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第2話
いよいよ運命の対話です
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『……』
分かってたことだが、気まずい、気まず過ぎる。
沈黙というには重すぎる空気に押し潰されそうになる俺の目の前には、憮然とした顔で腕を組んでいるゼンブルさんが睨みを効かせていた。
奮起して二人だけの場を用意したものの、ヒュペルお義父さんには心配されたが、なんとか大丈夫と答える。
席を外してもらうとき、ゼンブルさんと先に話があるといってヒュペルお義父さんと別の部屋へ行ったが、すぐに現れて肩を軽く叩いてから外で待ってもらっているところだ。
残されたドーベルマンは少し苦しそうな顔でお腹を押さえているが、何をされたのだろうか……。
さて、ここまで来たのだから逃げても始まらないと覚悟を決めたが、怖いものは怖い、正直言って漏れそうなんだけど、いろいろと。
まずは何を話すべきか、世間話をするにしても良い天気ですねとか話が拡がるはずもない、拡げられる人はマジ尊敬するけど。
話題を探しつつ、そっと視線を正面のドーベルマンに向ければピタリと合ってしまい、そのせいで全身にいらぬ緊張が走った。
やべぇなと考えていると、見かねたように相手から話しかけてくる。
「……話とはなんだ?」
「はっ、はいっ!? えっと、あの……!」
「……そんな態度を見せるな。 雄たる者、弱みを見せればそれだけで隙になる、お前は親に何を教わったんだ?」
「えっ、えっと……、何でしょうね……?」
萎縮し震えている俺が気に入らないのだろう、不機嫌そうに大きくため息をつく。
これで番いを解消しろと要求されて嫌だと言ったら、また槍斧を振り下ろされるのだろうか、命がけで逃げるけど。
そんなことにならないよう話をしなければと身構える俺だったが、この時少し様子が違うことにようやく気づく。
「……不便はないか?」
「えっ? 不便は、ない、です……」
「そうか……。 私はあまり難しいことはわからないが、見知らぬ世界に迷い込んだお前には慣れぬこともあるだろうと、心配していたんだ……」
「……最初は戸惑うこともありましたけど、ヒューイがいて、爺様とヒュペルお義父さんからいろいろと教わってるので、なんとかやれてます」
「その、なんだ……。 ヒュペルとは随分仲が良いんだな、お前がお義父さんと呼びたいと言ったのか?」
「いやっ、それはヒュペルさんがそう呼ばないと反応しないぞって言われたのでお言葉に甘えたんです。 ゼンブルさん、ヒュペルお義父さんは本当に良い番いですね」
「ーーあぁっ、私が守るべき、愛すべき人だ。 そしてヒューイもまた、私が護らなければならないと、ずっと思ってた……」
ふとゼンブルさんの表情はいつも通り無なのだが、心なしか俺への感情が柔らかくなり、言葉は気遣いを見せ始めた。
まさかこんなことを言われるとは考えていなかったので、もしかしたらヒューイを番いとして娶れと言われたときくらいの衝撃があるかもしれない。
だが本人も気にしていたのか、特にヒュペルお義父さんとは距離が近くなり、義理の親子としてはかなり仲良くなっていたのは、番い的に心配だったのだろうか。
心配しなくても俺はヒューイ以外に欲情はしないぞ、なんて言ったら辺りが血の海になるので言わないけど。
「……正直お前にはいい感情がなかった、私の最愛の息子の番いと言われても納得などできるはずもない」
「まぁ、それが正しいかと……。 それに以前には番いじゃなくても相手がいたーー」
「いやっあれも私は認めなかった」
「はっ? えっ、だって爺様も許可したって聞きましたけど……」
「私はヒューイを誰にも渡すつもりはなかったのだ! それをあれが突然割り込んできて、知らぬ間に話を進めて、あまつさえ私のヒューイを死の淵に落とそうとしただけでも赦せないというのに、責任を放棄して逃げ出しやがって……! 帰ってきたりしたら木っ端微塵に切り刻んでくれる……!!」
ゼンブルさんが正直に、というよりは分かっていた俺への第一印象を聞かされて、仕方がないかと思ったが、以前の疑似番いの話をすると表情がまた変わった。
確かにヒューイが昏睡してる中で失踪はマズいかもしれないが、責任やら罪悪感に苛まれて村にはいられなかったのだろう。
ヒュペルお義父さんや爺様、そして彼の父親や村の人達も出ていったことについては思うところはあっても、怒りの矛先を向けて解決はしないと分かっていた。
その代わりに、二度と村へ帰ってくることは許さないと告げたそうなので、それは十分すぎるほどの罰だろう。
「……おほん! 話が逸れたな。 その、つまりなんだ……、私は最初お前もあの薄情な腐れ外道で発情しか取り柄のない下半身本体なクソガキと同じかと思っていたんだ」
ツッコミ待ちなのかなと言いたくなる暴言が、そのまま自分へブーメランしてることに気づいていないのだろうか。
あっ、俺がヒュペルお義父さんとの馴れ初め……、いやっあれはそんなものじゃないな、事件を知っているのを知らないのだろう。
ゼンブルさんも大概ぶっ飛んだことをしているのだが、案外本人は気づいていないのだなと、呑気なことを思ってしまった。
「だが、ヒューイがお前と出会ってからはすっかり元気になった。 聞かされてるだろうが、昏睡する以前の頃と同じ、いやっそれ以上に日々を楽しく過ごしているのが、私もヒュペルも嬉しかったし、安心した……」
「俺は別に特別なことは何もしてませんよ……」
「いるだけで特別なんだ、番いというのは。 ヒューイがお前のことを話していく内に気づいた、私もゼンブルと婚姻式を迎えた頃に似ていると……」
「えっ!? あの、ゼンブルさん!?」
「……すまなかった。 暴言と暴力ばかり繰り返して、ホントはかなり前から分かってたんだ、お前が本当にヒューイの番いで、そしてそれに関係なくヒューイのことを大切にしてくれてることが……」
ゼンブルさんは段々とお義父さんやヒューイと話している時と同じような口調と落ち着きで話していったが、唐突に頭を下げてきたので驚いた。
思わず俺は席から立ち上がって頭を上げるように言おうとするが、遮るように謝罪と俺への印象は以前から変わっていたことを教えてくれる。
どう返したらいいか分からない俺は、一先ずゼンブルさんの話したいようにさせるべきかもしれないと腰を下ろした。
ずっと頭を下げたままで、ドーベルマンは話を続ける。
「ヒュペルや爺様、村の皆もお前への態度が変わり、接するようになってからは俺もお前のことを知ろうとした。 何を食べられるのか、きちんと寝られてるのか、ヒューイとの夜伽はどんなことをしているのかーー」
俺への印象が変化してくれたのはいいが、途中に引っかかる気になる点はできるなら詮索しないでもらいたい。
なんで息子とその番いが繰り広げてる夜のプロレスごっこの詳細を知りたがるのこの人は!? 語りたくないし、語らせたくないわ!
これは帰ったらヒューイにも厳命しなければと思ったが、すでに話してたら俺の命は風前の灯火だろうな……。
ただこうして話す姿は言いたいことがたくさんあり過ぎるというか、考えれば考えるだけゼンブルさんは面白い人なのかもしれない。
そう考えだしたら止まらなくなり、これまでの言動が変わってくる気がした。
「……ぶふっ!」
「なっ、何を笑う! 貴様、私が下手に出てればいい気にーー!」
「す、すみません……! あの、ゼンブルさんが面白い人だなって思って……!」
「……おも、しろい? 私が、か?」
「そうですよ、だって今話したことが本音なら、俺のこと知ろうとしてるのに、不器用すぎて全く成果が得られず困っていたってことになりますよね?」
「うっ……!?」
「あぁっ、ダメだ。 やっぱりヒューイの親御さんですね、そしてヒューイはスゴイな、ゼンブルお義父さんの本音を全部言い当ててましたよ?」
「……あの子が、そんなことを?」
「ええっ、だから俺にもお義父さんのことを好きになって欲しいって言ってました」
耐えきれず笑いが出てしまうと、案の定俺のよく知るゼンブルさんに戻り、その手に槍斧を出そうとした。
堪えきれず笑う俺は何とか弁明すると、予想外のことを言われたと感じたのか、ドーベルマンは唖然とした顔で固まる。
一頻り笑い終えると、俺は昨晩のヒューイの言葉を思い出していた。
きちんとその人となりをちゃんと見ているのだろう、父が複雑ながらも俺へ歩み寄ろうとしているのは結果的には間違いではなかったし、良いことだ。
それなら俺のするべきことは、ヒュペルさんと同じで変わらない。
「すぐとは言いませんが、いずれはちゃんとお義父さんと呼ばせてもらいます。 俺はゼンブルさんとも、きちんと家族になりたいって思ってますから」
「ーーおかしな奴だな、お前は。 なら私もお前の名で呼ばせてもらうが、その、なんだ……」
「? どうかしましたか?」
「あ、あのな……、私はどちらかというとーー」
『おいっ、ゼンブル。 そろそろ狩りの時間だろう、迎えが来てるからキリのいいところで話し終わらせて出てきてくれ』
完全に歩み寄れたわけではないが、大きな一歩を踏めたと思える成果を得られた実感はある。
前向きに答えると、呆れたように苦笑するゼンブルさんの表情も心なしか、ヒューイに向けているものに近い色をしていた。
すると何かを言いたそうにするドーベルマンの様子を伺っていると、家の外で待っててくれてたヒュペルお義父さんの声が聞こえてくる。
どうやら仕事の時間か来たようで、名残惜しそうに立ち上がり支度をするゼンブルさんが準備を整えると入り口のドアへ向かっていった。
その後ろを俺もついて歩いていけば、外には迎えの狩りを行う熊人の男性が挨拶をする。
素っ気なく答えて先導し、同僚がその後に続いて行くのを俺、そして待っていたヒュペルお義父さんもついていった。
「……何話してたんだ?」
「前向きなお話です!」
「ーーやっぱすげぇな、ダイチは。 あのゼンブルとこんな短期間で親しくなるなんて」
仕事の打ち合わせをしている前方のゼンブルさんたちの邪魔をしないよう、こそっと隣にきたヒュペルお義父さんが、先ほどまで話していた内容を尋ねてくる。
答えてもいいが、あれそれと話すのはあまりいいことではないと判断して、問題はないとぼかしつつも進展したことを伝えた。
分かってたことだが、気まずい、気まず過ぎる。
沈黙というには重すぎる空気に押し潰されそうになる俺の目の前には、憮然とした顔で腕を組んでいるゼンブルさんが睨みを効かせていた。
奮起して二人だけの場を用意したものの、ヒュペルお義父さんには心配されたが、なんとか大丈夫と答える。
席を外してもらうとき、ゼンブルさんと先に話があるといってヒュペルお義父さんと別の部屋へ行ったが、すぐに現れて肩を軽く叩いてから外で待ってもらっているところだ。
残されたドーベルマンは少し苦しそうな顔でお腹を押さえているが、何をされたのだろうか……。
さて、ここまで来たのだから逃げても始まらないと覚悟を決めたが、怖いものは怖い、正直言って漏れそうなんだけど、いろいろと。
まずは何を話すべきか、世間話をするにしても良い天気ですねとか話が拡がるはずもない、拡げられる人はマジ尊敬するけど。
話題を探しつつ、そっと視線を正面のドーベルマンに向ければピタリと合ってしまい、そのせいで全身にいらぬ緊張が走った。
やべぇなと考えていると、見かねたように相手から話しかけてくる。
「……話とはなんだ?」
「はっ、はいっ!? えっと、あの……!」
「……そんな態度を見せるな。 雄たる者、弱みを見せればそれだけで隙になる、お前は親に何を教わったんだ?」
「えっ、えっと……、何でしょうね……?」
萎縮し震えている俺が気に入らないのだろう、不機嫌そうに大きくため息をつく。
これで番いを解消しろと要求されて嫌だと言ったら、また槍斧を振り下ろされるのだろうか、命がけで逃げるけど。
そんなことにならないよう話をしなければと身構える俺だったが、この時少し様子が違うことにようやく気づく。
「……不便はないか?」
「えっ? 不便は、ない、です……」
「そうか……。 私はあまり難しいことはわからないが、見知らぬ世界に迷い込んだお前には慣れぬこともあるだろうと、心配していたんだ……」
「……最初は戸惑うこともありましたけど、ヒューイがいて、爺様とヒュペルお義父さんからいろいろと教わってるので、なんとかやれてます」
「その、なんだ……。 ヒュペルとは随分仲が良いんだな、お前がお義父さんと呼びたいと言ったのか?」
「いやっ、それはヒュペルさんがそう呼ばないと反応しないぞって言われたのでお言葉に甘えたんです。 ゼンブルさん、ヒュペルお義父さんは本当に良い番いですね」
「ーーあぁっ、私が守るべき、愛すべき人だ。 そしてヒューイもまた、私が護らなければならないと、ずっと思ってた……」
ふとゼンブルさんの表情はいつも通り無なのだが、心なしか俺への感情が柔らかくなり、言葉は気遣いを見せ始めた。
まさかこんなことを言われるとは考えていなかったので、もしかしたらヒューイを番いとして娶れと言われたときくらいの衝撃があるかもしれない。
だが本人も気にしていたのか、特にヒュペルお義父さんとは距離が近くなり、義理の親子としてはかなり仲良くなっていたのは、番い的に心配だったのだろうか。
心配しなくても俺はヒューイ以外に欲情はしないぞ、なんて言ったら辺りが血の海になるので言わないけど。
「……正直お前にはいい感情がなかった、私の最愛の息子の番いと言われても納得などできるはずもない」
「まぁ、それが正しいかと……。 それに以前には番いじゃなくても相手がいたーー」
「いやっあれも私は認めなかった」
「はっ? えっ、だって爺様も許可したって聞きましたけど……」
「私はヒューイを誰にも渡すつもりはなかったのだ! それをあれが突然割り込んできて、知らぬ間に話を進めて、あまつさえ私のヒューイを死の淵に落とそうとしただけでも赦せないというのに、責任を放棄して逃げ出しやがって……! 帰ってきたりしたら木っ端微塵に切り刻んでくれる……!!」
ゼンブルさんが正直に、というよりは分かっていた俺への第一印象を聞かされて、仕方がないかと思ったが、以前の疑似番いの話をすると表情がまた変わった。
確かにヒューイが昏睡してる中で失踪はマズいかもしれないが、責任やら罪悪感に苛まれて村にはいられなかったのだろう。
ヒュペルお義父さんや爺様、そして彼の父親や村の人達も出ていったことについては思うところはあっても、怒りの矛先を向けて解決はしないと分かっていた。
その代わりに、二度と村へ帰ってくることは許さないと告げたそうなので、それは十分すぎるほどの罰だろう。
「……おほん! 話が逸れたな。 その、つまりなんだ……、私は最初お前もあの薄情な腐れ外道で発情しか取り柄のない下半身本体なクソガキと同じかと思っていたんだ」
ツッコミ待ちなのかなと言いたくなる暴言が、そのまま自分へブーメランしてることに気づいていないのだろうか。
あっ、俺がヒュペルお義父さんとの馴れ初め……、いやっあれはそんなものじゃないな、事件を知っているのを知らないのだろう。
ゼンブルさんも大概ぶっ飛んだことをしているのだが、案外本人は気づいていないのだなと、呑気なことを思ってしまった。
「だが、ヒューイがお前と出会ってからはすっかり元気になった。 聞かされてるだろうが、昏睡する以前の頃と同じ、いやっそれ以上に日々を楽しく過ごしているのが、私もヒュペルも嬉しかったし、安心した……」
「俺は別に特別なことは何もしてませんよ……」
「いるだけで特別なんだ、番いというのは。 ヒューイがお前のことを話していく内に気づいた、私もゼンブルと婚姻式を迎えた頃に似ていると……」
「えっ!? あの、ゼンブルさん!?」
「……すまなかった。 暴言と暴力ばかり繰り返して、ホントはかなり前から分かってたんだ、お前が本当にヒューイの番いで、そしてそれに関係なくヒューイのことを大切にしてくれてることが……」
ゼンブルさんは段々とお義父さんやヒューイと話している時と同じような口調と落ち着きで話していったが、唐突に頭を下げてきたので驚いた。
思わず俺は席から立ち上がって頭を上げるように言おうとするが、遮るように謝罪と俺への印象は以前から変わっていたことを教えてくれる。
どう返したらいいか分からない俺は、一先ずゼンブルさんの話したいようにさせるべきかもしれないと腰を下ろした。
ずっと頭を下げたままで、ドーベルマンは話を続ける。
「ヒュペルや爺様、村の皆もお前への態度が変わり、接するようになってからは俺もお前のことを知ろうとした。 何を食べられるのか、きちんと寝られてるのか、ヒューイとの夜伽はどんなことをしているのかーー」
俺への印象が変化してくれたのはいいが、途中に引っかかる気になる点はできるなら詮索しないでもらいたい。
なんで息子とその番いが繰り広げてる夜のプロレスごっこの詳細を知りたがるのこの人は!? 語りたくないし、語らせたくないわ!
これは帰ったらヒューイにも厳命しなければと思ったが、すでに話してたら俺の命は風前の灯火だろうな……。
ただこうして話す姿は言いたいことがたくさんあり過ぎるというか、考えれば考えるだけゼンブルさんは面白い人なのかもしれない。
そう考えだしたら止まらなくなり、これまでの言動が変わってくる気がした。
「……ぶふっ!」
「なっ、何を笑う! 貴様、私が下手に出てればいい気にーー!」
「す、すみません……! あの、ゼンブルさんが面白い人だなって思って……!」
「……おも、しろい? 私が、か?」
「そうですよ、だって今話したことが本音なら、俺のこと知ろうとしてるのに、不器用すぎて全く成果が得られず困っていたってことになりますよね?」
「うっ……!?」
「あぁっ、ダメだ。 やっぱりヒューイの親御さんですね、そしてヒューイはスゴイな、ゼンブルお義父さんの本音を全部言い当ててましたよ?」
「……あの子が、そんなことを?」
「ええっ、だから俺にもお義父さんのことを好きになって欲しいって言ってました」
耐えきれず笑いが出てしまうと、案の定俺のよく知るゼンブルさんに戻り、その手に槍斧を出そうとした。
堪えきれず笑う俺は何とか弁明すると、予想外のことを言われたと感じたのか、ドーベルマンは唖然とした顔で固まる。
一頻り笑い終えると、俺は昨晩のヒューイの言葉を思い出していた。
きちんとその人となりをちゃんと見ているのだろう、父が複雑ながらも俺へ歩み寄ろうとしているのは結果的には間違いではなかったし、良いことだ。
それなら俺のするべきことは、ヒュペルさんと同じで変わらない。
「すぐとは言いませんが、いずれはちゃんとお義父さんと呼ばせてもらいます。 俺はゼンブルさんとも、きちんと家族になりたいって思ってますから」
「ーーおかしな奴だな、お前は。 なら私もお前の名で呼ばせてもらうが、その、なんだ……」
「? どうかしましたか?」
「あ、あのな……、私はどちらかというとーー」
『おいっ、ゼンブル。 そろそろ狩りの時間だろう、迎えが来てるからキリのいいところで話し終わらせて出てきてくれ』
完全に歩み寄れたわけではないが、大きな一歩を踏めたと思える成果を得られた実感はある。
前向きに答えると、呆れたように苦笑するゼンブルさんの表情も心なしか、ヒューイに向けているものに近い色をしていた。
すると何かを言いたそうにするドーベルマンの様子を伺っていると、家の外で待っててくれてたヒュペルお義父さんの声が聞こえてくる。
どうやら仕事の時間か来たようで、名残惜しそうに立ち上がり支度をするゼンブルさんが準備を整えると入り口のドアへ向かっていった。
その後ろを俺もついて歩いていけば、外には迎えの狩りを行う熊人の男性が挨拶をする。
素っ気なく答えて先導し、同僚がその後に続いて行くのを俺、そして待っていたヒュペルお義父さんもついていった。
「……何話してたんだ?」
「前向きなお話です!」
「ーーやっぱすげぇな、ダイチは。 あのゼンブルとこんな短期間で親しくなるなんて」
仕事の打ち合わせをしている前方のゼンブルさんたちの邪魔をしないよう、こそっと隣にきたヒュペルお義父さんが、先ほどまで話していた内容を尋ねてくる。
答えてもいいが、あれそれと話すのはあまりいいことではないと判断して、問題はないとぼかしつつも進展したことを伝えた。
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