59 / 126
第十一章
婚約の意味
しおりを挟む
王城にある国王政務室にて、十歳になり、最近ではそれなりの所作が出来るようになった……はずの第一王子ルードリッヒ・ハイセルが長椅子の中央で小さくなり、ガクガクと震えている。
それを一人掛けの椅子に座り、傲然と眺める男がいた。
国王オリバーである。
一通りの説明を受けた盛年の王は、端正な顔に柔らかな微笑を浮かべていた。
新任の侍女などはこの表情が向けられただけで卒倒しそうになる、そんな美しくも艶やかなものであった。
だが、この王が”容赦の無い”事をする時は決まって、このように微笑むことを知っている第一王子ルードリッヒ・ハイセルは涙目で怯えるのであった。
「で?
婚約破棄をされたルードリッヒは、何もせずに帰ってきたのかな?」
「あ、あの、エリーは体調が、その、悪そうでしたので……。
ご、後日訪問すると……。
その、モリタ夫人にも……」
実際、第一王子ルードリッヒ・ハイセルの行動自体はそこまで間違っていない。
婚約破棄を言い渡した時のエリージェ・ソードルは明らかに”異常”だった。
そんな状態で問いただすのは、失礼以前の対応だ。
それに、侍女長シンディ・モリタにも『後日に説明するように伝えておきますので』と頭を下げられたのだ。
引き下がって帰るのも、仕方がないというものだと、国王オリバーとて理解は出来た。
あえて指摘をするならば、第一王子ルードリッヒ・ハイセルにしても、侍女長シンディ・モリタにしても、エリージェ・ソードルという女の即断即行を甘く見ていたことだろう。
第一王子ルードリッヒ・ハイセルが王宮に戻って来る前にエリージェ・ソードルからの書状が王城に届き、婚約破棄の件が国王オリバーに知られることになったのだ。
(そこまで予知できたのであれば、この子も無防備な状態で詰問も受けなかっただろうにな)
多少、哀れに思わなくもないが、この王はそれで手を抜く事はしない。
「ほう、そうか。
それで、婚約破棄は撤回されるのかな?」
「いえ、あの、ど、努力はします。
あ、ただ、婚約は家同士の事なので、一方的には無理……ですよね?」
「ふむ」
国王オリバーは笑みをひっこっめると、口元に手をやり考える。
エリージェ・ソードルからの書状には謝罪の言葉と共に理由も書かれていた。
(自分がそばにいると、ルードリッヒに害を与えてしまうかもしれない……か)
これは”前回”の事が書かれているのだが、この聡い国王であっても、そこまでは流石にたどり着けない。
代わりに別のことに思い当たった。
(ソードル夫人やコッホ夫人を傷つけた事か?
エリーもまだ子供だ。
確かに我を忘れて”あれ”をやったのであれば、自分自身が怖くなるかもしれない。
それが、ルードリッヒに向くと思うと……か)
国王オリバーは視線を第一王子ルードリッヒ・ハイセルに戻す。
愚鈍では無いにしても鋭敏とは言えない息子は、それだけでビクリと震えた。
そんな様子に内心で嘆息しながら、国王オリバーは訊ねる。
「ルードリッヒ、お前とエリーの婚約は初め、エリー自身に断られたんだよ」
「え?
エリーが?
な、何故?」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは王族としてあるまじき事に、動揺を表に出しながら呟く。
婚約前から親しみを前面に出すエリージェ・ソードルの言動から、彼女自身も望んでいたのだと思い込んでいるのだろう。
その短慮に国王オリバーも、”息子につられて”笑みを浮かべた。
その表情から”正しく”読みとった第一王子ルードリッヒ・ハイセルは、顔をひきつらせ、「ひぃ!?」と声を漏らした。
怯える息子にひとしきり微笑んでいた国王オリバーは、一つ息を漏らして、先を続ける。
「あの子は自身の心情を天秤に置かない。
公爵領の為であれば、なおさらだ。
婚約の話を打診した時に、はっきり言ったよ。
『マヌエルが公爵領を継ぐまで、婚約も結婚もするつもりはありません』とね」
そこで、国王オリバーは言葉を切る。
(あの年であの責任感……。
いったいどんな育てられ方をしたら彼処までになれるのか……)
国王オリバーは心の中で呟く。
明らかに”普通”ではない育てられ方をした少女、そんな彼女に対して何もしないばかりか、都合の良いように誘導することばかり考える。
国王オリバーにして、自身の胸くそ悪さに辟易とした。
だが、この王は先を続ける。
止まることが出来ない事態には嫌になるぐらい慣れていた。
「そこで、何とか受けてもらえる様にと付けた条件が、”婚約を一方的に破棄できる”というものだ」
「えええ!?
そ、そんな条件が!?
それでは……」
「そうだよ」と国王オリバーはニッコリ微笑む。
「つまり、お前とエリーの婚約破棄は、すでに成されたに等しいのだよ」
「そ、そんな……」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは呆然とする。
そんな息子を眺めながら、国王オリバーは訊ねる。
「ルードリッヒ、何故、エリーがそうまでしてお前の婚約者として請われたのか分かるか?」
「え?
あ、あのう、僕にソードル家の後ろ盾をつけるため、ではないのですか?」
「なるほど、なるほど」と国王オリバーはうれしそうに微笑む。
「つまり、ルードリッヒは将来、ルーベ卿に守ってもらおうというのだな?
それとも、マヌエル君にかな?」
「え!
その!?」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは慌てる。
ルーベ・ソードルはろくに働かず、エリージェ・ソードルに追放された愚か者だし、マヌエル・ソードルは第一王子ルードリッヒ・ハイセルより年下の少年だ。
後ろ盾としては、明らかにふさわしくない。
笑みを濃くした国王オリバーが続ける。
「そもそも、おかしいとは思わなかったのかな?
王妃とエリーは叔母と姪の関係だ。
近すぎる血族を忌避する王家の通例に従えば、ルマ家、ソードル家とは離れた貴族から選出されることが望ましい。
しかも、先ほど話があったように、現在のソードル家は十歳そこらの令嬢が公爵代行をやっているほど不安定な状態だ。
そんな家の中心となっているエリーを引き抜くのだよ。
ルードリッヒ、お前はそこに不自然さを感じなかったのかな?」
「あ、その、も、申し訳ございません……。
そこまでは、考えておりませんでした……」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルはしどろもどろになりながら謝罪をする。
そして、意を決したように訊ねて来た。
「父上!
それでもなお、エリーを僕の嫁にと望んだ訳を教えてください」
「……」
国王オリバーは無表情になり、少しの間、己の息子を見つめる。
そして、口を開いた。
「ルードリッヒ、エリーは、あの子はこのまま行けば必ず手の付けられないほどの”人物”になる」
余りにも抽象的な内容に、第一王子ルードリッヒ・ハイセルは困惑する。
だが、国王オリバーは気にせず続ける。
「あの子は飛び抜けた才があるわけではない。
想像力や発想力が優れているわけでも、何でも簡単にこなす事が出来る要領も無い。
だがなルードリッヒ、常人では考えられないほどの”もの”を、エリーは持っているんだ」
「そ、それは?」
「強烈なほど強い責任感と達成意欲だよ。
その二点において、あの子以上の者に会った事がない。
わたしも、それらを人並み以上には持っていると自負していたのだがな。
あの子の言動を見て、自分がいかに甘いか思い知ったよ」
「父上が!?」
国王オリバーは重々しく頷く。
これは、この王の本心からの言葉だ。
エリージェ・ソードルという女の本質をもっとも正しく理解していたのは、国王オリバーだろう。
少なくとも、その事であの女を畏怖の対象としていたのは、”この時点”ではこの王しかいない。
祖父マテウス・ルマも家令マサジ・モリタも老執事ジン・モリタも気付かない。
時にやり過ぎる事はあっても、幼いながらに公爵領の執務を”普通”にこなす事が出来る令嬢――その域を逸脱しているとは思いもよらない。
なまじ女が凡庸な才覚をしているだけに気付かないのだ。
エリージェ・ソードルという化け物が殻を破るその日まで。
「ルードリッヒ良いか?
あの子が将来、何を”やらかす”のかまでは分からない。
だが、恐らくその日はやってくるだろう。
ルードリッヒ、あの子はその時にソードル家の者であってはならない。
ルマ家でも駄目だ。
まして、他の大貴族の家であっても駄目だ。
ルードリッヒ、あの子のやることが良いことであれ、”悪い”ことであれ、その時のあの子はハイセル家の者でなければならないのだ。
婚約破棄は絶対に撤回されなくてはならない。
絶対にだ」
「は、はい!
分かりました!」
そんな第一王子ルードリッヒ・ハイセルに対して、国王オリバーはニッコリ微笑む。
「ルードリッヒ、お前が駄目なら、エリーはクリスティアンの元に来てもらう」
「え?」
驚愕する第一王子ルードリッヒ・ハイセルに穏やかな表情で言った。
「何を驚いているのかな?
エリーをハイセル家に迎えるのに、別に、お前の所じゃなくても良いだろう?」
「え、いや、それは……」
ドギマギする第一王子ルードリッヒ・ハイセルに対して、国王オリバーは笑みを浮かべたまま目を細めて言う。
「ルードリッヒ、お前、王立植物園の代りに王宮の庭園の散策を提案したそうじゃないか」
「え!?
そ、それは……」
「ルードリッヒ、女は時に鋭い。
出向くのが面倒になったからといって下らん戯言で煙に巻いている様では、婚約破棄も早いか遅いかの問題だったのかもね。
ただそうなると、王位継承問題も発生するわけだが……」
「ち、父上!」
「まあ、わたしはどちらでも良いよ?
どちらも、わたしの可愛い子だからね」
満面の笑みを浮かべる国王オリバーに、第一王子ルードリッヒ・ハイセルは震え上がるのであった。
それを一人掛けの椅子に座り、傲然と眺める男がいた。
国王オリバーである。
一通りの説明を受けた盛年の王は、端正な顔に柔らかな微笑を浮かべていた。
新任の侍女などはこの表情が向けられただけで卒倒しそうになる、そんな美しくも艶やかなものであった。
だが、この王が”容赦の無い”事をする時は決まって、このように微笑むことを知っている第一王子ルードリッヒ・ハイセルは涙目で怯えるのであった。
「で?
婚約破棄をされたルードリッヒは、何もせずに帰ってきたのかな?」
「あ、あの、エリーは体調が、その、悪そうでしたので……。
ご、後日訪問すると……。
その、モリタ夫人にも……」
実際、第一王子ルードリッヒ・ハイセルの行動自体はそこまで間違っていない。
婚約破棄を言い渡した時のエリージェ・ソードルは明らかに”異常”だった。
そんな状態で問いただすのは、失礼以前の対応だ。
それに、侍女長シンディ・モリタにも『後日に説明するように伝えておきますので』と頭を下げられたのだ。
引き下がって帰るのも、仕方がないというものだと、国王オリバーとて理解は出来た。
あえて指摘をするならば、第一王子ルードリッヒ・ハイセルにしても、侍女長シンディ・モリタにしても、エリージェ・ソードルという女の即断即行を甘く見ていたことだろう。
第一王子ルードリッヒ・ハイセルが王宮に戻って来る前にエリージェ・ソードルからの書状が王城に届き、婚約破棄の件が国王オリバーに知られることになったのだ。
(そこまで予知できたのであれば、この子も無防備な状態で詰問も受けなかっただろうにな)
多少、哀れに思わなくもないが、この王はそれで手を抜く事はしない。
「ほう、そうか。
それで、婚約破棄は撤回されるのかな?」
「いえ、あの、ど、努力はします。
あ、ただ、婚約は家同士の事なので、一方的には無理……ですよね?」
「ふむ」
国王オリバーは笑みをひっこっめると、口元に手をやり考える。
エリージェ・ソードルからの書状には謝罪の言葉と共に理由も書かれていた。
(自分がそばにいると、ルードリッヒに害を与えてしまうかもしれない……か)
これは”前回”の事が書かれているのだが、この聡い国王であっても、そこまでは流石にたどり着けない。
代わりに別のことに思い当たった。
(ソードル夫人やコッホ夫人を傷つけた事か?
エリーもまだ子供だ。
確かに我を忘れて”あれ”をやったのであれば、自分自身が怖くなるかもしれない。
それが、ルードリッヒに向くと思うと……か)
国王オリバーは視線を第一王子ルードリッヒ・ハイセルに戻す。
愚鈍では無いにしても鋭敏とは言えない息子は、それだけでビクリと震えた。
そんな様子に内心で嘆息しながら、国王オリバーは訊ねる。
「ルードリッヒ、お前とエリーの婚約は初め、エリー自身に断られたんだよ」
「え?
エリーが?
な、何故?」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは王族としてあるまじき事に、動揺を表に出しながら呟く。
婚約前から親しみを前面に出すエリージェ・ソードルの言動から、彼女自身も望んでいたのだと思い込んでいるのだろう。
その短慮に国王オリバーも、”息子につられて”笑みを浮かべた。
その表情から”正しく”読みとった第一王子ルードリッヒ・ハイセルは、顔をひきつらせ、「ひぃ!?」と声を漏らした。
怯える息子にひとしきり微笑んでいた国王オリバーは、一つ息を漏らして、先を続ける。
「あの子は自身の心情を天秤に置かない。
公爵領の為であれば、なおさらだ。
婚約の話を打診した時に、はっきり言ったよ。
『マヌエルが公爵領を継ぐまで、婚約も結婚もするつもりはありません』とね」
そこで、国王オリバーは言葉を切る。
(あの年であの責任感……。
いったいどんな育てられ方をしたら彼処までになれるのか……)
国王オリバーは心の中で呟く。
明らかに”普通”ではない育てられ方をした少女、そんな彼女に対して何もしないばかりか、都合の良いように誘導することばかり考える。
国王オリバーにして、自身の胸くそ悪さに辟易とした。
だが、この王は先を続ける。
止まることが出来ない事態には嫌になるぐらい慣れていた。
「そこで、何とか受けてもらえる様にと付けた条件が、”婚約を一方的に破棄できる”というものだ」
「えええ!?
そ、そんな条件が!?
それでは……」
「そうだよ」と国王オリバーはニッコリ微笑む。
「つまり、お前とエリーの婚約破棄は、すでに成されたに等しいのだよ」
「そ、そんな……」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは呆然とする。
そんな息子を眺めながら、国王オリバーは訊ねる。
「ルードリッヒ、何故、エリーがそうまでしてお前の婚約者として請われたのか分かるか?」
「え?
あ、あのう、僕にソードル家の後ろ盾をつけるため、ではないのですか?」
「なるほど、なるほど」と国王オリバーはうれしそうに微笑む。
「つまり、ルードリッヒは将来、ルーベ卿に守ってもらおうというのだな?
それとも、マヌエル君にかな?」
「え!
その!?」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルは慌てる。
ルーベ・ソードルはろくに働かず、エリージェ・ソードルに追放された愚か者だし、マヌエル・ソードルは第一王子ルードリッヒ・ハイセルより年下の少年だ。
後ろ盾としては、明らかにふさわしくない。
笑みを濃くした国王オリバーが続ける。
「そもそも、おかしいとは思わなかったのかな?
王妃とエリーは叔母と姪の関係だ。
近すぎる血族を忌避する王家の通例に従えば、ルマ家、ソードル家とは離れた貴族から選出されることが望ましい。
しかも、先ほど話があったように、現在のソードル家は十歳そこらの令嬢が公爵代行をやっているほど不安定な状態だ。
そんな家の中心となっているエリーを引き抜くのだよ。
ルードリッヒ、お前はそこに不自然さを感じなかったのかな?」
「あ、その、も、申し訳ございません……。
そこまでは、考えておりませんでした……」
第一王子ルードリッヒ・ハイセルはしどろもどろになりながら謝罪をする。
そして、意を決したように訊ねて来た。
「父上!
それでもなお、エリーを僕の嫁にと望んだ訳を教えてください」
「……」
国王オリバーは無表情になり、少しの間、己の息子を見つめる。
そして、口を開いた。
「ルードリッヒ、エリーは、あの子はこのまま行けば必ず手の付けられないほどの”人物”になる」
余りにも抽象的な内容に、第一王子ルードリッヒ・ハイセルは困惑する。
だが、国王オリバーは気にせず続ける。
「あの子は飛び抜けた才があるわけではない。
想像力や発想力が優れているわけでも、何でも簡単にこなす事が出来る要領も無い。
だがなルードリッヒ、常人では考えられないほどの”もの”を、エリーは持っているんだ」
「そ、それは?」
「強烈なほど強い責任感と達成意欲だよ。
その二点において、あの子以上の者に会った事がない。
わたしも、それらを人並み以上には持っていると自負していたのだがな。
あの子の言動を見て、自分がいかに甘いか思い知ったよ」
「父上が!?」
国王オリバーは重々しく頷く。
これは、この王の本心からの言葉だ。
エリージェ・ソードルという女の本質をもっとも正しく理解していたのは、国王オリバーだろう。
少なくとも、その事であの女を畏怖の対象としていたのは、”この時点”ではこの王しかいない。
祖父マテウス・ルマも家令マサジ・モリタも老執事ジン・モリタも気付かない。
時にやり過ぎる事はあっても、幼いながらに公爵領の執務を”普通”にこなす事が出来る令嬢――その域を逸脱しているとは思いもよらない。
なまじ女が凡庸な才覚をしているだけに気付かないのだ。
エリージェ・ソードルという化け物が殻を破るその日まで。
「ルードリッヒ良いか?
あの子が将来、何を”やらかす”のかまでは分からない。
だが、恐らくその日はやってくるだろう。
ルードリッヒ、あの子はその時にソードル家の者であってはならない。
ルマ家でも駄目だ。
まして、他の大貴族の家であっても駄目だ。
ルードリッヒ、あの子のやることが良いことであれ、”悪い”ことであれ、その時のあの子はハイセル家の者でなければならないのだ。
婚約破棄は絶対に撤回されなくてはならない。
絶対にだ」
「は、はい!
分かりました!」
そんな第一王子ルードリッヒ・ハイセルに対して、国王オリバーはニッコリ微笑む。
「ルードリッヒ、お前が駄目なら、エリーはクリスティアンの元に来てもらう」
「え?」
驚愕する第一王子ルードリッヒ・ハイセルに穏やかな表情で言った。
「何を驚いているのかな?
エリーをハイセル家に迎えるのに、別に、お前の所じゃなくても良いだろう?」
「え、いや、それは……」
ドギマギする第一王子ルードリッヒ・ハイセルに対して、国王オリバーは笑みを浮かべたまま目を細めて言う。
「ルードリッヒ、お前、王立植物園の代りに王宮の庭園の散策を提案したそうじゃないか」
「え!?
そ、それは……」
「ルードリッヒ、女は時に鋭い。
出向くのが面倒になったからといって下らん戯言で煙に巻いている様では、婚約破棄も早いか遅いかの問題だったのかもね。
ただそうなると、王位継承問題も発生するわけだが……」
「ち、父上!」
「まあ、わたしはどちらでも良いよ?
どちらも、わたしの可愛い子だからね」
満面の笑みを浮かべる国王オリバーに、第一王子ルードリッヒ・ハイセルは震え上がるのであった。
10
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる