結び契る〜異世界転生した俺は番いを得る

風煉

文字の大きさ
上 下
17 / 41
第2話

この人、何言っているんだろう……?

しおりを挟む
「それでね! もうすごい勢いで来たからそこを僕が眉間に槍を突き立てたんだけど、それじゃあ絶命しなくてさ! もう大変だったんだよ、暴れ回って逃げようとするから辺り一面に血が飛び散って……!」
「そ、そうか、そうなんだ、良くやったなぁ、ヒューイ……」
「うん! あとで解体しなきゃだから、も少し待っててね!」

その後、きちんと身ぎれいになったヒューイとゼンブルさんを含めて昼食をする。
普段の生活では俺とヒューイ、ゼンブルさんとヒュペルお義父さんとそれぞれ番い同士に分かれて暮らしているが、食事はしばらく一緒に摂ろうということになっていた。
これは俺がヒュペルお義父さんたちとの親睦を深めるため、これはゼンブルさんが極力俺とヒューイを二人きりにしたくないためである。
俺の顔を見たくないと言っておきながら、食事をするのはいいのかと思ったが、基本このドーベルマンは俺に顔を向けず、言葉も発さない。
だがヒューイとヒュペルさんはあれこれと話しかけてくれるので、構図的に3対1なせいもあって、より敵視されていた。
最近は慣れてきたものの、今日は特別ヒューイが血など気にせずに帰ってきたことに圧される俺の言葉がたどたどしいのが気に入らないのだろう。
どもる度に顔が恐ろしいことになるドーベルマンに、隣に座る番いの柴犬が脇を攻撃しているが効果は薄く、俺憎しが勝っているようだ。
正直、困った状況なのは言うまでもない、どうせなら仲良くしたいのが俺の本音なので、どうしようかと考えていたことを実行してみる。

「あの……、ゼンブル、さん……」
「……気安く話しかけるな」
「うっ……。 いえっそうもいきません、あのっ今後もこうして親交を深めていくことになるので、その……、ぜひお義父さんと呼ばせていただーー」
「……! 貴様のような奴に義父などと呼ばれたくはない、 この泥棒猫が! 私の可愛いヒューイを傷つけたくせにどの口がそんな言葉を使うんだ!」
「ゼンブル!」
「ヒュペルお義父さん、俺は大丈夫です」
「なっ……!? 、だと……!?」

名を呼べば低く怒りのこもった声をぶつけられ、思わず退きたくなるが、そこはなんとか俺の中の漢を震わせて前に出る。
ヒュペルさんのことをお義父さんと呼ぶのだから、ゼンブルさんのこともお義父さんと呼びたいと思うのは自然なことだ。
だから許しをもらおうとするが、本人はよほど気に入らないのか、持っていた木製のスプーンを叩きつけるようにテーブルへ置く。
もう我慢ならないといった様子でヒュペルさんも声を荒げるが、なんとか俺が制する、座ったままの足は小刻みに震えまくってるが。
ていうかこの人マジで怖いんだけど!? 何なの、もう! あれなの、真の英雄は目で殺す的なそんなことができる人なの!?
ところがゼンブルさんは俺がヒュペルさんのことをお義父さんと呼んだことがよほど衝撃的なのか、愕然とした顔を浮かべていた。

「……ヒューイだけじゃなく、私の番いにまで手を出したのか?」
「はっ? いえっそんなわけーー」
「黙れ! 貴様、私の宝を奪い尽くすつもりだな!? これだから人属は!」
「ゼンブル! いい加減にーー!」
「そんなに……、そんなに……

そんなに呼びたければ私のことはと呼ぶがいい!!」

……時間が止まるとはまさにこのことだろうか。
悲壮な顔で突然とんでもないことを言い出すゼンブルさんに、俺とヒュペルお義父さんは絶句し、違うといえど聞く耳持たず罵声を出すだけ。
我慢の限界と殴りかかろうとしたお義父さんが胸ぐらを掴もうとしたとき、ドーベルマン父は俺を指差して口にした言葉がすべてを固まらせる。
えっと…………、この人何言ってるんだろう?
そんな感想しか出てこず、思わずヒュペルお義父さんに視線を向けると気まずそうに顔を背け、次にヒューイへ顔を向ける。
キョトンと今しがたの騒ぎなど気にしていない素振りで、小首を傾げて俺を見つめてくれた、可愛いなマジで俺の番いは天使だよ。
おっといかん話題が逸れたな、えぇっとあれだ、とりあえずそう呼べばいいのかと納得しつつゼンブルさんを見る。
どうせ呼べまいという顔、というよりはものすごく期待に満ち溢れたキラキラした瞳をしているのは気のせいだろうか。
まぁご要望には添えるので先に呼ぶことにしよう。

「……ゼンブルパパ?」
「ぐぉっふぉぉぉぉんんんっっっ!?!?!?」

パパと呼べば何があったのか、奇声をあげてゼンブルさんは仰向けに倒れた。
それはどういう反応なのかと聞きたくてたまらないが、いつの間にか立っていたはずのヒュペルお義父さんは腰掛けて頭を抱えている。
椅子に座ったまま倒れたゼンブルさんは、やがて震える体を何とか起こすようにしてテーブルを支えに顔を上げた。

「くっ……! 私の無謀な要求に難なく答えるとは……! そんなーー、そんな風に呼ばれても私は決して屈しないぞ!」
「パパ、鼻血鼻血」
「お前は……! 最初から認めてたならそう言えよ!? つうか早く出血止めろ!?」

恐れ慄くような声色でゼンブルさんは凛々しい顔で勇ましく吠える、鼻から蛇口を捻って出てくる水道水のごとく鼻血を出していなければ格好良かったが。
結局この人は何がしたかったのだろうか、そう考えていると出血多量で意識を失い、天に召されかけたので仕方なく俺は爺様を呼びに行き、訳のわからないことで騒ぎを起こすなと家族4人で怒られる羽目になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...