁ~、例のやつ持ってきたんだぞ」

(どんな仲!?)

「それは感謝する、だがそういう誤解を招くような発言はマリアンヌの前では避けてくれ」

(私の前では?私の前でなかったら良いの???)

「ははは、私には愛しのオリーがいるんだぞ」

(出たっ! ”愛しのオリー”    オリー? オリ、リオ、リオネルのこと?!私だけの相性のはずなのに、、、二人はいつの間にそんな関係に?)

絶対に自分だけだが彼の唯一と思っていたリオネルに自分以外の女性が隣に立つ可能性を思い浮かべいつになく過剰に動揺してしまう。思考が停止している。
冷静に文脈を捉えることができなくなってしまったお利口さんのはずのマリアンヌ。

「あの、私、急用を思い出しました。失礼します!」

マリアンヌは立ち上がると抱えていたカゴを入り口のところの台の上に乗せると扉をあけて急ぎ出ていってしまった。一瞬、動きと思考の停止したリオネル。

「な、何!? アン、明日まで一緒にいれるはずじゃ?!待ってくれっ!!」

引き止めようとするがリオネルの行手を阻むように雑然と置かれた書類や道具の山につまづき雪崩がおこり身動きが取れない。

「・・・アン・・・っ」

「あれれれ、もしかして私本当にお邪魔虫だった?」

空気を少しだけ読んだサシャ・ルーポはリオネルの放った殺気を軽くいなした。伊達にマロー・スピナ公爵令嬢の右腕として現場経験は積んでいない。

個室の外に放たれたいなされた殺気と冷気が漏れ出てしまい、疲労困憊で今日だけ乗り切れば連休だ~と喜んでいたリオネル部下ABCがバタバタと倒れていく。



マリアンヌはリオネルの縋る声を振り払い生産研究所の建屋を早足で進み、資料管理室までの道を急ぎ戻ろうとしていた。あと少しで事務本館だ。

すると曲がり角のところでボヨンっと何かにあたりよろけて道に転がってしまった。

「おやおや、マリーさんではないですか? 大丈夫ですか、さてさてどうしたんですかそんなに急いで。今日はお休みだったでしょう?」

マリアンヌをよっこいしょ、っと持ち上げ立たせると資料管理室の同僚オルソー・デルソルはぱんぱんと埃をとるようにマリアンヌのワンピースの裾を払った。

「おる、おる、おるオルソーさんっ、グスッ、うぐっ」

「あらあらこれはこれは。何か嫌なことがあったんですね。私でよければ話を聞きますよ。年の功でしょうか、話を聞くのは得意なんですよ。さぁ行きましょうね」

いつも元気で笑顔しか記憶にないような年若い同僚の涙に何かを悟ったオルソーはこの娘の涙を人の目に晒さないようにと考え、彼女を資料管理室までとりあえず連れて行こうとした。

自分たちの後方に大きな二人組の姿を認めたがそれがことの元凶のような気がしてマリアンヌを急がせその巨体で庇うようにして資料管理室への道を急いだ。
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