29 / 41
第2話
冷蔵庫品評会
しおりを挟む
ヒュペルお義父さんはというと、突然現れた未知の物体に緊張しつつ、興味津々なのか触りたくてうずうずしているのが見て取れた。
そういうのが好きなのかと眺めていると、これまた面白い反応が飛び交う。
「これは、扉か? どれどーーうわっ!? じ、爺様! 中が冷たい、というか寒いくらいです!? しかもなんか、見たことないものがたくさん入ってますよ!?」
「……一体何を考えた?」
「あっははは……、こっちに来る前に冷蔵庫の中に色々と買い込んだなぁって……」
「それが原因か、全く容赦無く魔力を持っていきおって……!」
「これなんだ? 食材なのか? なっ、卵!? こんなにたくさん!? ほ、他には……こ、氷!?!? ダイチ、ダイチ! れいぞうこって氷まで保管できるのか!? あっ!? しかもここ、こっちの棚とは全く違って寒すぎるくらいだ!? す、凄い……! こ、こっちはどうなってるんだ!? あれっ、肉が凍ってる!? うわ、魚まで!? うわ、うわっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
ワンドア式の冷蔵庫をおっかなびっくりに開くヒュペルお義父さんは、中に入っているものを見ては声を上げ、驚いたり喜んだりと忙しそうに表情をコロコロと変え、興奮から尻尾を振っていた。
対して爺様は、考えろとはいったがそんな余計なことまで考える必要はなかったと、怒りと呆れが混じった顔をしていた。
反応からすると、そんなに色々と詰まっているのか気になったので、壁を支えに震える体をなんとか立たせて、おぼつかない足で冷蔵庫まで歩く。
「ーーこれ、俺の想像していた冷蔵庫の中身のまんまだ」
「これが空想具現の最たる力じゃ。 術者本人の想像もさることながら、それを足掛かりにして具現するに辺り、世界がそれを確固たるものとして存在を固定するために補強が行われるのじゃ。 このれいぞうこというものは、ダイチが元いた世界で使っていたものなのであろう?」
「そう、ですね、でも所詮空想なんですよね? これじゃまるで本物……」
「だからこその空想具現なのじゃ。 しかもこれは世界が違えど、確かに存在するものであればそこから情報を引っ張り、それを足掛かりにこちら側へ定着させる。 ここまで言えば、この力がどれほど規格外なのかはお前でも分かるであろう?」
興奮冷めやまないヒュペルお義父さんの後ろからチラッと中を覗くと、覚えている限り自分で最後に見た冷蔵庫そのものだった。
だいぶ時間が経ってしまったので朧げだが、間違いない、普段から飲食していた牛乳やヨーグルトは俺の好きなメーカーで、リアリティすぎる。
隣に来た爺様が空想具現がどういう能力なのか説明してくれるが、一向に理解が追いつかなかった。
ただ想像しただけなのに、世界が再現を手助けしてくれると言われても分かるはずもない、けれど爺様ははっきりとこの冷蔵庫は紛れもない本物だと断言する。
異世界転生したら特殊能力に目覚めるとかお決まりの展開だけど、これはちょっとマズい気がする。
だってこれで向こうの銃火器なんかを具現化できたりしたら、どうなるかなんて言及しなくても分かるオチが待っていた。
「……あの、ちなみにこの空想具現というのは、誰もが当たり前に使えるものでは?」
「たわけ。 これは神話級の能力じゃ、今世に扱えるものなどそうそうおらん。 とにかく、これも含めてワシが許可するまで力の行使は許さんぞ!」
「はい、気をつけます……」
「やれやれ……、ヒュペル! 少し落ち着かんか!」
「いだっ!?!? あっ、す、すみません、爺様……」
絶対ないだろうけど、淡い期待で空想具現は一般的な能力なのかと聞いたが、案の定そんな都合よくないようだ。
まだまともに魔法も習っていないし、そもそも魔力を制御することだってできないのに、トンデモ能力もあるとなれば、爺様の言い分もわかる気がする。
改めて不用意に力を使わないよう厳命されたので俺は決心するが、それを考えたら爺様は最初から知っていたのだろうか。
聞こうとするが、さっきからテンション高めであれこれと冷蔵庫の中にあるものを手にとっては楽しそうにするヒュペルお義父さんに、老猫の容赦ない杖の一撃が頭に直撃した。
「でも、コンセントを挿してないのになんで電気が通ってるんだ?」
「でんきとは、力の源泉のことか? 空想具現されたものは力の所在に関わらず、ある程度までなら実現できる。 今回はワシの魔力も汲み上げておるから、そこまで綺麗に再現されてしまったようじゃの……」
「ということは爺様、これらは食べられると!? あの、問題なければ味見をしてみたいのですが!」
「……正直、空想具現で食料を生み出すなど聞いたこともないが、物は試しか。 ダイチ、お前が創り出したのだから最後まで付き合え」
「はい……、じゃあ俺はこのチョコアイスを」
落ち着きを取り戻したヒュペルお義父さんは興奮こそ落ち着いたが、その手には野菜室に入れてあったきゅうりとトマトを持っている。
気になったので冷蔵庫の中を俺も調べてみると、言っていた通り冷たい、というより普段から使っている通りに稼働していた。
こっちの世界に電気なんかない、というかコンセントを挿すどころか肝心のコンセントがこの冷蔵庫についていない。
なんで動いているのと疑問を口にすると、爺様曰く俺が稼働している冷蔵庫を想像したから、空想具現でそっくりそのまま再現してしまったそうだ。
ヤバイ、俺の考えている以上にこれヤバイな、悪用したり、されないように気をつけないと。
そんな俺の心情など気にすることもなく、お父さんは興味深々と匂いを嗅いで味を確かめたそうにキラキラと目を輝かせているのだが、こっちを見ても許可なんて出せるわけなかった。
どうやら完全に本物らしいので、食べられるかどうかの検証をする。
しかし、コンセントを挿さずに稼働できる冷蔵庫とかスゴすぎるだろう、現代日本で開発されたらバカ売れ間違いなしだ。
くだらないことを考えながら、冷凍室に入れていたチョコアイスを見つけたので、爺様の家から借りたスプーンで掬って食べる、うんっ美味い。
「これは作物なのか、ずいぶん新鮮だな! この赤いのは不思議な味だが、食材としては実に興味深いです!」
「……まさかこれは、獣の乳か? 臭みもなく、飲みやすい……。 こちらは、同じものか? それにしてはずいぶんと固形、というよりは滑らかじゃの……」
「それは牛乳ですね、牛っていう家畜の乳が主原料です。 これはその牛乳を元に作られたヨーグルトです」
「ダイチ、この細長い緑色のはなんだ!?」
「きゅうりですね、そのまま食べても美味しいですよ」
「ホントか!? あむっ! ん~、歯応えがいいな! 味はないが、瑞々しい! しかし、ここまで文明差があるとは驚きましたね」
「全くじゃの、食材の保管に一喜一憂してるワシらが哀れに思えてくるわい…….」
懐かしいチョコレートと冷たいアイスの甘味に舌鼓を打っていると、あれこれと口に含んで楽しそうにしているヒュペルお義父さんは、特に野菜関係が気にいったようだ。
爺様は牛乳パックを手にとり、器に注いで口に含んでその味に驚愕し、飲み終えてからヨーグルトのパックへ手を伸ばす。
人は見慣れぬものには意図的に忌避するものだが、この二人は偏見的な考えがないのか、知らないなら知ればいいとばかり、冷蔵庫を調べていた。
う~んと、これを考えろって言われたのって、確か食材保管に関しての参考意見が欲しいからって話だったよな?
「あの、肉の保存について話してませんでしたか?」
「ーーそうだ、それが最初の目的だった」
「……いかんの、つい研究欲が先に出てしもうた」
俺の指摘にはっとしたのか、お義父さんにしても爺様にしても、やいのやいのと見慣れぬ食べ物を口に運んでいたのをそっと止める。
各々が咳払いをして冷静に、最初の目的を思い出したところで本題に入った。
「とにかく、この冷蔵庫で食材を保存できます。 これはそこまで大きくないんですけど、向こうでは倍くらい大きい冷蔵庫もあります」
「そうなのか、凄いな……。 そういえばさっき、肉とか魚が凍った棚があったな。 もしかしてそこに入れるのか?」
「はい、無限には入れられないですけど、ある程度の時間までなら保存が効きます」
「ふむ……。 なるほど、要するにれいぞうこの根本的な仕組みとしては、中の冷気をいかに逃さず閉じ込めておけるか、というところかの?」
「そうなると空気の循環が鍵となりそうですね。 熱への対策などはどのようにしているのでしょう?」
「恐らく熱そのものを冷気に変換しておるのかもしれんの。 そうなるとただ循環させるのではなく、中に籠もった熱を排出させながらも冷気を一定に保つための仕組みをーー」
ふらつく足でなんとか冷蔵庫の隣に立って、俺の知る限りの情報を提供すると、爺様とヒュペルお義父さんの議論が始まる。
その時点で俺はもうついていけないので、黙って見守るしかないが、やっぱりスゴかった。
爺様の仮説とお義父さんの推論、それぞれが意見を出し合い、疑問をぶつけ合い、正解はどれかの話し合いを重ねていく姿は尊敬に値する。
やっぱりこの人たちは訳ありなんだろうなと考え込んでいると、突然話を止めた。
どうしたのかと見ていると、少し離れたところから急ぐように駆け寄ってくる白猫の女性が現れる。
「爺様、ヒュペルさん!」
「どうした、イレーヌ」
「お父さん達が狩りから帰ってきたんですけど、そのーー」
「……村には入れておらぬだろうな?」
「ーーっ、はい。 結界が反応して、入ることはできないようですが……」
「分かった、すぐに向かう。 ヒュペル、ついてきてくれ。 ダイチ、お前は……、動けそうか?」
「いえっあの……、どなたか手を貸していただけないでしょうか?」
「イレーヌ、すまないがダイチを家まで送ってくれないか? ちょっと色々あって、一人じゃ歩けないんだ」
「は、はい……。 あの、爺様? 差し支えなければ、その……」
「あれについては気にせんでよい。 後で皆を集めて説明する」
イレーヌと呼ばれた少女が息を切らして来ると、何事とヒュペルお義父さんが聞いてるのに対して、爺様の顔が怖いことになってる。
話に聞いた限りでは狩りでなにか問題があったのか、重い腰を上げて三毛猫様は柴犬を引き連れて問題解決に動くようだ。
残る俺だが、空想具現のせいで力は戻らず、冷蔵庫を支えにしてやっとの思いで立っている。
見かねたお義父さんが少女に頼むと快諾こそするが、気になるようで冷蔵庫を不審そうに見つめていた。
こういう反応が普通だろうな、そんなことを考えているとおっかなびっくりに近づいてきて、そそくさと俺の腕を自身の肩に回して歩ける態勢を整える。
確認してから爺様たちは村外れへ向かい、俺はイレーヌと共に家へ帰るのだった。
そういうのが好きなのかと眺めていると、これまた面白い反応が飛び交う。
「これは、扉か? どれどーーうわっ!? じ、爺様! 中が冷たい、というか寒いくらいです!? しかもなんか、見たことないものがたくさん入ってますよ!?」
「……一体何を考えた?」
「あっははは……、こっちに来る前に冷蔵庫の中に色々と買い込んだなぁって……」
「それが原因か、全く容赦無く魔力を持っていきおって……!」
「これなんだ? 食材なのか? なっ、卵!? こんなにたくさん!? ほ、他には……こ、氷!?!? ダイチ、ダイチ! れいぞうこって氷まで保管できるのか!? あっ!? しかもここ、こっちの棚とは全く違って寒すぎるくらいだ!? す、凄い……! こ、こっちはどうなってるんだ!? あれっ、肉が凍ってる!? うわ、魚まで!? うわ、うわっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
ワンドア式の冷蔵庫をおっかなびっくりに開くヒュペルお義父さんは、中に入っているものを見ては声を上げ、驚いたり喜んだりと忙しそうに表情をコロコロと変え、興奮から尻尾を振っていた。
対して爺様は、考えろとはいったがそんな余計なことまで考える必要はなかったと、怒りと呆れが混じった顔をしていた。
反応からすると、そんなに色々と詰まっているのか気になったので、壁を支えに震える体をなんとか立たせて、おぼつかない足で冷蔵庫まで歩く。
「ーーこれ、俺の想像していた冷蔵庫の中身のまんまだ」
「これが空想具現の最たる力じゃ。 術者本人の想像もさることながら、それを足掛かりにして具現するに辺り、世界がそれを確固たるものとして存在を固定するために補強が行われるのじゃ。 このれいぞうこというものは、ダイチが元いた世界で使っていたものなのであろう?」
「そう、ですね、でも所詮空想なんですよね? これじゃまるで本物……」
「だからこその空想具現なのじゃ。 しかもこれは世界が違えど、確かに存在するものであればそこから情報を引っ張り、それを足掛かりにこちら側へ定着させる。 ここまで言えば、この力がどれほど規格外なのかはお前でも分かるであろう?」
興奮冷めやまないヒュペルお義父さんの後ろからチラッと中を覗くと、覚えている限り自分で最後に見た冷蔵庫そのものだった。
だいぶ時間が経ってしまったので朧げだが、間違いない、普段から飲食していた牛乳やヨーグルトは俺の好きなメーカーで、リアリティすぎる。
隣に来た爺様が空想具現がどういう能力なのか説明してくれるが、一向に理解が追いつかなかった。
ただ想像しただけなのに、世界が再現を手助けしてくれると言われても分かるはずもない、けれど爺様ははっきりとこの冷蔵庫は紛れもない本物だと断言する。
異世界転生したら特殊能力に目覚めるとかお決まりの展開だけど、これはちょっとマズい気がする。
だってこれで向こうの銃火器なんかを具現化できたりしたら、どうなるかなんて言及しなくても分かるオチが待っていた。
「……あの、ちなみにこの空想具現というのは、誰もが当たり前に使えるものでは?」
「たわけ。 これは神話級の能力じゃ、今世に扱えるものなどそうそうおらん。 とにかく、これも含めてワシが許可するまで力の行使は許さんぞ!」
「はい、気をつけます……」
「やれやれ……、ヒュペル! 少し落ち着かんか!」
「いだっ!?!? あっ、す、すみません、爺様……」
絶対ないだろうけど、淡い期待で空想具現は一般的な能力なのかと聞いたが、案の定そんな都合よくないようだ。
まだまともに魔法も習っていないし、そもそも魔力を制御することだってできないのに、トンデモ能力もあるとなれば、爺様の言い分もわかる気がする。
改めて不用意に力を使わないよう厳命されたので俺は決心するが、それを考えたら爺様は最初から知っていたのだろうか。
聞こうとするが、さっきからテンション高めであれこれと冷蔵庫の中にあるものを手にとっては楽しそうにするヒュペルお義父さんに、老猫の容赦ない杖の一撃が頭に直撃した。
「でも、コンセントを挿してないのになんで電気が通ってるんだ?」
「でんきとは、力の源泉のことか? 空想具現されたものは力の所在に関わらず、ある程度までなら実現できる。 今回はワシの魔力も汲み上げておるから、そこまで綺麗に再現されてしまったようじゃの……」
「ということは爺様、これらは食べられると!? あの、問題なければ味見をしてみたいのですが!」
「……正直、空想具現で食料を生み出すなど聞いたこともないが、物は試しか。 ダイチ、お前が創り出したのだから最後まで付き合え」
「はい……、じゃあ俺はこのチョコアイスを」
落ち着きを取り戻したヒュペルお義父さんは興奮こそ落ち着いたが、その手には野菜室に入れてあったきゅうりとトマトを持っている。
気になったので冷蔵庫の中を俺も調べてみると、言っていた通り冷たい、というより普段から使っている通りに稼働していた。
こっちの世界に電気なんかない、というかコンセントを挿すどころか肝心のコンセントがこの冷蔵庫についていない。
なんで動いているのと疑問を口にすると、爺様曰く俺が稼働している冷蔵庫を想像したから、空想具現でそっくりそのまま再現してしまったそうだ。
ヤバイ、俺の考えている以上にこれヤバイな、悪用したり、されないように気をつけないと。
そんな俺の心情など気にすることもなく、お父さんは興味深々と匂いを嗅いで味を確かめたそうにキラキラと目を輝かせているのだが、こっちを見ても許可なんて出せるわけなかった。
どうやら完全に本物らしいので、食べられるかどうかの検証をする。
しかし、コンセントを挿さずに稼働できる冷蔵庫とかスゴすぎるだろう、現代日本で開発されたらバカ売れ間違いなしだ。
くだらないことを考えながら、冷凍室に入れていたチョコアイスを見つけたので、爺様の家から借りたスプーンで掬って食べる、うんっ美味い。
「これは作物なのか、ずいぶん新鮮だな! この赤いのは不思議な味だが、食材としては実に興味深いです!」
「……まさかこれは、獣の乳か? 臭みもなく、飲みやすい……。 こちらは、同じものか? それにしてはずいぶんと固形、というよりは滑らかじゃの……」
「それは牛乳ですね、牛っていう家畜の乳が主原料です。 これはその牛乳を元に作られたヨーグルトです」
「ダイチ、この細長い緑色のはなんだ!?」
「きゅうりですね、そのまま食べても美味しいですよ」
「ホントか!? あむっ! ん~、歯応えがいいな! 味はないが、瑞々しい! しかし、ここまで文明差があるとは驚きましたね」
「全くじゃの、食材の保管に一喜一憂してるワシらが哀れに思えてくるわい…….」
懐かしいチョコレートと冷たいアイスの甘味に舌鼓を打っていると、あれこれと口に含んで楽しそうにしているヒュペルお義父さんは、特に野菜関係が気にいったようだ。
爺様は牛乳パックを手にとり、器に注いで口に含んでその味に驚愕し、飲み終えてからヨーグルトのパックへ手を伸ばす。
人は見慣れぬものには意図的に忌避するものだが、この二人は偏見的な考えがないのか、知らないなら知ればいいとばかり、冷蔵庫を調べていた。
う~んと、これを考えろって言われたのって、確か食材保管に関しての参考意見が欲しいからって話だったよな?
「あの、肉の保存について話してませんでしたか?」
「ーーそうだ、それが最初の目的だった」
「……いかんの、つい研究欲が先に出てしもうた」
俺の指摘にはっとしたのか、お義父さんにしても爺様にしても、やいのやいのと見慣れぬ食べ物を口に運んでいたのをそっと止める。
各々が咳払いをして冷静に、最初の目的を思い出したところで本題に入った。
「とにかく、この冷蔵庫で食材を保存できます。 これはそこまで大きくないんですけど、向こうでは倍くらい大きい冷蔵庫もあります」
「そうなのか、凄いな……。 そういえばさっき、肉とか魚が凍った棚があったな。 もしかしてそこに入れるのか?」
「はい、無限には入れられないですけど、ある程度の時間までなら保存が効きます」
「ふむ……。 なるほど、要するにれいぞうこの根本的な仕組みとしては、中の冷気をいかに逃さず閉じ込めておけるか、というところかの?」
「そうなると空気の循環が鍵となりそうですね。 熱への対策などはどのようにしているのでしょう?」
「恐らく熱そのものを冷気に変換しておるのかもしれんの。 そうなるとただ循環させるのではなく、中に籠もった熱を排出させながらも冷気を一定に保つための仕組みをーー」
ふらつく足でなんとか冷蔵庫の隣に立って、俺の知る限りの情報を提供すると、爺様とヒュペルお義父さんの議論が始まる。
その時点で俺はもうついていけないので、黙って見守るしかないが、やっぱりスゴかった。
爺様の仮説とお義父さんの推論、それぞれが意見を出し合い、疑問をぶつけ合い、正解はどれかの話し合いを重ねていく姿は尊敬に値する。
やっぱりこの人たちは訳ありなんだろうなと考え込んでいると、突然話を止めた。
どうしたのかと見ていると、少し離れたところから急ぐように駆け寄ってくる白猫の女性が現れる。
「爺様、ヒュペルさん!」
「どうした、イレーヌ」
「お父さん達が狩りから帰ってきたんですけど、そのーー」
「……村には入れておらぬだろうな?」
「ーーっ、はい。 結界が反応して、入ることはできないようですが……」
「分かった、すぐに向かう。 ヒュペル、ついてきてくれ。 ダイチ、お前は……、動けそうか?」
「いえっあの……、どなたか手を貸していただけないでしょうか?」
「イレーヌ、すまないがダイチを家まで送ってくれないか? ちょっと色々あって、一人じゃ歩けないんだ」
「は、はい……。 あの、爺様? 差し支えなければ、その……」
「あれについては気にせんでよい。 後で皆を集めて説明する」
イレーヌと呼ばれた少女が息を切らして来ると、何事とヒュペルお義父さんが聞いてるのに対して、爺様の顔が怖いことになってる。
話に聞いた限りでは狩りでなにか問題があったのか、重い腰を上げて三毛猫様は柴犬を引き連れて問題解決に動くようだ。
残る俺だが、空想具現のせいで力は戻らず、冷蔵庫を支えにしてやっとの思いで立っている。
見かねたお義父さんが少女に頼むと快諾こそするが、気になるようで冷蔵庫を不審そうに見つめていた。
こういう反応が普通だろうな、そんなことを考えているとおっかなびっくりに近づいてきて、そそくさと俺の腕を自身の肩に回して歩ける態勢を整える。
確認してから爺様たちは村外れへ向かい、俺はイレーヌと共に家へ帰るのだった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる