年下の彼氏

人紀

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その3

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「クミ?
 何笑ってるの?」
「え?」
 わたしは笑っていたのだろうか?
「え、ああ、昔の彼氏の事を……」
と言いかけて、失言したと後悔した。
 彼女の元彼の話なんて、しかも、DV野郎の話なんて気持ちの良いものではない。
 そう思ったからだ。

 なのにリョウは、途端目を輝かせた。

 そして、「え? なになに教えてよ!」と無遠慮に聞いてくる。
 それに、わたしはイラっと来て、リョウの右腕を左手でまたしても殴った。

 その拍子に、またも車が少しぶれた。

 わたしはすぐに両手でハンドルを握って、車を安定させる。
「痛いな~それDVっていうんだよ!」
 リョウは不満げに声を上げた。
「女から男への暴力はDVっていわないの!」
「そうなの?」
 などと、わたしの暴論にリョウが目を丸くした。
 そして、前を向くと、なんか不公平だといいながら右手をさすっている。
 そんなわけ無いでしょう、とわたしは心の中で苦笑いをして、気付く。

 わたしは前の彼氏と同じ事をやっているのだという事を。

(最低だ……)
 心はぐんぐん沈む。
 前では大渋滞が起きているようで、車が何台も列を連なっている。

 わたしはその後ろに車を止めて俯いた。

「凄い渋滞だぁ。
 間に合わないかもしれないねぇ」
 などというリョウの吞気な声が聞こえてきた。
「ごめんね」
とわたしが言うと、リョウは少し驚いた声を上げて、
「クミは別に悪くないよ!
 間に合わなかったら、またの機会にすればいいじゃん」
と言った。
 そのリョウの明るい声が――今は胸を締め付けた。

 泣きそうになった。

 わたしは、フットサイドブレーキを踏んで、ギアをニュートラルにした。
 すると、リョウが肘掛けを上に上げて、わたしの膝に頭を乗せてきた。
「あ、こら!」
と注意しても、リョウはうれしそうに膝に頭を乗せた状態で、自分の体を寄せてくる。

 リョウは膝枕が大好きだ。

 本当に甘えん坊なのだ。

 わたしの暗い気持ちなど、消えてゆき、笑みが自然と浮かんだ。
 何となく、膝の上にあるリョウの頬を軽く抓ってみた。
 傷一つ無いそれは、弾力があってすべすべで、離したくなくなる触り心地だ。
「綺麗な肌ねぇ。
 うらやましい」
「ねえクミぃ」
 今度はリョウが少し暗い顔をしながら、つねられた手をそのままに上を見た。
「ん?」
とわたしが微笑み答えるとリョウは顔を前に向ける。
「なあに?」
 わたしはつねっている手を離し、努めて明るく微笑みながら訊ねた。
「クミもやっぱり、僕の顔がいいから付き合ってくれたの?」
とリョウが言った。
「ほかの人が聞いたら頭に来るようなセリフね」
とわたしは思わず苦笑した。
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