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第二章
とある男爵のお話
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ラインハルト・マガド男爵が生まれた頃は、マガド家がもっとも栄えていた頃で、さらには、両親が年をとってからの念願の子ということもあり、大変甘やかされて育った。
ラインハルト・マガド男爵が十五の頃、貴族位を捨てると言い出して、貴族が通う王立学校を勝手に中退する。
あわてる両親に対してラインハルト・マガド男爵は『俺は絵で生きるために生まれてきたのだ!』と言い放った。
そしてこの男、売れない芸術家が通う酒場に入り浸るようになった。
絵で生きる――といったラインハルト・マガド男爵であったが、一作品も描き上げたことがない。
初めのうちは少し描き始めては飽き、描き始めては飽きを繰り返し、そのうち筆を取らなくなった。
朝昼寝て、夜に町に繰り出し、娼館や酒場、賭博場で過ごす日々だった。
にもかかわらず、ラインハルト・マガド男爵という男、芸術家ぶる。
しかも、弁も立たない。
偉そうに意味のない言葉を吐き出すだけのこの男の周りには、意外にも人が集まった。
とはいえ、誰一人としてラインハルト・マガド男爵の言葉を聞いていない。
ただ、そばにさえいれば酒が飲めたので、金の無い芸術家達は、最初と最後だけ、この男を持ち上げた。
だが、それにラインハルト・マガド男爵は気づかない。
自分には才があり人望があると勘違いをした。
だから、ますますのめり込んでいった。
そんな生活はしかし、あっさりと終わった。
心労からか母親が死に、それを追うように父親が死んだ。
男爵家とはいえ名家であるマガド家である。
ラインハルト・マガド男爵が多少浪費したとはいえ、莫大な資産が残っていたはずだった。
だが、気づくとそれらの大半と幾人かの使用人が居なくなった。
全てを人任せにした末の、当然の帰結であった。
金が切れたラインハルト・マガド男爵の周りからは潮が引くように人が居なくなった。
酒場に行き、声をかけても誰一人として答えを返してくれず、ただニヤニヤした笑みを向けてくるだけだった。
そんな様子に、ラインハルト・マガド男爵は恐怖して、二度と酒場には行かなくなった。
ラインハルト・マガド男爵は貧困にあえぐようになる。
多くの資産を失ったとはいえ、別に多額の借金を背負わされたわけでもなく、領地を失ったわけでも無い。
なので、本来であればそれなりの生活は保障されているはずだった。
だが、無知で無力な家畜が自然に放りこまれた末路のように、ラインハルト・マガド男爵を取り囲む人々は、この男を禿鷲のようについばみ始めた。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、屋敷内にあった名高い美術品を捨て値のような値段で売り払ってしまった。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、領地の収益を調べる術が無く、散々上前をはねられた。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、詐欺に合い、三十年に渡る領地の利益の大半を差し出す契約をしてしまった。
それらがたった一年で行われ、資産だけなら伯爵にも匹敵するといわれたマガド家が典型的貧乏貴族に成り果てることとなった。
男爵を継いだ当初は何かと口を挟んできた親戚縁者も、ラインハルト・マガド男爵が煩わしいとはねのけていたこともあり、誰も助けには来ず。
むしろ、巻き込まれては堪らないと会うことすら拒絶された。
今では”裏の世界”に通じる者が、何かに使えるかと、半ば飼っている感じで屋敷に使用人などを用意していたが、それがなければ恐らくは誰もいない中で孤独死をしていたことだろう。
ラインハルト・マガド男爵という男はそれほど何も出来なかった。
それはそうだ。
貴族としても、領主としても、あれほど好きだと公言していた芸術すらしてこなかった男だ。
出来ないのは至極当然の事であった。
だがこの男、それでもなお貴族である。
どれだけ金が無く、どれだけ知恵が無く、どれだけ人に嘲笑されても貴族は貴族である。
そして、この男、屑中の屑でもあった。
ラインハルト・マガド男爵は金がなかった。
だから、昔のように娼館や酒場、賭博場に行くことも出来なかった。
現在、自分を養ってくれている男に頼みたかったが、ラインハルト・マガド男爵は居場所どころか名前すら知らなかった。
堪える、ということをしてこなかったラインハルト・マガド男爵にとって、辛い時間を過ごしていた。
(せめて女だけでも抱きたい)
そう思っていた。
そして、あることを思い立った。
(そうだ、別に娼婦にこだわる必要はない。
使用人に平民の女がいたな。
そいつを犯せばいい)
屋敷には農村からやってきたそばかすだらけの地味な娘が、下働きをしていた。
ラインハルト・マガド男爵は早速、部屋に引っ張り込むと――犯した。
今までの分を取り戻すように、一晩中犯した。
娘は最初、首を振りながら必死に止めるよう懇願し、泣き叫んでいたが、しばらくするとされるがままになっていった。
ラインハルト・マガド男爵は興奮した。
その一連の流れに興奮した。
気取った娼婦にはない、その生々しさに胸が躍り、娘を組み伏せることで落ちぶれてから抜け落ちていた”自分らしさ”を取り戻した気になった。
(そうだ!
俺は偉いんだ!
俺は偉いんだ!)
ラインハルト・マガド男爵はそれから三日間、娘をなぶり犯した。
ラインハルト・マガド男爵は男に戻れた気分だった。
マガド男爵家の栄光が戻ってきた気にすらなっていた。
(なんで俺は、娼館などに通っていたのだろうか。
馬鹿みたいに金などかけなくても、女などいくらでも抱けるというのに)
だが四日目、夕方になり早速犯そうと娘を捜したが――見つからない。
苛立ちながらも執事に訊ねると娘は辞めたという。
「何故だ!
何故勝手に辞めさせた!」
詰め寄るラインハルト・マガド男爵に、執事は冷たく言い放った。
「男爵、貴族といっても、平民を強制的に働かせることは出来ないんですよ」
そう、貴族が平民の使用人に無体なことをしても、罪にはほぼ問われないが、使用人はそんな貴族に仕える事を辞めることは出来るのだ。
当然だ。
平民とはいえ奴隷ではないのだ。
娘がそれでも二日間堪え忍んでいたのは、家族に仕送りがしたかったからであったが、それも三日目になって我慢の限界がきた。
ただ、それだけの事だった。
そこから何度か別の娘達が屋敷で働くこととなったが、一人は犯す前に抵抗された上に逃げられ、そこから三人は誰かに教えられたのか顔すら合わす前に辞めていった。
当たり前だ。
誰が好き好んで安給料な上に乱暴に犯される場所で働きたいだろうか。
それだったら、娼婦として娼館に入った方が良い。
「くそっ!
くそっ!
くそぉぉ!」
ラインハルト・マガド男爵は地団太を踏んだ。
そして、必死に考える。
ろくに考える事をしてこなかったこの男が、ひょっとしたら生まれて初めてぐらいに、考えた。
そして、一つのことを思いついた。
(そうだ!
簡単に辞めることが出来ない女を雇えばよい!)
そこで思いついたのが、未婚の母である。
そういった訳ありの女は良い仕事に恵まれない。
普通の感性が合れば、子供に対する後ろめたさや将来のことを考えて娼館では極力働きたくない。
そんな女達に対して、貴族の館の仕事はどう映るだろうか?
なんとしても逃したくないと思えるのではないだろうか?
ラインハルト・マガド男爵の考えは正鵠を射ていた。
そうして雇われた女は逃げなかった。
どれだけ乱暴に犯されても、屈辱的な目にあっても、逃げられなかった。
ラインハルト・マガド男爵が涎を垂らしながら、何度も腰をぶつけても、「ひぃいひぃい」と泣くだけで逃げなかった。
途中からは、子供を隔離したのも功を奏したのか、無遠慮に中でぶちまけられ、時には殴られても、妊み腹が大きくなっても……。
最後にはラインハルト・マガド男爵に叩き出されるまで、屋敷に留まり続けた。
その女だけでない。
次の女も、また次の女も、そうだった。
ラインハルト・マガド男爵は有頂天になった。
そして、同じく貴族のくせに、馬鹿みたいに娼婦に金を使う者達が、実に矮小な存在に思えた。
(なんで、そんな発想も出来ないのだろうか?
いや、俺が凄いだけか?
そうに違いない!)
他の貴族達がしないのは、実質無罪とはいえ、その行いが自分や自分の家名、広く見れば派閥などに泥を塗る行為だからこそなのだが、この男は理解していない。
そもそも、ラインハルト・マガド男爵自身も家名もすでに地に落ちているし、親の代に属していた派閥からもすでに除名されていた。
だからこそ、有る意味ではラインハルト・マガド男爵という男は無敵であるともいえた。
ラインハルト・マガド男爵の”主”も、金もかからず、後始末が簡単な訳あり女を供給するだけで、おとなしくなるならと、黙認していた。
何人目の女を捨てたか分からなくなった頃、ラインハルト・マガド男爵は流石に(飽きてきたな)と思った。
だからその日、新しい女がやって来た事を告げられても、感情は高ぶらなかった。
しかし、その女が入ってきた時に、後頭部を殴られたような衝撃が走った。
驚くほど、白く透き通るような肌の女だった。
小さく整った顔、その頬にかかる髪は薄い黄金色に輝き、対照的にその瞳は黒色に縁取られた銀色をしていた。
胸の厚みはそれほど大きくはないが、ほっそりとした腰からするりと延びる長い足がそれを感じさせないでいた。
ラインハルト・マガド男爵は多くの女を見てきた。
娼婦や舞台女優など様々だ。
だが、それらの中にも、ここまで美しい女は居なかった。
何故この女が、訳あり女としてふらふらしているのか?
理解できなかった。
愛人だろうが、妾だろうが、望むままではないか。
いや、ラインハルト・マガド男爵にとってはそんなことはどうでも良かった。
”これは”俺のものだ。
俺の物だ。
「あ、あのう」
ラインハルト・マガド男爵の様子にただならぬ物を感じたのだろう、女は恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
そして、子供を背後に隠した。
子供は――女子であった。
その子供も、強ばった顔で母親の陰から男を見ている。
その子供も母親に似ていた。
ただ、幼女性愛の趣味はなかったので、特に気にはしなかった。
だが、脅しには良い。
単にそう思った。
女は悲鳴を上げた。
いつも通り、いつも通りだ。
いつもと違うのは、我慢できずに子供が居るにも関わらず、女を押し倒してしまった所だろう。
寝台に運ぶことすら煩わしい。
早くこの女の中に、入れたい。
入れたくて仕方がなかった。
子供が腕にしがみついてきたので、腕を振って追い払った。
鈍い感覚があったので、顔面にそれが当たったのだろう。
だがどうでも良かった。
どうでも良かった。
「いやぁ、いやぁぁぁ!」
騒がしい女の顔を掌で叩く。
一度、二度、三度。
拳では殴らない。
一度、拳で殴って鼻が折れ、その姿に萎えた事があったので、その辺りは慎重にしている。
それでも、騒々しいのが終わらないので、耳元で囁いてやる。
「娘に相手をさせても良いのだぞ」
そうすると、ヒィイヒィイと言いながらも力が弱まる。
すかさず、上着を両手で掴むと、開く要領で思いっきり引いた。
ボタンが弾け飛ぶ。
「ああ……」
ラインハルト・マガド男爵は感嘆の声をこぼす。
「服の中も、白いな」
「いやぁぁぁ……」
涙を流す女が首を横に振る。
何度も、何度も……。
女は気づいていない。
その声も、その悲鳴も、その仕草も、その懇願さえも……。
ラインハルト・マガド男爵という男の興奮を、ただ高めるだけであることを。
ラインハルト・マガド男爵は女の胸を両手一杯に掴んで、乱暴にその柔らかさを堪能する。
そして、耳元でさらに囁いた。
「思ったより、大きいのだな」
女の体が屈辱で震える。
その仕草も、ラインハルト・マガド男爵の心をさらに熱くする。
下半身はすでに爆発寸前だった。
だが、まだだと自身に言い聞かせる。
溜める、溜める、溜める。
その我慢が最高の、至高の快感を呼び起こす。
この儀式の有無がこれからを決める。
だから、ラインハルト・マガド男爵はゆっくりと女の体に手を沿わせ、それを下に下にと運ぶ。
中へ中へと進める。
「止めて……止めて……」
という心地の良い声を聞きながら……。
突然、ドアが開く音が聞こえた。
ラインハルト・マガド男爵が反射的に視線を上げると、鬼のような形相の女が拳を振り上げるところだった。
ラインハルト・マガド男爵が十五の頃、貴族位を捨てると言い出して、貴族が通う王立学校を勝手に中退する。
あわてる両親に対してラインハルト・マガド男爵は『俺は絵で生きるために生まれてきたのだ!』と言い放った。
そしてこの男、売れない芸術家が通う酒場に入り浸るようになった。
絵で生きる――といったラインハルト・マガド男爵であったが、一作品も描き上げたことがない。
初めのうちは少し描き始めては飽き、描き始めては飽きを繰り返し、そのうち筆を取らなくなった。
朝昼寝て、夜に町に繰り出し、娼館や酒場、賭博場で過ごす日々だった。
にもかかわらず、ラインハルト・マガド男爵という男、芸術家ぶる。
しかも、弁も立たない。
偉そうに意味のない言葉を吐き出すだけのこの男の周りには、意外にも人が集まった。
とはいえ、誰一人としてラインハルト・マガド男爵の言葉を聞いていない。
ただ、そばにさえいれば酒が飲めたので、金の無い芸術家達は、最初と最後だけ、この男を持ち上げた。
だが、それにラインハルト・マガド男爵は気づかない。
自分には才があり人望があると勘違いをした。
だから、ますますのめり込んでいった。
そんな生活はしかし、あっさりと終わった。
心労からか母親が死に、それを追うように父親が死んだ。
男爵家とはいえ名家であるマガド家である。
ラインハルト・マガド男爵が多少浪費したとはいえ、莫大な資産が残っていたはずだった。
だが、気づくとそれらの大半と幾人かの使用人が居なくなった。
全てを人任せにした末の、当然の帰結であった。
金が切れたラインハルト・マガド男爵の周りからは潮が引くように人が居なくなった。
酒場に行き、声をかけても誰一人として答えを返してくれず、ただニヤニヤした笑みを向けてくるだけだった。
そんな様子に、ラインハルト・マガド男爵は恐怖して、二度と酒場には行かなくなった。
ラインハルト・マガド男爵は貧困にあえぐようになる。
多くの資産を失ったとはいえ、別に多額の借金を背負わされたわけでもなく、領地を失ったわけでも無い。
なので、本来であればそれなりの生活は保障されているはずだった。
だが、無知で無力な家畜が自然に放りこまれた末路のように、ラインハルト・マガド男爵を取り囲む人々は、この男を禿鷲のようについばみ始めた。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、屋敷内にあった名高い美術品を捨て値のような値段で売り払ってしまった。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、領地の収益を調べる術が無く、散々上前をはねられた。
ラインハルト・マガド男爵は無知ゆえに、詐欺に合い、三十年に渡る領地の利益の大半を差し出す契約をしてしまった。
それらがたった一年で行われ、資産だけなら伯爵にも匹敵するといわれたマガド家が典型的貧乏貴族に成り果てることとなった。
男爵を継いだ当初は何かと口を挟んできた親戚縁者も、ラインハルト・マガド男爵が煩わしいとはねのけていたこともあり、誰も助けには来ず。
むしろ、巻き込まれては堪らないと会うことすら拒絶された。
今では”裏の世界”に通じる者が、何かに使えるかと、半ば飼っている感じで屋敷に使用人などを用意していたが、それがなければ恐らくは誰もいない中で孤独死をしていたことだろう。
ラインハルト・マガド男爵という男はそれほど何も出来なかった。
それはそうだ。
貴族としても、領主としても、あれほど好きだと公言していた芸術すらしてこなかった男だ。
出来ないのは至極当然の事であった。
だがこの男、それでもなお貴族である。
どれだけ金が無く、どれだけ知恵が無く、どれだけ人に嘲笑されても貴族は貴族である。
そして、この男、屑中の屑でもあった。
ラインハルト・マガド男爵は金がなかった。
だから、昔のように娼館や酒場、賭博場に行くことも出来なかった。
現在、自分を養ってくれている男に頼みたかったが、ラインハルト・マガド男爵は居場所どころか名前すら知らなかった。
堪える、ということをしてこなかったラインハルト・マガド男爵にとって、辛い時間を過ごしていた。
(せめて女だけでも抱きたい)
そう思っていた。
そして、あることを思い立った。
(そうだ、別に娼婦にこだわる必要はない。
使用人に平民の女がいたな。
そいつを犯せばいい)
屋敷には農村からやってきたそばかすだらけの地味な娘が、下働きをしていた。
ラインハルト・マガド男爵は早速、部屋に引っ張り込むと――犯した。
今までの分を取り戻すように、一晩中犯した。
娘は最初、首を振りながら必死に止めるよう懇願し、泣き叫んでいたが、しばらくするとされるがままになっていった。
ラインハルト・マガド男爵は興奮した。
その一連の流れに興奮した。
気取った娼婦にはない、その生々しさに胸が躍り、娘を組み伏せることで落ちぶれてから抜け落ちていた”自分らしさ”を取り戻した気になった。
(そうだ!
俺は偉いんだ!
俺は偉いんだ!)
ラインハルト・マガド男爵はそれから三日間、娘をなぶり犯した。
ラインハルト・マガド男爵は男に戻れた気分だった。
マガド男爵家の栄光が戻ってきた気にすらなっていた。
(なんで俺は、娼館などに通っていたのだろうか。
馬鹿みたいに金などかけなくても、女などいくらでも抱けるというのに)
だが四日目、夕方になり早速犯そうと娘を捜したが――見つからない。
苛立ちながらも執事に訊ねると娘は辞めたという。
「何故だ!
何故勝手に辞めさせた!」
詰め寄るラインハルト・マガド男爵に、執事は冷たく言い放った。
「男爵、貴族といっても、平民を強制的に働かせることは出来ないんですよ」
そう、貴族が平民の使用人に無体なことをしても、罪にはほぼ問われないが、使用人はそんな貴族に仕える事を辞めることは出来るのだ。
当然だ。
平民とはいえ奴隷ではないのだ。
娘がそれでも二日間堪え忍んでいたのは、家族に仕送りがしたかったからであったが、それも三日目になって我慢の限界がきた。
ただ、それだけの事だった。
そこから何度か別の娘達が屋敷で働くこととなったが、一人は犯す前に抵抗された上に逃げられ、そこから三人は誰かに教えられたのか顔すら合わす前に辞めていった。
当たり前だ。
誰が好き好んで安給料な上に乱暴に犯される場所で働きたいだろうか。
それだったら、娼婦として娼館に入った方が良い。
「くそっ!
くそっ!
くそぉぉ!」
ラインハルト・マガド男爵は地団太を踏んだ。
そして、必死に考える。
ろくに考える事をしてこなかったこの男が、ひょっとしたら生まれて初めてぐらいに、考えた。
そして、一つのことを思いついた。
(そうだ!
簡単に辞めることが出来ない女を雇えばよい!)
そこで思いついたのが、未婚の母である。
そういった訳ありの女は良い仕事に恵まれない。
普通の感性が合れば、子供に対する後ろめたさや将来のことを考えて娼館では極力働きたくない。
そんな女達に対して、貴族の館の仕事はどう映るだろうか?
なんとしても逃したくないと思えるのではないだろうか?
ラインハルト・マガド男爵の考えは正鵠を射ていた。
そうして雇われた女は逃げなかった。
どれだけ乱暴に犯されても、屈辱的な目にあっても、逃げられなかった。
ラインハルト・マガド男爵が涎を垂らしながら、何度も腰をぶつけても、「ひぃいひぃい」と泣くだけで逃げなかった。
途中からは、子供を隔離したのも功を奏したのか、無遠慮に中でぶちまけられ、時には殴られても、妊み腹が大きくなっても……。
最後にはラインハルト・マガド男爵に叩き出されるまで、屋敷に留まり続けた。
その女だけでない。
次の女も、また次の女も、そうだった。
ラインハルト・マガド男爵は有頂天になった。
そして、同じく貴族のくせに、馬鹿みたいに娼婦に金を使う者達が、実に矮小な存在に思えた。
(なんで、そんな発想も出来ないのだろうか?
いや、俺が凄いだけか?
そうに違いない!)
他の貴族達がしないのは、実質無罪とはいえ、その行いが自分や自分の家名、広く見れば派閥などに泥を塗る行為だからこそなのだが、この男は理解していない。
そもそも、ラインハルト・マガド男爵自身も家名もすでに地に落ちているし、親の代に属していた派閥からもすでに除名されていた。
だからこそ、有る意味ではラインハルト・マガド男爵という男は無敵であるともいえた。
ラインハルト・マガド男爵の”主”も、金もかからず、後始末が簡単な訳あり女を供給するだけで、おとなしくなるならと、黙認していた。
何人目の女を捨てたか分からなくなった頃、ラインハルト・マガド男爵は流石に(飽きてきたな)と思った。
だからその日、新しい女がやって来た事を告げられても、感情は高ぶらなかった。
しかし、その女が入ってきた時に、後頭部を殴られたような衝撃が走った。
驚くほど、白く透き通るような肌の女だった。
小さく整った顔、その頬にかかる髪は薄い黄金色に輝き、対照的にその瞳は黒色に縁取られた銀色をしていた。
胸の厚みはそれほど大きくはないが、ほっそりとした腰からするりと延びる長い足がそれを感じさせないでいた。
ラインハルト・マガド男爵は多くの女を見てきた。
娼婦や舞台女優など様々だ。
だが、それらの中にも、ここまで美しい女は居なかった。
何故この女が、訳あり女としてふらふらしているのか?
理解できなかった。
愛人だろうが、妾だろうが、望むままではないか。
いや、ラインハルト・マガド男爵にとってはそんなことはどうでも良かった。
”これは”俺のものだ。
俺の物だ。
「あ、あのう」
ラインハルト・マガド男爵の様子にただならぬ物を感じたのだろう、女は恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
そして、子供を背後に隠した。
子供は――女子であった。
その子供も、強ばった顔で母親の陰から男を見ている。
その子供も母親に似ていた。
ただ、幼女性愛の趣味はなかったので、特に気にはしなかった。
だが、脅しには良い。
単にそう思った。
女は悲鳴を上げた。
いつも通り、いつも通りだ。
いつもと違うのは、我慢できずに子供が居るにも関わらず、女を押し倒してしまった所だろう。
寝台に運ぶことすら煩わしい。
早くこの女の中に、入れたい。
入れたくて仕方がなかった。
子供が腕にしがみついてきたので、腕を振って追い払った。
鈍い感覚があったので、顔面にそれが当たったのだろう。
だがどうでも良かった。
どうでも良かった。
「いやぁ、いやぁぁぁ!」
騒がしい女の顔を掌で叩く。
一度、二度、三度。
拳では殴らない。
一度、拳で殴って鼻が折れ、その姿に萎えた事があったので、その辺りは慎重にしている。
それでも、騒々しいのが終わらないので、耳元で囁いてやる。
「娘に相手をさせても良いのだぞ」
そうすると、ヒィイヒィイと言いながらも力が弱まる。
すかさず、上着を両手で掴むと、開く要領で思いっきり引いた。
ボタンが弾け飛ぶ。
「ああ……」
ラインハルト・マガド男爵は感嘆の声をこぼす。
「服の中も、白いな」
「いやぁぁぁ……」
涙を流す女が首を横に振る。
何度も、何度も……。
女は気づいていない。
その声も、その悲鳴も、その仕草も、その懇願さえも……。
ラインハルト・マガド男爵という男の興奮を、ただ高めるだけであることを。
ラインハルト・マガド男爵は女の胸を両手一杯に掴んで、乱暴にその柔らかさを堪能する。
そして、耳元でさらに囁いた。
「思ったより、大きいのだな」
女の体が屈辱で震える。
その仕草も、ラインハルト・マガド男爵の心をさらに熱くする。
下半身はすでに爆発寸前だった。
だが、まだだと自身に言い聞かせる。
溜める、溜める、溜める。
その我慢が最高の、至高の快感を呼び起こす。
この儀式の有無がこれからを決める。
だから、ラインハルト・マガド男爵はゆっくりと女の体に手を沿わせ、それを下に下にと運ぶ。
中へ中へと進める。
「止めて……止めて……」
という心地の良い声を聞きながら……。
突然、ドアが開く音が聞こえた。
ラインハルト・マガド男爵が反射的に視線を上げると、鬼のような形相の女が拳を振り上げるところだった。
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そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
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