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第二章
魔石鉱山問題2
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魔石鉱山に到着した女を待っていたのは、「申し訳ございませぇぇぇん!」と額を地面にすり付ける数名の騎士達と煤と血に汚れて横たわる囚人や鉱夫らしき男達、そして、黒い煙を吐き出し続ける崩れた坑口であった。
あまりの様子に、この女をしてポカンとした顔になった。
ただ、そんなことをしている場合ではないと思い直し、近隣の町に救援要請を行い、騎士隊長ザーロモン・キミッヒ率いる第十六騎士隊に周辺警戒や救助の指示を出した。
そして、なにやらずっと喚いている騎士らを、騎士ギド・ザクスに一発ずつ殴らせてから、話を聞くことにした。
顔面の左半分を腫らした騎士が言うには、事の原因は、ブルク侵攻計画に加担した元騎士達であった。
どうやら彼らの幾人かが、魔石鉱山での暴動を企てている首謀者に誘われた、とのことだった。
その計画とは以下の通りだ。
魔石鉱山にて暴動を起こし、改善を要求する。
看守達とのやり取りをしている間に、密かに鉱山内の魔石を集め、抜け道を使いそれを運び出す。
その後、何人かの馬鹿な囚人を囮に自分達も脱出し、現在魔石不足である北西の島国、ブリラン帝国に運び込んで売却し、自由になる。
そんな話だった。
幾人かはなびきそうになっていた。
だが、腐っても大貴族たるソードル公爵家の騎士であった矜恃は残っていた。
そんな怪しげな連中の風下に入るぐらいなら、奴らの首を手土産に刑期を減らして貰おうと最終的には一致団結したとのことだった。
ただ、流石は商人の口八丁ごときにのせられ、都市を占領しようとした思慮の浅い者達である。
普通に看守に報告するだけで事足りぬのに、自分たちで手柄を立てようと工具を片手に、暴動を企む者達に襲いかかったのである。
しかも、よりによって坑道内、さらには中心人物を押さえるとかそういう配慮も無く、手当たり次第叩き伏せていった。
重犯罪者に強制労働をさせる魔石鉱山である。
看守のほかに見張りのために、騎士も派遣されていた。
それが、謝罪の言葉を絶叫していた騎士達である。
彼らは元騎士達と旧知な者達で、ブルク侵攻計画に荷担した事に対しては酷く憤慨したものの、それでも苦楽を共にした仲でもあり、その胸中は複雑なものがあった。
故に、元騎士達が汚名を返上するために暴動を企てようとする者達をこの手で捕らえたい――そんな風に打ち明けられて、喜んでしまった。
そして、出来うる事はしてあげようと思ってしまった。
それは、坑道の封鎖である。
元騎士達が暴動を画策した者を一人残らず捕らえられるようにという配慮である。
なので、「暴動が起きてる!」とか「助けて!」とか言いながら逃げてきた囚人らを追い立てて、中に戻したりもした。
騎士達は、元仲間達が主犯等を縛り上げ、笑顔でやって来るのを、信じて疑わなかった。
ところがである。
その視線の奥では混迷を極めていた。
暗い坑道でしかも、誰もが泥や煤で汚れている状態、しかも、誰もが髪を剃り上げられた囚人達である。
人相での判別が難しくなっていた。
それでも、初めの内はある程度、目算をつけて攻撃をしていた元騎士達だが、乱戦になると誰が誰なのか分からなくなった。
なので、無関係な囚人にも殴りかかった。
そうなると、相手も重犯罪を犯した者達である。
大半が鼻っ柱の強い者なので「何しやがるこの野郎!」と殴り返した。
さらに殴り返されると、やはりこいつも敵かと攻撃し、それに巻き込まれた者が参戦し、それが一気に周りに伝播された。
最後の方は頭に血を上らせた大半の人間が、目に付いた者を殴りつけるという有様だった。
当然、その中には味方もいた。
だけどもう、そういう話ではなくなっていた。
とにかく、全員叩き伏せる。
そんなことに躍起になっていた。
そして、そんな乱戦の中――突然、坑内で大爆発が起きた。
そのため、坑道は完全に埋まってしまったのである。
理由は定かではない。
囚人等の中に魔術師がいた。
元貴族の騎士も、多少ながら出来る者がいた。
元々、短慮だからこそ犯罪に走った者達である。
当然のようにぶっ放していた。
だが、それらの誰かの魔術とは思えなかった。
爆発の威力は爆裂魔術とまでは行かなくても、よほどの高位魔術師でなければ起こすことが出来ないほどの威力だった。
だが、囚人の中にそれほどの人物はいなかった。
まして、魔術を十全に行使するには触媒となる魔術杖や魔道具などを必要とした。
囚人達にその様な物、望むべくもなかった。
暴動を画策していた者には隠し持っている者もいたが、突然のことと、早々に殴られてノビてしまったこともあり、手に出来なかった。
なので、風系であれば塵を巻き上げ多少ひるませる程度、火系であれば顔に当てられたら「熱っ!」と背ける程度だった。
それでも、無いよりはマシと思ったのか、むやみやたらと使いまくった。
いや、それだけの威力だからこそ、安心して使ったのかもしれない。
この程度なら、坑道が崩れる心配はない。
そんな気分だったのかもしれない。
だが、舞い上がった粉塵か、それとも、地下に溜まった可燃性の気体か、それともほかの何かか……。
それらに引火して――大爆発を起こした。
這いつくばる騎士と看守らは、そう説明したのだった。
正直、エリージェ・ソードルにとって理由などどうでも良かった。
だが、公爵領の稼ぎ頭である魔石鉱山、その主要坑道が埋まってしまい、頭を抱えてしまった。
囚人五百名中、四百名の生存は絶望的――幸いなのは囚人以外の鉱夫は乱闘から避ける形で避難していて助かった。
騎士や看守も爆発の余波で多少怪我をした者もいたが、死者は出ていなかった。
驚くべき事に、主犯の男も生きていた。
あの乱戦の最中、元騎士数名が出口付近まで引きずっていく途中だったようで、いくつかの骨が折れてはいたが、一応、供述ぐらいは出来そうとのことなので、ブルクまで運ぶように指示を出した。
その主犯の男を運んでいた元騎士の一人が、強行に謁見を求めてきた。
正直、魔石鉱山を崩壊させた愚かな者達としか思えなかったが、一応、公爵領の為に動き、主犯を生きた状態で捕らえたのだ。
まあ、その、釈然としない事ながら、功績を立てたと言えなくも無かった。
なので、いやいやながらも会って、一応、恩赦の話をしてあげようか――そう思いながらも、連れてくるように指示を出した。
ところがである。
煤や泥、そして、恐らく垢などで真っ黒になった元騎士らしい男は、エリージェ・ソードルを一目見るなり、
「くそぉぉぉ!
育ちすぎたぁぁぁ!」
と喚きだしたのである。
正直、何を言っているのか良く分からなかった。
だが、とにかく気持ち悪かったので、騎士ギド・ザクスにボコボコにさせると、追っ払った。
――
魔石鉱山行きの犯罪者は危険な場所で、それこそ命をすり減らす勢いで働かせていた。
そんな彼らの働きは、案外馬鹿にならなかった。
それが、死亡するか、一応、暴動を防いだ(?)功績の為に恩赦が出ていた。
坑道が崩落して人手がいない状況で、である。
「でも、囚人は公爵領中からかき集めるって話じゃ無かったの?」
エリージェ・ソードルの問いに、従者ザンドラ・フクリュウが苦笑する。
「そのようにしています。
ただ、現在は坑道の復旧を急いでいるので、他に回せるほどの余力は本当にありません。
それに、幸か不幸かと言うべきでしょうか……。
公爵領は治安が保たれていますから、鉱山行きになるほどの重犯罪者はそんなに出てきません。
まして、これも言ってしまうのは”あれ”なのですが、元騎士ほどの期待をしてしまうのは……」
「まあ、体の作りが違いますからね。
人数がそろっても、前みたいな働きは無理ですよ」
従者ザンドラ・フクリュウの言葉を、執事ラース・ベンダーが苦笑しながら付け足す。
「どこかの領にいる犯罪者を譲って貰うのはどうかしら?」
女の問いに、従者ザンドラ・フクリュウは首を横に振る。
「可能とは思いますが、お薦めはしません」
「何故かしら?」
「国法にある”奴隷売買の禁止”に抵触する可能性があるからです」
オールマ王国では奴隷の売り買いを禁止している。
仮に余所から連れてきていても、奴隷契約を放棄しなくては入国できないほど厳格にされていた。
従者ザンドラ・フクリュウは続ける。
「やりようはあるとは思います。
ただ、”この事”を政敵に使われた場合、面倒なことになります」
執事ラース・ベンダーも同意するように頷く。
「実際、お嬢様に対して、正面切って挑める人間など多くは無いと思います。
それでも、面倒ごとの種は極力作らない方が良いでしょう」
「そうね……」とエリージェ・ソードルはため息交じりに言う。
「取りあえず、開墾する場所だけめどを付けておき、手隙になった犯罪者を入れていくしか無いわね」
「それしか無いかと」
従者ザンドラ・フクリュウも困ったように眉を寄せる。
「上手くいかないわね……」
とエリージェ・ソードルがぼやいていると、扉が軽く叩かれた。
あまりの様子に、この女をしてポカンとした顔になった。
ただ、そんなことをしている場合ではないと思い直し、近隣の町に救援要請を行い、騎士隊長ザーロモン・キミッヒ率いる第十六騎士隊に周辺警戒や救助の指示を出した。
そして、なにやらずっと喚いている騎士らを、騎士ギド・ザクスに一発ずつ殴らせてから、話を聞くことにした。
顔面の左半分を腫らした騎士が言うには、事の原因は、ブルク侵攻計画に加担した元騎士達であった。
どうやら彼らの幾人かが、魔石鉱山での暴動を企てている首謀者に誘われた、とのことだった。
その計画とは以下の通りだ。
魔石鉱山にて暴動を起こし、改善を要求する。
看守達とのやり取りをしている間に、密かに鉱山内の魔石を集め、抜け道を使いそれを運び出す。
その後、何人かの馬鹿な囚人を囮に自分達も脱出し、現在魔石不足である北西の島国、ブリラン帝国に運び込んで売却し、自由になる。
そんな話だった。
幾人かはなびきそうになっていた。
だが、腐っても大貴族たるソードル公爵家の騎士であった矜恃は残っていた。
そんな怪しげな連中の風下に入るぐらいなら、奴らの首を手土産に刑期を減らして貰おうと最終的には一致団結したとのことだった。
ただ、流石は商人の口八丁ごときにのせられ、都市を占領しようとした思慮の浅い者達である。
普通に看守に報告するだけで事足りぬのに、自分たちで手柄を立てようと工具を片手に、暴動を企む者達に襲いかかったのである。
しかも、よりによって坑道内、さらには中心人物を押さえるとかそういう配慮も無く、手当たり次第叩き伏せていった。
重犯罪者に強制労働をさせる魔石鉱山である。
看守のほかに見張りのために、騎士も派遣されていた。
それが、謝罪の言葉を絶叫していた騎士達である。
彼らは元騎士達と旧知な者達で、ブルク侵攻計画に荷担した事に対しては酷く憤慨したものの、それでも苦楽を共にした仲でもあり、その胸中は複雑なものがあった。
故に、元騎士達が汚名を返上するために暴動を企てようとする者達をこの手で捕らえたい――そんな風に打ち明けられて、喜んでしまった。
そして、出来うる事はしてあげようと思ってしまった。
それは、坑道の封鎖である。
元騎士達が暴動を画策した者を一人残らず捕らえられるようにという配慮である。
なので、「暴動が起きてる!」とか「助けて!」とか言いながら逃げてきた囚人らを追い立てて、中に戻したりもした。
騎士達は、元仲間達が主犯等を縛り上げ、笑顔でやって来るのを、信じて疑わなかった。
ところがである。
その視線の奥では混迷を極めていた。
暗い坑道でしかも、誰もが泥や煤で汚れている状態、しかも、誰もが髪を剃り上げられた囚人達である。
人相での判別が難しくなっていた。
それでも、初めの内はある程度、目算をつけて攻撃をしていた元騎士達だが、乱戦になると誰が誰なのか分からなくなった。
なので、無関係な囚人にも殴りかかった。
そうなると、相手も重犯罪を犯した者達である。
大半が鼻っ柱の強い者なので「何しやがるこの野郎!」と殴り返した。
さらに殴り返されると、やはりこいつも敵かと攻撃し、それに巻き込まれた者が参戦し、それが一気に周りに伝播された。
最後の方は頭に血を上らせた大半の人間が、目に付いた者を殴りつけるという有様だった。
当然、その中には味方もいた。
だけどもう、そういう話ではなくなっていた。
とにかく、全員叩き伏せる。
そんなことに躍起になっていた。
そして、そんな乱戦の中――突然、坑内で大爆発が起きた。
そのため、坑道は完全に埋まってしまったのである。
理由は定かではない。
囚人等の中に魔術師がいた。
元貴族の騎士も、多少ながら出来る者がいた。
元々、短慮だからこそ犯罪に走った者達である。
当然のようにぶっ放していた。
だが、それらの誰かの魔術とは思えなかった。
爆発の威力は爆裂魔術とまでは行かなくても、よほどの高位魔術師でなければ起こすことが出来ないほどの威力だった。
だが、囚人の中にそれほどの人物はいなかった。
まして、魔術を十全に行使するには触媒となる魔術杖や魔道具などを必要とした。
囚人達にその様な物、望むべくもなかった。
暴動を画策していた者には隠し持っている者もいたが、突然のことと、早々に殴られてノビてしまったこともあり、手に出来なかった。
なので、風系であれば塵を巻き上げ多少ひるませる程度、火系であれば顔に当てられたら「熱っ!」と背ける程度だった。
それでも、無いよりはマシと思ったのか、むやみやたらと使いまくった。
いや、それだけの威力だからこそ、安心して使ったのかもしれない。
この程度なら、坑道が崩れる心配はない。
そんな気分だったのかもしれない。
だが、舞い上がった粉塵か、それとも、地下に溜まった可燃性の気体か、それともほかの何かか……。
それらに引火して――大爆発を起こした。
這いつくばる騎士と看守らは、そう説明したのだった。
正直、エリージェ・ソードルにとって理由などどうでも良かった。
だが、公爵領の稼ぎ頭である魔石鉱山、その主要坑道が埋まってしまい、頭を抱えてしまった。
囚人五百名中、四百名の生存は絶望的――幸いなのは囚人以外の鉱夫は乱闘から避ける形で避難していて助かった。
騎士や看守も爆発の余波で多少怪我をした者もいたが、死者は出ていなかった。
驚くべき事に、主犯の男も生きていた。
あの乱戦の最中、元騎士数名が出口付近まで引きずっていく途中だったようで、いくつかの骨が折れてはいたが、一応、供述ぐらいは出来そうとのことなので、ブルクまで運ぶように指示を出した。
その主犯の男を運んでいた元騎士の一人が、強行に謁見を求めてきた。
正直、魔石鉱山を崩壊させた愚かな者達としか思えなかったが、一応、公爵領の為に動き、主犯を生きた状態で捕らえたのだ。
まあ、その、釈然としない事ながら、功績を立てたと言えなくも無かった。
なので、いやいやながらも会って、一応、恩赦の話をしてあげようか――そう思いながらも、連れてくるように指示を出した。
ところがである。
煤や泥、そして、恐らく垢などで真っ黒になった元騎士らしい男は、エリージェ・ソードルを一目見るなり、
「くそぉぉぉ!
育ちすぎたぁぁぁ!」
と喚きだしたのである。
正直、何を言っているのか良く分からなかった。
だが、とにかく気持ち悪かったので、騎士ギド・ザクスにボコボコにさせると、追っ払った。
――
魔石鉱山行きの犯罪者は危険な場所で、それこそ命をすり減らす勢いで働かせていた。
そんな彼らの働きは、案外馬鹿にならなかった。
それが、死亡するか、一応、暴動を防いだ(?)功績の為に恩赦が出ていた。
坑道が崩落して人手がいない状況で、である。
「でも、囚人は公爵領中からかき集めるって話じゃ無かったの?」
エリージェ・ソードルの問いに、従者ザンドラ・フクリュウが苦笑する。
「そのようにしています。
ただ、現在は坑道の復旧を急いでいるので、他に回せるほどの余力は本当にありません。
それに、幸か不幸かと言うべきでしょうか……。
公爵領は治安が保たれていますから、鉱山行きになるほどの重犯罪者はそんなに出てきません。
まして、これも言ってしまうのは”あれ”なのですが、元騎士ほどの期待をしてしまうのは……」
「まあ、体の作りが違いますからね。
人数がそろっても、前みたいな働きは無理ですよ」
従者ザンドラ・フクリュウの言葉を、執事ラース・ベンダーが苦笑しながら付け足す。
「どこかの領にいる犯罪者を譲って貰うのはどうかしら?」
女の問いに、従者ザンドラ・フクリュウは首を横に振る。
「可能とは思いますが、お薦めはしません」
「何故かしら?」
「国法にある”奴隷売買の禁止”に抵触する可能性があるからです」
オールマ王国では奴隷の売り買いを禁止している。
仮に余所から連れてきていても、奴隷契約を放棄しなくては入国できないほど厳格にされていた。
従者ザンドラ・フクリュウは続ける。
「やりようはあるとは思います。
ただ、”この事”を政敵に使われた場合、面倒なことになります」
執事ラース・ベンダーも同意するように頷く。
「実際、お嬢様に対して、正面切って挑める人間など多くは無いと思います。
それでも、面倒ごとの種は極力作らない方が良いでしょう」
「そうね……」とエリージェ・ソードルはため息交じりに言う。
「取りあえず、開墾する場所だけめどを付けておき、手隙になった犯罪者を入れていくしか無いわね」
「それしか無いかと」
従者ザンドラ・フクリュウも困ったように眉を寄せる。
「上手くいかないわね……」
とエリージェ・ソードルがぼやいていると、扉が軽く叩かれた。
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