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第1話
対面、説明
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手を引かれて村へと足を踏み入れると、案の定あちこちから奇異なものを見る視線に晒された。
余所者だという自覚はもちろんあるし、そもそも姿形が全く異なるのだから仕方がない。
先ほどの言葉が真実かどうかも分からないので、覚悟だけしておこうと思っていると、村の中心部にある他よりも立派な住居に到着する。
ここが目的地のようで、ヒューイという名の柴犬は俺の手を掴んだまま、持っている槍の先端で玄関をノックした。
中からの返答を待たずして入る彼に導かれるように、俺もまた室内に入る。
現代日本に慣れた身からすれば、前時代的すぎる住居様式に興味本位であちこち視線を向けると、足元から声が聞こえた。
「爺様、ただいま戻りました」
「おぉ、戻ったかヒューイよ。 さて、先触れにもあったが、そちらがもしや?」
「はい、人属のお方です」
話し声につられて前に向くと、地べたに布を敷いた上に三毛柄の老猫が座っている。
呼び名からしてこの集落の長というべき存在の目が、そっと俺に向けられたので少し背が強張った。
見た目に騙されてはいけないと緊張するが、老猫の瞳が柔和になる。
「ようこそお越しくださいました。 ワシはこの村の長をしておる者です。 お名前をお伺いしてもよろしいかな?」
「あ、俺……、わ、私は上里 大地と申します!」
「カ、カミサ、ト……?」
「? 面白い名前だね」
「え!? あぁ、名前は大地です! 大地!」
「ふむ、そうですか。 それではダイチ様とお呼びしてもよろしいか?」
「えっと、大丈夫で、す……」
「そうか、ではおかけくだされ。 ヒューイ、お前も同席しなさい」
「はい、爺様」
優し気でどこか威厳のある声に、思わずピシリと背を正して90°のお辞儀を披露しながら自己紹介する。
情けないかな、生きるために培った上役への媚び諂いが、こんなところでも役に立ったかと自嘲するが、相手方の反応は悪かった。
言い辛そうにする老猫に対して、犬はパチクリと目を開かせて、遠回しに変な名前だと言われてしまったので、慌てて訂正する。
それなら言いやすいと、少しだけホッとしたような三毛猫に促され、地べたに腰を下ろすと、その隣に柴犬も座った。
「ダイチ様、申し訳ありませぬが、少々お手に触れてもよろしいかな?」
「え、あの……」
「いえ、確認をしなければならないのです。 あなたの身を守るという意味でも、必要なことなのですぞ」
正面の老猫がそっと手を伸ばし、俺の手を触りたいと告げてくる。
どうしたものかと迷っていると、思わず隣の犬に視線を向けると無言で頷いて、猫からは不穏な言葉が出てきた。
もはや自分にどうこうできる状況ではないのはわかっていたものの、少しおっかなびっくりに手を差し出す。
そうして猫の手が俺の手と重なると、ほのかな温かさが掌から伝わり、肉球の柔らかさに思わず口角が上がりそうになった。
瞬間、掌から通じて何かが自分の中を走り抜けるようで、心地よさを覚える熱に思わず声が漏れる。
「……信じられんの。 あなたは本当に人属のようですな」
「やっぱり、そうなんだ!」
「これこれ、そう大きな声を出すでない、お客人が驚かれるではないか。 改めまして、我らの村落へお越しくださいました、人属のお方よ」
気の抜けた俺のことなど捨て置くように、老猫は驚嘆した様子でじっと見つめてきた。
ヒューイという名の柴犬も興奮を隠せない様子だが、何かそれ以上に強いものがあるように見えるが、何かはわからない。
三毛猫も俺に対しての態度が先ほどよりも丁寧に、どこか崇められているような雰囲気に変化したので、益々混乱に陥った。
「あの、頭をあげてください! 俺は、その……、森に一人でいたところを彼に助けられましたので」
「一人、ですか……。 ではあなた以外の人属がいらっしゃらないのですな?」
「多分、いないかと……。 えっとその、さっきはありがとう、ヒューイ、くん?」
「そうだ、自己紹介がまだだったね。 僕はヒューイだよ、よろしくダイチ!」
「……あぁ、よろしく」
深々と頭を下げる老猫に必死に頭をあげるよう言いつつ、ここへ連れてきてくれた彼に、言わなくてはならないことを思い出した。
改めて向かい、恐る恐る名を呼んでみれば屈託ない笑顔で、ヒューイは答えてくれる。
満面の笑みを浮かべ、尻尾を盛大に振り、喜ぶ姿は日本の柴犬そのもので、素直に可愛いと思ってしまう。
抱きつきたい衝動を抑えつつ、咳払いをして俺は俺の置かれた状況を把握するため、正面の三毛猫に質問をした。
「……えっと、爺様でしたか? 申し訳ないのですが、お伺いしてもよろしいですか?」
「儂で答えられることであれば、お答えいたしましょう」
「ありがとうございます、それでは……」
一つひとつ疑問を解消していくため、ゆっくりと自分の頭の中で可能な限り整理してから、質問をしていく。
予想して然るべくというべきか、とんでもない状況に置かれている事実を突きつけられる羽目になるのは考えるまでもなかった。
余所者だという自覚はもちろんあるし、そもそも姿形が全く異なるのだから仕方がない。
先ほどの言葉が真実かどうかも分からないので、覚悟だけしておこうと思っていると、村の中心部にある他よりも立派な住居に到着する。
ここが目的地のようで、ヒューイという名の柴犬は俺の手を掴んだまま、持っている槍の先端で玄関をノックした。
中からの返答を待たずして入る彼に導かれるように、俺もまた室内に入る。
現代日本に慣れた身からすれば、前時代的すぎる住居様式に興味本位であちこち視線を向けると、足元から声が聞こえた。
「爺様、ただいま戻りました」
「おぉ、戻ったかヒューイよ。 さて、先触れにもあったが、そちらがもしや?」
「はい、人属のお方です」
話し声につられて前に向くと、地べたに布を敷いた上に三毛柄の老猫が座っている。
呼び名からしてこの集落の長というべき存在の目が、そっと俺に向けられたので少し背が強張った。
見た目に騙されてはいけないと緊張するが、老猫の瞳が柔和になる。
「ようこそお越しくださいました。 ワシはこの村の長をしておる者です。 お名前をお伺いしてもよろしいかな?」
「あ、俺……、わ、私は上里 大地と申します!」
「カ、カミサ、ト……?」
「? 面白い名前だね」
「え!? あぁ、名前は大地です! 大地!」
「ふむ、そうですか。 それではダイチ様とお呼びしてもよろしいか?」
「えっと、大丈夫で、す……」
「そうか、ではおかけくだされ。 ヒューイ、お前も同席しなさい」
「はい、爺様」
優し気でどこか威厳のある声に、思わずピシリと背を正して90°のお辞儀を披露しながら自己紹介する。
情けないかな、生きるために培った上役への媚び諂いが、こんなところでも役に立ったかと自嘲するが、相手方の反応は悪かった。
言い辛そうにする老猫に対して、犬はパチクリと目を開かせて、遠回しに変な名前だと言われてしまったので、慌てて訂正する。
それなら言いやすいと、少しだけホッとしたような三毛猫に促され、地べたに腰を下ろすと、その隣に柴犬も座った。
「ダイチ様、申し訳ありませぬが、少々お手に触れてもよろしいかな?」
「え、あの……」
「いえ、確認をしなければならないのです。 あなたの身を守るという意味でも、必要なことなのですぞ」
正面の老猫がそっと手を伸ばし、俺の手を触りたいと告げてくる。
どうしたものかと迷っていると、思わず隣の犬に視線を向けると無言で頷いて、猫からは不穏な言葉が出てきた。
もはや自分にどうこうできる状況ではないのはわかっていたものの、少しおっかなびっくりに手を差し出す。
そうして猫の手が俺の手と重なると、ほのかな温かさが掌から伝わり、肉球の柔らかさに思わず口角が上がりそうになった。
瞬間、掌から通じて何かが自分の中を走り抜けるようで、心地よさを覚える熱に思わず声が漏れる。
「……信じられんの。 あなたは本当に人属のようですな」
「やっぱり、そうなんだ!」
「これこれ、そう大きな声を出すでない、お客人が驚かれるではないか。 改めまして、我らの村落へお越しくださいました、人属のお方よ」
気の抜けた俺のことなど捨て置くように、老猫は驚嘆した様子でじっと見つめてきた。
ヒューイという名の柴犬も興奮を隠せない様子だが、何かそれ以上に強いものがあるように見えるが、何かはわからない。
三毛猫も俺に対しての態度が先ほどよりも丁寧に、どこか崇められているような雰囲気に変化したので、益々混乱に陥った。
「あの、頭をあげてください! 俺は、その……、森に一人でいたところを彼に助けられましたので」
「一人、ですか……。 ではあなた以外の人属がいらっしゃらないのですな?」
「多分、いないかと……。 えっとその、さっきはありがとう、ヒューイ、くん?」
「そうだ、自己紹介がまだだったね。 僕はヒューイだよ、よろしくダイチ!」
「……あぁ、よろしく」
深々と頭を下げる老猫に必死に頭をあげるよう言いつつ、ここへ連れてきてくれた彼に、言わなくてはならないことを思い出した。
改めて向かい、恐る恐る名を呼んでみれば屈託ない笑顔で、ヒューイは答えてくれる。
満面の笑みを浮かべ、尻尾を盛大に振り、喜ぶ姿は日本の柴犬そのもので、素直に可愛いと思ってしまう。
抱きつきたい衝動を抑えつつ、咳払いをして俺は俺の置かれた状況を把握するため、正面の三毛猫に質問をした。
「……えっと、爺様でしたか? 申し訳ないのですが、お伺いしてもよろしいですか?」
「儂で答えられることであれば、お答えいたしましょう」
「ありがとうございます、それでは……」
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