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その2
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「そういえば、リョウ。
あなた、自動車学校はいつぐらいで卒業出来そうなの?」
「あぁ~!
聞いてよ、クミぃ~」
リョウが情け無い顔で声を張り上げたので、わたしは苦笑いをした。
「もう自動車学校行くのいやになっちゃった」
などと言いながら、膝掛けに置いていたわたしの左手に自分の右手を絡ませてくる。
「指導員のおじさん達好きになれないよぉ。
たいしたことじゃないのにガミガミ怒ったり……。
どうせ女にモテるために免許取るんだろうとか、ある奴なんて綺麗な顔してるなぁって顔を触ってきたんだよ!
気持ち悪いよぉ。
指導員は女の人がいいよぉ。
何でうちの自動車学校、女の指導員がいないんだよぉ」
「いないんだったら、しょうがないでしょ?」
といいつつ、少し同情した。
半分はリョウが甘ったれなのが原因だろうが……
「ねえ、クミ~
クミが指導員やってよぉ~
クミがいい!」
リョウのパッチリと大きい目が、わたしに甘えるように見詰めて来る。
やはり、ドキっとしてしまう。
並の女なら、こんなとんでもない話ですら、なんとしてでも要望をかなえてやりたいなどと思ってしまう視線だ。
でも、わたしは負けない。
負けてなるものですか。
ちょうど、青になった事もあり、リョウとつないでいた左手をほどき、ハンドルを握りながら、馬鹿な事言わないの、出来るわけ無いじゃないと言って、アクセルを踏んだ。
「でも、クミは運転出来るじゃん!
クミが教えてよ~」
わたしは一つため息をついて、「運転出来るからって教えられる訳じゃないのよ」と答えた。
「でも、本当にうんざりなんだよぉ」
なんて、リョウは不満そうにぶつぶつ言っている。
そんなリョウを一瞥する。
ふて腐れていても、この子は可愛い。
わたしはそれが少し、羨ましくも妬ましかった。
わたしはコンプレックスの固まりのような女だ。
高すぎる身長も、それなのに短い腕も、キツい印象を与える尖った目も、真っ平らな胸も、厚すぎる唇も……。
わたしを形作るそれらが、嫌でしかたがなかった。
だけど、同棲していた彼氏はそれが可愛いと言ってくれた。
クミは可愛い、可愛いよ、と言って抱きしめてくれた。
今思えば、本心では言ってなかったのかもしれない。
だって彼は、可愛いと言いながら、わたしをよく殴った。
少し待ち合わせに遅れた理由で、彼氏の友達に対して気が利かなかった理由で、口答えをした理由で、さんざん殴られた。
でも、殴られたあと、凄く優しくしてくれた。
大好きだよと言ってくれた。
わたしのパーツ、一つ一つを可愛いと言ってくれた。
だから、わたしは友達に別れるように勧められても、別れられずにいた。
でもある時、何の理由か分からず――ひょっとすると何かの八つ当たりだったのかもしれないが、突き飛ばされて、その拍子に腕を骨折してしまった。
元彼は一応、病院に連れて行ってくれたのだが、何故か、すぐに何処かに行ってしまった。
どうしたのかと思いつつ、アパートに帰ると隣に住んでいる大学の先輩にばったりあって、前の彼氏が友達と共にスノボーに行く所を見たって聞かされた。
その時、わたしは何かが切れる音を聞いた。
わたしはすぐに友達に電話をして、アパートを撤収するのを手伝って貰った。
友達は前々から、前の彼氏の事を嫌っていたので、嬉々として手伝ってくれた。
そして、なにか復讐しておきなさいと進めてきた。
わたしは、部屋中に小麦粉でも撒いて置いてやろうかとか、色々考えたが、ある復讐を思い付き、それを実行した。
それは、部屋のあらゆる隅っこの見えない所に、ゴキブリの餌になりそうなのを撒いておくという事だ。
ゴキブリが大の苦手な元彼には、もっとも恐ろしい復讐だろう。
忘れた頃に部屋にゴキブリが大量発生するのだ。
ゴキブリだらけになって怯えてしまえ。
あなた、自動車学校はいつぐらいで卒業出来そうなの?」
「あぁ~!
聞いてよ、クミぃ~」
リョウが情け無い顔で声を張り上げたので、わたしは苦笑いをした。
「もう自動車学校行くのいやになっちゃった」
などと言いながら、膝掛けに置いていたわたしの左手に自分の右手を絡ませてくる。
「指導員のおじさん達好きになれないよぉ。
たいしたことじゃないのにガミガミ怒ったり……。
どうせ女にモテるために免許取るんだろうとか、ある奴なんて綺麗な顔してるなぁって顔を触ってきたんだよ!
気持ち悪いよぉ。
指導員は女の人がいいよぉ。
何でうちの自動車学校、女の指導員がいないんだよぉ」
「いないんだったら、しょうがないでしょ?」
といいつつ、少し同情した。
半分はリョウが甘ったれなのが原因だろうが……
「ねえ、クミ~
クミが指導員やってよぉ~
クミがいい!」
リョウのパッチリと大きい目が、わたしに甘えるように見詰めて来る。
やはり、ドキっとしてしまう。
並の女なら、こんなとんでもない話ですら、なんとしてでも要望をかなえてやりたいなどと思ってしまう視線だ。
でも、わたしは負けない。
負けてなるものですか。
ちょうど、青になった事もあり、リョウとつないでいた左手をほどき、ハンドルを握りながら、馬鹿な事言わないの、出来るわけ無いじゃないと言って、アクセルを踏んだ。
「でも、クミは運転出来るじゃん!
クミが教えてよ~」
わたしは一つため息をついて、「運転出来るからって教えられる訳じゃないのよ」と答えた。
「でも、本当にうんざりなんだよぉ」
なんて、リョウは不満そうにぶつぶつ言っている。
そんなリョウを一瞥する。
ふて腐れていても、この子は可愛い。
わたしはそれが少し、羨ましくも妬ましかった。
わたしはコンプレックスの固まりのような女だ。
高すぎる身長も、それなのに短い腕も、キツい印象を与える尖った目も、真っ平らな胸も、厚すぎる唇も……。
わたしを形作るそれらが、嫌でしかたがなかった。
だけど、同棲していた彼氏はそれが可愛いと言ってくれた。
クミは可愛い、可愛いよ、と言って抱きしめてくれた。
今思えば、本心では言ってなかったのかもしれない。
だって彼は、可愛いと言いながら、わたしをよく殴った。
少し待ち合わせに遅れた理由で、彼氏の友達に対して気が利かなかった理由で、口答えをした理由で、さんざん殴られた。
でも、殴られたあと、凄く優しくしてくれた。
大好きだよと言ってくれた。
わたしのパーツ、一つ一つを可愛いと言ってくれた。
だから、わたしは友達に別れるように勧められても、別れられずにいた。
でもある時、何の理由か分からず――ひょっとすると何かの八つ当たりだったのかもしれないが、突き飛ばされて、その拍子に腕を骨折してしまった。
元彼は一応、病院に連れて行ってくれたのだが、何故か、すぐに何処かに行ってしまった。
どうしたのかと思いつつ、アパートに帰ると隣に住んでいる大学の先輩にばったりあって、前の彼氏が友達と共にスノボーに行く所を見たって聞かされた。
その時、わたしは何かが切れる音を聞いた。
わたしはすぐに友達に電話をして、アパートを撤収するのを手伝って貰った。
友達は前々から、前の彼氏の事を嫌っていたので、嬉々として手伝ってくれた。
そして、なにか復讐しておきなさいと進めてきた。
わたしは、部屋中に小麦粉でも撒いて置いてやろうかとか、色々考えたが、ある復讐を思い付き、それを実行した。
それは、部屋のあらゆる隅っこの見えない所に、ゴキブリの餌になりそうなのを撒いておくという事だ。
ゴキブリが大の苦手な元彼には、もっとも恐ろしい復讐だろう。
忘れた頃に部屋にゴキブリが大量発生するのだ。
ゴキブリだらけになって怯えてしまえ。
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