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第1話
現在、今後
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「俺みたいな人属は、もう存在していない……?」
老猫こと爺様へ質問していくつかわかったのは、やはりここが日本とは異なる世界という事だ。
アースガルツと呼ばれるこの世界はヒューイを始めとした獣人属を含め、精霊やら魔物やらが跋扈しているという。
どこかの漫画か小説かよと吐き捨てたくなるのを我慢して、そもそもどうして俺に対してかしこまった態度をするのか尋ねたところで、信じられない事実を聞かされた。
「ダイチ様のような人属も、確かにおりました。 ですが、争いの中で人属はあらゆる種から狙われ、いつしか絶滅してしまったと言われております。 無論、儂らの預かり知らぬ場所で生き残りがいるやもしれませぬが、少なくともこの近隣においては、人属は存在していないでしょう」
「そう、なんですね……」
「正直なところ、あなたを発見できた事は幸運だったのです、あの森は魔の森と呼ばれる、誰も近づかない場所なのです」
「そ、そんなに危ない森だったと……?」
「うん。 実はあのとき、僕も魔物を倒したばかりだったんだ。 もう少し見つけるの遅かったら、ダイチきっと襲われてたよ」
「ひぇっ……。 ヒューイくん、本当にありがとう!」
「お礼はいいってば。 まぁ僕も人属なんて初めて見たから、最初は魔物なのかなって思っちゃったし。 うん、本当に良かった……」
話を聞けば聞くほど、自分がいかに危険な状況だったのかが身に染みてくる。
その上逃げ出そうとしたのだから、悪手以外の何者でもなかった。
助けてくれてありがとうと深々と頭を下げれば、ヒューイは謙遜した態度を見せるので、頭が上がらない。
ただ妙に熱が籠もった目で見られている気がして、何か違和感があった。
「でもダイチ、どうしてあんなところにいたの?」
「それが、俺にもよく分からなくて……。 気がついたらあそこにいたから、詳しくはなんとも……」
「そのことなのですが、ダイチ様。 あなたはもしや、この世界の方ではないのではありませぬか?」
「……!? 分かるん、ですか?」
「身なりを見れば分かりますとも。 そのような服、ワシは見たことがありませぬ。 布も上質そうですしのぉ。 極め付けは、あなたの魔力もかなり異質といえます」
ヒューイが当然すぎる疑問を呈したとき、どう説明すべきかと悩んだが、爺様のフォローに俺は驚いた。
この世界の人間ではないと断言できたのは何故かについては、指差された自身の服装に確かにそうだと納得してしまう。
スーツにワイシャツ、ネクタイに革靴という会社戦士な姿、どう考えてもこの村では浮いて然るべき格好だ。
ただ爺様はその直後に、ファンタジーにありがちな単語を告げてきたので、やっぱりあるのかと少しだけ心が躍る。
「魔力……、それはつまり、魔法が使えるんですか!?」
「ダイチは使えないの? 人属なのに?」
「はい? それはつまり、この世界の人属っていうのは、そんな摩訶不思議な力を使っていたと!?」
「……その反応からして、この世界の方でないのは明白ですな。 やれやれ、異界人に遭遇するとはのぉ」
『長生きはしてみるもんじゃ』と、言葉の割にどこか嬉しそうな、興奮していそうな爺様に俺は思わず苦笑してしまう。
ただそれも仕方がないだろう、俺でさえ戸惑っているのだから、違う世界の人間が現れたとなれば、詳しい人であれば興奮するなという方が難しいはずだ。
「爺様、異界とは?」
「この世界とは異なる世界、ということじゃ。 ヒューイにとっては荒唐無稽な御伽噺に聞こえるかも知れぬが、ダイチ様のような方が時折迷い込まれることがあると、今は思っておればよい」
「よく分かりませんけど、分かりました!」
「さて、ダイチ様。 そもそもどうしてワシがそうなのでは、とお話しましたのには、あなたがこの村へ来られるより前に、異変を感じ取ったからです」
「異変、というと?」
「言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、世界が鳴動するような感覚が起こったのです……」
神妙な爺様の顔に、本当にうまく説明できないのだろうと俺は悟る。
どれくらいの時間を生きているのかわからないが、俺のような異世界人と遭遇した事に、信じられない部分があるのかも知れない。
それは当の本人である俺でさえ、今この状況を受け入れているわけではないのだ。
安心できているのは、今すぐ命の危険がないという点だけが、今の俺を突き動かしている。
「ダイチ様、もしや元の世界への帰還を望まれている、という事はありますかな?」
「……それは、どう、ですかね。 ちょっと、なんともいえないかもしれないです……」
「そうですか。 単刀直入にお伝えすると、不可能と言うしかないのです。 さすがのワシでも、異界の門を開けるなどという離れ業をやり遂げるには、些か年を取りすぎましたからの。 誠に申し訳ありませぬが」
「い、いえ! 爺様がそう謝る必要はありません!」
「それじゃあダイチ、これからどうするの?」
「……どうしようか?」
爺様から直球すぎる問いが飛んできたが、おおよそ予定調和というところだ。
実際問題、帰りたいかどうかと言われると、何もかも嫌気が指していたところだったこともあり、そこまであの日常に未練はない。
ただここで生きていくには、あまりにも生活スキルが皆無であるため、ヒューイの言葉に思わず目が泳いだ。
助けを求めるように爺様へ視線を向けると、それは相手も予想していたのか、柔和に笑って答えてくれた。
「それでは、ここに腰を落ち着けてはいかがかな? ワシらとしても悪い話ではありませぬゆえ」
「いいんですか? 余所者の俺がここにいても?」
「無論そのためにはひとつ、条件がございます」
「なんですか?」
「ヒューイ」
「はい、爺様! ダイチ、こっち向いて」
「えっ……」
俺にとっては思ってもみなかった提案だが、この村にいてもいいというなら、ありがたい話だと思う。
この世界のことなど何も分からず、ゲームみたいにチュートリアルステージがあるわけもなし、知らないことばかりで生活などできるはずもなかった。
だからこそ爺様が提示する条件はどんなものでも飲むべきだと考えていると、ヒューイに呼ばれ振り向く。
老猫こと爺様へ質問していくつかわかったのは、やはりここが日本とは異なる世界という事だ。
アースガルツと呼ばれるこの世界はヒューイを始めとした獣人属を含め、精霊やら魔物やらが跋扈しているという。
どこかの漫画か小説かよと吐き捨てたくなるのを我慢して、そもそもどうして俺に対してかしこまった態度をするのか尋ねたところで、信じられない事実を聞かされた。
「ダイチ様のような人属も、確かにおりました。 ですが、争いの中で人属はあらゆる種から狙われ、いつしか絶滅してしまったと言われております。 無論、儂らの預かり知らぬ場所で生き残りがいるやもしれませぬが、少なくともこの近隣においては、人属は存在していないでしょう」
「そう、なんですね……」
「正直なところ、あなたを発見できた事は幸運だったのです、あの森は魔の森と呼ばれる、誰も近づかない場所なのです」
「そ、そんなに危ない森だったと……?」
「うん。 実はあのとき、僕も魔物を倒したばかりだったんだ。 もう少し見つけるの遅かったら、ダイチきっと襲われてたよ」
「ひぇっ……。 ヒューイくん、本当にありがとう!」
「お礼はいいってば。 まぁ僕も人属なんて初めて見たから、最初は魔物なのかなって思っちゃったし。 うん、本当に良かった……」
話を聞けば聞くほど、自分がいかに危険な状況だったのかが身に染みてくる。
その上逃げ出そうとしたのだから、悪手以外の何者でもなかった。
助けてくれてありがとうと深々と頭を下げれば、ヒューイは謙遜した態度を見せるので、頭が上がらない。
ただ妙に熱が籠もった目で見られている気がして、何か違和感があった。
「でもダイチ、どうしてあんなところにいたの?」
「それが、俺にもよく分からなくて……。 気がついたらあそこにいたから、詳しくはなんとも……」
「そのことなのですが、ダイチ様。 あなたはもしや、この世界の方ではないのではありませぬか?」
「……!? 分かるん、ですか?」
「身なりを見れば分かりますとも。 そのような服、ワシは見たことがありませぬ。 布も上質そうですしのぉ。 極め付けは、あなたの魔力もかなり異質といえます」
ヒューイが当然すぎる疑問を呈したとき、どう説明すべきかと悩んだが、爺様のフォローに俺は驚いた。
この世界の人間ではないと断言できたのは何故かについては、指差された自身の服装に確かにそうだと納得してしまう。
スーツにワイシャツ、ネクタイに革靴という会社戦士な姿、どう考えてもこの村では浮いて然るべき格好だ。
ただ爺様はその直後に、ファンタジーにありがちな単語を告げてきたので、やっぱりあるのかと少しだけ心が躍る。
「魔力……、それはつまり、魔法が使えるんですか!?」
「ダイチは使えないの? 人属なのに?」
「はい? それはつまり、この世界の人属っていうのは、そんな摩訶不思議な力を使っていたと!?」
「……その反応からして、この世界の方でないのは明白ですな。 やれやれ、異界人に遭遇するとはのぉ」
『長生きはしてみるもんじゃ』と、言葉の割にどこか嬉しそうな、興奮していそうな爺様に俺は思わず苦笑してしまう。
ただそれも仕方がないだろう、俺でさえ戸惑っているのだから、違う世界の人間が現れたとなれば、詳しい人であれば興奮するなという方が難しいはずだ。
「爺様、異界とは?」
「この世界とは異なる世界、ということじゃ。 ヒューイにとっては荒唐無稽な御伽噺に聞こえるかも知れぬが、ダイチ様のような方が時折迷い込まれることがあると、今は思っておればよい」
「よく分かりませんけど、分かりました!」
「さて、ダイチ様。 そもそもどうしてワシがそうなのでは、とお話しましたのには、あなたがこの村へ来られるより前に、異変を感じ取ったからです」
「異変、というと?」
「言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、世界が鳴動するような感覚が起こったのです……」
神妙な爺様の顔に、本当にうまく説明できないのだろうと俺は悟る。
どれくらいの時間を生きているのかわからないが、俺のような異世界人と遭遇した事に、信じられない部分があるのかも知れない。
それは当の本人である俺でさえ、今この状況を受け入れているわけではないのだ。
安心できているのは、今すぐ命の危険がないという点だけが、今の俺を突き動かしている。
「ダイチ様、もしや元の世界への帰還を望まれている、という事はありますかな?」
「……それは、どう、ですかね。 ちょっと、なんともいえないかもしれないです……」
「そうですか。 単刀直入にお伝えすると、不可能と言うしかないのです。 さすがのワシでも、異界の門を開けるなどという離れ業をやり遂げるには、些か年を取りすぎましたからの。 誠に申し訳ありませぬが」
「い、いえ! 爺様がそう謝る必要はありません!」
「それじゃあダイチ、これからどうするの?」
「……どうしようか?」
爺様から直球すぎる問いが飛んできたが、おおよそ予定調和というところだ。
実際問題、帰りたいかどうかと言われると、何もかも嫌気が指していたところだったこともあり、そこまであの日常に未練はない。
ただここで生きていくには、あまりにも生活スキルが皆無であるため、ヒューイの言葉に思わず目が泳いだ。
助けを求めるように爺様へ視線を向けると、それは相手も予想していたのか、柔和に笑って答えてくれた。
「それでは、ここに腰を落ち着けてはいかがかな? ワシらとしても悪い話ではありませぬゆえ」
「いいんですか? 余所者の俺がここにいても?」
「無論そのためにはひとつ、条件がございます」
「なんですか?」
「ヒューイ」
「はい、爺様! ダイチ、こっち向いて」
「えっ……」
俺にとっては思ってもみなかった提案だが、この村にいてもいいというなら、ありがたい話だと思う。
この世界のことなど何も分からず、ゲームみたいにチュートリアルステージがあるわけもなし、知らないことばかりで生活などできるはずもなかった。
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