老兄、林太郎の恋

人紀

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その2

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 わたくしは、どうにも呆れてしまいました。
「聡子姫は諦めたのではなかったのですか?」
 聡子姫とはあまりメジャーではありませんがプロの演歌歌手で、一時期、兄が熱を入れていたお方でございます。
 その時の入れ込み様は凄まじく、コンサート会場でのプロポーズなど、ファンの立場を逸脱した暴走などを繰返し、自分以外の人間を振り回しておりました。
 その果てに、聡子姫の関係者の方々の前で
「わたくし、山中林太郎、聡子のことは諦めもうした」
と土下座したのがその半月前のことでございました。

 そんな経緯のある兄ではありましたが、「そんなぁ、捨てたぁ女のぉ、事でわないぃ」などと、妙な節を付けて言ったものでございます。

「ついにわしは、二番目の伴侶を見つけたのじゃ!」
「はあ」とやや呆れつつも頷くと、わたくしのその反応が気にくわなかったのか、兄はムッとした顔になりました。
 そして、首に掛けていた携帯電話を操作し始めました。
 そんな兄を眺めつつ、実はその時、嫁を貰う事自体は、別段悪い事ではないと思っておりました。
 むしろ、七十を超えてからの決断に感心しておりました。
 よほどのことがない限り、祝福しようとその時は思っておりました。
 そこへ、「これが、その女だ」と兄はどうだと言わんばかりに、携帯電話の画面を向けてきました。
 わたくしは、老眼鏡を掛けると、心を弾ませながら姉になるかもしれない、女性を見ました。

 そこには、奇怪な格好をした女性、というよりも、女の子がにこやかに立っておりました。

 なにが奇怪かと言いますと、まず第1に服のサイズが上下共に明らかに大きすぎる所でしょうか。
 細身と思われる女の子が、大男でちょうどよさげな服を身につける様は、娘が小さい頃にした悪戯を思い出させます。
 また、シャツをだらしなく出していたり、何故だか、片方の足だけ裾を上げていたりと寝起きしたばかりのような姿で、ポーズを取っておりました。
 大道芸人の類いかしら? というのがわたくしの所感でございました。
 兄のミスで違う写真を表示してしまったのでしょうと、少なくとも、兄の妻になる方で無いと思いました。
「どうじゃ? えぇ女じゃろう?」
と、期待に満ちた目で訊ねてくる兄に、わたくしは苦笑いをしつつ、
「兄様、えらく若い娘さんが写っているようですが」
と答えました。
「そりゃそうじゃ」と兄は何やら偉そうな顔で胸を張りました。
「まだ、十八歳だからな」
「え……?」
と思わず絶句してしまいました。
「十八……。
 では、本当に?
 この変―――不思議な格好をした娘さんが……」
「そう」と兄は満面の笑みで答えます。
「わが、妻になる女だ」
 開いた口がふさがらない、という文章表現がございます。
 その時のわたくしは、まさにその通りの表情で兄を見ておりました。
「兄様、そのぉ」と言葉にしましたが、どこからどう指摘すれば良いのか、分かりませんでした。

 余りにも若すぎる?
 おかしな格好をしている?
 正直、悩みました。
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