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第一章
予兆
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ディブロの頼みとは詰まるところ、街を見てみたいというものだ。
名目上は捕虜であるため出歩くなどできないのだが、貴賓として応対しなければならない命も下されている。
一存では決められないと即答した後、主に確認してみるとしてニーシャは退出していった。
それから半刻ほど経った頃に、少し離れたところから罵声とかすかに建物が揺れたような感覚がする。
それから程なくして、先ほどよりも憮然とした顔を浮かべた従者が許可が降りたと伝えてきた。
とはいえ一人での外出は当然認められるものではなく、ニーシャが監視兼案内役を務める。
「……へぇっ、案外普通の街なんだな」
待っている最中に窓から外を眺めた限り、石と木を利用した建物が市井に広がり、歩く人々の姿は当然獣人ばかりだ。
中には亜人と区分される者もいるが、ディブロにはその辺りの線引きはいまいち把握できていない。
難しい問題ではあるが、ともあれ下り立った街を見て素直な感想が零れた。
良くも悪くも取れる言葉なだけに傍らのニーシャが何とも言えない顔つきをしているのは見ないようにする。
「発言から察するに、木を組み立てただけの簡素な家で獣を狩ってその場で食べるみたいな原始的なスタイルだと思ってましたか?」
「いっいやっそういう意味では……。 正直な話、獣人といってもどんな風に暮らしているかなんて見当がつかなかったんだ。 だからまぁ、偏見がなかったなんて言えば嘘になるがそれでも驚いたって、言う方が正しいな」
「ーー貴方、分かりやすい人間だって言われません?」
「えっ?」
「何でもありません……。 さて、簡単に街を紹介します。 長い時間はとれませんので主だった場所のみ行きます。 詳しいところは殿下にお尋ねください」
「あっ、あぁっ……」
殺意の込められたニーシャの目付きに思わず萎縮してしまうが、ディブロは嘘偽りなく感じたままのことを告げる。
人と良く似ているとはいえ、獣の出で立ちであり、かつ今まで周囲にいなかった存在には偏見は存在するのは事実だ。
故に争いの火種になることはままあることだが、幸か不幸か騎士時代を含めてディブロの周りにそのような印象を植え付けてくる人間は多くなかったのもあり、漠然とした情報しか知り得ていない。
無知とも取れるが、興味がなければ知ろうともしないのだから人間は都合良くできていると、少しだけ皮肉に感じた。
道ながらに歩く人々、街ではやはり珍しい人属に視線が捕らわれやすくよく見られているが、それも仕方がないだろう。
そう納得した上で言葉にして振り向くと、呆気にとられたニーシャが次の瞬間にはため息をついた。
思ったままを伝えただけなのだが、ディブロの態度に取り繕った痕跡もないので従者は理解する。
「ディブロ殿、思ったことを言っても?」
「畏まらなくてもいい、気軽に呼んでくれ」
「分かりました、おいっメス犬」
「それは違うだろう!? 気軽通り越して何様だ!?」
「ダメですか? なんだ残念……。 じゃあディブロさん、私は素直に思いました、貴方には殿下の番に是非なってほしいと」
「ーーはいっ!?」
「ほらっ、行きますよ」
時折息をするように毒を吐くニーシャの態度には表も裏もない、爽快さを錯覚すら感じるのでディブロはたちが悪いと思い始める。
そして心底ガッカリした顔を浮かべたのも束の間、また唐突に番の話が湧いて出てきたので、どうしてそれがと聞きたくとも従者はズンズンと先に歩いて行ってしまった。
流石に慣れない街ではぐれるのはまずいと早歩きで後を追いかけようと人の波をかき分けるように進む。
「……んっ? あれはーー」
その時不意にすれ違った人影が立ち去るディブロの背を見るよう振り返ったのに、彼は気づくことはなかった。
名目上は捕虜であるため出歩くなどできないのだが、貴賓として応対しなければならない命も下されている。
一存では決められないと即答した後、主に確認してみるとしてニーシャは退出していった。
それから半刻ほど経った頃に、少し離れたところから罵声とかすかに建物が揺れたような感覚がする。
それから程なくして、先ほどよりも憮然とした顔を浮かべた従者が許可が降りたと伝えてきた。
とはいえ一人での外出は当然認められるものではなく、ニーシャが監視兼案内役を務める。
「……へぇっ、案外普通の街なんだな」
待っている最中に窓から外を眺めた限り、石と木を利用した建物が市井に広がり、歩く人々の姿は当然獣人ばかりだ。
中には亜人と区分される者もいるが、ディブロにはその辺りの線引きはいまいち把握できていない。
難しい問題ではあるが、ともあれ下り立った街を見て素直な感想が零れた。
良くも悪くも取れる言葉なだけに傍らのニーシャが何とも言えない顔つきをしているのは見ないようにする。
「発言から察するに、木を組み立てただけの簡素な家で獣を狩ってその場で食べるみたいな原始的なスタイルだと思ってましたか?」
「いっいやっそういう意味では……。 正直な話、獣人といってもどんな風に暮らしているかなんて見当がつかなかったんだ。 だからまぁ、偏見がなかったなんて言えば嘘になるがそれでも驚いたって、言う方が正しいな」
「ーー貴方、分かりやすい人間だって言われません?」
「えっ?」
「何でもありません……。 さて、簡単に街を紹介します。 長い時間はとれませんので主だった場所のみ行きます。 詳しいところは殿下にお尋ねください」
「あっ、あぁっ……」
殺意の込められたニーシャの目付きに思わず萎縮してしまうが、ディブロは嘘偽りなく感じたままのことを告げる。
人と良く似ているとはいえ、獣の出で立ちであり、かつ今まで周囲にいなかった存在には偏見は存在するのは事実だ。
故に争いの火種になることはままあることだが、幸か不幸か騎士時代を含めてディブロの周りにそのような印象を植え付けてくる人間は多くなかったのもあり、漠然とした情報しか知り得ていない。
無知とも取れるが、興味がなければ知ろうともしないのだから人間は都合良くできていると、少しだけ皮肉に感じた。
道ながらに歩く人々、街ではやはり珍しい人属に視線が捕らわれやすくよく見られているが、それも仕方がないだろう。
そう納得した上で言葉にして振り向くと、呆気にとられたニーシャが次の瞬間にはため息をついた。
思ったままを伝えただけなのだが、ディブロの態度に取り繕った痕跡もないので従者は理解する。
「ディブロ殿、思ったことを言っても?」
「畏まらなくてもいい、気軽に呼んでくれ」
「分かりました、おいっメス犬」
「それは違うだろう!? 気軽通り越して何様だ!?」
「ダメですか? なんだ残念……。 じゃあディブロさん、私は素直に思いました、貴方には殿下の番に是非なってほしいと」
「ーーはいっ!?」
「ほらっ、行きますよ」
時折息をするように毒を吐くニーシャの態度には表も裏もない、爽快さを錯覚すら感じるのでディブロはたちが悪いと思い始める。
そして心底ガッカリした顔を浮かべたのも束の間、また唐突に番の話が湧いて出てきたので、どうしてそれがと聞きたくとも従者はズンズンと先に歩いて行ってしまった。
流石に慣れない街ではぐれるのはまずいと早歩きで後を追いかけようと人の波をかき分けるように進む。
「……んっ? あれはーー」
その時不意にすれ違った人影が立ち去るディブロの背を見るよう振り返ったのに、彼は気づくことはなかった。
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