異世界領地経営記

ITSUKI

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とある駆け出しパーティーの分岐点(ターニングポイント)

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この世界に来て115日目。

俺はついに1戸建ての所有者オーナーになった。
ゴブたちが崖にくっ付くように建てた家が俺の住処だ。

まぁ、温泉風呂はダンジョン内だし調理洗濯は外にあるから、手前の広間と奥に左右2部屋。
最奥がダンジョンにあった俺の部屋の部屋しかない家だけど。

何のために左右2部屋あるのかは知らないが(棒)、今のところは倉庫扱いになっている。

それとは別に別に建てた小さな家が2軒。
テイムした(ように見せかけている)ゴブたちの住処とルーティア・カノンの住居だ。

3軒とも地下への隠し通路があり、ゴブリン農場に直通できる様になっている。

ある程度開墾した畑も広がり、既に『蒐集』から出した苗も既にいくつか植えている。

地上部ではダンジョン内機能の天候調整ができなかったので、水やりのために近場に10mほどの泉も設置した(ダンジョン機能)。
魚影も見えたので、そのうち漁も試してみたいところだ。

表で生活するゴブリンは10体。
どうやら毎日地上組のゴブリンはシャッフルされているらしい。
残りはダンジョン内の植物工場を日々拡張している。

収穫物をストレージに入れるよう呼び出されていた状況も、ルーティアがゴブたちに交渉して、朝夕2回向かうことで改善された。
収穫したものはコンテナに山積みにしてもらい、一気にインベントリに回収してコンテナだけ外に戻すのだ。

元のダンジョンの入り口を完全に封鎖すると、全てのダンジョンの機能が使えなくなったので、大人一人が無理なく通れるくらいの隙間が空いている。 
本来のダンジョンの入り口も藪や岩で見つかりにくいように細工。
ダミーのダンジョンを少し離れた所に仕込んである。

ダミーの上層はなるだけ広く掘り進め、迷路のように仕込んで旨味の少ないダンジョンに見せかける。
下層は農地を広げる予定なので2階層3階層…と上に開拓していくつもりだ。どう発展させるかは今のところ保留。

地下のゴブファームは、収穫物の半分ほどをSPに変換してゴブファームの空間拡張につぎ込んだ。
俺が不在になったときは、ゴブたちが食べる分程度の生産に減らして、農地を拡張してもらう予定だ。

罠や魔物を配置することなく延々とダンジョンを畑に拡張していく感覚、はダンジョン運営というより牧場系のゲームをやってる感覚が強い。

そのうち畜産も始めて見るか?
さすがに牛や豚は売ってないけど、ウズラや鶏は平飼いの自然卵で孵化させたって記事を見たことあるし。

「智様、申し訳ありませんが外の家の方まで来ていただけますか?」

今日の仕事も終わり(主に働いたのはゴブリン達だが)、息抜きにと『ショップ』で卵や孵化器を眺めているとルーティアが慌ててやってきた。

「カノンからの報告です。5人ほどの人間がこちらに向かってきているそうです」

 
 
 
俺たちは常時依頼のある肉や薬草の採取を受けてミルガ山に足を運んだ。

危険な魔物の報告はほとんどなく、何度も足を運んでいる場所なのでほんのちょっと油断があったのかもしれない。

採取を受ける冒険者や狩人には『森の掟』という決まりがあって、植物の採取は四半分残さなきゃならないし子連れの獣は狩ってはいけない決まりになっている。

これを守らないと森に住まう生き物も植物も全滅してしまうからだ。

中には守らない奴らもいるが、すぐにばれて厳しい罰を受けることになる。
酷い場合は奴隷落ちして死ぬまで鉱山で働かされるやつもいる。

話は戻るが、運が悪いことに3日程森にこもって収穫がほぼ0だった。
多少の蓄えはあるが、3日間ヘトヘトになるまで歩き回って収入0というのは堪えるものがある。

だからちょっと魔が差した。

いつもはいかない森の奥、そこに獲物を求めて入ってしまったのだ。

 
「ははは、すげぇじゃねーか。もう8匹目だぜリーダー。次からこの辺りまで足を伸ばさねーか?」

「そうね、シミッドルージュが出たのには驚いたけど、エーリヤがいるから麻痺毒は何とかなるもの、ねっ。幸いにもウルフやゴーレム系も見かけないし」

「えぇ~。でも、先輩に比べたら発動までに時間がかかりすぎますし、魔力も残り3回が限界ですよぉ。野営じゃほとんど魔力回復しないですし、今の実力からだと遠すぎますよぉ」

「そりゃ、いつも通りに助けてもらってたからな。慣れたところは俺らで踏ん張って魔力節約すりゃいけんじゃねーの?」

「………確かにこのレベルなら俺達でもなんとかなっているが情報が少ない。魔物こいつらで暫く分の稼ぎになるだろうし、一旦戻って情報を集めよう。問題なさそうなら少しずつ行動範囲を……ん、何の音だ?警戒」

ドドドドと地を駆る音が聞こえる。

慌てて木の上に登ったジュットを見上げる。

「げっ、リーダーヤバイ。左斜め後ろから土煙。恐らくスタンプボアだ。見つかってやがる」

「!!逃げるぞ!なるだけ大きな木や岩を背にして藪を突っ切れ。ヤツの加速をなるだけ落とすように動くんだ」

「フリージアが余計な事を言うから……」

「うっさいわね、言い出しっぺはあんたでしょ!」

「喧嘩は生き延びてからだ。さっさと逃げるぞ」

「「うっす(は~い)」」

ちっ、少し奥に進んだだけでここまで変わるか。
強権使ってでも帰らせればよかった。

討伐目安は一つ上ランクDだが、頑丈さと攻撃力に優れる魔物。
狩り方は、罠や麻痺毒で仕留めるか大楯で動きをそらして大木なんかにぶつけ、動きを止めたところを仕留めるのがセオリーだ。

Eランクのパーティーで、軽戦士×2と斥候兼狩人、魔法使いと治癒士じゃどうにもならん。

「いいか、倒すんじゃない。手傷を負わせてヤツに退散させるのが目的だ。生き延びて強くなったらスタンプボアなんてどうでもいいくらい稼げるからな」

仲間たちのいい返事を聞いて気合を入れ直す。

勝てないなら逃げる。
生き延びる。

一番最初にギルドで習ったことだ。

ジュットの指示を受け、何とか避けてちまちまと攻撃を繰り返す。

手傷を負い、安物の装備品にもダメージを負いつつ、暮れ前に何とか追い返すことが出来た。

流石に野営の準備をする暇無く、一晩過ごせる岩陰が無いか探していたところ、先行していたジュットから報告があった。

どうやらこの先に小さな家があるらしい。
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